叛逆堕天・叢雲
読者の皆様、5日、いや、6日も放置してしまい、
本当に、申し訳ありませんでした!!!
力強く溜め込んだヘルズの蹴りが、北見方を地上に叩き落とす。
2000メートルの上空から、地上へと。
それはまるで、どこまでも腐りきって地上に落ちた堕天使が、天界に牙を剥くかのような錯覚をさせるほど、鮮やかで。
まさに《叛逆堕天》の名を関するにふさわしい、一撃だった。
「ぐはっ」
位置エネルギーが瞬時に運動エネルギーに変換され、北見方は流れ星もかくやという速度で地面に落下していく。ヘルズはそれを見て、獰猛に笑う。
「堕天使の鉄槌、思い知れ」
自らを堕天使と称する、男の必殺技。
それは、相手を自分と同じ、地上に叩き落とすという、悪魔の所業であった。
まるで、『堕天使だからこそ、証明できる罪もある』と言わんばかりのその攻撃には果たして、ヘルズのどんな思いがこもっていたのだろうか。
「くくっ」
その時、下から花火が撃ち上がってきた。ヘルズは二ノ宮から預かったカードを懐から取り出すと、花火にかざす。瞬間、花火の動きが止まった。
「やっぱり面白いな、このおもちゃ」
ヘルズはそう言ってニヤリと笑うと―――――何を思ったのか、カードを懐に戻した。花火の動きが戻り、ヘルズの右腕に直撃する。いくら人外といえど、防護服なしで花火を食らえば、当然ダメージを受ける。ヘルズの右腕が肩口から千切れ、宙を舞う。熱風がヘルズの顔を焼き、その端正な顔を焼き尽くす。ヘルズの顔面の皮膚が焼けただれ、見るにも堪えない顔になる。だがヘルズは顔色1つ変えずに、呟いた。
「悪が悪を裁く。そうすれば、いずれ悪は消えて、お前の望んだ世の中がやってくるぜ」
刹那、ヘルズの右肩から――――――右腕が生えた。顔の皮膚もいつの間にか元通りになっており、時間を巻き戻したかのような現象が起こっていた。
「ま、こんなやり方をアイツは望まないんだろうけどな」
直後、ヘルズの身体が落下し始める。北見方ほどではないが、かなりのGがヘルズの身体にかかる。吹き荒れる風から顔をかばいながら、ヘルズはうめく。
「クソッ、ただの人間だったら4回は死んでた闘いだったぜ」
その数秒後、肉が潰れるような、グチャリという音が聞こえた。
ザッ、ザッ、という音が聞こえる。
2人の男の目が合い―――――瞬間、地面に仰向けに寝転がっていた青年が、肩をすくめた。
「僕の―――――――負けですか」
「みたいだな」
ヘルズはあえて、素っ気なく答える。そこには、いつものような唯我独尊ぶった傲慢な態度はない。当然だ。命を懸けて戦った相手に対して、その態度は無礼千万であると知っているからだ。敵は命がけで戦った。ならば、それ相応の礼儀があるはずだ。
「まあ、よくやったと思うぜ? リミッター解除状態の俺とぶつかってここまでやれたのって、この1年間でお前くらいだからな」
実際、チャルカも影未も、ヘルズが人外の力を解放したときには既にラストスパートだった。その前に戦った相手も、たいていはリミッターを解除するまでもなく終わった。
「1年間、ですか。それより前は、居たんですね」
だがヘルズの言葉に対して、北見方は自嘲的な口調で返す。
「これでも僕たちの組織は関東地区最強なんですよ? それなのに、たかが数人に、それも知り合いに壊滅させられるとは思っていませんでした」
「まあ、逆の立場なら俺も驚くぜ。・・・・・で、金庫はどこにある?」
その、予想されていたヘルズの発言に、北見方は苦笑した。
「まあ来るだろうとは思っていましたが・・・・・僕が言うと思ったんですか? これでも僕、組織のボスなんですよ?」
両腕の義肢にはヒビが入っており、右脚に至っては粉砕、額から血を流している。
明らかに強がりだと分かる北見方に、ヘルズは首を鳴らした。
「そう言うと思ったよ。だから、事前に手は打たせてもらった」
悪代官のような不敵の笑みのヘルズを見て、北見方は凍り付く。
ネトゲ廃人、厨二病、引きこもりと3拍子揃った典型的なダメ人間のヘルズだが、腐っても怪盗だ。漫画やアニメの怪盗同様、様々な手段を用いて宝を盗んでいくだろう。ましてや厨二病であるため、どんな方法を使うか、見当もつかない。
「ヘルズ・・・・いや、黒明弐夜! き、君は一体、どんな手を―――――」
その時、視界の端から光が消えた。何かと思って首を傾けてみると、パーティー会場の電気が、全て消えていた。幸い、花火のおかげでかろうじて光はある所と、観客が全員花火に釘付けになっているため、それに気が付くものはごくわずかだった。
「き、君は、何を―――――」
北見方の問いに、ヘルズはニヤリと笑った。
「たまには、怪盗らしい事をしようと思ってな」
今回ヘルズが細工をしたのは、会場の配線だ。
配線に、『一定時間が経過したら電気の供給場所を一点に絞る』という設定を施し、目的の場所に、酸化鉄とアルミニウムの混合粉末を大量に用意しておく。
本来、電気とは各場所に一定の量届けられる。だから使っていても安全なのだ。だがもしも一定の場所に、容量を超える電気が供給されたとしたら―――――。
電気が漏れ、スパークとなって、コンセントなどから溢れるだろう。そしてそのスパークが、酸化鉄とアルミニウムの混合粉末にわずかでも触れれば―――――
あっという間に、大爆発だ。
「『テルミット反応』」
爆発した『聴覚』の部屋を眺めながら、ヘルズが呟く。
「酸化鉄とアルミニウムの混合粉末に着火することで、起こる大爆発だ。・・・・って、流石に生徒会長様なら知ってるか」
「何を・・・・」
「何ってお前、万が一全員が倒れたら『聴覚』に金を持たせて逃がすつもりだったんだろ。頭のいいお前の事だ、自分たちが全滅したときのことも考えていたはず。『聴覚』の能力は、空間把握。『血まみれの指』の中で唯一、俺達から逃げられる能力だ。『聴覚』に金持たせて逃げれば、少なくとも俺達の目的は阻止できる・・・・とでも思ってんだろうが、甘い、甘すぎるぜ北見方。俺が、そんなチャチな計画を読んでないとでも思ってたのか」
ヘルズの言葉に、北見方は絶句した。全て読まれている。
相手は、『最強の犯罪者』の教え子、第六期怪盗主席だ。純粋に戦って『血まみれの指』に勝ち目はほとんどない。
だから、北見方は策を弄した。
死闘に負けても、勝負に勝つ方法を。
それが、それこそが―――――「『聴覚』に金を預けて、《反響把握》を駆使してヘルズ達から逃げる」作戦だ。もし闘いに負けても、この作戦が成功すれば、ヘルズ達の『金を奪う』計画は失敗だ。
だが―――――それすらも失敗した。
「ったく、何の伏線もねえから正直驚いたぜ。でもまあ、これでお前らの作戦も失敗だな。もうじき警備員が飛んできて、『聴覚』の荷物を一旦、回収。そこを降谷かユルが『聴覚』のフリをして警備員から10億円をだまし取る。どうだ、完璧だろ?」
怪盗というよりは詐欺師に近い計画を恥ずかしげもなく語るヘルズ。それを聞いて、北見方は色々な意味で驚いた。
「これでお前の組織も金も終わり・・・・終わったな」
「そうですね・・・・・」
ヘルズに諭され、北見方は首肯して目を閉じる。今までの思い出が、走馬燈のように脳内を駆け巡る。
――――初仕事で成功した時の事、自分の家族を殺した男に復讐した時の事、なんだかんだで楽しかった時の事。
「いろいろ、あったんだな・・・・・」
感慨深く呟く。すると、横から声がかかった。
「おいおい、なんかもう死ぬ奴の発言みたいになってるけどさ、お前まだ死なないぞ?」
「え?」
今の北見方の身体は義肢損傷、背骨にもヒビが入っており、このまま行けば凍死確定だろう。というか、叩き落とされた時に死ななかったのが不思議なくらいだ。
「残念だが、今お前に死なれるとこっちが困るんだよ」
次回は9月16日更新予定です。




