エピローグ① 手を引く者
微妙な時間ですみません!
「で、今回の件はどういう言い訳を聞かせてくれるんだい?」
『名称不明』???は、椅子に深く腰かけていた。その右手には受話器を持っており、誰かと電話している。
ここは、ICPOの本部だ。ICPOの十一人がヘルズの逮捕に向かう中、『名称不明』だけは逮捕に向かわなかったのだ。
『言い訳? そんな物をするつもりはさらさらないぞ、我が輩は』
受話器の向こうから、あっけらかんとした男の声が聞こえてきた。『名称不明』は、溜め息を吐く。
「あれだけ引っ掻き回しておいて、謝罪の一つもないとはな。とりあえず一回死んでこい」
『誰が死ぬか。我が輩はあと百年は生きるぞ』
推定年齢百五十才の男の発言を無視し、『名称不明』は話を続ける。
「今回の事件、根本的におかしかった。急に王女が誘拐される事を望んだと思ったら、テロ組織が出向いて来るわ、ヘルズとテロ組織の参謀が戦うわで、話が混乱を究めている。まるで最近見た超展開のバトルアニメのようだったよ」
『ま、複数の人間が同じキャンパスに同時に絵を描き始めたら、当然そうなるわな』
その言葉に、言い得て妙だと心の中で笑いながらも、『名称不明』は口を開く。
「まず、突然王女様がヘルズに盗んで欲しいと頼んだ件。ーーーーーあれは君の仕業だろう?」
『さて、なんの事だか』
受話器の向こうで肩をすくめている老人の姿が目に浮かぶ。
「いくら年端も行かない少女だとしても、仮にも一国を統べる王女だ。どんなにお転婆だったとしても、ここまでの暴走はあり得ない。お前が裏で手を引いていた。違うか?」
受話器の向こう側で、鼻を鳴らす音が聞こえる。
『何を根拠に。証拠もなく人を疑うのは良くないぞ』
「・・・確かにそうだな。では、私の妄想という事で話を進めようか」
『証拠がない』という言葉に、警察は弱い。
その事を改めて感じながら、『名称不明』は話し始める。
「今回の事件の根源。それは、『王女を反国家勢力が狙っていて、奴らが襲ってきたところを我々ICPOが一斉検挙する』といった簡素な物だった。そこにお前が無理矢理『ヘルズ』という不確定因子をねじ込んだ」
『・・・・』
「まず、お前は秘書に変装して王女に新聞を渡した。そして王女が新聞を読み終わった頃を見計らって、王女がヘルズに誘拐して欲しいと思えるような何かを仕掛けた。まあ、『最強の犯罪者』とまで呼ばれたお前の事だ。洗脳など容易いだろう」
『洗脳とは失礼な。我が輩がそんな事をする人間だと思うか?』
「『その気になれば、万引きから世界征服まで、何でも行う』というのがお前の信条だろう? とにかく、お前は王女に『ヘルズに盗んで欲しい』と思う感情を植え付けた。だから王女が暴走し始めたんだ」
『まあ、ほぼ正解だな』
からかうような口調で、老人が肯定する。
「それで、王女がヘルズにコンタクトを取った事を知ったお前は、自分へのコネを持っている弟子のコネを潰しにいった」
『で、何が言いたいんだ?』
「お前の今回の目的は何だ?」
訝しげに聞く老人に、『名称不明』はズバリと質問した。
『・・・・もし我が輩が答えなければ?』
「ICPOの全勢力を持ってお前を潰す。・・・・と言いたいところだが、流石にやめておく。怪物に丸腰で挑むほど、私は愚かではないよ」
『怪物、か。面白い表現だな』
受話器の向こうから、カラカラと笑う声が聞こえる。
『まあいいさ。暇潰しに教えてやる。今回の一件は、暇潰しを兼ねたテストなんだよ』
「テスト、だと⁉」
『そう、テスト。要は定期テストさ。定期的にテストしないと、身体が鈍るだろ? 特にアイツはネトゲのためなら平気で仕事をサボるしな』
「随分とよく知っているんだな」
暇潰しと言われても、『名称不明』は顔色一つ変えない。
『まあ、一応元弟子だからな。その位の事は知っているさ』
「しかし、今回のお前の暇潰しのせいでテロ組織は壊滅。ICPOの手腕の見せ所はなくなり、イギリスは大損害を被った。少しは自重したらどうなんだ?」
『安心しろ、我が輩なりに反省はしている』
「そうかい。じゃあICPOから人造人間を盗み出して、テロ組織の参謀に売り付けた事に関しては、どう言い訳するつもりだい?」
足元にある『ティルムズ』と書かれた空の棺桶を見やりながら、『名称不明』が聞く。
「これはあの無名錬金術師が作った物を、我々ICPOが総力を尽くして改造したものだ。その結果これには、現在の極秘技術である錬金能力が追加され、ICPOでも1,2位を争う強さを誇っていたんだぞ。そんな傑作を数日で駄目にして、謝罪の一言もなしか?」
『おかしいな。ちゃんと証拠は隠滅したはずなんだけど』
「それは自白と取って構わないんだな?」
『名称不明』は溜め息を吐いた。松林たちの旅費に、錬金術師から多額の金を掛けて買い取った『ティルムズ』の盗難。今回の事件、ICPO側もかなりの被害を被った。
「まったく、お前という男は周りに迷惑しか掛けないんだな」
『失礼だな。我が輩だってその気になれば人類のために貢献してやろう』
老人の発言に、『名称不明』は嘆息した。
いつもこれだ。確かにこの男が人類のために貢献すれば、人類は大きな発展を遂げるだろう。それをしないのはひとえにこの男の気まぐれだ。
『最強の犯罪者』。物理限界を余裕で踏破し、気まぐれ一つで天災クラスの災害を引き起こす、三次元の疫病神。
これはまだ序の口だという、いらない情報を思いだしながらも、『名称不明』は聞いた。
「それはそうとお前、この電話が盗聴されている事に気づいているか?」
『当たり前だろ。我が輩を舐めるな』
受話器から、老人の頼もしい声が聞こえてくる。
「じゃあ当然、何か手は売ってあるんだな?」
『いや、別に何もしていないが』
平然と答える老人に、『名称不明』は唖然とする。
「どうして、手を打っていないんだい?」
『打つ必要がないからだ。安心しろ、聞いてる奴の招待を、我が輩はよく知っている。ーーーーーなあ、ヘルズ』
「ッ⁉」
ヘルズ。今回の事件における不確定因子であり、『最強の犯罪者』の次に危険視されている存在。そんな者に自分と犯罪者の電話を聞かれたら、大変な事になる。
驚く『名称不明』を余所に、老人は告げる。
『じゃあ、そろそろ切るぞ。この老体に、これ以上の長電話は辛すぎる』
勝手な事を言って、一方的に電話が切れてしまう。
「さて、どうするかな」
『名称不明』は天を仰いだ。
次回は6月2日更新予定です。




