エピローグ③ 盗んだ物
今回で二章、ラストです!
二ノ宮が涙に濡れた瞳でヘルズを見つめる。
「ありがと、ヘルズ」
そう言うと、緩やかな動作でヘルズから離れた。そして涙を拭うと、いつものように微笑んだ。
「ったく、面倒な事させやがって・・・」
ヘルズはガリガリと頭を掻くと、ICレコーダーを握りつぶした。グシャリ、という音が鳴り、小型の精密機械が再起不能になる。今回の事件が全て解決した以上、これはもう必要ない。
「で、今回の事件で君は何を盗んできたのかな?」
話題を変えるように、二ノ宮がヘルズに聞いた。その表情には、先程までの悲しそうな面影はない。
役者かよ、とヘルズは心の中でツッコミながら、ポケットに手を突っ込む。
「今回、金目の物は盗んでねえよ。強いて言うなら今回は守った方だよ」
その言葉に、二ノ宮は眉をひそめた。
「守った? 一体何を?」
「“絆”だよ」
どこか誇らしげに、ヘルズは言う。
「親友との絆って言うのは、金じゃ表せないくらい価値があるものだ。残酷な考え方だが、人や薄っぺらい友情は金で買える。だが、真の友情って言うのは金が関与したくらいで切れる物じゃない。だから、俺は絆を『本当に価値ある物』だと思う。俺みたいなこそ泥がおいそれと手を出しちゃいけない程のな」
『本当に価値のある物』
それはヘルズにとって盗むべき対象であり、ーーーーー同時に守るべき対象である。
「どうして、私とキルファが親友だと思ったの?」
「だってお前、他に友達居ないじゃん。唯一頼れる友達を親友扱いする気持ちはよく分かるし。それに、この天下の大怪盗様と繋がっている事を、普通の友達に言うわけないしな」
ヘルズはあっけらかんといい放つと、柵に背中を預けた。
「信用した相手から裏切られるっていうのは、辛いものだ。それが例え、無理難題でもな」
だからこそ、ヘルズは王宮に行った。
師匠に操られていたとは言え、実際に二ノ宮に救いを求めたのは王女だ。その友人の救いを断れば、どうなるだろうか。
友達からの救いを無視すれば、小さくても友情という物にヒビが入る事を、ヘルズは知っている。そして、時としてそれは友情という塊を壊す決定打と成りうる。
「『友達は裏切るが、金は裏切らない』って言うが、あれは嘘だ。金だって欲にまみれた人間からは遠ざかっていくし、真の友情で繋がれている友達は絶対に裏切らない。まあ要するに、友情は金よりも強いって事だ」
ヘルズが青空を眺めながら、満足そうな息をこぼした。
「今廃れつつある『絆』を守っていくのは、俺たち力のある者の義務だ。だから俺はこれからも『人の繋がり』って奴を守っていくし、そのためにもっと強くなるつもりだよ」
ヘルズがニコリと笑う。二ノ宮はしばらくその言葉の余韻に浸っていたが、やがてーーーーー
「いやいや、ちょっと待ってヘルズ。確か予告状には『シェルマンジェ宮殿にある宝』って書いてあったわよね。あれが王女でも宝石でもないとしたら、一体なんなの⁉」
我に返ると、開口一番ヘルズに突っ込んだ。
ヘルズはそれを、面倒くさそうな態度で応じる。
「ああ、なんだその事か。その事なら問題ないぜ。既に王女から盗んである」
そう言うと、ポケットから何かを取り出した。ヘルズが取り出した物を見て、二ノ宮は思わず眉をひそめる。
「ヘアピン?」
そう、それは確かにヘアピンだった。ヘルズが好きそうな漆黒の色に、赤いまだら模様が付いている。ヘルズが盗んで来るまでもなく、どこにでも売っていそうな一品だった。
「これが、どうかしたの?」
二ノ宮の問いに、ヘルズはいつになく真面目な顔で答えた。
「イギリスの王女様ってのは友達が少なかったらしくてな。親友が二人しか居なかったらしい」
「一人は私ね。もう一人は?」
「クルシア、と言えば分かるか?」
ヘルズの問いに、二ノ宮の顔が凍りつく。
「それって、ヘルズのーーーーー」
「ああ、元恋人だ。容姿端麗、運動神経抜群、俺みたいな厨二病患者にはもったいない女だったよ」
元、と言うときのヘルズの顔が一瞬、悲痛に歪んだ。
「王女の趣味の一つに、『親友と大切な物を交換し合う』というのがあったらしい。その時に交換に出されたのが、これだ」
「じゃあそれって、もしかしてーーーーー」
「そう。クルシアのヘアピンだよ。ま、俺がプレゼントしてやった物だけどな」
ヘルズが愛おしげにヘアピンを見て、ポケットに入れる。二ノ宮は、その様子を黙って眺めていた。
「さて、と。俺が盗んだ物も紹介したし、そろそろ頼み事といきますか」
「あら、急に改まってどうしたの?」
「なに、普通の頼み事さ」
ヘルズは大きく伸びをすると、二ノ宮の方に向き直った。
「悪い、二ノ宮」
「どうしたの?」
「二千万円貸してくれ。三百年後に返す」
沈黙が、屋上の空気を完璧に掌握していた。
しばらくして、二ノ宮が口を開いた。
「は?」
ヘルズの頼みに対して二ノ宮は、この返事をするので精一杯だった。
「あ、悪い。後者は完全に冗談だ。忘れてくれ」
ヘルズが思いだしたように言い、二ノ宮を見据える。その強力な眼光に射抜かれた二ノ宮の背中に、冷たい物が走った。
「実は、師匠の奴が花桐の件で、ワイロを持ってこいと言ってるんだ。それも、ざっと五千万円。内三千万は俺が払うから、二ノ宮は残りの二千万円を払ってくれ」
「姫香ちゃんの件って言ったら、あの圧力の事?」
なぜヘルズから盗まれた『宝』である姫香が、警察によって保護されないのか。
その答えは簡単だ。圧倒的な権力によって、上から情報規制をかけらるてしまうからである。
「ああ。師匠がICPOの幹部の一人と繋がってて、そいつが命令を出したおかげで花桐は逮捕を免れた。それでこの前それについて礼を言ったら『感謝する気持ちがあるのなら金よこせ。そうだな、ざっと五千万円くらいよこせ』とか言ってきやがった。チッ、とうとう耄碌しやがったなあのジジイ」
「でも、師匠の命令は絶対なんでしょ?」
確認するように聞く二ノ宮に、ヘルズは頷いた。
「ああ。断れば文字通り『即死』だ。あのジジイは一人で世界を滅ぼせる化け物だからな、師匠の事を知っていて断るなんて馬鹿な事をするのは、相当な死にたがりか『勇気』と『無謀』の違いが分からないアンポンタンだけだ」
「そ、そこまで言うレベル・・・・」
唯我独尊で自己顕示欲の塊であるヘルズがここまで言う位だ。二ノ宮はヘルズの師匠に改めて旋律を覚えた。
「じゃあ、二千万円よろしくな。俺はとりあえず帰るわ」
軽い口調で言うと、ヘルズは柵を上り、屋上から飛び降りた。その様子を見ながら、二ノ宮は溜め息を吐いた。
「ホント、厨二病ね」
「ただいま」
ヘルズが家に返ると、そこには既に来客が居た。
「おう、やっと来たか。遅いぞ、ヘルズ」
「お帰りなさい、ヘルズさん」
降谷と姫香だ。二人とも、なに食わぬ顔でヘルズの部屋に居る。
「あれ、俺お前らに合鍵渡したっけ?」
「いや、貰ってないぞ。だからピッキングした」
「うおい!」
平然と言う降谷に、ヘルズは思わず叫ぶ。そんなヘルズを見て、姫香は苦笑いしている。
「仕方ないだろ、花桐の奴がお前に話があるっていうんだから」
「ん? 何の用だ?」
ヘルズが姫香の方に向き直る。ヘルズに見られていることに気がついた姫香は、顔を真っ赤にして俯いた。
「え、えっと、その・・・・お願いがあります」
「お願い? ああ、あれの事か」
確かそんな約束を、姫香としたような気がする。二ノ宮としたような気もするが、覚えておくとろくな事にならないので、そちらは記憶から消去しておく。
「そ、その、お願いは二つあって・・・・」
「二つ? 別に構わないぜ」
ヘルズたちの中で一番の常識人の姫香の事だ。お願いが一つだろうが二つだろうが、大して変わらないだろう。
「えっと、まず、わ、私、の事を、名前で読んでください」
妙につっかえながら、姫香がヘルズに頼む。だがそんな事、二ノ宮の『お願い』に比べれば屁でもない。ヘルズは頷く。
「ああ、いいぜ。姫香」
その瞬間、姫香の体がボフン、と跳び、顔がさらに赤くなったーーーーーーーーーー気がした。
「で、二つ目の要求は?」
幻覚でも見たのだろうと、ヘルズは姫香の変化に気がつかないフリをして、話を進める。
「えっと、その、もう一つは・・・」
そこまで言うと、姫香はキッ、と顔を上げた。
「私に、闘いの技術を教えて下さい!」
いつもこんな駄作を応援いただき、本当にありがとうございます。
第二章、私も読み返して見たところ、「ここ、伏線に使えたな」「ここは読者に分かりづらかったな」など、反省点が大量に出てくる回でした。
(時間のあるときに、直していく予定です)
第三章からは、もっとヘルズの怪盗らしさを生かした、皆様に親しみやすい作品になるように努力していく予定ですので、今後ともこの作品を後愛読いただけると嬉しいです。
さて、第三章は6月13日に更新となります。
(その間に1~2話、番外編を挟む予定です)
では皆様、また番外編でお会いしましょう。




