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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
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動き出す両勢力②

現在分かっている詳細

・仁ノ見留薬味・・・二ノ宮来瞳

・ピエロ・・・・松林尚人

・バイトらしき青年・・・・ヘルズ

・赤いランドセルを背負った少年・・・・『味覚』

「よし、全員集まったな」


 パーティー1日目、深夜11時30分、屋上。


 そこには、二ノ宮を除いたヘルズチームの全勢力が集結していた。


 降谷、ユル、チャルカ、姫香、そしてヘルズの総勢5名だ。


「今日集まってもらったのは他でもねえ。二ノ宮の奴が『血まみれの指』に攻撃を受けた」


 ヘルズの言葉に、一同がざわめく。ヘルズは手を叩いて、これを静める。


「もうこれ以上犠牲は出させない。そこで、俺からお前達に武器のプレゼントだ」


 ヘルズが足元にあったスーツケースを開く。そこには、様々な者が詰まっていた。


 折りたたんだ槍、袋に入った黒い粉、雑草、琥珀色の石、懐中電灯・・・etc。


 武器、と言うよりは子供の思い出の品のような物ばかりだった。


「まずはユルだが、これを使え」


 ヘルズがスーツケースの中から白い半球の物体を出し、ユルに放る。ユルはそれを受け止めると、その物体をまじまじと見つめた。


「それは〝無音空間発生器(シャウト・ジャミング)〟という道具だ。使えば名前通り、一定時間の間音が発生しない空間を形成できる。これがどういう意味を表すのか、お前なら分かるはずだ」


 次にヘルズは折りたたんだ槍を取り出し伸ばすと、チャルカに渡した。チャルカは破壊されていない方の左手で受け取る。


 ヘルズはチャルカの右手が無い事に一瞬だけ驚くと、すぐに説明に戻った。


「これは〝不屈(ふくつ)心身(しんしん)横槍(よこやり)〟。効果は使ってみてのお楽しみだが、とにかく命中精度が低い。ただしチャルカの義手の力を使えば、充分に当たる可能性が生まれる。まあ、右手を失った状態でも当たるかと聞かれたら答えがたいがな」


 語尾を少し濁すと、ヘルズは全員の顔を見回した。


「武器の提供は以上だ。何か報告しておかなければならない事がある奴は居るか?」


 ヘルズの問いに、ユルとチャルカが手を挙げた。ヘルズが促すと、代表してユルが口を開いた。


「実はつい先ほど、客室の通路で『味覚』と名乗る少年と交戦しました。彼は『五基本味』という技を駆使してワタシ達を追いこんできました。チャルカの右手は、その時食べられたものです」


「ふむ、『五基本味』か・・・・」


 ヘルズが顎に手を当てる。


「『五基本味』って何ですか、降谷先生」


 姫香が隣に立っている降谷に聞いた。降谷はすらすらと答える。


「甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5つからなっている要素だ。元は4つだったんだが、『味の四面体』にうま味を足した事で5つのなったと言われている。他にも―――」


「まあ超簡単に言えば、5つの能力があるって事だ」


 ヘルズが降谷の話を遮り、簡潔にまとめる。


「名前から想像するに、『甘味』は相手の脳に糖を送り込む類の物だろ。『酸味』は敵を溶かす技。『苦

味』は痛覚に刺激を与える物。『塩味』は―――」


「ちょ、ちょっと待って下さい」


 ユルが慌てて手を挙げる。


「想像しただけなのに、どうしてそこまでピタリと当てられるんですか⁉ ワタシ、まだ誰にも敵の能力につ

いて話してないんですよ⁉」


 つまり今ヘルズは、敵の能力の内容を名前だけで当てたという事だ。


 そんな事、出来るのだろうか。


「普通の奴じゃ無理だろうな」


 ユルの問いに答えたのは、降谷だ。


「だが、幸か不幸かそいつは厨二病だ。『五基本味』を使う敵など、脳内で5百万回くらい倒してるんだろ」


 なるほど、それなら納得がいく。


 厨二病であるヘルズならではの分析能力だ。


「くくっ、俺の敵戦力能力リスト(エージェント・データベース)舐めるな」


 ヘルズが高らかに哄笑を上げ、左手で顔の左半分を隠す。それを見た降谷が吐きそうな顔をした。


「おい、さっさと死ねよ厨二病」


「ハッ、博学自慢ニセ教師に言われると耳が痛い事で」


 降谷の悪口に皮肉で返し、ヘルズはニヤリと笑う。


「まあとにかく、俺にかかれば敵の能力など一発で分かるって訳だ。―――だが気を付けろ、能力が分かって

いても強い敵は居るぞ」


 ヘルズの言葉に、全員が息を呑む。


 そんな人物が一人、身近に居るからだ。


 ヘルズ達の師匠でありながら、全世界を敵に回しても涼しい顔をしている男。物理限界を余裕で踏破し、戦闘能力は計り知れない、最強の化け物。


「だから、戦う時には充分に気を付けて戦え。特にチャルカ、実力はとにかく、改造人間としての性能はお前の方が圧倒的に下だ。常に全力を出し続けろ。さもないと死ぬぞ」


「分かった。頑張る」


 ヘルズの厳しいアドバイスにも顔色一つ変えず、チャルカは頷く。


「じゃあ、今日はこれで解散。お前ら、くれぐれも変装が先に敵にばれないように気をつけろよ。――あ、そ

うだ、姫香は残ってくれ。話したい事がある」


「あ、はい。分かりました」


 姫香は返事をすると、残りの皆を見送った。


「で、話って何ですか、ヘルズさん」


 ヘルズと姫香を除いた全員が居なくなったのを確認すると、姫香はヘルズに聞いた。


 ヘルズは口を開くと、消え入るような声で告げた。


「二ノ宮の事だが・・・かなりの重傷らしい」


 その声のトーンに、姫香はヘルズがどれだけ二ノ宮の事を心配しているのかが見て取れた。


 やはり、何だかんだ言いながらもヘルズは二ノ宮の事を思っているのだ。普段素っ気ない扱いでも、いざとなれば心配してくれる。これがツンデレかな、と姫香はなんとなく思った。


「それでだな、二ノ宮からお前にこれを渡すように頼まれた」


 ヘルズは懐を探ると、緑色の瓶を取り出した。


「これは二ノ宮が『血まみれの指』のアジトから盗んで来た道具だ。これをお前に預ける。大切に保管しておけ」


「え?」


 姫香は面食らった。どうして自分なんだろう?


「多分これから、俺達は激戦の連続になる。そうなれば誰が倒れてもおかしくない。そんな時、二ノ宮が身

体を張ってまで盗んで来たお宝が、敵の手に渡ると非常に困る」


 ヘルズはまるで姫香よりも自分を説得するかのように言う。


「それに、ユルとチャルカは正体が割れてる。俺と降谷で組織のボスと『触覚』を叩く手はずだから、俺達も駄目だ。その時、残ったのがお前って訳だ。どうだ、この仕事、頼まれてくれるか?」


 姫香は断ろうとしたが、先ほどのヘルズの言葉を思い出した。


『二ノ宮が身体を張ってまで盗んで来たお宝が、敵の手に渡ると非常に困る』


 確かにその通りだ。二ノ宮が重症を負ってまで盗んで来た品が、こんないとも簡単に敵に奪われていいは

ずが無い。姫香は覚悟を決めた。


「分かりました、やります」


 瞬間、ヘルズがパッと顔を輝かせた。


「助かる! ありがとな」


 その笑顔は心地よい程眩しく、姫香は数秒の間、見惚れてしまった。


「ああ、でもあれだな。ただ預けるだけじゃ不安だな。そうだ、お前に一つ、護身術を教える。何かあったら、これで身を守れ」


「は、はい」


 姫香は慌てて返事をすると、技を教えてもらうべく戦闘モードに切り替えた。







「なあ、チャルカ。少しいいか?」


「なに、降谷」


 屋上に続く階段の踊り場で、降谷はチャルカに声を掛けていた。


 屋上への階段は薄暗く、辺りに人の気配も無い。ここなら大丈夫だろう。


「なあ、お前ヘルズの同僚なんだよな?」


「そうだけど」


「アイツについて何か知ってるか?」


「知ってる。色々と」


 まさかの一問一答形式である。これは骨が折れそうだと、降谷は頭を掻いた。


「じゃあ分かった。もっと具体的に聞くぞ。お前、ヘルズの片目について、何か知ってるか?」


 その時、チャルカの身体がピクン、と跳ねた。わずかな動作だが、降谷の動体視力が見逃すはずが無い。


「知ってるんだな?」


「・・・・うん」


 返答に若干間があった。躊躇っているのだろうか。


「よし分かった。知ってる事を全て話せ」


「・・・知らない」


「は?」


 意味が分からない。


 そう思って降谷がチャルカの顔を見ると、彼女の顔面は蒼白になっていた。


「分からない、分からない、分からない・・・」


「わ、分かった。お前が知らない事は理解したから、少し落ち着け」


 両手をチャルカの肩においてなだめながら、降谷は思った。


(元・同僚であるコイツですらここまでの反応・・・ヘルズ、お前)


 ヘルズの、あの目。


 尋常ではない、あの目は一体。


(何者なんだ・・・?)




次回は7月20日更新予定です。

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