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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
76/302

ついに全面戦争④

さあ、『血まみれの指』残り3人!

 チャルカが倒れ、ユルが『味覚』と一騎打ちを演じていた頃――――


「ったく、なんでオレが行かなくちゃならないんだろうな」


 面倒くさそうに無精ひげを撫でながら、降谷がぼやく。その背中からは『働きたくないです』という負のオーラがありありと浮かんでいる。


「いや、マジで働きたくない。無職万歳。つうか働くことに何の意味があるんだよ。面倒でしょうがねえ」


「・・・同感」


 声は、通路の奥から聞こえてきた。通路の奥は真っ暗闇で、敵の輪郭すら見えない。

 降谷がその声を耳に捉えると同時、狙撃弾が視界いっぱいに広がった。とっさに床に伏せ、弾丸をかろうじて避ける。降谷の髪が数本宙に舞い、降谷は歯噛みした。


「・・・くっ!」


「あー、外れちゃったか。でもまあいいか、どうせ組織の命令だし。それにそもそも、俺みたいな雑魚をこんなナンバー2にぶつける組織がおかしいんだからな。後で残業代ふんだくってやろう」


 降谷の数千倍やる気のないセリフが聞こえてきたかと思うと、2発目の狙撃弾が降谷の足元を抉る。警戒していて進まなかったからよかったものの、あと一歩でも進んでいたら撃ち抜かれていたところだ。


「あー、もういいですよ。どうぞ来てください。せめて顔を見て殺し合いましょうよ。というかさっさと終わらせて俺は帰りたい」


 その、聞いているとこちらまでやる気が抜けかねない言葉に、降谷は必死に耐える。―――あり得ないが、やる気を削いでからの不意打ちかもしれない。

 そんな降谷の考えを読んだのか、敵が言う。


「いやいや、マジでそんなんじゃないですって。何なら銃を置きましょうか?」


 直後、降谷の眼前に狙撃銃が滑ってきた。あっけに取られる降谷に、敵は続けて言う。


「俺の役目はヘルズ軍のナンバー2、降谷幸一の殺害――――なんですけど、ぶっちゃけ面倒くさいので、殺さずに足止めすることにしたんですよ。だから、別に無謀に突っ込んできても、命の心配はありませんよ。まあ、自滅覚悟で突っ込んできたときの責任は負いかねますけど」


「ほう・・・」


 敵は緊張をほぐすために言ったのだろうが、その言葉は降谷にとって『挑発』にしか聞こえなかった。

『主席』や『次席』でなくとも、降谷は『最強の犯罪者』の弟子だ。そんな自分にたかが改造人間ごときが喧嘩を売ろうというのか。


「ずいぶんと舐められたモンじゃねえか」


 立ち上がり、体に付いたホコリを払う。ここまで挑発された以上、戦うしかない。降谷は床に落ちている狙撃銃を拾うと、軽く遊びを取りながら慎重に前に進む。

 5メートルほど進むと、その人物はいた。暗闇の中、腕を組みながら呑気に寝ている。


「本当にやる気がないのか、コイツは」


 ・・・かつて、ここまでやる気のない暗殺者がいただろうか。


 降谷は呆れながら、銃口を敵に向けた。そして、躊躇なく引き金を引く。ドォン! という大きな銃声が轟く。


「やったか・・・」


 だとしたら興ざめだ。せっかく重い腰を上げて出陣したというのに、肝心の敵がこれではがっかりだ。まあ、倒したことに越したことはないのだが。


「じゃあ、オレはこれで・・・」


「いや、まだ死んでないんですけど。いくら俺の存在価値がないからといっても、勝手に殺されるとちょっと辛いところがあるのだが」


 ムクリ、と敵が起き上がる。タキシードが暗闇とマッチして、顔の部分しか捉えることができない。


「えーと、組織の規則なんで一応名乗っておきますか。『血まみれの指』の幹部の一人、『聴覚』です。とはいってもその実ただの工作員、戦闘力は一般人以下なので、正直言うと闘いたくないです」


 ローテンションな口調で敵―――『聴覚』が言葉を発する。口調こそ気怠そうだが、そこにチャラさは感じられない。―――疲れたとかそういうのではなく、本当の意味の根暗ということだ。


「一応、専攻は狙撃。それから改造部位による状況把握が得意です。・・・以上が俺の情報です。何か質問はありますか?」


 やる気がない、どころか事実上の降伏宣言に、降谷は呆気に取られた。


「お前・・・戦う気あるのか?」


「ないですよ。まあ一応、足止めはしますけどね」


『聴覚』は面倒くさそうに言うと、降谷の手から狙撃銃をひったくった。そして、銃口を降谷に向ける。


「まあ、おとなしく降参してくれるとこちらとしても助かるのですが。そうすればこの仕事は最低3秒で終わるので」


 瞬間、降谷は動いていた。神速で3メートルの距離を詰めると、狙撃銃を蹴り飛ばした。そして感覚だけで右腕を引くと、渾身のストレートを叩き込んだ。


「はあっ!」


 真っ暗闇の中の、手探りの一撃。しかし確かに当たった手応えを感じ、降谷は満足そうに腕を引く。


「・・・よし」


「・・・・痛い」


 相変わらず暗い声が聞こえ、降谷は身構える。その時、通路の電気が点いた。どうやら何らかの事情で電気が止まっていたのが、今復旧したようだ。


「あらら、俺のハンデが0になった」


 皮肉のように『聴覚』が呟く。黒のタキシードに、黒い靴。黒いヘッドホンにボサボサの黒髪が、その青年を物語っていた。全身真っ黒のその様は、どことなくヘルズを思わせる。


「でもいいか。どうせ暗かろうが明るかろうが関係ないし」


「そうかよ。じゃあオレの攻撃を耐えてみろよ!」


 挑発を受けた恨みもあってか、降谷は本気だ。床をやや強めに蹴ると、首を狙った回し蹴りを放った。『聴覚』はそれを首の動きだけで回避する。


「ほらほら、どんどん行くぞ!」


 勢いもそのままに打ち掛かる。『聴覚』はユラユラと体を揺らしながら、降谷の猛攻をかいくぐる。


「なッ―――」


 降谷は絶句した。自分の攻撃が全て、最小限の動きだけで避けられている。まるで始めから見切られていたかのように、降谷の連撃をことごとく躱していく。


「―――そろそろかな」


『聴覚』は呟くと、踵で床を叩いた。コツン、という小さな音が響くが、降谷は気にしない。『聴覚』の喉元を掴み上げようと腕を伸ばし―――――紙一重で避けられる。


「クソッ!」


 半分ヤケクソになりながら、四肢を振るう。右ストレート、左フック、足払い、二段蹴り――――その全てが、紙一重のところで届かない。


「どうなってるんだ⁉」


「よし、この調子で足止めを続けるか」


『聴覚』は首の関節を鳴らすと、また踵で床を叩いた。それと同時に降谷は攻撃を仕掛けるが、やはり紙一重で躱されてしまう。


「こんな一般市民に勝てないとか、もう重症ですよ?」


 降谷に指摘すると、『聴覚』は狙撃銃を下に構えた。そして引き金を引き、自分は後ろに下がる。降谷が何事か訝しんでいると、弾丸が目の前に出現した。


「うおっ!」


 素早くのけ反って弾丸を避けるも、弾丸はまだ追尾してくる。あたかも弾に目が付いているかのように、的確に降谷に向かってくる。

「跳弾です。骨よりも硬い物に当たると跳ね返ります。ですから角度さえ計算すれば、天井や床に当てまくって無限追尾が可能です」


「ああもう、面倒くせえ!」


 降谷は叫ぶと、懐から煙玉を取り出した。それを床に叩きつけ、自分は姿勢をかがめながらダッキング。視界が見えない状況の中、『聴覚』の輪郭を捉える。


「もらった!」


 視界が見えない中、敵の攻撃を避けるのは至難の業だ。しかも都合のいいことに、降谷はスパイ。闇討ちの仕方はみっちりと練習している。


「はああああ!」


 裂ぱくの気合と共に撃ち出された拳は音速に匹敵し、『聴覚』の顔面に吸い込まれていく。この技を避けるのはほぼ不可能。先ほどのように紙一重で躱そうとしても、今度は拳圧で一瞬怯ませた後、再び致命打を叩き込める。


 勝った―――――そう降谷が思った直後。


「やれやれ・・・・」


『聴覚』の呆れたような声が聞こえ。


「腐っても俺、改造人間なんですけど?」


 拳圧が煙を散らし、視界が晴れてくる。


「な・・・・」


 降谷の攻撃は―――外れていた。


次回は8月9日更新予定です。

・現在分かっている詳細

・ニノ見留薬味・・・・二ノ宮来瞳

・ピエロ・・・・・松林尚人

・バイトらしき青年・・・ヘルズ

・シルクハットの男・・・チャルカ

・赤いランドセルを背負った小学生・・・『味覚』(死亡)

・バーテンダー・・・・『触覚』(死亡)

・根暗そうな青年・・・『聴覚』

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