ついに全面戦争③
さあ、今回で『味覚』との闘いの決着が着きます!
更新にかなり日付が空いてしまい申し訳ございません。よって、今回はいつもより長めです!
チャルカと『味覚』の戦いが始まった頃――――
「しっかしあれだな。こうも出番がないとつまらないな」
「仕方ないだろ。お前はボス戦なんだから。ま、その分派手に暴れればいいさ」
出番が少ない事にぼやくヘルズと、それをなだめる降谷がいた。
「でも、それなら何でチャルカとユルを出したんだ? お前が行けば、出番が少しはあっただろうに。どうしてアイツらなんだ?」
素朴な疑問を、降谷は口にする。ボス戦まで温存と言ったが、あの程度の雑魚ならばヘルズも疲れないだろう。むしろ、戦い前のいいウォーミングアップになったはずだ。
「キャラが、薄かったから」
ヘルズはぼそりと呟いた。降谷は眉をひそめた。
「キャラが薄い? どういう事だ?」
「言葉通りの意味だよ。ほら、あの二人キャラが薄いじゃん。ユルはまあメイドとしてのキャラが通ってるからいいとしても、チャルカのキャラが薄すぎるだろ。無表情系で栗毛とか、一体どこの誰に需要があるんだよ。作者からも『早くこいつらの戦い終わらせて主人公の戦いにしたい』オーラがビンビン出てるし、ここらでキャラの薄い奴は退場して貰おうかな、って思った」
「そんな理由かよ! 最低だなお前!」
ヘルズのどうしようもない理由に、降谷がツッコミを入れる。随分と終わっている理由だ。
「まあそんな訳で、キャラの薄い奴らとどうせゲスト扱いであろうあいつ等の一人をぶつけて、相打ちになってくれればいいなーと思って繰り出した」
「もう死ねよお前・・・」
降谷は頭に手を当てた。心なしか頭が痛い。
「そんな事より、お前はいいのか。敵さんが待ってるぜ」
「分かってるよ。今行く」
降谷は溜息を吐くと、屋上から出て行った。その姿が見えなくなった事を確認すると、ヘルズは大きく伸びをした。
「さて、と。最後の大仕事と行きますか」
戦いは乱戦を極めた。
『味覚』が繰り出した《酸味》を、チャルカは槍で弾く。槍に何か特殊な加工でもしてあるのか、《酸味》をいくら浴びても槍は溶けない。それどころか、ますますその切れ味を増している。
「はあっ!」
チャルカが短い掛け声を上げ、槍を一突き。『味覚』は横っ跳びでそれを避けると、がら空きになったチャルカに目がけて《酸味》を連射する。一撃必殺の砲弾はしかし、ユルの銃撃によって撃ち落とされた。
「ありがと、ユル」
「礼には及びません。・・・・ですが、大丈夫ですか」
右手にベレッタ、左手にXD拳銃を油断なく構えながら、ユルが返答する。その目は暗殺者特有の、殺意の籠った目つきに変わっている。
「彼、中々強いようですよ。――――それに、まだ武器を隠し持っていますね」
会話の間に、新たに撃ち出された《酸味》を銃で撃ち落とす。さすが暗殺者次席、無駄が無い。チャルカも槍を構え、自分に向かって飛んでくる《酸味》を槍で防御する。
「埒が開かない・・・クソッ、こうなったら!」
『味覚』は何を思ったのか、背中のランドセルを降ろした。そして中を開き、中からヌメヌメと光る何かを取り出した。3メートル近くはある、触手のような物だ。今までどうやってランドセルの中に入っていたのだろうか。
「あれは、一体・・・」
不思議に思うユルを尻目に、『味覚』は光る何かの端を口に咥えると、ゴクリと喉を鳴らした。光る何かが『味覚』の口の中に収納される。
「君達に見せてあげるよ。僕の奥義、『カメレオン』をね!」
言うが早いか、先程『味覚』の口の中に収納された触手のような物が、ユル達に襲い掛かる。二人はこ
れを跳躍して躱すも、触手はまだ追って来る。
「なるほど、これは舌でしたか。だから『カメレオン』なのですね。ですがこれはもう舌というよりも、
《舌鞭》といった感じですね」
ユルが納得したようにうなずく。確かに、これはカメレオンそっくりだ。口を開いて舌を繰り出すところ何か特に。
「死ねェ!」
《舌鞭》がうねり、ユルを襲う。ユルはこれを冷静に回避すると、『味覚』目がけて両手の銃を連射した。『味覚』は空になったランドセルを使い、これを防御する。その間も舌はうねり、二人を追尾する。
「僕は『味覚』・・・舌の扱いなら、誰にも負けない!」
《舌鞭》が巻き取られ、『味覚』の口の中に戻る。ユルはその隙を逃さず、両手の銃で一斉射撃。目もくらむような発射光と射撃音が吹き荒れ、無数の弾丸が『味覚』を襲う。
「これなら・・・」
「馬鹿め! その手はお見通しだ!」
『味覚』の口から舌が放たれ、弾丸を全て絡めとる。その器用さにユルは驚きながらも、弾丸の装填を急ぐ。
「僕の特殊武装である『舌』は、とっても器用に動く」
『味覚』の口から《舌鞭》が放たれる。《舌鞭》はチャルカの胴に絡みつくと、ロープか何かのようにそ
の身体をきつく縛る。
「例えば今みたいに相手を捕らえたりとか色々出来る。しかも・・・」
『味覚』が言いかけた時、チャルカが「ああっ!」と悲鳴を上げた。その顔は苦悶に満ちており、先程とは別人のようだ。
「能力も使える。舌で触れなければ使えない《甘味》や《苦味》も、これで簡単だ」
ユルは驚きを禁じ得ない。
先程からユル達が遠距離で戦っているのは他でもない、《苦味》があるからだ。使われたら最後、わずかな電気信号の移動でも苦痛に感じてしまうそれは、《酸味》以上の脅威だ。
だがそれも、『味覚』と至近距離で戦わなければ避けられる。極論、ユルのように一定の距離を取って銃撃を繰り返せば、いつかはこちらが勝利する。
しかしこの舌は、この大前提を覆した。
3メートルまで伸びる舌、《舌鞭》それに《苦味》が付与されてしまったら、こちらに勝ち目はない。それはつまり、『触れれば死亡』を意味するからだ。
「くっ・・・」
ユルは歯噛みした。チャルカが《苦味》をくらった以上、彼女はもう戦えない。自分が戦うしかないのだが、生憎ユルも右足を挫いている。
「どうすれば・・・」
「ほらほらどうした⁉ 行くよ!」
『味覚』が《舌鞭》を操作し、チャルカを壁まで投げ飛ばす。既に《苦味》を喰らっていたチャルカは、その攻撃を喰らって気絶した。チャルカを投げ飛ばした勢いもそのままに、《舌鞭》がユルに向かって射出される。
「くっ!」
ユルは決死の覚悟で横に跳ぶ。挫いた右足がズキリと痛むが気にしていられない。弾丸の再装填が終わった両手の銃を構え、やみくもに撃ちまくる。弾丸が床や壁を穿ち、蜂の巣状態にしていく。しかし肝心の『味覚』には全く当たらない。
「ついにイカれちゃった、お姉さん? まあそれはそれで面白いんだけどねえ!」
『味覚』が嬉しそうに狂喜しながら、《舌鞭》を放つ。ユルは左足一本で身体を支えると、ダンスのように踊りながら舌を避け続ける。その動きは速すぎるせいか、無音の高速移動術と化している。
「もう終わり? 何だ、威勢がいいのは最初だけかよ!」
『味覚』が《舌鞭》を放ちながら嘲笑する。舌がユルの足首を掠め、《苦味》の能力が発動。ユルの足首を中心に激痛が走る。
「ああっ!」
毒蛇に噛まれたかのようだ。だが決定的に違うのは、その痛みの量だ。ドクン、ドクン、とまるで心臓と連動しているかのように、痛みが定期的に襲って来る。あまりの痛みに、ユルは思わずうずくまる。
「これで終わりだ!」
そこを『味覚』の《舌鞭》が襲い掛かり、ユルに向かって飛ぶ。そして――――
ぐしゃり、と言う音が聞こえたような気がした。
『味覚』の舌がユルを巻き取り、身体を締め付けたのだ。あまりに強く絞めつけ過ぎて、メイド服に皺が寄っている。
「く、くくく」
目標の敵を殲滅し、『味覚』は笑いをこらえた。
「ザマあみやがれ! これが僕達『血まみれの指』に刃向かった馬鹿の末路だ!」
腹の底から哀れみながら、思い切り爆笑する。そう、これが正しい『血まみれの指』の姿なのだ。『触覚』が倒されるという番狂わせはあったものの、本来、『血まみれの指』はこうでなくてはならないのだ。
「そうだ、そうだよ! 僕達はこうでなくちゃ! そう、僕達は無敵! 誰にも負けない、最強の組織なんだ!」
チャルカは倒れ、ユルは死んだ。これで自分達は最強―――
「それは傲慢ですよ。それに、自惚れていると寝首を掻かれますよ」
と思っていたから、『味覚』は背後からの接近に気が付けなかった。
「え?」
声に振り向くころには、もう遅い。銃撃音と共に無数の弾丸が身体に叩きこまれ、思わず血反吐を吐く。
「がはっ」
「まだまだ行きますよ。貴方のしぶとさは先ほど、充分堪能しましたから」
声と同時に背中に手のひらを添えられ、衝撃。身体がグラリ、と傾ぐ。そこを逃さず、ユルの猛攻が全身を嬲る。
「《鎖骨分割》!」
ユルの肘打ちが『味覚』の鎖骨を叩き割り、後方に吹き飛ばす。『味覚』は壁に叩きつけられると、派手に吐血した。高級そうな絨毯が『味覚』の血で染まっていく。
「面倒だから、これも切っておきましょうか。見ているだけで不快ですし」
「な、なんで生きて―――」
ユルはナイフで『味覚』の舌を切断すると、『味覚』に向き直った。
「なぜ生きていたか、ですか。それは『生きていたから』としか答えようがありませんね」
「ふ、ふざけるなッ! あの攻撃を受けて、いったいどうやって脱出したっていうんだ⁉」
『味覚』の質問に、しかしユルは首をかしげる。
「攻撃? 何のことでしょう?」
「ふざけんなよ! あの時、確かに僕の『カメレオン』に捕まっただろう⁉ メイド服だって、しわに
なって―――――」
そこで『味覚』は気が付く。
ユルのメイド服には、しわ一つ付いていない。それどころか、傷一つ付いていない。
「う、嘘だろ! 何かの間違いだ! 僕は確かに、あの時――――」
「私を捕まえた、ですか」
ユルは哀れむような目で『味覚』を見ると、《舌鞭》を手に取った。そして、その先端にあった物を手に取った。
「ひょっとして、貴方が先ほどからワタシだと思っていたのは、これの事ですか?」
「・・・あ」
それは、一枚のメイド服だった。中には誰も入っておらず、服にはしわが寄っている。
「じゃあ、まさか・・・・」
「状況を説明してあげましょう。貴方はワタシが転んだ瞬間を狙って《舌鞭》を発射しました。しかしその時ワタシはとっさに予備のメイド服を身代わりにして、その場から回避。一方貴方は潰れたメイド服を見てワタシが潰されたと勝手に思い込み、一人高笑い。そうしている間にワタシは貴方の背後に回り込み、貴方を倒したというわけです。―――種を明かせば簡単です。お分かりいただけましたか?」
「で、でもッ・・・・」
『味覚』は必死で反論を試みる。―――今さら反論したって何も起こらないのは分かっている。今さら状況が覆るわけじゃないし、傷が癒えるわけでもない。むしろ生き残るためなら、今すぐ逃げるのが一番良い。まあユルに逃がす気はないだろうが。
それでも『味覚』が必死に抗おうとしているのは、そこに意地があるからだ。
『血まみれの指』は負けない。『血まみれの指』は無敵だ。こんな雑魚の寄せ集めのようなチームには負けない。
そんな理屈では図れない『意地』が、『味覚』の心を動かしていた。
「そうだ! そんなに素早く身代わりと入れ替われるはずがない! きっと何かイカサマをしたんだ! そうか、きっとこれは夢だ! 夢なんだ!」
「残念ですが・・・・」
ユルは目を伏せて、首を振る。
「実はワタシ、師匠の元を卒業後、3カ月かけて自分だけの必殺技を完成させたんです。名付けて――――《残影は影と共に眠る(イマジネート・コレクション)》。自分の背後に身代わりを仕込んで置き、有事の際に瞬時に身代わりにすることで相手の油断を誘い、その隙を突いて決定打を叩き込む。この技によって殺された人間は少なくありません。ちょうど、貴方のようにね」
「嘘だ、嘘だ、そんな事が・・・・」
「無駄話はこれまでです。ではそろそろ、トドメと行きましょうか」
ユルはぴしゃりと言うと、『味覚』の胸倉を掴み上げた。
「嫌だよ、僕はまだ死にたくない・・・・誰か助けて! ボス! 『聴覚』! 『嗅覚』! 誰でもいいから! 誰か助けて! ねえお姉さんやめて、僕まだ死にたくない!」
「貴方が表社会の人間なら、そうすることもできたでしょう」
叫ぶ『味覚』に、ユルは冷淡な口調で言う。
「ですが、裏家業では誰も守ってくれません。死闘に負けた果てにあるのは、死のみです。裏家業ではすべて自己責任。こんなことになったのも、すべて自業自得ですよ、坊や」
あやすように、しかし重い口調で言うと、ユルは腕を伸ばした。
「それでは、さようなら」
毒針が『味覚』の喉に突き刺さり、『味覚』の心臓が停止する―――
「安らかな眠りを」
『血まみれの指』、残り3人。
次回は8月7日更新予定です。
現在分かっている詳細
・ニノ見留薬味・・・二ノ宮来瞳
・ピエロ・・・・松林尚人(現在はトレンチコート)
・バイトらしき青年・・・・ヘルズ
・シルクハットの男・・・・チャルカ
・赤いランドセルを背負った小学生・・・・『味覚』(死亡)
・バーテンダー・・・・『触覚』(死亡)




