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忘却
近所の銭湯が取り壊された。
子供の頃、家を立て直していた際、通ったきりで、あまり思い入れもないはずだった。
それでも、建物の原型がいつの間にかなくなっていて、もう通えないと思うと、心にぽっかりと穴が空いたようであった。
覚えているのは、タイル張りの床と熱いお湯、客の赤らんだ尻。
跡地には、マンションが建つのらしい。何年かの後、そのマンションを見ても、銭湯があったことを思い出すことはすまい。
知らない間に、建物があった場所に綺麗な空き地ができていることが増えた。
そこに何があったのか、どうしても思い出すことができなくて、始めから何もなかったように錯覚してしまう。
何がしかは確かに存在していたろうに、忘れられる。私は薄情にも忘れてしまう。
関わりが薄いからだろうか。
美味しい果実のなる木のことは何時までも忘れないのに、通っていた学校のことは忘れてしまった。
生徒も教師も誰も知らない。
全部忘れる。
忘れられる。
みんなみんな忘れて赤子になるみたいだ。




