第二十三話 エアコンがダメですと?
ねこさんがパラボラアンテナ状態になって、心配してくれた友人から、ねこの飼い方についてのアドバイスをSNSメッセージで貰っていたぼくは、その内容に驚愕した。
『夏生まれの子猫はエアコン厳禁なのは聞いてる? エアコンのない部屋で育ててあげてね』
え? なんですと?
まったくの初耳である。そりゃ、そうだ。ぼくの人生の中で、猫という生き物との濃密な接点はわずかしかない。さらに子猫なんて育ててきたこともない。彼に出会うまでは興味(まったくない訳ではなかったが、進んで学ぼうとする姿勢は皆無だった)もなかったから、そんなことも知らず、エアコンをかけていたのである。
しかしだ。かけずにはいられない。日中三十度を超える暑さが続いている夏日の日本で、エアコンをつけずにやりすごせる家庭は、風通しのいい家くらいなものだろう。残念ながら、うちはこの風通しがすこぶる悪い上にひなさんがいる。彼女が熱中症にならないために、一日中、二十八度の設定でエアコンはフル活動だ。
『室温二十八度設定でエアコンかけてるのはいいのかな?』
と、友人に連絡をしてみると、その温度ならいいと言ってもらえてホッとした。しかし、無知ゆえの落とし穴が実はあったのである。ぼくは除湿もしていたのだ。これがダメなこと、特にねこにとっては有害であることは、彼が入院するまで気づかなかった。これが彼の容態を悪化させた要因の一つとなる。
さて、温度はいいということから、友人から『湯たんぽは?』と質問を受けた。
湯たんぽ? そんなものはない!
寝るとき、異常に体が熱くなるぼくに湯たんぽは不要の産物だ。寒い時期はひなさんという天然自然湯タンポまである。これで湯たんぽを使おうものならサウナ状態に陥って、寝るどころの騒ぎではなくなる。
『ないなら、ペットボトルにぬるま湯入れて、タオル巻いて入れてあげて』
なるほど。それなら簡単に作れそうだ。
ねこさんは元気がまったくなく、じっと丸まっている。確かに具合の悪いときはぬくぬくしたくなるのもわかる。それに人肌は落ち着くものだ。
早速、湯を沸かし、ペットボトルに入れ込んで、タオルを巻き、ねこさんのベッドに入れてみる。とはいえ、ベッドの半分がペットボトルに占領されてしまい、これ、安楽に寝られるの? と疑問符だけが増えていく。そこへねこさんを連れてくるのだが、最初こそ、寄り添って気持ちよさそうだったねこさんだったが、すぐにそこから出てしまい、カーペットの上で丸くなってしまう。
あれ?
何度トライしても同じだった。ねこさんは湯たんぽを嫌がり、ベッドに入らない。
いらないの?
仕方なく、ペットボトル湯たんぽ撤収。折角のアドバイスも、このときのねこさんには威力を発揮してはくれなかった。そんなガッカリ気分なぼくは、専用ベッドでのんびり眠るひなさんを発見する。
ここなら……いいんじゃない?
カーペットの上で丸くなるねこさんを、ひなさんの寝るベッドの中に入れてみる。ひなさんはふんふんと彼の顔の臭いを嗅いだ後、くたっと眠る彼を抱えるように寝たのである。
なんて、愛のある光景!
しかし、一瞬で終わる。そんなもんである。ただ、ひなさんはそこでねこさんが横になることを嫌がらなかった。例のごとく、ヒップで身体を少し踏んづけはしたけれど、それでも追い出すような真似はしなかったのだ。呼吸の荒さは変わらなかったが、それでもねこさんはじっとそこで眠っていた。結局、長い時間、そうしてはいなかったけれど、彼には少しだけ、ひなさんの温もりは伝わった気がする。優しさ……そう、優しさ。それが彼に届いたと実感することになる。きっと彼女の存在なくしては、今の彼はあり得なかったともぼくは思う。
ぼくたちの中では確実に家族としての絆ができていたのだと思う。実感はなかったけれど、目に見えない部分で繋がっていたのだと思う。
きっと、それがなければ、彼は生きたい、生き続けたいと思ってくれなかったはずだから――
※彼の元気がない間、ひなさんはとにかく彼に優しかったのです。




