はじめに
この本を手に取ったあなたが冒険者なら、最初に謝っておきます。あなたの仲間を殺したのは、たぶん私か、私の同僚です。
私は旧魔王軍迷宮設計局、第三設計課の一級迷宮設計士でした。在職十九年。担当した迷宮は十一で、そのうち八つはいまも稼働しています。
七年前、魔王陛下が勇者に討たれ、設計局は解体されました。同僚たちは処刑されるか、姿を消すか、静かに別の仕事に就きました。私は三つ目です。いまは辺境の町で錠前屋をしています。罠を組む指は、鍵を開けるのにも向いているので。
この本を書こうと決めたのは、冒険者ギルドが毎年出している『迷宮内死亡報告書』を読んだからです。戦前、迷宮で命を落とす冒険者は年に四百人ほどでした。昨年は、二千百人です。
迷宮が凶暴になったわけではありません。罠はいまも、私たちが設計したとおりに動いています。変わったのは、それを見守る者がいなくなったことです。
あまり知られていませんが、迷宮は侵入者の「恐怖」を魔力に変えて動いています。そして死んだ冒険者は、もう怖がりません。
ですから私たちは罠を、殺すためではなく、怖がらせて、生きて帰らせて、また来させるために設計していました。死人が出すぎれば緩め、慣れられれば締める。その毎日の調整こそが、設計士の本当の仕事でした。
主を失った迷宮は、その調整をやめてしまいました。
本書では、私が知る罠のうち本当に危ないものを五十、危険度の低い順に紹介します。順位の基準はひとつだけです。実際に、何人死んだか。
酒場で語られる有名な罠ほど、順位は低くなるはずです。理由は追々説明します。
できれば、最後まで読んでください。第一位だけは、どうしても知っておいてほしいので。




