ヘルズの怒り
今回は、ヘルズが激怒します。
「お前に一つ、大事な事を教えてやる。二次元と三次元の、決定的な違いをな」
ヘルズは怒気を孕んだ口調で言うと、キルファの元に歩いて来た。キルファは抵抗しようとしたが、ヘルズの言葉が正論なのと、ヘルズの剣幕に怯んで動けない。
ヘルズはキルファの元まで歩いて来ると、その胸倉を掴み上げた。
「三次元では、死んだ人間は生き返らない! 一回死んだら終わりなんだよ! たかが一国の王女が自分の欲望のままに死なせていいほど、三次元の人間の命は軽くない!」
ヘルズの脳裏に、とある少女の顔が浮かぶ。ヘルズはそれを振り払うように、胸倉を掴んだまま吠える。
「俺は怪盗、犯罪者だ。自他ともに認める、人間の中の最底辺のクズだよ。だがな、権力だの才能だので、簡単に人の人生終わらせてる奴より、俺は自分の方が上だって胸を張って言える。権力? 才能? それがどうした。俺達は皆同じ人間じゃねえか。なんで同じ種族なのにそこまで格差が生まれるんだよ。王女を辞めて自由になりたいから国の民を犠牲にする? ハッ、ふざけんな。テメエの我儘一つで、何人の人が死ぬと思ってるんだ。民はお前の駒じゃねえ。ちゃんと血が通って、生きている人間なんだ! それを簡単に殺そうとして、ふざけんな!」
支離滅裂だ。
そう自覚していても、ヘルズの口は止まらない。
相手に対してどんなに理論的に話しても、物事は解決しない事がある。どんなに理論的に言葉を並べ立てても、相手はそれを嘲笑し、並べ立てた言葉を「くだらない」「語るな」と言った言葉で片づけてしまう。所詮、世の中などそんな物だ。
だから、ヘルズは決めたのだ。
支離滅裂でもいい、言っている意味が理解されなくてもいい。自分の激情のままに叫ぶと。自分の思いを全て相手にぶつける。己を貫いた時、見えて来るものは必ずある。
「王女である事から逃げるな、とは言わねえ。俺だっていろんな物から逃げて来た。だから逃げる行為自体は否定しねえ。だがな、多くの人を犠牲にしてまで逃げるな! 自分一人が逃げた結果、関係ない誰かが犠牲になる事をお前は容認出来るのかよ⁉ もし出来るなら、お前は人間じゃねえ。俺達犯罪者以下の存在だ。人の命を弄ぶ、最低の外道だ!」
ヘルズの目に、殺意が芽生える。
「これが花桐とお前の違いだ。アイツは俺やお前と違って、物事から逃げない。逃げずにしっかり立ち向かって、それどころか全部自分で抱え込んで、一人で傷ついて。そんな逆境の中でも懸命に咲こうとしたから、俺はアイツを助けたんだ。それに比べて、お前はどうだ? 王女という恵まれた環境で何一つ不自由なく過ごして、困難という壁が立ちふさがれば、真っ先に逃げるを選択する。そんなお前と、花桐を一緒にしてんじゃねえ!」
ヘルズが姫香を花桐邸から救い出した理由が、これだ。
姫香は一人で抱え込み過ぎていた。両親から受ける暴言の嵐、後遺症にまでなる痛み。それでも、外ではひたすら笑って誤魔化し、人生が幸せだと演じ続けた。
酷い境遇に立っているのに。
毎日が苦痛でたまらないはずなのに。
それでも、必死に笑顔を演じ続けた姫香に、ヘルズは心打たれた。
だからこそ、彼女を救ったのだ。
「自由になりたいなら、もっと違う方法を取れよ。誰も傷つかない方法で、自由になってみせろ! それが出来ないんなら、最初から自由なんて望むな!」
ヘルズはキルファの胸倉から手を離した。キルファ力なく崩れ落ち、ベッドに倒れ込んだ。
「さて、王女への説教も終わったし、やるべき事は一つだけだな」
先ほどとは打って変わって優しい声で言うと、ヘルズは王女の方を向いた。
「反国家勢力は、俺達が潰しといてやる。感謝しな」
マントをバサッ! と翻し、ヘルズはドアから部屋の外に出る。そして軽くジャンプすると、三階の大広間に向かった。階段を高速で駆けあがり、三階に向かう。
「それじゃあ、今回のメインである反国家勢力の殲滅と行きますか!」
大広間は、花桐邸の四倍ほどの広さがあった。
「無駄にでけえな・・・」
ヘルズの口から、呟きが漏れた。その時、後ろから声が掛かった。
「そうね。で、どうしてここが分かったのかしら」
振り返ると、そこにはヘルズが超能力者と呼んでいる女が居た。
「せっかく今から王女を誘拐しようと思っていたのに、貴方が訳の分からない事をごちゃごちゃと言ってなかなか立ち去らないものだから、貴方も一緒に殺そうか考えていた所よ」
「そうかい。それは悪かったな。厨二病だと認めるから許してくれ」
ヘルズが返答すると、女は数秒間沈黙した。
「・・・・やっぱり貴方とは会話が噛み合わないわね」
「フッ、安心しろ。俺と会話が噛み合った人間なんて、数えるほどしか居ないぜ」
ヘルズが格好つけて髪をかき上げる。女はそれを冷ややかな目で見つめた後、パチンと指を鳴らした。
シュバッ、という音と共に、女の背後に何かが出現する。どこからか現れた『それ』は、人間の形をしていた。
コスプレなのか学ランをしており、顔には包帯が巻かれている。はっきり言って不気味な光景だ。
「・・・・同族?」
そんな中、ヘルズの口から出たのはたった一言だった。女はそんなヘルズを鼻で笑う。
「貴方、知らないの? この人造人間の事を」
「ああ、全く知らない」
即答するヘルズに、女は溜息を吐いた。
「仕方ない。紹介してあげるわ。これが、かの天才錬金術師、ニブルが作った最高傑作、ティルムズよ!」
格好良く紹介する女に、ヘルズは一言。
「ニブルって誰だ? 知らん」
ヘルズの言葉に、女は目を丸くした。
「まさか貴方知らないの? 二百人いる錬金術師の中で、百八十四位に君臨する男の事を! 幼女を怖がらせ、恐怖のどん底に突き落とす事に人生を費やしたあの天才を! まさか知らないっていうの⁉」
「ド底辺で最低のロリコンじゃねえかそいつ⁉」
ヘルズのツッコミを軽くスルーし、女は告げる。
「悪いけど、貴方が居ると計画に支障をきたす恐れがあるの。だからここで死んでもらうわ」
「とんだ超展開だな。あんまり超展開だと打ち切りになるぜ?」
ヘルズの発言を無視し、女は床を蹴った。同時にティルムズも床を蹴り、ヘルズに迫る。
「超展開だなオイ⁉」
ツッコミながらも、ヘルズは二人の攻撃を避ける。ヘルズが回避するのを目撃した瞬間、女がワイヤーを振るうが、ヘルズはそれを難なく躱す。
「見事な身体能力ね、貴方」
女が感心した声を上げた時、ヘルズは女に肉薄していた。足を振り上げ、得意の回し蹴りを放つ。
「《絶滅迅雷》!」
こめかみを狙った一撃を、女は紙一重で躱す。ヘルズは追撃をしようと一歩前で出るが、ティルムズに阻まれる。
「さすがに私も、貴方相手に一人で勝てるとは思っていないわ。二人がかりでかからせてもらけれど、構わないかしら? 第六期怪盗主席さん」
「好きにしろよ、超能力女」
ヘルズの言に、女は眉をひそめた。
「超能力女なんて、ふざけた名前はやめて。私は影未、薄頼影未よ」
「わざわざご説明ありがとうよ、超能力女」
ヘルズがあえて相手の感情を逆なでするように言う。
影未のこめかみに青筋が浮かんだ。
「いいわ、やってあげる」
影未は薄く笑うと、ヘルズに突進した。突進と共に数本のワイヤーを飛ばし、ヘルズの逃げ場を塞ぐ。逃げ道封鎖にヘルズの対応が遅れた瞬間、ティルムズが突っ込み拳の乱打をくらわせる。ヘルズの身体が面白いように吹き飛び、壁に激突して止まる。その様子を見て、影未は失笑する。
「あら、もうおしまい? 主席様も、案外大した事ないのね」
「大丈夫だ、このくらい何の問題ないぜ」
ヘルズが起き上がり、拳を構える。
「さあ、勝負だ超能力女と人造人間。二人まとめてかかって来い!」
次回、久しぶりのバトル回!




