怪盗が教える! 必勝! 面接マニュアル
更新遅れてすみません。
今回は、主にテストの回答と面接です。
「それで、一体何の用だよ」
不機嫌そうに、ヘルズが降谷に聞いた。
「分かってるだろ。当然、今回の英語の小テストに関する事だよ」
バン! と降谷が机の上にヘルズの小テストの答案を叩きつける。
「あー、あれだろ。最後の問題の事だろ? 反省してまーす」
「いや、それだけじゃない。他にも間違いがある」
降谷が、問題を指さす。
「まず、問題第一問。何だこれは⁉ 『貴方自身の事について一つ書きなさい』。これボーナス問題として出したはずなのに、何だこの解答は? 『俺の中で最大の敵は、内なる俺だ』。しかもドイツ語で書くとか、お前舐めてんのか⁉」
「別に『英語で』っていう指定が無いからよくね?」
「まあ、分かった。百歩譲ってそれはいいとして、次からの問題は逃れようがないぞ」
降谷は、問題の番号に赤ペンで丸を付ける。
「なあ、どこをどうやったら、『校長先生は、複数の動物と戯れていた』っていう答えが、『校長先生は、その五体を持って、大量の動物たちをいたぶっていた』になるんだ? それに、なんだこれ⁉ 長文読解の最後の問題! 『トムとジュンはボスを目の前にして闇の力に覚醒し、お互いの持つ秘儀《地球儀の鉄槌》と《禍々しき夜の聖域》を持ってボスを倒した』・・・・って、こんなマニアックな問題が高校のテストに出て来るとでも思ってんのか! しかもアラビア語で書きやがって! お前一人の採点に五十分かかったわ!」
降谷の怒鳴り声と、その突拍子もない答えに、職員室中の先生の視線が二人に集中している。だがヘルズはそんな物を気にする性格ではない。
「おー、そりゃご苦労さん。で、感想は?」
「死ね!」
降谷がくしゃくしゃに丸めた答案を、ヘルズの顔面に投げつける。ヘルズはそれを空中でキャッチすると、息を荒げている降谷に聞いた。
「で、他に用件は? まさか、テストの愚痴を言う為だけに俺を学校に呼び出したわけじゃないよな?」
「・・・・お前、面接訓練受けてないだろ」
降谷の言葉に、ヘルズが眉をひそめた。
「何だ、それ」
「知らないのか? この学校では、将来の若者のために2,3年生は一年に数回、面接の練習をするんだ。お前の練習日は今日だ。という訳で行ってこい」
「は⁉」
「さあ、用は終わりだ。さっさと行ってこい」
降谷にそう言われ、職員室を追い出される。
「畜生。あの駄教師め。目に物見せてやる・・・・・そうだ!」
面接室に向かう途中で、ヘルズはある考えを思い付いた。
「くくっ、あの駄教師め。この俺に面接をさせた事を、地獄の底で後悔するがいい」
―――面接室(進路指導室)にて
コン、コンとドアを叩く音が聞こえる。
「はい、どうぞ」
面接官の合図で、黒明弐夜は入室する。ただし制服を酷く着崩しており、空いた左手はポケットに入れられている。
「うぃーっす」
適当な返事をして、勝手に椅子に腰かける。それを見た面接官が顔をしかめるが、何も言わない。おそらく、自分で気づくまで注意はしない方針なのだろう。
「じゃあ、お願いしまーす」
ヘルズ流面接マニュアルその1
『面接は、適当な態度と適当な服装で行いましょう
どの生徒も同じような服装なので、面接官にとって外見はぶっちゃけどうでもいいです。彼らが見たいのは中身です。よって、自分の内面のアピールをするためにも、服装はあえて着崩しましょう』
「じゃ、じゃあ始めていきますね。お名前と出身校は?」
「そこに書いてあるだろ? 人に聞いて無いで自分で見ろよ」
弐夜が面接官の持っている書類を指さして言う。
「そ、それはそうなのですが・・・コホン。では、質問に入ります。なぜ、弊社を受けようと思ったのですか?」
このままではまずいと思ったのか、面接官が話の軌道をもとに戻す。
「降谷の奴から受けろって言われたからに決まってるだろ」
「ま、まあそうなんですが・・・」
室内に、何とも言えない空気が流れる。
「で、では次の質問です。高校生活で一番頑張った事は何ですか?」
「ああ、ネトゲと引きこもり」
「え・・・・?」
面接官の表情が固まった。
ヘルズ流面接マニュアルその2
『聞かれた事は、正直に答えましょう
面接の際には、嘘偽りなく答える事が大切です。嘘を吐けば、すぐにばれてしまいます。気を付けましょう』
「で、では最後の質問です・・・・自己PRをお願いします」
弐夜は、はてと首を傾げた。降谷の話だと、面接には十五分以上かかるらしい。なのに、弐夜はまだ五分も面接を行っていない。何故だろうか。
まあ考えていても仕方がない。弐夜は、出来るだけ相手が驚かないような長所を選びながら答えた。
「まず、実は俺の両目は邪眼だ。普段は俺の呪力で押さえているんだが、この戒めが解かれると、俺が視認した全ての物体が石化するという、恐ろしい能力を持っているんだ」
「はい?」
突然、不思議な事を言い始めた弐夜に、面接官は素っ頓狂な声を上げた。
「それだけじゃない、俺の右手には魔王の呪いが宿っていてな・・・・呪力を持っているのもそのためだ。この魔王の呪いは、日々俺の精神を削り続けている。まったく、困った呪いだぜ」
「えっと、その」
「他にもあるぜ。俺の両脚は昔〝アイツ〟に食いちぎられていてな、今はどうにか誤魔化しているが、実はこれ、タングステンで出来た義足なんだ。でも悪い事だらけじゃないぜ。この義足には指定したエネルギーを無視する異能が付与されてるから、重力を無視して空を飛び放題だ」
ヘルズ流面接マニュアルその3
『自分の異能について、アピールできるようにしておきましょう
面接官は、貴方に他とは違う《何か》を求めています。それを説明するなら、やはり《異能》が一番! 自分に異能についてアピールして、面接でどんどん点数を上げましょう!』
「あ、あの、もういいです!」
そう面接官に言われては仕方がない。興が乗って来た所だったのにな、と弐夜はぼやきながら面接室を出る。ちなみに挨拶はしない。
「ま、受かったからいいか」
満点もあり得るだろ、と楽観的に考えていると、廊下の角から何かが放り投げられる。それは床を2,3回バウンドすると、弐夜の足元に転がって来る。その漆黒の球体には、見覚えがある。
―――――特殊音響閃光弾
それを認識するのと、身体が動くのがほぼ同時だった。
缶蹴りの要領で爆弾を壁際に蹴り飛ばし、自分は後方に跳び退きながら目と耳を庇う。直後、視界が明転し、凄まじい爆音が鼓膜を叩く。
「ッ・・・!」
視覚と聴覚を同時に刺激され、脳に激痛が走る。圧力の衝撃波が身体を嬲り、膝から崩れ落ちそうになる。
「が、ああああああッ!」
爆音以上の叫び声を上げ、歯を食いしばる。数秒間の多種類同時攻撃にどうにか耐え、廊下を眺める。当然の如く、廊下には傷一つない。
「今のは・・・何だったんだ?」
首を捻ったその時、廊下の角から何者かが飛び出してきた。全身を黒い布で覆っているせいで、輪郭すら掴めない。突如飛来して来た影は弐夜に接近すると、右手を突き出した。その手に光る突起物を見た弐
夜の表情が強張る。
「《絶滅迅雷》!」
反射的に繰り出された特大の回し蹴りが、敵の持っていたナイフを叩き落とす。そのまま弐夜は身を捻り、敵の被っている布につま先を掛け、一気に蹴り上げる。
「テメエは・・・何者だ!」
黒い布がはぎ取られ、敵の姿が露わになる。その姿を見た弐夜は、驚愕の表情を浮かべた。
「お前・・・ユルか?」
良くも悪くも目立ちそうなフリフリのメイド服に、逆手に構えたナイフ。モデルも顔負けの端正な顔立ちに、暗殺者特有の目つき。
第三期暗殺者次席、ユル=メアリーを見て、弐夜は驚嘆の声を上げた。
・・・・面接で黒明弐夜のような回答をすると―――――――
落ちます、確実に。
落ちる事前提で、やってみたければどうぞ。




