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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
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今度の狙いは

「・・・・い! おい、起きろ!」


「う、うん・・・・」


 誰かに揺すり起こされ、姫香は静かに目を開けた。見慣れた天井が目に入る。


 その顔を、誰かが覗き込んだ。


「うわっ!」


 突然視界いっぱいに広がって来た顔に驚き、慌てて跳ね起きる。顔の主である少女は姫香が跳び退いた事に対して何の感慨も示さず、後ろを振り向いた。


「主席。この子起きたみたい」


「それは見ればわかるだろ・・・・どうだ姫香、怪我はないか?」


 ヘルズの呆れた声と共に、手が差し伸べられる。その手を掴み、姫香は立ち上がった。


「はい。大丈夫です。ありがとうございます、ヘルズさん」


 立ち上がり様にお礼を言い、姫香は部屋を見回した。いつものヘルズの部屋。しかし、何かがおかし

い。


 そして、その違和感に気が付く。


「あれっ?」


 部屋が片付いている。確かに姫香たちは朝片づけたが、その後もヘルズが派手に汚していったはずだ。地獄絵図、と呼んでも差し支えない部屋は今はしかし、驚くほど綺麗に片付いている。


「ああ、客が来るから片付けたんだ。人が来たのに、散らかってるとちょっとな」


「あの、私はいつも来てるんですけど・・・・」


「・・・・・世の中には、『例外』という言葉が存在するのだよ」


 ヘルズが誤魔化したその時、メイド服を着た女が入って来た。メイド服を着た女は姫香を見ると軽く会釈し、ヘルズの方を向いた。


「彼女も起きた事ですし、そろそろ始めましょう。時間は有限です」


「ああ、そうだな」


 ヘルズは頷くと、床に腰を下ろした。そして、下からの目線で、三人に言う。


「お前らも座れ。ちょっと今から、説明タイムだ」


 その言葉に、メイド、謎の少女、姫香の三人が床に腰かける。


「じゃあ、今から姫香に俺達の事について少し紹介していこうと思う。面倒だと思うが、俺達の事を理解

してもらうためだ。聞いてくれ」


 ヘルズのその台詞に、姫香は気を引き締める。


 ヘルズと出会って、早3カ月。

 だと言うのに、姫香は彼の事を何一つ知らない。

 

どうして怪盗をやっているのかも、本当の目的も、姫香を裏家業に引きずり込んだ理由も、誕生日も、出身中学校も、好きな食べ物も。


『ヘルズ』としての彼も、『黒明弐夜』としての彼も、姫香は何一つ知らない。


――――貴方の事を、少しでも知りたい。


 けれども、彼は決してそれを明かしてくれない。そして、姫香にそれを聞く勇気も無い。


 それを、向こうが自ら明かしてくれると言うのだ。これを聞かない手はない。


「細かい説明は面倒くさいから省くぞ。まず、俺は十歳の時に、ある人物の弟子になった。そこで修行し、怪盗となった。ここの二人はその時の仲間だ。以上」


「はい?」


 呆れた声を出す姫香に、メイドが苦笑する。


「省きすぎですよ、ヘルズ。では説明は代わりにワタシが」


 三人の視線が、メイドに集中する。


「先ほどヘルズが言った通り、ワタシたち三人はある人物に弟子入りし、常人を遥かに超えた身体能力と、犯罪者の技術を手に入れました。その師匠は様々な事を教えてくれて、そのおかげでワタシたちは一流の犯罪者になりました。師匠の元では『怪盗』、『スパイ』、『暗殺者』のいずれかになるための訓練が受けられ、弟子入りした者は皆そのいずれかを選んで訓練に励むのです。ちなみにヘルズとここに居るチャルカが『怪盗』を、ワタシが『暗殺者』を志願しました」


 メイドが、栗毛の女の子を差しながら、よどみなく話す。


「弟子入りした人達はその年ごとに期間が分けられ、それぞれ肩書きが違います。例えば、ワタシは第三期の犯罪者ですが、ヘルズとチャルカは同じ年に訓練を始めたため、同じ第六期の犯罪者となっています」


「は、はあ・・・・」


 どうしよう、説明が難しい。半分も理解できない。


 助けを求めるかのようにヘルズの方を向くと、ヘルズは肩をすくめて、一言。


「ま、簡単に言えば犯罪者の学校みたいなものだな。俺達はそこで知り合った」


 分かるような分からないような説明を聞いて、姫香は首を捻る。


「とりあえず、説明を進めますね。そして今の三つの分野でそれぞれ、条件を達していてかつ一番と二番の成績を収める者には『主席』、『次席』の称号が与えられます。ちなみにヘルズは、『第六期怪盗主席』という肩書きを持っていますし、かくいうワタシも『第三期暗殺者次席』という称号を持っています」


 と言う事は、ヘルズは第六期の怪盗の中で頂点に立つ存在だという事だ。


 改めて、姫香はヘルズの超人ぶりに驚愕した。


「ま、そんな物ただの肩書きだ。大して気にすることじゃない」


 ヘルズがぶっきらぼうに言い、メイドが苦笑する。


「まあ、確かにそうですね。こんな物は差別の対象にしかなりませんものね」


 そしてメイドは、姫香の目をまっすぐに見た。


「説明は以上です。何か質問はありますか?」


 姫香は手を上げた。


「その『ある人物』って、一体誰なんですか?」


「それは・・・・」


「『最強の犯罪者』」


 言いよどんだメイドに代わり、ヘルズが言葉を引き継ぐ。


「この地球上で、最も強いとされる人間だよ。本気を出した時のスピードは光に匹敵すると言われており、地面を踏みしめれば地盤が割れ、その防御力は核ミサイルすら跳ね返す。正真正銘の『化け物』だよ。俺やニセ教師みたいなのが束になってかかった所で、秒もかからず瞬殺される」


 姫香は―――――――戦慄した。


 ヘルズが実際に戦った所は、見た事が無い。だが、自他共に認めるくらいの常軌を逸した強さを持って

いるという事は、ここまでの流れで大体分かった。そして、降谷が強いのもよくわかる。


――――――そんな二人が、瞬殺。


 二の腕に鳥肌が立つ。一体自分は今日、何回戦慄すればよいのだろうか。


「ま、普段は自宅兼訓練施設に籠ってるけどな。お、そうだ。お前も入ってみたらどうだ?」


 ヘルズが笑いながら姫香の方を見る。それを、メイドが諫めた。


「やめなさい、ヘルズ。いくら師匠に勝てないからと言って、この少女に八つ当たりするのは良くないことですよ」


 その時、玄関のドアが開いて降谷と二ノ宮が入って来た。ヘルズは二人を見ると、右手を上げた。


「よう、遅かったじゃねえか」


「突然呼び出した奴の発言じゃないな」


「遅いとは失礼ね。これでも時間通りよ」


 ヘルズの憎まれ口に、降谷と二ノ宮が呼応する。


「主席、この人達は?」


 ヘルズの傍らに居るチャルカと呼ばれていた少女が、ヘルズに問う。ヘルズは肩をすくめる。


「安心しろ、俺の仲間だ。せっかくこれだけの犯罪者が揃ったんだ。ここは久し振りに、共同ミッションでもやろうかと思ってな。思い立ったが吉日、って事で、突然呼び出してみた」


 ヘルズがニヤリと笑う。その表情は、さながら悪戯を思い付いた子供のようだ。


 もはや自己中心的を通り越し、ただの我儘だ。姫香は降谷の顔を見た。そんな事で呼び出されて、不登

校の二ノ宮はともかく、社会人である降谷は起こるだろう――――


「なるほど。確かにな。同窓会という意味も兼ねて、皆で一仕事するのもいいかもな」


 だが、姫香の意に反して、降谷は納得した表情を見せていた。


「え・・・・?」


 驚く姫香を尻目に、他のみんなも次々に賛同していく。


「なるほど。それはいい考えね。道具、たくさん作らなくちゃ」


「主席、よくやった。それ、凄くいいアイデア」


「共同作戦、ですか。何年ぶりでしょうか。日頃戦いを好まないワタシですら、全身の血が疼きます」


 その、これから犯罪を起こすにしては軽すぎる皆の台詞に、姫香は絶句する。固まっている姫香の肩に、ヘルズが手を置く。


「元々、そろそろ盗みに入らなきゃならないとは思ってたんだ。資金だって無限じゃない。そろそろ資金を調達しないとヤバいと思ってた矢先、二人が来ただけだ。お前が思ってるほど、大して変化はねえよ」


 姫香の目が丸くなる。


 社会人兼スパイとして働いている降谷はとにかく、ヘルズはまだ学生で、かつ一人暮らしだ。バイトすらもしていない彼の唯一の稼ぎ口は―――――怪盗。


 怪盗としてのスキルを使い金を盗む彼だが、それはあくまでも一時的な収入だ。また仕事をしなければ、金はいずれ枯渇する。そのため、ヘルズは定期的に怪盗としての仕事を行っているのだった。それをすっかり忘れていた。


「これは、俺が生きていくために必要な事なんだ」


 ヘルズが姫香の肩から手を離し、両手を広げた。


「実は今回、俺達が金を盗む相手は決まっている」


 ヘルズのその言葉に、全員が沈黙する。ヘルズは一人一人の顔を見回しながら、一言一言絞り出すように言った。


「暗殺組織『血まみれの指』。奴らが今までに稼いだ金、総額10億円が、今回俺達が狙う宝だ」



 ※説明に分かりにくい箇所などがありましたら、どうぞ教えてください。改善します。


 次回は6月30日更新予定です。

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