敵は思いの外強かった。
一日、更新遅れてしまい申し訳ございませんでした。
「じゃあ、お望み通りかからせてもらうわ、怪盗主席さん」
影未はタン、タンとステップを踏むと、ワイヤーを数本放った。同時に、ティルムズも動く。
瞬時に、ヘルズは敵の攻撃力を分析する。
まずは、影未。彼女のワイヤーは、捕まる事でその真意を発揮する。ただし、速度は大した事はないので、放っておいても平気だろう。
次に、ティルムズ。拳を合わせていないので明確には分からないが、なんだか嫌な予感がする。
人造人間なのも相まって、戦闘能力は未知数だ。
よってヘルズは、ティルムズの戦闘力を測るため、ティルムズ一人を攻撃の対象に絞る。
「《七連撃・倍速刺突》!」
軸足を変えた七連撃の回し蹴りをくらわせると、ティルムズがバランスを崩した。その隙を逃さず、ヘルズは素早く拳を引く。
「《叛逆未遂――――》」
拳を引くと同時、深く一歩踏み込む。足に全体重を掛け、床を蹴る。
「《雷》!」
慣性の法則で身体が前に押し出され、ヘルズがティルムズに急接近する。そのまま神速の突きを叩きこみ、駄目押しのタックルを見舞う。その顔が驚愕に固まった。
「おい、一体どうなって――――」
その言葉が言い終わる前に、ティルムズが身体を捻った。なんの変哲もない、ただの蹴り。しかし、その蹴りはヘルズの腹に突き刺さり、彼の身体を大きく吹き飛ばした。
「がはっ!」
ヘルズの身体が半分、壁にめり込む。それでも敵に隙は見せまいと立ち上がろうとしてかっ血し、床に倒れ込んだ。
「あ、ははははは! 無様ねえ、ヘルズ」
影未はそんなヘルズに哀れみの目を向けると、ティルムズに命令した。
「終わらせな、ティルムズ。もう時間がない。早くしないと計画に支障をきたす」
ティルムズはうなずくと、ヘルズの元まで歩いて来た。そのまま無言で足を振り上げる。
―――このままじゃまずい。
ヘルズは瞬時にそう判断すると、壁に手を突き立ち上がった。拳を胸の前で構え、煙るような速度で連打をくらわせる。
「《スプラッシュ・インパクト》!」
拳を極限まで握りしめる事で、鋼鉄並みの硬さにして放つラッシュ。人間はおろか、ロボットですらくらえばひとたまりも無い。拳はティルムズの顔、鳩尾、腹に集中的にヒットし、数歩後退させる。だがそれと同時、ヘルズの手の骨にひびが入った。
「どうなってるんだよ、オイ⁉」
ティルムズの狙いすました右フックがヘルズの頬に突き刺さり、ヘルズはまた吹き飛ばされる。口の中が切れたのか、口の中に鉄分の味が広がる。
「ごめんなさい。もう貴方と戦っている時間はないの。だから、死んで」
影未の声が聞こえた瞬間、ヘルズの背後で殺気が爆発した。反射的に床を転がると、一瞬前までヘルズの居た空間をナイフが通過した。
「動くと痛いわよ。すぐに終わるから、じっとしていなさい」
まるで注射を打つかのような軽い口調で、ナイフが振るわれる。手元は見えない。ナイフだけが、独りでに動いている。
「やっぱ、光学迷彩か」
ヘルズの意識が宙を舞うナイフに集中する。その時、背中に強い衝撃が走る。
「後ろ、忘れてない?」
(しまった!)
宙を飛ぶナイフに気を取られて、ティルムズの存在をすっかり忘れていた。ヘルズの身体がうつ伏せに倒される。そこを影未のナイフとティルムズの蹴りが襲う。
「ぐはぁ!」
痛い。とても痛い。
血の流し過ぎなのか、視界がぼやける。ティルムズの打撃のせいで、身体のあちこちが悲鳴を上げている。正直、もう帰りたい。
というか死ぬ。このままだと間違いなく死ぬ。
「ああ、そうそう。冥土の土産に一つ聞かせてあげるわ、厨二病君。貴方がティルムズに攻撃を当てるたびに、思ってた疑問の答えを」
影未が嗜虐的な笑みを浮かべながら、ヘルズの足を踏みつける。ヘルズはそれに呼応するように笑うと、手に力を込めた。
「俺がコイツに攻撃をするたび、思ってた疑問か? ああ、それなら解消したぜ」
ヘルズの回答に、影未は眉をひそめた。
「へえ?」
ヘルズの感じていた疑問、それは硬さだ。
あのティルムズとかいう人造人間に最初に触れた時、その身体は柔らかかった。おそらく粘土だろう、と思う程の脆さだった。
だが、ヘルズが攻撃をくらわせた瞬間、その材質が変化した。まるでコンクリートを殴っているかのように材質が固くなり、攻撃したヘルズ自身もダメージを負った。
「その人造人間、錬金術も使えるのかよ・・・世界って広いな」
ヘルズのその言葉に、影未は関心したような表情を見せた。
たった数手で、ばれてしまうとは思っていなかったらしい。
「まさかばれちゃったとはね。まあいいわ。お察しの通り、この子は物質返還が出来るわよ。この子の元の物質は粘土だけど、物質返還を使ってどんな物質に変わる事だって出来る。――そう、超合金にだってなれるわよ」
ヘルズの《スプラッシュ・インパクト》を受けた物質は超合金らしい。だから俺の拳がダメージを受けたのか、とヘルズは納得する。超合金なら仕方がない。人間の拳が、超合金に勝てるはずが無い。
「ああ、それからもう一つ。これは本当にどうでもいいんだけど、ティルムズの開発コンセプトは『幼女では絶対に勝てない化け物』らしいわよ。何でも、幼女誘拐のために作られた人造人間だって。昔の幼女は随分強かったのね」
そこまで言うと、影未は嘆息した。
「まあ、どうせこれから死ぬ貴方には関係ないけど。ティルムズ、トドメを刺しなさい」
「オイオイ、その言葉は一応死亡フラグだぜ――――」
ヘルズは寝たままの状態で身体を回転させると、ブレイクダンスを舞った。脚が縦横無人に蹴りだされ、近くに居た影未を襲う。影未が一歩引いた瞬間ヘルズは壁を蹴り、バク転の要領で立ち上がった。
「よし、まだ動ける」
腕を軽く振り、まだ充分に動ける事を確認すると、ヘルズは影未に向き直った。
「その状態で、まだ続けるつもりなの?」
影未が呆れた声で言った。その目には殺意など一切ない。ただ同情と哀れみが浮かんでいた。
「大丈夫だよ、まだ戦える」
ヘルズが明るい声で言い、腰を落とす。
「俺は少年漫画の主人公じゃないし、女と戦うのも好きじゃない。何より俺は怪盗。宝を盗むコソ泥であって、正面戦闘なんてもってのほかだ」
「だから何? 降参でもしたいの?」
影未の言葉にヘルズは首を振った。
「そんなつまらない事、俺がするわけないだろ。人の話は最後まで聞け。というかそもそも俺は、お前と戦う理由が無い。王女に説教し終わった今、別にこの宮殿に用はないし。さて問題。じゃあ何で俺はここに居ると思う?」
ヘルズが聞いた時、ティルムズが動いた。旋風のような速度でヘルズに接近し、拳を振りかぶった。
「答えは、そこに非日常的な敵が居るから」
ゴッ! という鈍い音が響いた。
次回、この世界に不満がある人も、ない人もぜひ読んでください!




