動き出す両勢力①
さあ、どんどん両勢力の動きが活発になっていきます。
現在分かっている詳細
・ニノ見留薬味・・・二ノ宮来瞳
・ピエロ・・・・・・松林尚人
・バイトらしき青年・・・ヘルズ
・メイド・・・ユル
・シルクハットの男・・・チャルカ
・赤いランドセルを背負った小学生・・・『味覚』
「で、失敗したのか? 『味覚』
グラスを磨きながら、『触覚』がバーに突っ伏している少年に問う。
「別に、失敗したわけじゃない」
少年――――『味覚』は、ふてくされたように頬を膨らませた。
「だが失敗は失敗だ。それに『聴覚』の話によればお前、敵に自分の能力を明かそうとしたらしいじゃないか。―――一体何を考えている」
『聴覚』は、この会場全体の様子を把握し、逐一報告している。情報を入手するのに、これ以上の味方は居ない。
『触覚』の世知辛い言葉に、『味覚』は頬を膨らませたまま立ち上がろうとし―――
「どうせ勝てるからいいじゃん。それに僕は――――」
「自惚れるな、愚か者」
――何かが『味覚』の頬をかすめた。『味覚』の頬が軽く裂け、赤い線が走る。ズドン! という音が、遅
れて聞こえる。
気がつけば、『触覚』の指が、『味覚』の顔に伸びていた。
「いいか、相手はあの『最強の犯罪者』の弟子だぞ。手を抜けば殺られる。それともお前は、奴の師匠であ
る『最強の犯罪者』よりも強いという自信があるのか?」
『味覚』はガクガクと首を振った。裏家業でどんなに唯我独尊、自信過剰な人間でも、『最強の犯罪者』よりも強いと豪語した者は居ない。それだけ、実力の差があり過ぎるのだ。
「分かればいい。次からは気を付けろよ」
『触覚』の指が『味覚』から離れる。それを感じながら、『味覚』は安堵の息を漏らした。
組織内では最も残虐で知られている『味覚』だが、その実力は『触覚』を遥かに下回る。もし仮に『味覚』が『触覚』と戦う事になれば、勝負は火を見るよりも明らかだろう。
「で、どうだったんだ?」
「どうだった、とは?」
『触覚』の半ば意味不明な質問に、『味覚』は首を傾げる。
「決まっているだろう、奴らの武器構成や戦闘スタイル、機械人間ならば機械化能力について、分かった事
を全て話せと言っているんだ」
「その話、僕にも聞かせて貰えないかな」
バーの奥から、青年が現れた。『血まみれの指』のボス、『視覚』だ。
「よお、ボス」
『触覚』が右手を上げる。青年は苦笑した。
「別に堅苦しい呼び方はしなくても構わないよ。それより、何か情報は?」
「『味覚』の馬鹿が独断専行した。でも代わりに情報を少し持ち帰って来たらしい」
『触覚』が『味覚』を顎で示しながら言う。青年はそれを聞くと微笑んだ。
「独断専行は褒められた事ではないけど、よくやった、『味覚』。これでヘルズ軍攻略へ一歩近づいた」
そう言って、『味覚』の手を握る。それを見た『触覚』は、「よく言うぜ」と唾を吐き捨てた。だが反乱
を起こす素振りはない。それをしても無駄だし、仮に挑んだとしても、確実に負ける事は目に見えているからだ。
『触覚』だけではない。『味覚』も『嗅覚』も『聴覚』も、誰もこのボス、『視覚』には勝つことが出来ない。格というか、機械人間としての性能が大幅に違い過ぎるのだ。
「それで、どんな情報を持って帰って来たんだい?」
そんな組織内最強の人間に手を握られ、『味覚』は虚言を吐かないように充分に気を付けながら、話し始めた。
「なるほど。で、それがこの薬だと」
降谷は二ノ宮の持ち帰って来た瓶を覗き込みながら、顎に手を当てる。
「見た所、何の変哲もないな」
「俺もそう思った。だがおかしくないか? 爆発された場所に置かれていたにしてはこの瓶、破損が全くな
い」
ヘルズが助けに行った時、あの付近は爆発の影響でボロボロだった。それなのに、この瓶だけが無傷というのは、どうも不自然だ。
「つまり、お前はこう言いたいのか? 『血まみれの指』は二ノ宮を爆弾で吹き飛ばした後、ご丁寧にこの
瓶を置きに来たと?」
「ああ、俺はそう睨んでる。なんでかは知らないけどな」
降谷の確認に、ヘルズは頷く。ヘルズの格好は、二ノ宮を助け出した時と変わっていない。
「そうかい。まあ分からないことは仕方ないか。で、他には?」
面倒くさそうに頭を掻きながら、降谷が聞く。ヘルズは返事の代わりに、一枚のカードを取り出した。
「おい、それは・・・・」
「ああ、二ノ宮のおもちゃの一つだ。二ノ宮が俺に託した。正確に言えば、二ノ宮はこの事件中、自分のおもちゃの権利を全て、俺に預けた」
ヘルズの言葉は、降谷の顔に動揺を走らせた。
「てことは・・・・」
「ああ。これから全員の武器変更は全部俺が決める。拒否権はねえ。二ノ宮には悪いが、おもちゃを壊す気で使っていく」
ヘルズが右腕に装着されたガントレットを愛おしげに撫でる。
「この勝負、勝たなければ意味がねえ。二ノ宮のためにも、俺の為にも」
「お前の場合は、ネトゲの為だけどな」
降谷の冷静なツッコミが入るが、ヘルズはもう聞いていない。懐からヘッドホンを取り出すと、耳に装着
する。
「チャルカ、ユルに送信する。こちらヘルズ。こちらヘルズ。新たな指令を出す。今から3時間後、つまり
今夜11時半に屋上に集合だ。そこで次の指示を出す。敵と戦闘になる可能性も考慮して、武器を必ず装備しておく事。姫香は通信機器を持ってないから、遭遇次第伝えてくれ。以上だ」
一方的に言うと、ヘルズは耳からヘッドホンを外した。そして、降谷の方に向き直る。
「おい、ニセ教師」
「どうした? メリハリ野郎」
「そのあだ名については少々意義があるが・・・・まあいい。お前はいつも通りの装備で戦ってくれ。お前
の戦闘スタイルに、二ノ宮のおもちゃは少し扱いづらい」
いつになく真剣なヘルズに、降谷は首を縦に振る。
「了解。他の奴らはどうするんだ?」
降谷の問いに、ヘルズは淀みなく答える。普段の生活でも、これくらいの真面目さを見せてほしいもので
ある。
「まずユルには〝無音空間発生器〟を渡す。アイツの戦闘スタイルには、あれが一番いい。次にチャルカだが、機械の手を活かすために〝不屈心身・横槍〟を渡す。あれならチャルカでも使えるだろ。俺はこのガントレットで行く。以上だ」
「・・・・ん?」
ヘルズの決定に、降谷は眉をひそめた。
「どうした? 俺の決定に不満があるのか」
「いや、そういう訳じゃないんだが・・・花桐はどうするんだ? アイツが一番心配だろ」
降谷の言葉に、ヘルズはニヤリと笑った。
「ああ、それなら大丈夫だ。皆に武器を渡すときに、アイツにだけ技を教え込む。―――ああ、ついでにその
時に瓶も一緒に渡す事にするわ」
「なッ・・・」
降谷は思わず、ヘルズの肩を掴んでいた。
「お前、正気か⁉ こんな怪しげな液体を一般人に渡すなんて馬鹿げてる! そもそも、これはまだ何か分
かってないんだぞ⁉ それをあんな少女に――――」
「まあ落ち着けよ、ニセ教師」
ヘルズは飄々とした態度で、脚を組んだ。
「俺だって無策なわけじゃない、ちゃんと考えてあるさ。その結果、これが最善だと思ったわけだ。それでも納得いかないなら、勝手に突っ込んで勝手に死ね」
その適当な態度と無慈悲な決断に、ついに降谷はブチ切れた。
「この、厨二野郎―――――!」
片手でヘルズの肩を掴んだまま、もう片方の手をヘルズに叩きつける。――瞬間、壮絶な握力を感じて、降
谷を思わず手を止めていた。
「おい、なに俺様に盾突いちゃってんの?」
見ると、ヘルズが降谷の腕を掴み上げていた。ギリギリ、という音が、その握力の強さを物語っていた。
「拒否権はない、って言っただろ? 悪いが俺の言う通りにしてもらう。残念な事に、お前が思ってる程、状況は良くないんだ」
ヘルズが降谷の腕から手を離す。途端、降谷の身体がよろける。
「もうこれ以上、誰も怪我させない」
いつの間にか、ヘルズが立ち上がっていた。
「俺が指揮を執るからには、誰一人欠けることなく終わらせる。二ノ宮の犠牲は、絶対に無駄にはしねえ」
低く唸るように言うと、ヘルズは踵を返した。
その背中に皮肉の一言でも叩きこんでやろうと、降谷は口を開いた。
「随分とお怒りだな。昔でも思い出したか?」
その時、辺り一面に殺意の風が吹き荒れた。降谷の全身の毛が逆立ち、身体の芯が凍結したかのように冷たくなる。
「今、何か言ったか?」
見ると、ヘルズが振り返っていた。その眼帯は外されており、その目を見た降谷は―――
「ッ・・・!」
心臓が止まるかと思った。
「今、何か言ったか?」
ヘルズが再度、繰り返す。降谷は慌てて首を横に振った。
「そうか。ならいい」
ヘルズが眼帯を装着し、降谷に背を向けた。すると殺意の奔流が収まり、降谷の身体にも暖が戻って来た。
「じゃあ、また後でな」
ヘルズが歩いて行き、やがてその姿が消える。それを見届けた後、降谷は膝を着いた。
「はあ、はあ・・・」
一体、今のは何だったのか。
「・・・ヘルズの昔の友人のチャルカなら、何か知ってるかもな」
降谷はそう呟くと、チャルカを探すために動き始めた。
次回は7月18日更新です。
現在分かっている詳細
・ニノ見留薬味・・・二ノ宮来瞳
・ピエロ・・・・・・松林尚人
・バイトらしき青年・・・ヘルズ
・メイド・・・ユル
・シルクハットの男・・・チャルカ
・赤いランドセルを背負った小学生・・・『味覚』
そろそろ増やしたいな、詳細・・・




