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第三十三話 届け、この想い!

 死ぬか、生きるか、どちらかに賭けるのなら、死ぬ方に賭けた方がいい。そう言われた翌日は休診日だったため、ねこさんに会うことは叶わなかった。


 ねこさんが不在のマンションは、ひどくがらんとしていて、広すぎて、ぼくの気持ちも空虚なものになりつつあった。あんなに指先も、家の中も、ねこさんのフードの匂いにまみれていたのに、ねこさんがいなくなった途端、その匂いが消えてしまう。それがとても悲しかったのだ。


 それにである。どんなに元気そうに見えても、見る人が見れば、視点が定まっておらず、苦しそうであるとわかるようで、不安はいつまでも消えてはくれなかった。


 そんなときにぼくを支えてくれたのは、SNSで交流のあるフォロワーさんたちの存在だった。ぼくのネガティブな言葉を拾って、たくさん励ましてくれた。


 ねこさんがいつ戻ってもいいように、いない状態でも普段と同じようにご飯を用意したり、水を替えてあげたりするといなくても彼はきっと落ち着くからというアドバイスをいただき、聞いてからはきちんと水を替え続けた。


 そうやって、ぼくは入院してからずっと励ましてもらい続けていた。顔も知らない、見ず知らずのぼくを親身になって励ましてくれる、この想いをねこさんに届けたいと思ったのは、彼の懸命に生きる姿を何度も動画再生して、観たからこそだった。


 少し横道にそれるが、『引き寄せの法則』というものを知っているだろうか? この法則については、かなりスピリチュアルな話になるので、信じる、信じないが両極に分かれるものだと思うし、普段、こんな話をリアルですれば、コイツ、どうかしていると思われるような話でもある。ゆえに、この話も半分くらい眉唾ものだと思って聞いてもらえればいい。


 ぼくがこの法則を知ったのは五年ほど前のことである。もちろん、この話をぼくに教えてくれたのは、例にもれず、スピリチュアル=ハットリ氏である。


「引き寄せの法則ってのがあってな。面白いから、知らないなら調べてみな」


 そう言われ、なんとなく調べたら、ドハマりした。実に面白かったのだ、これ。簡単に説明すると『強く願ったことが叶う法則』であるのだが、むろん、そんな都合のいい法則はこの世にはない。願えば金持ちになれるわけでもなければ、不老不死になれるわけでもない。宝くじに当たることを願ったところで、あたるわけもないし、好きな芸能人から告白されるなんてこともない。なんだ、そんなの引き寄せでも何でもないじゃん……と、ちょっとかじっただけでは思ってしまうだろうが、これ、しっかり調べていくと、とんでもない法則なのだ。


 『宇宙の法則』と言われる引き寄せの法則だが、これはぼくたちが今、現実、経験していることは必要だから降りてきている宇宙からの意思であり、その経験から学び、次に活かさなければ、また同じような経験が何度も、何度も繰り返されるというものである。さらに言えば、今、現実にあること、すべてに意味があるということの裏返しでもあるのだ。


 このスピリチュアルな法則なのだが、実は人間の意思というものと深いかかわりがあるという。ここからは、ぼく自身の勝手な見解でもあるのだが、宇宙の意思は常に無限大で、そこに一つ、一つの意思が繋がっており、繋がりたいと互いに思っている場合には、時間も、距離も、空間も越えて繋がることができるというのが、この法則だと思われる。


 たとえば、身近なところで言うと、ぼちぼち連絡しないといけないなぁと思っていた相手から、同じタイミングで連絡が来る……なんてことも、引き寄せのひとつである……らしい。


 実際、これ、引き寄せちゃってるよねという経験もあるゆえに、ぼくはわりと、この法則を信じている。しかしながら、願いが叶うかどうかは実に微妙である。昔からいうところの、神様を信じれば救われる的な発想はここと繋がっているのかもしれない。ただ、面白い考え方であることは間違いない。


 さて、こういう考えを多少なり信じているぼくは、ねこさんの命をどうにか繋ぎたくて、たくさんの想いを借りようと考えた。ぼく一人の想いだけではどうしたって弱い。ハットリくんがいても二人。それよりも、もっと、もっと多くの人の想いの力なら、なんとか彼の命を繋ぎ止める太い綱になってくれるのではないかと思ったからだ。


 簡単にこれを説明するならば、某格闘アニメの主人公が最後にみんなにお願いする『オラにみんなの元気をわけてくれ』な『元気玉大作戦』だった。とにかく、多くの人の元気を彼にわけてほしくて、ぼくはSNSに必死に病気と闘っているねこさんの動画を公開して呼びかけた。すると、本当にたくさんの人がねこさんのためにコメントを寄せてくれたり、いいねのボタンを押してくれたり、拡散してくれたりしたのだ。


 励みになるコメントには涙が滲んだ。覚悟も必要かもしれないけれど、悔やまないように。そして大事にならなかったときは、覚悟したことを笑ってしまえばいいというような(これはぼくの解釈で、実際はもっと素敵なコメントだった)ことまで言ってもらえて、本当に頭が下がりっぱなしだった。


 SNSの力は侮れない。日本という小さな国に留まらず、海外で暮らしている方までも祈ってくれたのだ。



 届け、この想い!



 多くの願いがねこさんに届くように、ぼくは心から祈った。きっと届く。きっと繋がる。一つ、一つが細い糸でも、連なって、絡まって、強くて太い力になって、彼に届くと信じて、その夜を過ごした。そして、想いは開花する。


 翌日、仕事を終えたぼくが獣医さんで見た彼はそれまでとはまるで違っていた。生き生きと生命力にあふれた彼と会うぼくには確かに、彼が願いという名の命の力をまとったように映ったのである。


挿絵(By みてみん)


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