連れていく一般人 紹介
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直前でパソコンが壊れました!
「しょ、正体を知っているって、何を・・・・」
「決まってるだろ。この俺、黒明弐夜が世間を騒がせる天才怪盗、ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニング様だって事だよ」
あっけらかんと言うヘルズに、姫香は唖然とした。
「ど、どうやって知ったんですか⁉」
「ああ、無断欠席の事を注意された時に、ついうっかりな。その日丁度ガチャ引いていいのが一つも出なくてイライラしてたんだよな」
「大事件じゃないですかそれ⁉ 警察に通報されたらどうするんですか⁉」
すると、ヘルズは豪快に笑った。
「はっはっは。そんな訳ないじゃないか。な、生徒会長」
ヤンキーのような台詞でヘルズが聞くと、北見方は爽やかに微笑む。
「ああ、通報しないさ。弐夜君によると、今の所彼の正体を知っているのは僕と花桐さんだけらしい。そ
して花桐さんが警察に密告しないとなると、警察が弐夜君を捕まえに来たとき、密告したのが僕だと分かってしまう。いくら僕でも、犯罪者に目を付けられたらたまってものじゃないさ」
ニコリ、と笑った口から白い歯が覗く。それによく見ると髪はきちんと整っているし、制服もきちんと着こなしている。髪はボサボサ、目の下に隈、おまけに制服をボロ布のように着るような駄目人間のヘルズとは大違いだ。
「それで、生徒会長がどうしてこんなところに?」
姫香の質問に、ヘルズが答える。
「お前、頑張り過ぎてもう体力ないだろ。だから俺との戦いは終了して、二ノ宮と戦え。俺は生徒会長と
戦うから」
ヘルズの言葉に、姫香は言い返せない。
確かに、もう体力が限界だ。頭はうなされたように熱いし、木刀の持ち過ぎで両手が痛い。ヘルズの言う通り、もう戦えるような身体ではない。
「安心しろ。生徒会長はこう見えても剣道部の主将だ。それに空手も二段を持っている、学校内でも恐れられている実力者だぞ」
絶賛するヘルズに、北見方は苦笑する。
「全ての武道で四段以上持っている君に言われても、あまり嬉しくないんだけどね」
―――――四段⁉
ヘルズはまだ高校生だ。そんな彼が、四段⁉
姫香は驚いて二ノ宮を見た。二ノ宮が頷く。
「むしろヘルズの実力で言ったら、四段までしか取ってない事が驚きだわ。ヘルズの実力なら、もっと上
まで行けるのに」
確かに、と姫香は賛同する。
クラスメイトの賢一から聞いた話なのだが、警察はその資格を取得するのに柔道か剣道の黒帯が必要になるらしい。だとすれば、その警察と戦うヘルズは当然警察以上の実力でなければならない。
「ま、そんな訳だからお前は二ノ宮と戦ってろ。ただし手は抜くなよ。二ノ宮だってこう見えて、かなり
の腕だぞ」
「あら失礼ね。これでも通信で空手を三カ月ほどやっていたわ」
二ノ宮が拗ねたように言い、スッと立ち上がる。
それを見て、ヘルズが北見方に木刀を放る。
「それじゃあ、こっちもやろうか」
「そうだね」
簡潔な合図があった直後、トレーニングルーム内に風が吹き荒れた。
見ると、ヘルズの右腕と北見方の木刀がぶつかっていた。鍔迫り合いの中、二人が笑っているのがかろ
うじて見て取れる。
「ほら、こっちも始めるわよ!」
二ノ宮の声に反射的に振り向くと、そこにはどこで用意したのか、刀を持った二ノ宮が迫っていた。銀色の刀身が眩しく光る。
「し、真剣⁉」
驚いて、反射的に木刀を跳ね上げる。たまたま跳ね上げた木刀は真剣の切っ先を綺麗に受け流し、どうにか斬られずに済んだ。
「ほらほら、どんどん行くわよ!」
二ノ宮が再び刀を振りかぶる。姫香はその隙を突いて二ノ宮の懐に潜り込むと、二ノ宮の腹目がけて全力の掌打を見舞った。
「《死角残樹》!」
その一撃で、二ノ宮の身体が大きく揺れる。攻撃を与えるには絶好のチャンスだ。
だが、姫香はそこで一瞬逡巡した。
これは、たかが訓練だ。ならば、このくらいでいいのではないか?
二ノ宮は素人だ。これ以上やれば、彼女を怪我させてしまうだろう。
「――――駄目よ。手を抜いちゃ」
二ノ宮の声が聞こえると同時、腹に衝撃。
素早く床を転がるも、続けてもう一撃もらう。
「う、ぐっ!」
右肘を殴打され、木刀が手から離れる。そこを、二ノ宮の刀が襲う。
「容赦しないわよ」
刀の切っ先が迫り―――――姫香の鼻先で止まる。
「立ちなさい、姫香ちゃん」
二ノ宮が刀を引き、姫香に命じる。姫香が命じたままに立ち上がると、二ノ宮は姫香の頬を左手で張った。
「えっ・・・・」
突然の痛みに呆然とする姫香の肩を二ノ宮は両手でつかみ、訴えかけるように言う。
「姫香ちゃん、馬鹿なの? 戦場で敵を気遣っている暇はないの。それは練習でも同じ。敵を無力化するまで油断しちゃだめ。もし戦場で今みたいな事したら、すぐに殺されるわよ。仮に相手が素人でも、武器を持って挑んで来たならそれはもう敵なの。もし、相手を怪我させるのが嫌なら――――――」
そう言って、二ノ宮は隣を指さした。
それは、壮絶な光景だった。
残像ほどにしか捉えられない速度で、ヘルズが動く。真っ直ぐ北見方に突っ込み、右ストレートを放つ。北見方は演武のように木刀を振り、それをガード。拳と木刀の二つがぶつかり合い、本来なら出ないような派手な音が舞う。
「あの二人みたいに、一撃一撃の威力を殺して闘いなさい」
二ノ宮の諭すような言葉が耳に響く。
「えっ・・・・」
あれが、手を抜いている?
にわかには信じがたい話だった。
だが、両方とも顔に笑みが浮かんでいる。おまけにヘルズはさっきから一発も必殺技を使っていないし、北見方も何だか剣道の型をそのまま使っているように感じる。
相手が徒手空拳なのに、だ。
「さ、練習再開よ。あの二人が倒れるまでは続けるわよ」
「は、はい」
こうして二ノ宮の指揮の元、二人の戦いは再開した。
そして、15分後。
「はあ、はあ・・・・」
「はは、げほっ・・・」
「二人とも、実は馬鹿でしょ?」
全身から汗を垂れ流し、息も絶え絶えの北見方とヘルズを、二ノ宮が呆れた目で見つめていた。
「まあいいわ。姫香ちゃん、もう帰りましょう」
「あ、ちょっと待て姫香」
二ノ宮と帰ろうとする姫香を、ヘルズが止める。
「はい、何でしょう?」
姫香が歩みを止めると、ヘルズは懐から二枚のチケットを取り出した。
「実は二ノ宮の奴が偽装チケットを余分に作り過ぎちまったらしい。捨てるのももったいないし、確かお前の友達に真理亜と沙織っていたよな? そいつらに渡してくれ。これ、本物そっくりだし、多分ばれな
いと思うから大丈夫だ」
「あ、はい。分かりました」
『ヘルズが他の女の名前を憶えていた』という点を除けば何の不可解もないその言葉に了承し、チケットを受け取る。何故か沸いた殺意は隠したまま。
「でもヘルズさんが誰か誘えばいいんじゃないですか? ほら、他の元・同僚さんとか」
姫香の指摘に、ヘルズが頭を掻く。
「あー、実は俺の知り合い、任務中だったり音信不通とかで、今連絡が取れないんだよ。それに、学校にも友達は居ないしな。何か俺、学校の中で嫌われているみたいだし」
正確には『学校一の人気者だが、誰も話しかけない上に出席日数が少ないから、本人が気が付いていない』だ。
ヘルズの壮絶な勘違いに、姫香は心の中で涙した。
「そして二ノ宮にはそもそもリアルで友達が居ないし、ニセ教師は考えるまでも無く友達いないだろ、あれ。あの性格で居たら返って驚きだ」
自分の仲間を散々に言う酷いボス、現る。
もし姫香が新聞記者なら、こんな記事を作るだろう。
「ま、そんな訳で日頃から身だしなみとか色々お世話になってる生徒会長に、最後のチケットをプレゼン
トしようと思ってな」
「そうなんですか。って、え?」
姫香は納得する途中で気が付く。
生徒会長を巻き込むという事はつまり、一般人を危険にさらすという事だ。しかも生徒会長は真理亜や沙織とは違い、こちらの事情を知っている人間だ。拷問でもされれば、こちらが圧倒的に不利になる。
結論。生徒会長を連れていくのは、こちらにとって何のメリットも無い。
「じゃあ、そういう事だから」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
しかし、姫香の叫びも虚しく―――――
「待ちませーん。じゃ、これにて決定。異論は認めん!」
その声と共に、ヘルズは風のような速度で帰ってしまった――――。
次回は7月7日更新予定です。
次回からいよいよ潜入の開始です。




