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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と自由になりたい王女
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宮殿からの脱出

 一日遅れてすみません。

 キルファは、自分の周りを渦巻く火をじっと見つめていた。


「どうしましょう・・・」


 ヘルズに拒絶されたあと悲嘆にくれて泣いていたら、突然腹に響くような音が聞こえてきた。


 何があったのか状況を冷静に判断しようと努めているうちに、あれよあれよという間に火が宮殿中に周り、足がすくんだ事も相まって、動けなくなってしまったのだ。


「どうしましょう・・・」


 もう一度、同じ言葉を繰り返す。防災機能は爆発の衝撃で吹き飛んだのか、機能する気配すらない。そして、王女が危機に晒されているにも関わらず、誰一人として助けに来ない。 


「こんな時にユルが居れば・・・」


 呟くものの、当然メイド長は来ない。メイド長は今、降谷の起こした爆発を受けて絶賛気絶中だからだ。


「ひとまずここから脱出しなければ・・・・ ッ⁉」


 慌てて口を押さえる。煙がこの部屋に入ってきている。この調子でいけば、あと数分で充満するだろう。


「誰か、助けて・・・」


 蚊の鳴くような小さな声で助けを求める。だが誰も助けには来ない。皆逃げたか、最初の爆発に殺られたのだ。


「このままじゃ、私・・・助けて、くるーーー」


 その時、燃え盛る炎の上に一瞬、人影を見た。幻覚かと思ったがそうではない。その人影は確かに、火の上を飛び越えているのだ。


「だ、誰⁉ ケホッ」


 叫ぶ途中で煙を吸い込み、軽くむせる。人影はキルファの姿に気がつくと、両足を曲げて跳躍した。人影が天井すれすれまで飛び、キルファの前に降り立って来る。その姿を見て、キルファは違う意味で口を押さえた。


「ヘ、ヘルズさん⁉」


 何故、彼がここに居るのだろうか。

 ヘルズの身体はボロボロで、見るに耐えない。全身切り傷まみれで、右腕を押さえた左手から血が滴り落ちている。『満身創痍』という言葉がしっくりくる、そんなイメージだ。


「ったく、酷い目にあったぜ。ここ、警備用ロボット多すぎだろ。火災でも発動するとか、聞いてねえぞクソッタレ」


 ヘルズが苦痛に顔を歪ませながら、キルファに愚痴る。キルファは息を呑んだ。


「じゃあその右腕の傷はまさか、ロボットとの戦いでーーーーー」


「なわけないだろ。あのティルムズとかいう奴との戦いでついた傷だ。ま、かすり傷だがな」


 そのかすり傷が、ワイシャツの右腕部分を真っ赤に染めている。


「で、でも大丈夫なわけ・・・・」 


「うるせえな。本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫だろ。そんな事より脱出が先だ」


「は、はい」


 ぶっきらぼうに言うヘルズに若干怯えながら、キルファは返事をする。確かに、脱出出来なければ元も子もない。


 ヘルズが窓を指さし、確認するように言う。


「非常に不幸な事に、アンタはアクション俳優じゃねえ。窓から飛び降りるのは不可能だ。俺が抱えればなんとか行けるかもしれないが、生憎このかすり傷だしな」


 そのかすり傷が、床を赤く濡らしている。


「次に廊下を通って正規ルートで行く方法だが、これはほとんど不可能だ。無傷で通り抜けられる道じゃない」


 キルファは肩を落とした。


「それじゃあもう駄目じゃないですか。飛び降りるのも駄目、廊下も駄目。他にどんな方法があるって言うんですか。もう終わりですよ!」


 キルファの悲鳴にも似た叫びを聞いたヘルズは、肩をすくめた。


「馬鹿野郎。不可能なんて誰が言った」


「え?」


「だから、不可能なんて誰が言ったって聞いてるんだよ。神様か、それとも運命か? それとも状況を読んで、自分で勝手に解釈したか? だとしたら、それは大きな読み違いだ」


 ヘルズは舌打ちする。


「二つ目の方法。俺は『ほとんど不可能』って言っただけで、不可能とは言ってないぞ」


「え、でも・・・」


 それは今の自分たちには不可能も同然ではないか、と言いかけたキルファの唇に、ヘルズが人差し指を当てる。


「お前に一つ教えてやる。この俺、ヘルズ様は『100%不可能』な状況であっても決して諦めたりはしねえ。最後の最後まで醜く足掻いて、華麗に散ってやる」


 そう言うと、ヘルズは指を鳴らした。瞬間、天井が砕けてバイクが降ってきた。


「こんな事もあろうかと思ってニセ教師が仕掛けておいた、俺愛用のバイク【夜叉和歌】だ。これで脱出する」


 ヘルズはバイクに手早く乗り、スイッチを押した。最新式のバイクなのか、鍵を使わなくてもスイッチ一つで全機能が起動する。


「よし、お前も早く乗れ。行くぞ」


 ヘルズに腕を引かれ、半ば強制的にバイクに座らされる。ヘルズはキルファが乗った事を確認すると、アクセルを踏んだ。


「よし、じゃあ行くぜ!」


 バイクが動きだし、キルファの部屋を抜ける。同時、キルファの部屋の天井が崩れ、キルファの部屋の入り口が塞がれる。あと一秒遅ければ、生き埋めになっていたところだ。


「運転快調!」


 バイクが加速し、廊下を通過する。途中、燃え盛る火に何度かぶつかりそうになったが、ヘルズの絶妙な運転さばきで、紙一重でかわし続けた。ヘルズが吠える。


「このまま脱出するぞ!」


 その時、何の偶然だろうか。

 宙に吊り下げられたシャンデリアが、真下に落下して来た。不幸な事に、真下にはちょうどヘルズのバイクが通過していた。


「ッ⁉」


 上から降ってくるシャンデリアに気がついたキルファは、思わず息を呑んだ。なんという不幸な事だろうか。


 シャンデリアは天井近くに吊り下げられているため、火事の影響を受けない。よって、今回シャンデリアが落ちてきたのはただの偶然。


 そのはずなのだが、キルファにはそれが運命に抗おうとした男に対する、神様からの天罰に見えた。


「ああ・・・」


 そうこうしている間にも、シャンデリアは落下して来る。それが髪の毛に僅かに触れかけた刹那、一陣の風が舞う。そして、シャンデリアの代わりに生暖かい液体が降り注ぐ。


「俺のバイク、傷つけんな」


 ヘルズが苦しそうな声で呟く。その頭上には、血まみれの右腕を掲げていた。これでシャンデリアからキルファたちを守った事は、誰の目で見ても明らかだ。


「あ、ありがとうございます」


「馬鹿か。俺はバイクを傷つけられたくないだけだよ」


 バレバレの言い訳をしながら、ヘルズはバイクを加速させる。ヘルズがスイッチを押すと、バイクが軋むような音を立てて加速した。


「悪いが、こっから先はマッハ5の世界だ。ちょっとでも間違えれば即・死亡する。でもアンタが吹っ飛ばされちゃ元も子もないから、腰にでも掴まっておけ!」


「は、はい」


 ヘルズの一喝に怯えながらも、キルファはヘルズの腰にしがみついた。しっかりと引き締まった筋肉、どこか安心感のある身体に、キルファは安堵の息を漏らす。


(暖かい・・・これが、ヘルズさんの温もり)


「・・・うふふ」


「お楽しみ中のところ悪いが、ちょっと飛ばすぜお姫様!」


 ヘルズがアクセルを全開にし、【夜叉和歌】の最高速度、マッハ10を叩き出す。普通なら風圧だけでも全身がちぎれ飛ぶようなダメージをくらうが、ヘルズが風を受けてくれるおかげでキルファは無事だ。


「もう着くぜ。目的地に」


 ヘルズの声にキルファが横から確認すると、そこはなんと三階だった。しかもこのまま行けば、キルファたちは空いた窓から飛び降りる事になる。


「俺が降谷に頼んだ情報収集は三つ。一つ目は王女の監視。二つ目は王女の目的の調査。そして三つ目がーーーーー」


 バイクが勢いを緩めず、割れた窓に突っ込む。


「最も格好いいバイクでの脱出ルート、これに限る!」


 浮遊感が漂い、キルファの足がバイクから離れる。それでもヘルズの腰を掴んだ手は決して離さず、必死にしがみついた。


「天まで、届けえええええええ!」


 ヘルズが叫びながら、下に向けて特大の掌打をうち放つ。


「堕天使と共に舞え!」


 ヘルズの掌打が重力を打ち消し、バイクごと上に吹き飛ぶ。更なる高みに到達した事を確認したヘルズは、自分の腰を掴んでいるキルファの腕を持って背負い投げの要領で投げ飛ばした。


「ふぇ?」


 投げ飛ばした先は、バイクの座席。ヘルズが座席から離れ、宙に浮く。これでバイクにはキルファしかいない。ヘルズはニヤリと笑うと、拳を引いた。


「《最・大・出・力》!」


 拳を下に叩きつけるようにして一回転し、回転の勢いをつけて右足を叩きつける。


「《没落権勢ぼつらくけんせい展覧桜てんらんざくら!》」


 回転の勢い+威力+重力という三つの力が加わった右足が、バイクのボディに叩きつけられる。その威力はとある小さな名探偵のキック力を凌駕し、バイクを弾丸以上の速度で吹き飛ばす。


「ちょ、えええええええ⁉」  


 キルファの叫び声も虚しく、バイクが斜め下に急降下していく。身体にかかる負荷を歯を食いしばってこらえ、何とか地上にたどり着いた。


「ったく、苦労させやがって」


 ヘルズはフッ、と微笑むと、重力に従って地面に落下していく。地面に地面に降り立ったヘルズに、キルファが駆け寄ってきた。


「ちょっと、ヘルズさん⁉ 何であんな事したんですか?」


 キルファの質問に、ヘルズは髪を掻き上げて答えた。


「フッ、そりゃまあ、格好いいからだろ」


「ヘルズさんがバイクから離れちゃうから私、心配で心配で・・・」


 キルファがヘルズの胸に飛び込む。ヘルズは一瞬面食らったが、キルファの気持ちを察したのだろう、その身体を抱きしめた。


「大丈夫だ、俺は生きてるから」


 月明かりを浴びながら、二人は抱きしめ合っていた。

 

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