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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
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ついに全面戦争⑥

 長い間、放置すみません。

 今回は長めーーーですがバトルシーンがありません。

 そして、6日目の朝。


「降谷の奴が、倒されただと・・・?」


 チャルカから報告を聞き、ヘルズは絶句した。


「うん。本当。さっき警備の人が運び込んでた」


 現在二人がいるのは、2階の階段の踊り場だ。念のため、二人とも変装は解かないでいる。


「馬鹿な・・・あのニセ教師は変態でロリコンで美少女を見つけると誘拐してしまうような最低野郎だが、腕は一流だと思っていたのに――――」


 さりげなく最低な事をのたまうヘルズ。ちなみに、全て風評被害である。


「主席、仲間をそんな風に言っては駄目」


「ふっ。その点は大丈夫だ。あいつは仲間じゃなくて俺の家畜だから」


 もしこの場に降谷が居れば激怒していそうなセリフを容赦なく放つヘルズ。こんな人間がチームのリーダーという事実など、悪夢でしかない。


「そんな事よりお前、体は大丈夫なのか? なんか『味覚』の奴にベロベロされたらしいけど」


「まだちょっと痛い。けど動けるくらいには治った。私、タフだから」


「そうか・・・・チッ」


「主席、今なんで舌打ちしたの?」


「いや・・・・なんでもない」


 敵と一緒にこのキャラが立たない無表情系女も表舞台から消えてくれないかなあ、と思っていたのは極秘事項である。


「ところで、姫香はどうした? アイツ今、一人か?」


「近くにユルがいる。『嗅覚』か『聴覚』に狙われてるかもって言って、見張ってる」


 ヘルズは顎に手を当てた。


「こっちの残りは俺、ユル、チャルカ、姫香の4人。一方向こうは『視覚』、『嗅覚』・・・『聴覚』は戦う気はないっぽいから戦力に数えなくていいとして、2人か。でも俺と『視覚』は一騎打ちするという前世からの因果関係があるから、戦力は3人と1人。なんだ、余裕じゃねえか」


 難しく考えていた自分が馬鹿みたいだ。いくらチャルカの存在感が薄くて、ユルが怪我をしていて、姫香が未熟でも、3人でかかれば勝てるだろう。


「ねえ、主席」


 チャルカに声を掛けられ、ヘルズの意識が引き戻される。


「どうした? チャルカ」


「どうしてユルに武器を持たせたの? 結局あれ、使わなかった。だったらあれを降谷に渡しておけば、

降谷は勝てたかも」


 おそらく〝無音空間発生器〟の事を言っているのだろう。確かにあのおもちゃは『聴覚』にうってつけ――――のように見える。ヘルズは苦笑した。


「確かに〝無音空間発生器〟は使えるアイテムだ。使えば自分の周囲の音と逆の周波数の音を発して無音

空間を形成する。まあいわば『ノイズキャンセリング』の応用だな。音の反響を利用して戦う『聴覚』にそれは有効かもしれない。だがな、それだけじゃ駄目なんだ。それじゃあ奴には勝てない」


 チャルカが眉をひそめた。


「どうして? どうしてそれが駄目なの?」


「それはだな、チャルカ・・・・」







「あらら、ばれてましたか」


 3階の通路で、『聴覚』は頭を掻いた。その頭には相変わらず、ヘッドホンが装着されている。


「まあちょっと考えれば誰でも分かるよな。俺の能力の奥底」


 意味深な発言をしたとき、携帯電話が鳴った。ヘッドホンを装着したまま電話に出る。


「はいもしもし、こちら『聴覚』」


『僕だ。悪いんだがそっちに殺し損ねた『デッドキラー』の残党が向かってるみたいなんだ。生け捕りにして情報を吐かせたいんだけど、頼めるかい?』


「・・・・了解」


 ボスの命令なら是非もない。『聴覚』は返事をすると、電話を切った。そして、踵で床を叩いた。コツン、という音が辺りに反響する。


「距離、30メートル。数は3人。うち2人は武器持ちか」


 相変わらず詰まらなそうなトーンで言うと、『聴覚』は目を閉じた。音を使う能力に、目は必要ない。むしろ余分な感覚を閉じることで、耳に集中できる。


「・・・そろそろかな」


『聴覚』が言うと同時、通路の角から男が3人現れた。うち2人は『聴覚』が言った通り、手に武器を携えている。3人は『聴覚』を見ると、顔を見合わせた。


「おい! アイツは・・・」


「ああ、間違いねえ! おれ達を倒した奴だ!」


「あいつを殺せば、おれ達は・・・」


 なんか勘違いされてるっぽいが、『聴覚』にそんな価値はない。『聴覚』の価値など、おそらくミジンコ以下だろう。


「行くぞ! うおおおおおおお!」


 一人が雄叫びを上げながら『聴覚』に突っ込んでくる。『聴覚』はため息を吐くと、ヘッドホンを外した。瞬間、脳まで突き抜ける痛みが走った。


「面倒だけど、やるしかないか」


 ぼそり、と呟いた瞬間、凄まじい音が響き渡った。音はその大きさに空間断裂すら引き起こし、男たちの鼓膜をたやすく破壊した。


「あ、があっ・・・」


 男たちの体が、床に倒れる。『聴覚』はそれを確認すると、ヘッドホンを頭に戻した。


「・・・やれやれ」


『聴覚』はこの世の全てが面倒くさそうな顔をすると、その場から立ち去った。







「―――空間の、操作?」


「そうだ。奴の能力の真髄はそれだ。『空気の振動による空間の切断』、これが奴の能力の奥底、つまり切り札だ」


「どうして分かったの?」



「音っていうのは要するに『空気の振動』だ。それを読み取れるってことは、奴の改造部位はおそらく

『鼓膜』。強化された鼓膜で音の反響を読んで敵の攻撃を回避し、自分にかかる音を跳ね返す。こうする事で鼓膜を介して空気の振動を倍増させて周囲に放ち、空間の断裂を引き起こす。こんな非常識な攻撃を使われたら〝無音空間発生器〟なんてチャチなおもちゃは役に立たねえ。けどなんとなく使ってみたかったからユルに持たせたまでだ」


ヘルズは頭を掻きむしる。


「アイツに戦う気がないのは奇跡としか言いようがねえ。ったく、『血まみれの指』の奴ら、どんだけ強い奴を抱えてるんだよ。空間操作とかもうチートだろ。俺でも勝てるかわからねえよ」


 なぜ、そんな化け物が『血まみれの指』の中で最も目立たない立ち位置にいるのだろうか。答えは簡単、彼自身が目立たないようにしているからである。ではなぜ、そんな真似をする?


「でも主席、主席が本気を出したら勝てるんじゃない?」


 チャルカの発言に、ヘルズは眉をひそめた。


「おいおい、いくら俺が全身に魔王の覚醒因子を秘めている逸材だといっても――――」


「そうじゃなくて、主席。私の時に使った、あの力」


 ヘルズは目を丸くした。だが、すぐに思いつめたような表情になる。


「――――あの能力は簡単に使える物じゃねえ。あれを使うってことは、俺が人間であることを否定してるような物だ。俺が人間じゃないと知ったら、アイツはきっと悲しむ」


 その顔に浮かんだ苦悶の表情を見て、チャルカは口を閉じた。空気を読まないことに定評があるチャル

カでも踏み入れてはいけないことが分かるくらい、ヘルズの顔は深刻だった。


「―――まあいい。『聴覚』は戦わないことを決め込んでるみたいだし、敵は『視覚』と『嗅覚』の2人だけ。ただし『視覚』はともかく、『嗅覚』の方は俺の敵戦力能力リスト(エージェント・データベース)をもってしても全くわからん。『聴覚』という隠れチートキャラがいたように、『嗅覚』もやばい奴かもしれない。ぶつかるときには警戒して臨め」


「うん、分かった」


「よし、じゃあ作戦会議は終了だ。――――くれぐれも目立つなよ?」


「わかってる。じゃあね、主席」


「ああ、じゃあな」


 ヘルズの姿が消え、一秒後にチャルカの姿も消えた。








 このパーティーの特出している点は、何といっても7日間連続で行われることだろう。普通のパーティーでも1日通し、よくて2日から3日だろう。


(こんな長々と続くパーティー、よく飽きないですよね)


 憂鬱な気持ちでパーティー会場に赴きながら、姫香はそう思った。


 実際、ここ数日は退屈だった。平和に越したことはないが、作戦会議すらないのでは少し不安になってくる。毎日食って寝てを繰り返していると、果たして自分が何をしに来たのか忘れてしまいそうだ。


「いったいヘルズさんは何を考えているんだか・・・・」


 口から出た愚痴を、ため息とともにこぼす。ここ数日、『作戦会議をしないんですか?』と変装したヘルズに聞いても、『バイトが忙しいから』と言ってまともに取り合ってもらえない。本当に、何をしに来たのか忘れてしまいそうだ。


「ここまでしつこくパーティーをやられると、返ってありがたみが失せませんか?」


 ついつい皮肉が漏れてしまう。その時、自分の方に2人の少女が歩いてくるのが見えた。――――真理亜と沙織だ。今まで何をしていたのだろう。


「おー、姫香。久しぶりー」


「1日目から見なかったから、7日ぶりかな? どこ行ってたのさー」


 姫香の胸中も知らず、二人は呑気な物だ。まあ、一般人である二人には関係ない話ではあるので呑気なのも当たり前なのだが。


「二人こそ、今まで何してたの?」


 姫香の問いに、二人は満足そうな顔を見せた。


「実はね、2階のカジノにずっと居ました!」


「いやー、1回やったらハマっちゃってね。で、今の今までずっと入り浸ってたわけよ」


「カジノって・・・・二人とも、お金は?」


 いくら偽装のチケットで参加できたとは言っても、姫香達は学生だ。お小遣いの額もたかが知れている。少なくともカジノに6日間も入り浸れるほどの金はない。


「ああ、それならね。隣の席に座ってたおじさんが貸してくれたよ」


「住所と電話番号を書くだけで10万円も貸してくれたんだよ。太っ腹だよね。あ、でも、10日5割とか変なこと言ってたな」


「ってそれ、完全に闇金じゃない!」


 姫香は久しぶりのツッコミを入れた。


「それ、まずい奴でしょ⁉ 早く返さないと! お金は⁉」


 姫香が聞くと、二人は妙にどや顔になった。


「「全部スッた」」


「ふざけんなあああああぁぁぁぁぁ!」


 ついつい声を荒げてしまう姫香。そんな姫香を見て、二人は肩をすくめる。


「だって楽しかったんだもん。しょうがないじゃん」


「それにおじさんが『5回までならジャンプ可能だ』って言ってたから、とりあえずその『ジャンプ』? とやらに頼るとするよ」


「それ駄目な奴だから! 絶対ダメ!」


 闇金で言う『ジャンプ』。それを1回したが最後、借金が雪だるま式に膨らみ、返済不可能となる。


『1回のジャンプはまだ助かる見込みがあるが、2回目のジャンプをした時点で表家業にはいられなくなる。確実に裏の仕事行き、最悪命を売られる』とヘルズから聞いたことがある。親友にそんな目に遭ってほしくはない。


「とにかく駄目! 借金は私が何とかしておくから、もうカジノは駄目!」


「え? 姫ちゃんお金にアテがあるの?」


 沙織に聞かれ、姫香は言葉に詰まる。確かに金は手に入るが、入手法が入手法なため、二人に言うわけにはいかない。


「と、とにかく! お金は私が何とかしておくから、これ以上借金を増やさないでよ!」


「まあ姫香がそう言うなら・・・・」


「仕方ないかー」


 しぶしぶといった感じで二人が納得する。姫香は親友の末路が本気で心配になった。




 次回は8月16日更新予定です。

 現在分かっている詳細

・ニノ見留薬味・・・・二ノ宮来瞳

・ピエロ・・・松林尚人

・バイトらしき青年・・・ヘルズ

・シルクハットの男・・・チャルカ

・赤いランドセルを背負った小学生・・・『味覚』(死亡)

・バーテンダー・・・・『触覚』

・根暗そうな青年・・・『聴覚』

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