第十二話 仲良しさんの始まり?
ハットリくんが訪ねてきたその日、ぼくは何回目かになる、ひなさんとのお近づきチャレンジを試みた。やはり、仲良くしてもらわねば、どうしたって今後は困ってくる。ねこさんが今より大きくなって、本気のねこパンチでひなさんが怪我をするのも避けたいし、なにより仲良く寝るところを見てみたいというのもあった。
案の定、ねこさんを近づければ、ひなさんは吠えるし、鼻先で転がす。前歯で背中を噛むし、興奮しまくりで、無抵抗に近いねこさんが食い殺されやしないかという勢いだった。ハラハラして、ひなさんを止めに入ろうとすると
「まぁ、待て。ちょっと見てみようぜ」
と、ハットリくんに止められる。
「怪我したら大事だぞ」
「ひなだって、そこまでやらないさ」
呑気なものである。しかし、本当にいいものか? 仲良くさせたいが無理もさせたくないぼくとしては、怪我をする前に止めさせたいのだが、それでもハットリくんは様子を見ようと言った。確かにこの意見には納得もする。実際、ひなさんが小さい頃、先住犬たちの洗礼を浴びまくった。それこそ、歯をむき出しにして怒られもしたし、転がされもした。背中は唾液でべたべたになったし、食い殺されないかとハラハラもした。それを越えると親子のように仲良くなったことを考えれば、ここは辛抱なのである。
しぶしぶ、彼のいうことに従い、成り行きを見守る。
ひなさんは怖くて固まるねこさんを転がすし、逃げれば追いかけていき「ヴヴ……」と唸りながら背中を噛み、また転がす。拳を強く握りしめて成り行きをひたすら見守り続けると、ついにそのときを迎えることになった。ねこさんがお腹を出したのだ。
すると、どうだろう。興奮していたひなさんの態度が若干柔らかくなり、フンフンとお尻やおまたのあたりの臭いを嗅ぎだした。
犬はお尻の臭いを嗅いで情報を収集する。これがなければ、仲良くなれない。お互いに情報交換をし合い、敵意なしとみなされれば、仲間になれるのである。そして、今回のようにひなさんにお腹を出したということは、ひなさんの優位が確立された瞬間でもある。いぬは順位をつける生き物である。もちろん、ねこもそうなのであろうが、先に住んでいるのがいぬである場合、これは避けては通れぬ道なのでもある。
この状況を見たハットリくんは、ぼくに向かってニッコリと笑った。
「ほらな。順位を教えたかったんだよ。腹を見せろって転がしていたんだからさ。これで大丈夫だろう」
腹を見せたねこさんを十分に嗅ぎ終わったひなさんは実にあっさりしていた。ねこさんが起き上がり、じっとしていても、もうちょっかいを出さなくなったのだ。それどころか、スルーである。まるで何事もなかったかのように、自分のベッドで寝てしまわれた。
「仲良くなれるかはわからないけど、一応、いてもいいよくらいにはなったんじゃないの?」
その翌日くらいには、ひなさんとねこさんと一緒に写真に撮れるくらいには距離が縮まった。匂いを嗅ぐことはあれど、以前のように興奮して転がしたり、甘噛みしたりすることはなかった。
さらに日を重ねると、段ボールにねこさんの好きなもふもふ系毛布を入れ込んで、そこに彼がもちゃもちゃ、ゴロゴロしはじめたところに、自らひなさんが入っていったのは、かなり驚かされた。試しにお腹の辺りにねこさんを移動させると、ひなさんのお腹の中へと潜ろうとする。
けれど、彼女は微動だにせず、お腹の中に潜り込んでも、歯をむき出しにすることも、威嚇することもなく、受け入れたのだ。とはいえ、数十秒と短い時間ではあったけれど……
こうして、仲良しさんへの道が少しずつ開かれた。一応、同居人くらいには格上げされたねこさんなのだが、おそらく、彼女の存在が、彼にとって、また一つ大きな生きることへの原動力に繋がっていくことを、この先、少なからず感じることになるのだった。
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