表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と自由になりたい王女
49/302

エピローグ③ 盗んだ物

 今回で二章、ラストです!

 二ノ宮が涙に濡れた瞳でヘルズを見つめる。 


「ありがと、ヘルズ」


 そう言うと、緩やかな動作でヘルズから離れた。そして涙を拭うと、いつものように微笑んだ。


「ったく、面倒な事させやがって・・・」


 ヘルズはガリガリと頭を掻くと、ICレコーダーを握りつぶした。グシャリ、という音が鳴り、小型の精密機械が再起不能になる。今回の事件が全て解決した以上、これはもう必要ない。


「で、今回の事件で君は何を盗んできたのかな?」


 話題を変えるように、二ノ宮がヘルズに聞いた。その表情には、先程までの悲しそうな面影はない。

 役者かよ、とヘルズは心の中でツッコミながら、ポケットに手を突っ込む。


「今回、金目の物は盗んでねえよ。強いて言うなら今回は守った方だよ」


 その言葉に、二ノ宮は眉をひそめた。


「守った? 一体何を?」


「“絆”だよ」


 どこか誇らしげに、ヘルズは言う。


「親友との絆って言うのは、金じゃ表せないくらい価値があるものだ。残酷な考え方だが、人や薄っぺらい友情は金で買える。だが、真の友情って言うのは金が関与したくらいで切れる物じゃない。だから、俺は絆を『本当に価値ある物』だと思う。俺みたいなこそ泥がおいそれと手を出しちゃいけない程のな」


『本当に価値のある物』


 それはヘルズにとって盗むべき対象であり、ーーーーー同時に守るべき対象である。


「どうして、私とキルファが親友だと思ったの?」


「だってお前、他に友達居ないじゃん。唯一頼れる友達を親友扱いする気持ちはよく分かるし。それに、この天下の大怪盗様と繋がっている事を、普通の友達に言うわけないしな」


 ヘルズはあっけらかんといい放つと、柵に背中を預けた。


「信用した相手から裏切られるっていうのは、辛いものだ。それが例え、無理難題でもな」


 だからこそ、ヘルズは王宮に行った。

 師匠に操られていたとは言え、実際に二ノ宮に救いを求めたのは王女だ。その友人の救いを断れば、どうなるだろうか。


 友達からの救いを無視すれば、小さくても友情という物にヒビが入る事を、ヘルズは知っている。そして、時としてそれは友情という塊を壊す決定打と成りうる。


「『友達は裏切るが、金は裏切らない』って言うが、あれは嘘だ。金だって欲にまみれた人間からは遠ざかっていくし、真の友情で繋がれている友達は絶対に裏切らない。まあ要するに、友情は金よりも強いって事だ」


 ヘルズが青空を眺めながら、満足そうな息をこぼした。


「今廃れつつある『絆』を守っていくのは、俺たち力のある者の義務だ。だから俺はこれからも『人の繋がり』って奴を守っていくし、そのためにもっと強くなるつもりだよ」


 ヘルズがニコリと笑う。二ノ宮はしばらくその言葉の余韻に浸っていたが、やがてーーーーー


「いやいや、ちょっと待ってヘルズ。確か予告状には『シェルマンジェ宮殿にある宝』って書いてあったわよね。あれが王女でも宝石でもないとしたら、一体なんなの⁉」


 我に返ると、開口一番ヘルズに突っ込んだ。

 ヘルズはそれを、面倒くさそうな態度で応じる。


「ああ、なんだその事か。その事なら問題ないぜ。既に王女から盗んである」


 そう言うと、ポケットから何かを取り出した。ヘルズが取り出した物を見て、二ノ宮は思わず眉をひそめる。


「ヘアピン?」


 そう、それは確かにヘアピンだった。ヘルズが好きそうな漆黒の色に、赤いまだら模様が付いている。ヘルズが盗んで来るまでもなく、どこにでも売っていそうな一品だった。


「これが、どうかしたの?」


 二ノ宮の問いに、ヘルズはいつになく真面目な顔で答えた。


「イギリスの王女様ってのは友達が少なかったらしくてな。親友が二人しか居なかったらしい」


「一人は私ね。もう一人は?」


「クルシア、と言えば分かるか?」


 ヘルズの問いに、二ノ宮の顔が凍りつく。


「それって、ヘルズのーーーーー」


「ああ、元恋人だ。容姿端麗、運動神経抜群、俺みたいな厨二病患者にはもったいない女だったよ」


 元、と言うときのヘルズの顔が一瞬、悲痛に歪んだ。


「王女の趣味の一つに、『親友と大切な物を交換し合う』というのがあったらしい。その時に交換に出されたのが、これだ」


「じゃあそれって、もしかしてーーーーー」


「そう。クルシアのヘアピンだよ。ま、俺がプレゼントしてやった物だけどな」


 ヘルズが愛おしげにヘアピンを見て、ポケットに入れる。二ノ宮は、その様子を黙って眺めていた。


「さて、と。俺が盗んだ物も紹介したし、そろそろ頼み事といきますか」


「あら、急に改まってどうしたの?」


「なに、普通の頼み事さ」


 ヘルズは大きく伸びをすると、二ノ宮の方に向き直った。


「悪い、二ノ宮」


「どうしたの?」


「二千万円貸してくれ。三百年後に返す」





 沈黙が、屋上の空気を完璧に掌握していた。



 しばらくして、二ノ宮が口を開いた。


「は?」


 ヘルズの頼みに対して二ノ宮は、この返事をするので精一杯だった。


「あ、悪い。後者は完全に冗談だ。忘れてくれ」


 ヘルズが思いだしたように言い、二ノ宮を見据える。その強力な眼光に射抜かれた二ノ宮の背中に、冷たい物が走った。


「実は、師匠の奴が花桐の件で、ワイロを持ってこいと言ってるんだ。それも、ざっと五千万円。内三千万は俺が払うから、二ノ宮は残りの二千万円を払ってくれ」


「姫香ちゃんの件って言ったら、あの圧力の事?」


 なぜヘルズから盗まれた『宝』である姫香が、警察によって保護されないのか。


 その答えは簡単だ。圧倒的な権力によって、上から情報規制をかけらるてしまうからである。


「ああ。師匠がICPOの幹部の一人と繋がってて、そいつが命令を出したおかげで花桐は逮捕を免れた。それでこの前それについて礼を言ったら『感謝する気持ちがあるのなら金よこせ。そうだな、ざっと五千万円くらいよこせ』とか言ってきやがった。チッ、とうとう耄碌しやがったなあのジジイ」


「でも、師匠の命令は絶対なんでしょ?」


 確認するように聞く二ノ宮に、ヘルズは頷いた。


「ああ。断れば文字通り『即死』だ。あのジジイは一人で世界を滅ぼせる化け物だからな、師匠の事を知っていて断るなんて馬鹿な事をするのは、相当な死にたがりか『勇気』と『無謀』の違いが分からないアンポンタンだけだ」


「そ、そこまで言うレベル・・・・」


 唯我独尊で自己顕示欲の塊であるヘルズがここまで言う位だ。二ノ宮はヘルズの師匠に改めて旋律を覚えた。


「じゃあ、二千万円よろしくな。俺はとりあえず帰るわ」


 軽い口調で言うと、ヘルズは柵を上り、屋上から飛び降りた。その様子を見ながら、二ノ宮は溜め息を吐いた。


「ホント、厨二病ね」












「ただいま」


 ヘルズが家に返ると、そこには既に来客が居た。


「おう、やっと来たか。遅いぞ、ヘルズ」


「お帰りなさい、ヘルズさん」


 降谷と姫香だ。二人とも、なに食わぬ顔でヘルズの部屋に居る。


「あれ、俺お前らに合鍵渡したっけ?」


「いや、貰ってないぞ。だからピッキングした」


「うおい!」


 平然と言う降谷に、ヘルズは思わず叫ぶ。そんなヘルズを見て、姫香は苦笑いしている。


「仕方ないだろ、花桐の奴がお前に話があるっていうんだから」


「ん? 何の用だ?」


 ヘルズが姫香の方に向き直る。ヘルズに見られていることに気がついた姫香は、顔を真っ赤にして俯いた。


「え、えっと、その・・・・お願いがあります」


「お願い? ああ、あれの事か」

  

 確かそんな約束を、姫香としたような気がする。二ノ宮としたような気もするが、覚えておくとろくな事にならないので、そちらは記憶から消去しておく。


「そ、その、お願いは二つあって・・・・」


「二つ? 別に構わないぜ」


 ヘルズたちの中で一番の常識人の姫香の事だ。お願いが一つだろうが二つだろうが、大して変わらないだろう。


「えっと、まず、わ、私、の事を、名前で読んでください」


 妙につっかえながら、姫香がヘルズに頼む。だがそんな事、二ノ宮の『お願い』に比べれば屁でもない。ヘルズは頷く。


「ああ、いいぜ。姫香」


 その瞬間、姫香の体がボフン、と跳び、顔がさらに赤くなったーーーーーーーーーー気がした。


「で、二つ目の要求は?」


 幻覚でも見たのだろうと、ヘルズは姫香の変化に気がつかないフリをして、話を進める。


「えっと、その、もう一つは・・・」


 そこまで言うと、姫香はキッ、と顔を上げた。





「私に、闘いの技術を教えて下さい!」




 



 いつもこんな駄作を応援いただき、本当にありがとうございます。



 第二章、私も読み返して見たところ、「ここ、伏線に使えたな」「ここは読者に分かりづらかったな」など、反省点が大量に出てくる回でした。

(時間のあるときに、直していく予定です)


第三章からは、もっとヘルズの怪盗らしさを生かした、皆様に親しみやすい作品になるように努力していく予定ですので、今後ともこの作品を後愛読いただけると嬉しいです。


さて、第三章は6月13日に更新となります。

(その間に1~2話、番外編を挟む予定です)


 では皆様、また番外編でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ