怪盗、ついに動き出す! (ストライキはどこに行ったのでしょうか?)
昨日、更新できなくて申し訳ございません!
昨日のPVを見て愕然としました。・・・毎日投稿、頑張ろう。
降谷のツテで自家用ジェットを借り、乗ること五時間。ヘルズ一行はシェルマンジェ宮殿に最も近いホテルの一室に居た。
「作戦はさっき説明した通りだ。決行は今から十五分後。準備はいいか?」
ヘルズがメンバー全員の顔を見渡しながら聞く。
「確認するわよ。私と姫香ちゃんが部屋で二人に指示を出す担当で、ヘルズが侵入担当。そして降谷先生が露払い、という事で間違いない?」
二ノ宮が念を押すように尋ねる。ヘルズはそれに頷くと、全員に告げる。
「作戦開始まで、あと十分ある。それまで各自身体を休めておけ。では解散」
ヘルズの命令を皮切りに、皆別々の行動を取り始める。
降谷は拳銃の手入れを開始し、二ノ宮はベッドに寝転がった。何もする事がない姫香は、目に眼帯を装着し、腕に包帯を巻いているヘルズの元に向かった。
「あの、ヘルズさん」
「どうした?」
姫香の心配そうな口調に気が付いたのか、ヘルズは顔を上げた。
「今回の侵入、危険ですか?」
姫香の質問に、ヘルズは顎に手を当てた。
「まあ危険と言ったら危険だな。俺達が侵入するのは王宮だ、そりゃ一筋縄じゃいかないだろ」
「無理、しないでくださいね」
姫香の言葉に、ヘルズの目が丸くなった。それを誤魔化すかのように、ヘルズは饒舌になって答えた。
「無理? そんな物した覚えがないな。そもそも俺みたいな自分中心主義者が誰かのために無理をするわけないだろ。誰かのために身を粉にして働くとか、くっだらねえ」
それは姫香に言っているというよりは、まるで自分に言い聞かせているようだった。
「大体、俺は怪盗だぜ? 昔から怪盗は自由気ままに生きるって相場が決まってるんだ。そんな俺が誰かのために全力を振るうとか、天地がひっくり返ってもあり得ないね」
見苦しくのたまうヘルズを、姫香は温かい目で見ていた。
そして口を開くと、優しい口調で言葉を紡いだ。
「でもヘルズさんは、私のために全力で戦ってくれました。血まみれになっても、ふらふらになっても諦めずに。そして、私を助けてくれた」
姫香の発言に、ヘルズは一瞬驚いた顔をした。どうやらばれていないと思っていたらしい。だがすぐに元の表情に戻すと、減らず口を叩いた。
「ただの気まぐれだよ。それに、お前を助けたのは自分のためだ。ほら、近くに美少女を侍らせていたっていう男の願望だよ。だから別にお前のために助けたわけじゃない」
どこまでも姫香のためではないと言い切る。まるで善も悪も全て自分が抱え込んでいるかのように。姫香は手を伸ばすとヘルズの手を取った。
「それでも、私がヘルズさんに救われた事は変わりません。ヘルズさん、そんなに一人で抱え込まないでください。辛い事があったら、私に相談して下さい」
そこで一旦言葉を切ると、姫香は儚げに微笑んだ。
「だって、私はヘルズさんの所有物なんですから」
姫香は二週間前、ヘルズによって盗まれた。
それは、姫香がヘルズの所有物である事を示す、確たる証拠ではないだろうか。
そして、所有物である以上、所有者に最も近い存在になれる。
「くくっ」
ヘルズが眼帯を抑えながら笑う。マントをばさり、と翻して姫香の方に向き直る。
「お前もなかなか屁理屈が上手くなったじゃねえか。実に素晴らしい事だな、全く」
そう言うと大きく伸びをする。
「心配してくれてありがとうよ。でも大丈夫だ。今回の敵は雑魚ばっかりだからな。このヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングにかかれば、超余裕だ。ちゃちゃっと片づけて来るよ」
「はい、期待してます。あ、それから一つお願いが―――」
姫香の縋るような視線に、ヘルズは怪訝そうな顔をした。
「どうした? そんな顔して。お願いって俺にか? 言ってみろ」
「あ、あの、この戦いが終わったら―――」
「はい、ストップ」
言いかけた口をヘルズの手で塞がれ、姫香の言葉が止まる。手のひらごしに伝わって来るヘルズの体温に胸が高鳴る事を覚えながらも、慌ててヘルズの手から逃れ、糾弾するように叫ぶ。
「な、何をするんですか⁉」
「その台詞は、お約束の死亡フラグだ。お前、激励するふりしてさりげなく仲間を殺してるんじゃねえよ」
その言葉にハッとなる。確かに今のは紛れもない死亡フラグだ。
「す、すみません」
「いいって、別に。それと、お前からの『お願い』って奴は仕事が終わってからでいいか? 代わりにお前のお願いを一つ、何でも叶えてやるよ」
ヘルズの言動に、姫香は驚愕した。
唯我独尊、自己中心的思考のヘルズが、自分の首輪を一つただで渡すと言っているのだ。これほどのチャンスはない。
「あ、ありがとうございます」
「礼はいらねえよ。元々待たせたのはこっちだしな。――――おい、二ノ宮、ニセ教師。休憩は終わりだ。仕事の時間だ」
ヘルズが壁に掛けられている時計を見ながら、作戦決行の時間を告げる。その言葉に二人は素早く反応し、ヘルズの前に直立不動の姿勢で立った。
「じゃあ、行こうか」
ヘルズが気の抜けた声で言い、部屋から出る。降谷もその後に続き、部屋から出た。
「姫香ちゃんは必要に応じてヘルズに指示を出して。私は降谷先生の方をやるわ。多分こっちの戦いの方が、激戦になると思うから」
ヘルズと降谷が居なくなった瞬間、二ノ宮が姫香にラジオを滑らせながら指示を出す。その顔は目の前にあるパソコンに向いており、何やら熱中した様子で文字を打ちこんでいく。
「りょ、了解」
姫香は返事をすると、ラジオのスイッチを入れた。このラジオは、ヘルズのインカムと通信が出来るようになっている優れものだ。
「ヘルズさん、聞こえますか?」
しばらくすると、ヘルズの退屈そうな返答が帰って来た。
『あー、まだ大丈夫。まあもうすぐ敵が来るだろ』
「そうですか。では気を付けてください」
『ああ、充分気を付ける』
ヘルズの笑い声が聞こえ、回線が遮断される。ヘルズがインカムの電源を落としたのだ。
「あ、ちょっと!」
姫香が叫ぶも、時すでに遅し。あとにはザーッ、とした音しか聞こえない。
「あの人、何考えてるんですか⁉」
姫香は憤慨しながらラジオの電源を切った。
イギリスの空港に、その男は現れた。
上層部の指令ではるばるイギリスにやって来たものの、やる気のなさからか時折あくびを噛み殺している。
「ったく、面倒な指令だな」
飛行機の中で何回も読み返した指令所をパタパタと煽りながら、男はぼやく。その後ろを、数人の部下がついて来る。部下の一人が、男に言う。
「本当にこんな所に、ヘルズは現れるのでしょうか」
「まあ、来るからこんな任務が来たんだろうよ」
ヘルズを追う事約一年。その度に何度も惜しい所で逃げられ、苦汁をなめて来た日々。
「今日こそ奴を捕まえてやる!」
そう叫ぶ男の名は――――松林尚人。
二六歳独身の、破天荒な刑事である。
「でも、どうして警視総監は私達にこんな指示を出したのでしょうか」
部下の言葉に、松林は肩をすくめた。
「さあな。俺達が『ヘルズ担当係』だからかもしれないな。なんでも噂によれば、ICPOとかいう奴らが上層部に俺を推薦したらしい」
「あ、ICPO・・・・」
松林の言葉に、部下たちが驚愕する。
今回、松林に与えられた任務は、『ICPOの警察を率いて、ヘルズを逮捕する事』だ。松林はその任務を遂行するために、部下を率いてこうしてイギリスまで出向いたのであった。ちなみに費用は全てICPOとか言う奴ら持ちなので、嬉しい限りだ。
「あ、そうそう。何かヘルズを捕まえたら、ICPOから報酬として百億円がもらえるらしいぞ」
松林の発言に、部下たちが絶句する。
「ひゃ、百億円・・・」
「じょ、冗談だろ・・・」
だが松林はそんな部下たちの反応を見て、首を傾げた。
「どうした? よく分からんがどうせ大した金じゃあるまい。ヘルズを捕まえたらその金で牛丼でも食いに行くぞ」
そう言って、一人でスタスタと歩いて行く。部下たちはその背中を見ながら、首筋を冷や汗が伝うのを感じた。




