53:また違反行為ですか?
ボクは、アクティスの質問に答えた。
……と言うか順次簡単に説明して行った。
「先日のククラタ町で起きた寄生虫の場合ですと、蚊が中間宿主になります」
「じゃあ、あの綺麗な巻貝が寄生虫を撒き散らす元ってことか?」
「そうなります。それと、幼生とは、成虫になる前の段階のことです」
「つまり、幼虫ってことか?」
「そうですね」
「それと、体内で繁殖しないって、どう言うことだ?」
「ククラタ町の寄生虫でもそうだったんですけど……。ボクよりもチャットボット機能の方が正しい説明をしてくれますので、その質問を入れますね」
「頼む」
ボクは、チャットボット機能への質問を再開した。
女神様製だから絶対に間違ったことは言わないはずだからね。
『Q:その住血吸虫のライフサイクルを教えて』
『A:孵化したばかりの幼生には哺乳類への感染能力は無く、中間宿主である貝に感染して哺乳類への感染能力を持つ幼生に成長する。そして、その幼生が中間宿主から外部に出て哺乳類に経皮感染し、その後は宿主となる哺乳類の門脈に移動する。そこで成虫となり、門脈の血流に逆らって腸管の細血管に至り、そこで産卵する。虫卵は血管を塞栓し、これにより周囲の粘膜組織が壊死し、虫卵は壊死組織と共に腸内に零れ落ち大便と共に排泄される。そして、虫卵が孵化して幼生が中間宿主に感染する』
これを見てアクティスは、
「門脈? 肝臓? 腸内?」
極めて基本的な質問を、追加でボクに投げてきた。たしかに、この世界では人体構造については余り情報が浸透していないからなぁ。
仕方が無いので、一先ずボクは、内臓の絵を描いて、今回必要な部分だけをアクティスに大まかに説明した。
「ええと、食べ物を食べると食道を通って胃に入って、そこで肉とかは消化されます。その後、十二指腸を通って小腸に入って、そこで栄養分は吸収されて肝臓に運ばれます。小腸と肝臓を繋ぐ血管が門脈です。あと、肝臓で胆汁酸と言うモノが作られて、それが十二指腸内に分泌されます……」
「と言うことは、感染した幼生は、栄養分がたくさん含まれているところに居座っていて、そこで成虫になり、その寄生虫が産んだ卵が腸内に零れ落ちて体外排泄されると言うことか?」
「まあ、そうですね」
「それと、一旦中間宿主を介さないと人間に感染できる形にならないってことか。つまり、今回の場合だと、あの巻貝の中で感染力を持つ形態に成長しなければ、全然問題無いってことだな?」
「そうなります」
「では、あの水槽の中のモノは、全部煮沸して殺してしまえば良いってことか?」
「はい。それで穴でも掘って埋めてしまえば良いでしょう」
さすがアクティスだね。
理解が早い。
「ただ、そんな危険な貝を、どこで見つけて来たんだ?」
「ボクも、それが気になっていました。それと、虹色に輝く綺麗な巻貝なんですよね?」
「ああ」
「なんで、そんなに目立つ貝なのかが気になりました。魚とか鳥とかに食べてくれと言わんばかりって気がしまして」
「たしかに」
と言う訳で、ボクは改めてチャットボット機能に質問を開始した。
『Q:何故、その貝は目立つ色をしている?』
『A:中間宿主なだけではなく、猛毒を持つ生物でもあるため、警告色として虹色をまとっている』
『Q:その貝は、何処で採取された?』
『A:中央大陸のトレマトーダ王国セルカリア地区』
『Q:トレマトーダ王国では、住血吸虫が流行している?』
『A:していない』
『Q:何故、トレマトーダ王国では、住血吸虫が流行していない?』
『A:セルカリア地区は立入禁止区域であり、特殊結界が張られ、その巻き貝も住血吸虫も完全に閉じ込められている』
またかよ。
立入禁止区域から余計なモノを持ってきちゃうって、イビセラ国のルテア町で発生したコレラみたいな病気とか、ククラタ町の糸状虫と完全にパターンが一緒じゃない?
同じようなことを、何でこんなに繰り返すんだろ?
ただ、この時、この一連の回答を見てアクティスは、
「トレマトーダ王国内での法に違反している。即刻逮捕だな」
と言いながら、珍しく怖い顔をしていた。
彼は、法を取り締まる側の人間でもあるからね。
当然の反応だろう。
質問は、これで終わりじゃない。
まだ、ボクが聞きたいことは他にもある。
スティビア以外に被害者がいないかどうかも重要だ。
あと、治療薬のこともね。
『Q:このネペンテス世界には、本来セルカリア地区以外にも住血吸虫は存在する?』
『A:しない』
『Q:住血吸虫の中間宿主になれるのは、虹色に輝く巻貝以外に存在する?』
『A:しない』
『Q:地球では住血吸虫の治療にプラジカンテルを使うって聞いたことがあるけど、今回の住血吸虫には効果がある?』
『A:ない』
『Q:イイ薬は?』
『A:薬での根絶は困難』
薬での根絶が難しいとなると、やっぱりボクが魔法で摘出するしか無いだろう。
結構、面倒な話になるよ、これ。
『Q:ドロセラ王国の城内以外で住血吸虫が持ち込まれたところはある?』
『A:ある』
『Q:それは何処?』
『A:ビルハルツ王国の王都及び周辺地域』
『Q:放流された?』
『A:持ち込まれてすぐ放流された』
『Q:繁殖している?』
『A:大繁殖している』
『Q:いつ持ち込まれた?』
『A:三年前』
『Q:誰が持ち込んだ?』
『A:ワース商人』
『Q:ワース商人と、今回ドロセラ王国に住血吸虫を持ち込んだ者との関係は?』
『A:本人』
つまり、このワースって人が連続住血吸虫事件の元凶ってことか!
それにしても、他にも持ち込まれた国があるってことは、正直、マズい状態だよね?
しかも、放流されて三年も経っているってことは、かなりの数の感染者がいてもおかしくない。
急いで女王陛下に報告してビルハルツ王国の状況を確認しないとマズイ。
「では、アクティス王子。急いで城に」
「分かってる!」
折角、ボクの居室で二人きりだったのに、珍しくHな展開にもならず、ボク達は急いで外に出た。
って珍しくって何?
なんかHなことばかりしているみたいだな。否定しないけど……。
建物の外に出ると、そこには転移魔法使い兼世話係兼騎士のルイージさんがいたんだけど、ボク達を見るなり、
「もうお済みですか? 早かったですね?」
と意味深なことを言っていたよ。
多分……と言うか、間違いなくHなことを想像しているな!
ただ、今は反論している余裕はない。
それに、ボクとアクティスの仲は、今更反論するような間柄じゃないしね。
一方のアクティスだけど、彼は、ルイージさんを見るなり、
「急いで城まで頼む」
とルイージさんに命じた。
アクティスは、完全に彼女の言葉をスルーしていた……と言うか、耳に届いていなかったっぽい。
この時も、アクティスの表情は、怖いままだったので、ルイージさんは、
「は……はい」
とだけ言うと、急に真顔になった。
冗談を言っていられるような状況ではないことを瞬時に理解したようだ。
そして、彼女は、ボクとアクティスを連れて城内にソッコーで転移した。
…
…
…
転移終了。
毎回思うけど、ボクのショボい転移魔法とは全然違う。
これだけの距離を一気に移動できるのは本当に羨ましい。
ボクは、アクティスに連れられて、先ずスティビアの部屋へと通された。
この時、スティビアはベッドの上でグッスリと眠っていた。たしかに腕には、かぶれた跡がある。
ここで治癒魔法でも使えれば簡単に治せるんだけど、この世界には原則として治癒魔法は無いからなぁ。
一応、ボクは、病変とか寄生虫を体内から転移させて取り出すことができるけど、これも今のところボク限定の魔法だしね。
取り急ぎボクは、
「出ろ!」
かぶれに効く塗り薬を出して、スティビアの腕に塗ってあげた。
さらに、ボクは物質創製魔法で、
「小ビン、出ろ!」
小さな薬ビンを出した。この中に住血吸虫を転移させる。
続いてボクは、スティビアの身体を急いで診断した。
一応、診断魔法はキチンと使えるからね。
たしかに、スティビアの門脈内に、ボクは極々小さな異物を発見した。
その異物……住血吸虫の幼生は、本当に嫌な雰囲気を放っていたよ。まるで癌細胞を見つけた時のような禍々しい感じだった。
ボクは、
「この中に転移!」
その幼生を小ビンの中に転移した。
ショボい転移魔法でも、これだけ近い距離なら問題ないからね。
取り敢えず、これで一安心だ。
ただ、小ビンの中に入っている幼生は目に見えるような大きさじゃない。一見、何も入っていないようにしか見えなかったよ。
その後、ボクは、アクティスに連れられて謁見室へと入って行った。
重要事項だからね。
順番繰り上げ……と言うか完全に横入り状態だった。
謁見室の端の方には、例の巻貝が入った水槽が置かれていた。
その水槽には二人の兵士が付いていた。万が一のことを考えて、誰にも触れさせないようにしているってことだ。
それと、この水槽が視界に入った途端、ボクのステータス画面の中にあるアラート機能が激しく鳴り出した。
こんな機能は、多分、この世界ではボクにしか付いていない……と思う。
アラートが鳴ったってことは、この巻貝は、ボクが想定していた以上に危ないヤツってことなんだろう。
フルオリーネ女王陛下は、ボク達を見るなり、
「アクティス。トオルちゃんを連れて来てくれたのね」
と言いながら安堵の表情を見せていた。
でも、何でもボクに振れば問題解決できるって思われていないか心配だな。
「陛下。取り急ぎ、スティビアの方はトオルが処置しましたので問題ありません」
「そう。良かったわ」
「ただ、今回の件は、トオルが御使いシリシスと交信してくれたところ……」
「そう言えば、そんなことも出来るんだったわね」
チャットボット機能のことは、アクティス以外には話していない。
ただ、チャットボット機能を使う時に、ボクはブツブツ独り言を呟くからね。
それで、その時にボクはシリシスと交信しているってことになっているんだ。
「はい。その結果ですが、陛下の不安が的中しました」
「やっぱり……。では、あの水槽の中にマズイモノが入っていたと言うことね」
「そうです。トオルが言うには住血吸虫と呼ばれる寄生虫が入っていたとのことです。しかも、ククラタ町で起こった事件の蚊に相当するのが、例の巻貝とのことです」
「そう。なんとなくだけど、そんな気がしていたわ。下手に捨てないでいて良かったわね。では、水槽の中身を全て煮沸処分すれば問題ないかしら?」
「はい。それと、その巻貝の採取場所ですが、中央大陸トレマトーダ王国セルカリア地区とのことで……」
「えっ? それってたしか……」
さすがフルオリーネ女王陛下だ。
そのが、どんな場所かを御存じのようだ。
「はい。立入禁止区域です。かつて、イビセラ国ルテア町で発生した病気と同様に立入禁止区域から病原体を持って来たと言うことになります」
「たしか、ククラタ町の寄生虫の時もそうよね? またぁ?」
「それと、御使いシリシスからの回答では、実は、三年前にビルハルツ王国にも同じ商人の手によって持ち込まれています」
「再犯? 他に持ち込まれたところは?」
「今のところ、うちとビルハルツ王国の王都近辺だけのようです。ただ、ビルハルツ王国では、残念ながら放流され大繁殖しているようです」
「そう。でも、トオルちゃんがいる国にってことで我が国に持ち込まれたことは、ある意味、不幸中の幸いかも知れないわね。そうでなかったら、この住血吸虫問題は発見できなかったでしょうから」
そう言うと、フルオリーネ女王陛下が立ち上がった。
この時の女王陛下の表情は、さっきまでのアクティス以上に恐ろしいモノがあった。余程怒り心頭しているみたいだ。
法を犯して意図的に危ないモノを採取し、それをドロセラ国に持ち込んだ奴がいるわけだからね。
当然と言えば当然だろう。
「エリカ、いる?」
「はい。こちらに」
「では、巻貝を売りに来たワース商人を至急逮捕しなさい。禁止区域から病原体を持って来たことは重罪に当たります」
「分かりました」
「それと、トオルちゃんに質問があるわ」
「何でしょうか?」
「その住血吸虫に感染することで、どのような症状が出るかなんだけど?」
「先ず、住血吸虫が体内侵入するのは皮膚からになりますので、皮膚炎……つまり、今回のスティビア王女のように皮膚がかぶれます。それから、初期症状としては発熱、腹痛、下痢。感染が重なって慢性になった場合は、手足がやせ細り、腹部が大きく膨れ、場合によっては失語症や痙攣等が起こります」
肝硬変とか門脈圧亢進症とかも起こり得るけど、言っても多分、ネペンテス世界の人には分からないよね?
なので、ボクは分かり易いと思うところだけを掻い摘んで話した。
「ククラタ町の時みたいに、感染者が死んだりは?」
「初期症状だけで済めば、然程問題無いと思います。しかし、慢性の場合は回復せずに死に至ります。また、子供の発育不良も起こります」
「やっぱり根絶が必要ね。それで、薬での治療は?」
「シリシスからの答えでは、この住血吸虫を薬で根絶するのは難しいそうです。なので、ボクが一人一人魔法で摘出するのが確実になります。
「そう、またなのね……。では、ルイージ」
「はい」
「私とアクティスとトオルちゃんを連れて、至急馬車でビルハルツ王国まで転移してもらいます」
「分かりました」
「あと、今日の謁見は急用が入ったと言うことで、これで終了します。謁見待ちの人達には日を改めてもらいます」
まさか、フルオリーネ女王陛下自らが乗り出すとはね。
立入禁止区域からの寄生虫持ち出しが連発したわけだからね。それだけ、事が重いと判断されたんだろう。
住血吸虫は、ラヤの方とネタ被りですが、ラヤとトオルでどう展開が異なるか、ちょっと試してみたいと思いました。




