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第一話 物語はここから始まった
平成二十九年六月十六日、金曜日。
この日は、ぼくにとっても、彼にとっても運命の一日だった。
そうだ。ぼくらの物語はこの日から始まった。
三百五十グラム、ビール缶一本分の体重の、小さな白い仔猫。
アクアマリンの透き通るような瞳をした彼。そんなきれいな瞳をした彼であったが、その顔や体は野良らしいと言えばいいのか、恐ろしく汚かった。
そんなどこにでもいそうな仔猫がまさか『生きることを諦めていた』なんて、誰が想像できるだろう。
けれど、出会ったばかりのぼくは、この後に待ち受ける過酷な運命など知りもせず、彼を引き取ることになる。それがどれほど重い選択であったのかを思い知るのは、ここからもう少し、先の話になるのだが……
さて、命の重みを考えさせられた、ぼくと彼の三か月間をお話ししよう。
ぼくとライの、長い物語の始まりを――