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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
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ついに全面戦争⑨

 あと1,2話ほど姫香編続きます。

「チッ、逃げやがったか」


 敵に逃げられた事を確認した『嗅覚』は舌打ちすると、ショットガンを構えなおした。


「まあいいか。敵の居場所は分かってるし」


 そう言うと、『嗅覚』は静かに目を閉じた。――――『聴覚』同様、どこかの感覚に意識を集中させるときには目を閉じていた方がいい。やがて、目を開く。


「――――見ぃつけた」


『嗅覚』は嗜虐的な笑みを浮かべると、階段を昇り始めた。









 予想通り、そろそろ体力が尽きてきた。


「はあ、はあ・・・」


 姫香は壁に手を着いた。もう限界だ。これ以上は走れない。姫香は逃走をやめ、再び不意打ちするという戦略で戦う事にした。


「でも、どうして私の居場所が・・・」


 不思議に思ったのはそこだった。未熟とはいえ姫香もヘルズから戦闘の手ほどきを受けている者だ。習った通りに気配は消したし、隠れ方も完璧だった。


「なら、どうして・・・」


 疑問を口に出した時、後方から気配を感じた。慌てて、近くにあった段ボールの中に隠れる。姫香が入ると同時、角を曲がってその人物が姿を現した。


「おー、こりゃ近いな。さて、どこにいるのかね」


 間違いない、あの女だ。舌なめずりのような音が聞こえ身が竦むが、やるしかない。ここで戦わなければ、いずれ姫香は殺される。


(あと1メートル・・・)


 伸縮式の警棒を握りしめながら、姫香は気を引き締める。体力が尽きかけている姫香に、不意打ち以外の勝利方法はない。ここが正念場だ。


「あ、そうそう。お情けのために言っておくけど」


 女の言葉に、姫香の体が固まる。まさか――――


「居場所、バレてるからね」


 そのまさかだったか‼


「はあっ!」


 胎児のように丸まった状態から跳躍し、脱出。それと同時に段ボールを蹴り上げ、女の視界を塞ぐ。これなら――――


「だから、甘いんだよ」


 だが女は冷たく言い放つと、ショットガンを連射。弾丸が段ボールを貫通して飛び出し、姫香は反射的に回避する。直後、太ももを弾丸がかすめる。


「ッ・・・・」


「ほらほらどうした⁉ 怪盗の仲間ってのは、その程度か!」


 女の挑発を頭から締め出し、姫香は思考する。どうなっているんだ?


(敵は残り2人・・・『視覚』と『嗅覚』。でもあの女は視界を塞がれても何も感じなかった・・・と考えると、『嗅覚』!)


「急に無言になってどうした⁉ あの威勢のいいのはもうやらないのかよ⁉」


(『嗅覚』・・・普通に考えれば、動物のように匂いを辿って敵を補足する・・・なるほど、だから視界を塞がれても平気だったのか・・・じゃあその匂いの素っていうのは?)


 持ち前の頭の回転の速さを生かして、敵の能力を推察していく。もう敵の戯言など頭に入らない。脳をフル回転させる。


(いくら敵が機械人間であろうと、このパーティーに居る人1人1人の匂いを覚えられるはずがない。何か、区別するはずの物があるはず。それは何か?)


 敵が撃ってきた弾丸をバックステップで避けながらも、姫香の思考は止まらない。


(あの時、『嗅覚』はユルさんではなく、私を狙ってきた。もし仮に匂いを完全に判別できるなら、『味覚』の血が付着したユルさんを優先させるはず。・・・・なぜ私?)


 その時、痺れを切らした『嗅覚』が突っ込んできた。ショットガンを放り捨て、姫香の胸倉目がけて腕を伸ばす。その手を払いのけつつ、姫香は考える。


(ユルさんにあって私にない物・・・・それってひょっとして)


「おい!」


『嗅覚』が伸ばしてきた腕を躱し、姫香はポケットを探る。そうだ、きっとこれだ。


「はあっ!」


 掛け声とともに姫香はヘルズから受け取った、謎の液体の入った瓶を投げつけた。瓶は『嗅覚』の顔面に当たって割れると、その端正な顔に降り注いだ。


「ッ!」


 驚いた『嗅覚』に、姫香は指を突きつける。


「貴方の能力はその液体を持った人間を改造された嗅覚で捕捉し、追い詰める能力でしょう? おそらくその液体は微弱ながら広範囲に匂いを発する効果を持っており、貴方はそれを持った人間の居場所を遠くから特定する事ができる。違いますか?」


 きっと、ヘルズは知っていたに違いない。

 知ったうえで、姫香にこの液体を預けたのだ。


 それが、姫香が勝つ事を信じた上での行動かはわからない。もしかすると姫香を囮にするために渡した物かもしれないし、ただの偶然かもしれない。


 しかしそのせいで姫香は、この女と死闘をする羽目になってしまった。


「あの人、次見たら一回殴ろう・・・」


 優しさで定評がある彼女らしからぬ発言が口に出る。気恥ずかしくなって前を見ると、そこにはポカンと口を開けたまま固まった『嗅覚』が居た。


 姫香に能力を指摘されてから唖然としていた『嗅覚』だが、やがて我に返るとケラケラと笑い始めた。


「ハハハ、今さら気づいたのかよ⁉ 遅っせーな! 遅すぎるぜ、アンタ!」


 姫香はムッと眉をひそめた。姫香はヘルズと違い、厨二病ではない。あらゆる可能性から敵の能力を割り出していく厨二式ではなく、今ある情報から推測して敵の能力を当てた。これでも姫香にとっては速い方だ。


「ハッハッハ。おいおいアマお前、今の状況に気づいてるのかよ⁉」


「え?」


 今の状況。『嗅覚』がショットガンを捨て、姫香もナイフを失った。『嗅覚』の武器はなく、姫香は特

殊警棒。そして今、『嗅覚』の得意技である追跡能力も失った。これなら姫香のほうが有利で―――――


「あれ?」


 突如、グラリと視界が揺れたかと思うと、姫香は床に倒れていた。


「え・・・・?」


「ギャハハハハ! バーカ! アタシの武器が索敵だけだと思ったのかよ⁉」


「くっ・・」


 足に力が入らない。視界がぼやける。かろうじて腕は動かせるものの、指先に力が入らない。警棒が指から零れ落ち、カラン、と音を立てる。


「これ、は・・・」


「アッハハハハハ! 無味無臭の毒だよ。ナポリタンにこっそり仕込ませてもらったのさ!」


 やはり、ナポリタンは食べるべきではなかったと姫香は後悔する。『相手の好意を無下にしては失礼』という常識が今の状況を生み出した、と遅まきながら気が付いた。


「あと一歩だったのに、残念だったな」


『嗅覚』は笑いながら姫香に近づくと、脇腹を蹴った。「あぐっ」と姫香が叫ぶと同時、手の甲を踏みつけられる。


「アハハ! ヘルズの仲間も、こうなったら無様な物だねえ!」


『嗅覚』は毒で動けない姫香を嘲笑うと、つま先を素早く動かした。『嗅覚』の足が姫香の腕を、腰を、太ももを蹂躙していく。


「ぐっ!」


「お前らのせいで! お前らのせいで! お前らのせいで!」


 蹴る足を休めず、『嗅覚』は叫ぶ。


「『味覚』と『触覚』は、死んだんだ・・・・・・・」


『嗅覚』のその言葉には、死んだ仲間に対する悲しみが込められていた。


「死ね! 死ね! 苦しみながら、死ね!」


 もう何発目になるか分からない足蹴りをくらい、姫香は歯を食いしばる。毒の効果は徐々に薄れている。どうやら『嗅覚』は言葉通り姫香を苦しみながら殺すために、殺害用の毒ではなく動きを停止させるための毒を盛ったようだ。あくまで自分の手で仕留めたい、『嗅覚』の復讐心が滲み出ている。


(でも、どうすれば・・・・)


 絶え間なく襲い掛かる痛みに耐えながら、姫香は考える。


(もう今の私に体力はない。それにこの距離なら、現役の暗殺者である敵の方が早い。それに、それに――――)


2人も、殺した。


その言葉が、姫香の脳内を駆け巡る。

確かに殺したのは姫香でないかもしれない。だが姫香はそんな彼らの仲間だ。つまりそれは、姫香も殺人の共犯である事を現している。


(私、2人も殺しちゃった⁉ どうすれば――――)


『別に、いいじゃない』


次回は8月22日更新予定です。


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