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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と自由になりたい王女
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怪盗は、ヒーローと紙一重だそうです。

 敵は路地裏などで、喧嘩の経験を積んだ人間たち。


 対するこちらは、かたや機械人間、かたや第六期怪盗主席。


 勝負の行方は、一目瞭然だった。


「えいっ」


「うわああああッ!」


「《没落(ぼつらく)権勢(けんせい)天覧(てんらん)(ざくら)》!」


 チャルカがチンピラの胸倉を掴み、空に投げ飛ばす。絶叫したチンピラの鳩尾を、ヘルズの踵落としが抉る。ヘルズは地面に降り立つと、襲い掛かって来たチンピラの攻撃にカウンターで返しながら、チャルカに叫んだ。


「おいチャルカ! 何かその機械の手、性能良くなってないか⁉」


「うん。医者に壊れた事言ったら新しいのくれた」


「おかしいな、機械の手は裏家業の技術だったはずだけど!」


 他愛もない話をしながらも、二人は確実に敵を倒していた。直接殴りかかって来る相手にはチャルカが、刃物などを使ってくる相手にはヘルズが担当し、機械の手や木刀、徒手空拳で敵の意識をたやすく刈り取って行く。


「ぐぬぬぬぬ・・・・」


 その様子を見て、劣勢と悟ったのだろう。姫香を押さえつけていたチンピラが、無我夢中でチャルカに殴りかかって来た。チャルカはそれを見ると、無造作に木刀を振るった。木刀はチンピラの顎にクリーンヒットし、チンピラは仰向けに倒れた。これで親玉を除いて、チンピラは全滅だ。


「おいお前ら、コイツがどうなってもいいのか⁉」


 その声にヘルズとチャルカが声のした方を向くと、そこにはぶるぶる震えながら二ノ宮の首筋にナイフを突きつけている親玉の姿があった。大量に居たチンピラが全滅した事実が、未だに信じられないのだろう。その手はガタガタと震えている。


「こ、コイツがどうなってもいいのか⁉」


 親玉が震える声で再度聞いた。ヘルズはそれを聞くと退屈そうに頭を掻いた。


「そうか。ついにお決まりのパターンにまで手を出したか」


 そう言うと、ヘルズは腰を落とした。


「じゃあ仕方ない。ここは怪盗としての俺ではなく、ヒーローとしての俺が相手をしてやろう」


「か、怪盗だと・・・」


 親玉の顔に、戦慄が走る。


「お、お前、まさか・・・」


(何で自分の正体を明かしちゃうのかなこの人・・・)


 チンピラから解放され、両腕をさすりながら姫香は苦笑した。


「フッ、ヒーローとしての俺の必殺技『へべれけ大絶叫パンチ』をくらうがいい!」


「な、何だそのパンチは―――?」


 親玉が驚愕を隠しきれない顔をする。まあ、誰だってそんな怪しげな名前を聞けば驚くだろう。というか、ネーミングセンスがこの上なくない技だ。


 ヘルズはニッと笑うと、拳を構えて突進した。


「行くぜ。必殺! 『へべれけ――――」


 ヘルズの突進に怯んだ親玉がナイフを盾にして守ろうとする。それを見てヘルズは白い歯を見せて笑い―――――


「『大絶叫、パァァァァンチ!』」


 ――――タックルをくらわせた。


「うっぴゃあああああああ!」


 親玉が絶叫しながら、路地裏を転がっていく。どうやら名前はふざけていても、威力は本当らしい。というか、そもそもパンチですらない。


「フッ、この世に悪が栄えた試しなし!」


 ヘルズがポーズを決めながら、格好つけて言った。


「いや、ヘルズさんがそれ言ったら駄目だと思いますけど・・・」


 姫香の呟きは、自分の世界に浸っているヘルズには届いていない。


 その時、チャルカがトコトコとヘルズに向かって歩いて行き、その頭に木刀を振り下ろした。


 ボコッ、という音が響き渡り、ヘルズが頭を押さえてその場にうずくまる。


「痛ってえな。何すんだチャルカ!」


「もう敵は殲滅した。帰ってもいい?」


「ああ、いいぜ。今日は付き合わせて悪かったな」


 ヘルズが謝罪の言葉を述べると、チャルカは首を振った。


「別にいい。いいリハビリになった」


「そうか。じゃあな」


「うん。また何かあったら呼んで、主席」


 声と共に、チャルカが路地裏の奥に消える。ヘルズがそれを確認した瞬間、背中に何かが張り付いてきた。


「ごめん、ありがとうヘルズ」


 二ノ宮だった。ヘルズの背中にピッタリと張り付き、覆いかぶさるようになっている。


「お、おい、二ノ宮」


 離れろ、とヘルズが言おうとした時、耳に温かい感触を感じた。


「二ノ宮?」


「ふふふ、捕まえた」


 怪しげな笑い声と共に、今度はもう片方の耳に温かい感触を感じる。不思議に思って眼球運動で確認すると、二ノ宮はヘルズの耳を甘噛みしていた。


「に、二ノ宮⁉」


 慌てて離れようとするも、二ノ宮は強く抱き着いていて離れない。


「まあ二ノ宮は大丈夫みたいだし、まあいいか」


 二ノ宮は無視することにしたのか、ヘルズは二ノ宮を背負ったまま半回転して、姫香の方を向く。


「花桐も大丈夫みたいだな。よし、帰るぞ」


「あ、あの、ヘルズさん・・・」


「ん? どうした?」


 ヘルズが聞くと、姫香は大きく息を吸い込み、吐き出す。その行動を何回か繰り返した後、姫香は意を決したように口を開いた。


「あ、あの、実は――――」


 ぐううううううううううっ。


 路地裏に、大きな空腹音が鳴り響いた。


「・・・・あ」


 音の主は、二ノ宮だった。二ノ宮は音源が自分の腹である事が分かると、ヘルズに抱き着く力を少し強めた。


「ご、ごめん。その、お腹、空いちゃって・・・・」


 その声は、いつもの自信に満ちた声ではなく、とてもか細い、かよわい女子のようだった。やはり二ノ宮も一人の女子らしく、腹の音を聞かれるのは恥ずかしいようだ。


「ま、腹が減っては戦は出来ぬっていうしな。今日は外食にしようぜ」


 ヘルズはポケットから財布を出しながら、二人に提案した。


「いいわね。それ賛成」


「私も構いませんよ。たまには夕食の責務から逃れたい、とも思いますし」


 二ノ宮と姫香の賛同が得られたので、三人は場所を移し、ヘルズの一押しの店に入った。


 次回もぜひ読んでください。

 

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