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第三十九話 一時帰宅ですよ!

 ねこさんの仮退院、ウキウキした気持ちで獣医さんに向かった。一週間前の、本当に死んでしまうかもしれない、このまま戻ってこられないかもしれないというつらかった気持ちは、このときにはなかった。入院中は最後通告も覚悟して獣医さんに向かっていたことを思えば、実に気持ちは楽だった。行った先で、もう、本当にどうにもならないから家で看とりしますか? と言われてしまうのではないかという恐怖を伴った面会とは違う。回復の兆しが見えたからこその仮退院。ただ、ここでぶり返したら、入院はまた長期にわたってしまうことを考えると、無理はさせられない――そう思っていた。


 さて、獣医さんでのねこさんと言えば、一昨日同様、元気印だった。出せ出せ、えいえいは相変わらずだったし、手を出せば、ガブガブとぼくの手に噛みついてくる。


 獣医さんで夜の分の注射を一本打つ。このときは一回目の抗生剤と同じ、指一本分の太さであったのを見ると、あのときのぶっとい注射はなんだったんだ? とむくむくと湧きかける疑心を封じ込める。ひとまずは元気に仮退院となったのだ。あのときのことは忘れねばならない。忘れたくても忘れられないほどの太さだったとしても……である。


 回復期の缶詰をひとつ購入し、カプセルホテルにねこさんを入れると、思った通り、出せ出せえいえいになった。


「にゃーん」


 そうは言っても運転中は出せないのだ。もうすぐ、広いところに出してあげるから待っていてくれよ。家ではきみの大好きなひなさんもいるのだから。


 そして、家に到着し、カプセルホテルから部屋の中に出たねこさんの姿を見たときは、本当に嬉しかった。はじめこそ、おっかなびっくりしてはいたが、すぐに慣れ、走り回る。病人とは思えないほど、バタバタする。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)




 今まで小さな犬舎の中に閉じ込められていたねこさんは、それはすさまじい跳ねっぷりだった。所狭しと駆けずり回り、ねこじゃらしを見れば食いついてくる。中でも一番のお気に入りはビニール袋だった。


 ビニール袋の上に乗って遊ぶのだが、ビニールがフローリングで滑るので、ずるずるずしゃーと雑巾がけのようになってしまうのだ。そして、飽きるまでこれを繰り返す。


挿絵(By みてみん)



 飽きればねこじゃらし。ぼくの手や足を噛む。走り回る。部屋の中を探検。


挿絵(By みてみん)



 これの繰り返しで、一晩中飽きずに遊んでいた。しかし、この子は仮退院中であって、まだ病気と闘っている身の上なのだ。無理しないようにしようと思っていたのだが、そんなものはこっちの都合であって、彼の都合ではない。よって寝ない。まったく寝ない。本当に寝なかったのだ。


 これほど遊ぶとなると、当然のことながら腹が減るわけだ。獣医さんからは一泊中に二分の一食べられればいいからと言われていたのに、このときの彼の食欲は凄まじかった。とにかく食べる。ガツガツと、見たこともない勢いで食べ、皿の上はピカピカ。言われていた量を越えて、ほとんど一缶食べてしまったのである。


 そんな今までとは百八十度変わってしまったねこさんを、では、ひなさんはどう思っていたのか?


 スルーである。まったくの無視なのだ。寄り付きもしない。普段通りの素っ気なさ。ねこさんも自分から彼女に寄っていこうとはしていなかったけれど、あの病気の日々はなんだったんだ? と思うほどに、ひなさんは彼を遠くから見ていた。それでも、わからないわけではない。ひなさんはお年寄りである。遊びたがりの幼児がやってきても、自分の生活を変えるわけがない。むしろ、彼に遊んでと言われても、今の彼女の年齢からは大変骨の折れることに違いない。だから、そっとしておくことにした。これで彼が退院したら、否が応でも相手をしなければならないときが来るだろうから……


 結局、ねこさんは夜中の一時まで遊び倒していた。眠たい目をこすり、こすり、ぼくは付き合い、翌日の午前中、早くにはもう一度ねこさんを獣医さんに返した。


「どうする? もう一日、一緒にいてもいいよ?」


 翌日が祝日だったため、そう言ってくれたが、仕事のためにその申し出はなくなく断った。病気が完治していない状態で一人放置は難しい。不安を残したまま家を空けることになってしまうからだ。


「そうだね。もう少し、様子を見たいし、レントゲンもまだ撮ってないから。明後日、もう一度来てもらってもいいかな?」


 こうして、ねこさんは再入院することになったのだが、あくまでも、前向きな方向での入院である。そして、翌々日、ぼくが獣医さんへ彼に再び会いに行ったとき、彼は完全といえるほどに復活していたのである。


 獣医さんは言った。


「つまらないらしくてね。犬舎、よじ登ってたり、一人遊びしたり。手を入れると噛んで来たり。本当に元気になったね」


と。


 そして、もう一つ。


「でも、再入院した夜は本当に疲れたみたいで、全然動かなくて、ずっと寝てたよ」


 反動はすさまじかったようである。


「ですよね」


 そう返事をしながら、家へ戻ってこられて嬉しいと、彼が思ってくれていたのを実感し、今度迎えに来るときは、もう二度と入院しなくてもいいように大事にしようと心の底から誓ったのであった。


ねこさんがたくさん出てくる漫画は、エッセイ後半にたくさん出す予定です。どうぞ、楽しみに読み進めていただきたいと思います。

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