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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
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変装の裏事情

今回は、戦いの裏事情が明かされます。

 ヘルズが地面を蹴り、瞬間移動に近い速度で北見方に飛来する。北見方はそれを見ると、軽く右肩を引いた。どうやら、事前に《計算(カウンティング)》で呼んでいたようである。


 だが――――


「甘いぜ生徒会長様!」


 ヘルズは角度を修正し、跳び蹴りを放つ。そして、邪眼の力を解放した。


「はあああああああああッ!」


 封印していた人外の力が解放され、全身の筋肉が強化される。ヘルズの跳び蹴りが北見方の読んでいた速度を遥かに上回り、北見方の体を跳ね飛ばした。


「があッ!」


「我が封印されし人外の力、思い知れ!」


 北見方の体が後方に吹き飛ぶ。その隙を逃さず、ヘルズは腰のホルスターから愛用のベレッタを引き抜き、速射(クイックドロウ)。跳んでくる弾を、北見方は空中で身を捻って紙一重で躱す。その間隙をぬって、ヘルズが北見方の頭上に飛翔する。


「未来予知ができても、本人がそれに追いつけなければ意味ねえよな!」


 今、北見方は地面に足を付いていない上に、空中で体を捻ってしまっていた。これでは、仮に未来予知ができても避けるのは不可能だろう。ヘルズは右足を振り上げる。


「《没落(ぼつらく)権勢(けんせい)天覧(てんらん)(ざくら)!》」


 勝った、とヘルズは確信する。重力に加えて化け物の力をフルに活用して放ったこの一撃は莫大な破壊力を生みだし、全身の骨をバラバラに砕く。そして前述の通り、北見方は空中で身動きが取れない。つまりこの必殺の一撃を逃れることは不可能で――――


「なッ!」


 ―――――だから、北見方の足から炎が噴き出し、ヘルズの踵落としを躱したのは、完全な想定外だった。


「『未来予知ができても、肝心の体がそれに追いつけなければ、無用の長物である』。そんな事、僕が一番よく分かっていますよ」


 北見方の足から再度炎が噴き出し、彼の体を固定する。そのまま平然と地面に降り立ち、北見方は爽やかに微笑む。


「僕の特殊武装が、1つだけだと思いましたか?」


「何が―――――」


「さあ、次はこちらの番ですよ」


 呆然としているヘルズに、北見方が迫る。地面を軽く蹴り、5メートルあった距離を一瞬で詰める。

「ッ⁉」


「《反逆(はんぎゃく)未遂(みすい)(いかずち)》」


 驚くヘルズに、北見方が必殺技の名前を呟く。刹那、耳元で拳がかすめる。

「なにが―――――」


「ほら、どんどん行きますよ。《絶滅迅雷(ジェネラルストリーム)》」


 淡々とした口調で、北見方がヘルズの必殺技を唱える。とっさに姿勢を屈めるも、読まれていたのか胴に一撃もらってしまう。


「ぐあっ!」


 強烈な蹴りがあばらに突き刺さり、あばら骨の2,3本が粉砕する。折れた骨が内蔵に刺さり、凄まじい痛みに思わずうずくまる。そんなヘルズを、北見方は楽しそうに見下ろす。


「どうですか? 自分の作った必殺技に打ちのめされる気分は」


「ああ、最高にムカつくぜ」


 その挑発的な物言いに、ヘルズは血を吐いて立ち上がる。人外の細胞が活性化し、折れた骨を修復していく。とても痛いが、ひとまずこれで怪我の部位は安全だ。


「なるほどな、目を介して演算するなら、敵が1度出した必殺技を見てパクることも可能なわけか。ったく、格好悪い使い方しやがって」


 血と言葉を吐き捨てるようにしながら、ヘルズは拳を構える。そして、目に装着していた眼帯を外した。ヘルズの瞳を覗き込んだ北見方の背中が一瞬震えるのを、ヘルズは見た。


「邪眼、解放。ここから先は、人外の領域だ! 今のうちに遺書でも書いておくんだな!」














 人がごった返す屋上を、姫香は走っていた。人を押しのけ、避けながら、屋上の柵に向かう。しばらく行くと、柵にもたれかかって下を眺めている降谷を見つけた。その隣にはユルとチャルカもいて、食い入るように下を見つめている。


「降谷先生!」


「お、花桐か」


 降谷は姫香を見ると、元気そうに片手を上げた。姫香は降谷の元に行く。


「降谷先生、死んだんじゃなかったんですか?」


 ヘルズの話では、死んだという話だったが――――


「死んだ? おい花桐、冗談はよせ。じゃあお前の前に居るオレは何なんだよ。幽霊か?」

「で、でもヘルズさんが・・・・」


 姫香が言うと、降谷はやや大げさにため息を吐いた。


「おい花桐、それを言ったのは偽物だ。偽物のヘルズと本物のヘルズの違いにいい加減気づけ」

「え? あっ!」


 そうだ、確かに『降谷が死んだ』という情報を言ったのは、変装したヘルズ――――北見方だった。


「いいか、混乱してるみたいだから、状況を整理するぞ? まず、

バイト服で現れ、ヘルズを名乗った男が、敵の大将、北見方。こいつがオレの死という誤情報を流し、お前を使ってヘルズ軍を一気に壊滅させようとした。

 次に、時々現れたのが本物のヘルズだ。アイツはお前が北見方の変装に騙されていた事を知っていたんだろう。だから、何度も集合を掛けて、お前に『今いるヘルズは、偽物だ』という事を暗に伝えたかったんだろうな」


「でも、それならどうして『今お前がヘルズだと思っている男は、ヘルズではない』と伝えなかったんですか? そうすれば、何もこんな回りくどいことしなくて済んだのに」


 姫香が素朴な疑問を零すと、降谷は首を振った。


「そうすれば、お前は誰を信じればいいのか分からなくなるだろう。その隙を敵に付け込まれたら終わりだ。しかも最悪な事に、その時ヘルズは部屋から出られない用事があった」


 降谷が悔しそうに拳を握る。その表情に苦悶を感じた姫香は、耐えきれなくなって降谷に聞いた。


「そ、それっていったい―――――」


「フッ、聞いて驚くなよ」


 降谷はそう前置きすると、大きく息を吸った。











「ネトゲだ」









 不思議かな、周囲の雑音が聞こえづらくなった。


 降谷が拳を硬く握りながら、鉄柵を蹴る。その衝撃で、鉄柵が大きくへこんだ。


「なんでも運営の見回りがあったらしくてな。アイツ、不正ツールを使ってるゲームが2,3個あるらしくて、それを隠すのに忙しかったのだと」


 なるほど、道理でここ数日、何の音沙汰もなかったわけだ。そして流石ヘルズ、相変わらずのダメ人間っぷりを披露している。


「という裏事情があって今に至るわけだが、何か質問は? うん、無いな! だったらこれを受け取れコンチクショウ!」


 降谷がヤケクソ気味に、ルーペのような物を姫香に放る。キャッチして首を傾げる姫香に、降谷は説明する。


「それは二ノ宮のおもちゃの1つ、『高画質望遠鏡ルーペ』だ。それを付ければ1キロ先の光景でも鮮明に見ることができる優れものだ。それで、ヘルズ達の戦いを観戦しろ」


 降谷がぶっきらぼうな口調で言い、ルーペを付けて闘いの観戦に戻る。


姫香は早速ルーペを付けて下を――――グラウンドを眺め、

 目を剥いた。


 ヘルズと北見方――――両者は、互いに一歩も譲らない闘いを繰り広げていた。


 ヘルズが回し蹴りを放ち、北見方がそれをブロック。続けざまにヘルズが放った拳を、北見方は紙一重で回避。その際、ヘルズが体勢を崩し、北見方に腹を蹴り上げられる。


 この間、0,2秒である。


「嘘・・・・」


 以前、何かの本で『人間の筋反射の限界速度は、0,2秒である』という事が書いてあった。だが、これはその範疇に留まる速度ではない。


 速い。速すぎる。


 2人とも、1秒前までそこに居たと思ったら、次の瞬間には全く違う場所に居る。瞬間移動かと思われる速度で、2人は戦場(グラウンド)を縦横無尽に駆け回る。


「まあ、あいつら2人ともマトモな人間じゃないからな」


 姫香の表情を読んだのか、降谷が独り言のように呟く。それを見て、姫香の心に驚きと同時に、疑問が生じる。


――――2人とも? という事はヘルズさんも?


 北見方は分かる。姫香が戦った『嗅覚』が改造人間であった上に、これまでの情報が正しければ、『血まみれの指』は全員が改造人間だという事になるからだ。だがヘルズは違う。


 ヘルズは、至って普通の人間なはずだ。イギリス王女奪還作戦の際、いろいろあってヘルズの全身に触れたが、これと言って機械の部位はなかった。という事は、ヘルズは改造人間ではないという事である。ではなぜ、降谷は2人などと言ったのだろう?


「と、凄いな。ありゃ」


 見ると、戦いはさらに進んでいた。


 ヘルズが右腕を引き、煙るような速度で突き出す。ヘルズの神速の拳打を北見方は涼しい顔で躱し、胸元に拳を一発。ヘルズの体が大きく傾ぎ、見ているこちらにまで緊張感を走らせる。


 北見方の肘から銃口炎のような物が見えたのを感じ、姫香は目を見開く。―――なんだ、今のは。


 北見方が目にもとまらぬ速度で拳を打ち出す。ヘルズはそれを正面から受け、吹き飛ぶ。ヘルズの胸から少なくない血が迸り、地面にポタポタと落ちていく。


「そ、そんな・・・・」


 いくら強いとはいえ、ヘルズとて人間だ。痛いものは痛いだろうし、大量の血が流れれば命の危険もあるだろう。


 喀血したヘルズを見て、姫香の焦りが限界に達した。


「ヘルズさん!」


 柵に足を掛け、屋上から飛び降り―――――る寸前、姫香の手を、誰かが引っ張り上げた。


「阿呆。ここから地面まで何メートルあると思ってるんだ。援護以前にお前が死ぬぞ。それに、奴は心配しなくても勝つ。そういう男だ」


 姫香の手を持ったまま、降谷が言う。その表情は、ヘルズを信じて疑わない顔だ。















 もう何合目かになるか分からない打ち合いを終え、ヘルズは喀血する。これで5回目の喀血だ。視界は眩み、拳はボロボロ。よくここまで戦えた物だと、我ながら感激するくらいだ。


「ったく、火薬式の義肢とか、本当に面白い物持ち出してくれるぜ」


 ヘルズは頭を掻きながら、北見方の腕を見る。科学技術の最先端の武器も、人工皮膚とバーテン服に隠れていれば、ただの腕にしか見えない。


「『肘と踵に仕込まれた火薬を爆発させることで義肢や脚を超加速させる』っていう、今じゃ珍しくない技術。それでも、未来予知と合わせると無敵だな。敵の攻撃全部防御できるし」


 未来予知で敵の攻撃を読み、義肢に仕込まれた火薬を爆発させることで攻撃の完全防御をする。


 もちろん、火薬にも残弾数があったり、義肢がオーバーヒートするため無限には使い続けられないという制約はあるものの、数時間の戦闘ならばほぼ無敵である。


「しかも、予備の火薬を腰につけてるのがヤバいからな・・・・・」


 そう、北見方は義肢の予備火薬を腰に付けていた。腰の周りに付けてあるポーチには火薬がずらりと並んでおり、ヘルズの技を一撃でも受けようものなら即・大爆発だ。

 その爆発にこちらも巻き込まれかねない以上、うかつに攻め込めない。


「というか、『血まみれの指』の構成自体が凄いよな。今さらながら、感動したぜ」


『聴覚』の能力で建物の構造と見張りの人数、座標を把握し、『嗅覚』の能力で標的(ターゲット)の居場所を特定。そこを残りの3人が襲い、効率的に仕事をこなしていく。万が一、仕事に失敗し損ねても、北見方が正面から突っ込んで一対一をすれば、未来予知で確実に仕留められる。


 隙があるようで、ほとんど存在しない、無敵の布陣。


「まあ、その伝説も今日で終わりだけどな」


 話してる間にも傷口は再生しており、拳は完全回復している。ヘルズは、拳を構えた。


「さあ、そろそろ超本気のぶつかり合いと行こうぜ。お互いの思いぶつけて、全力の力ぶつけて、盛り上がろうぜ!」


 威勢のいい言葉に、北見方も頷く。


「そうですね。そろそろお互い、限界みたいですし。お互い、燻っていることをぶつけて、スッキリしましょう」


 ヘルズは懐から輸血パックを取り出した。全身の回復は何とかなっても、血液だけはどうにもならない。パックを破り、中の血液を一気に飲み干す。瞬間、生き返る体力。全身に活力がみなぎり、無限に動き続けられるように錯覚させる。


 北見方を見ると、義肢の火薬を詰めていた。どうやら、戦う気満々のようだ。北見方の準備が終わるのを待って、ヘルズは声を掛けた。


「じゃあ、始めるか」


「そうですね」


次回は9月4日更新予定です。

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