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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と囚われの姫
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姫香の思い

 今回は、ヘルズがお宝の部屋に入ります。

 姫香は、部屋の中に居た。―――否、閉じ込められたと言った方が正しいのか。


 怪盗ヘルズからの予告状が届いた事により、家庭内は大騒ぎになった。その渦中に姫香は部屋に戻され、今こうして部屋に居るのだ。先ほどから部屋の鍵は掛けられている。姫香の部屋の鍵は外からしか開閉できないのだ。


「ヘルズさん・・・どうして私の家を狙ったんですか」


 枕に顔をうずめながら、姫香は誰ともなしに呟いた。その時、開け放してあった窓から強い風が吹き荒れた。


「あーあ、酷い目にあった。ったく二ノ宮の奴、絶対俺の事殺す気だっただろ」


 窓から呑気そうな声が聞こえ、姫香はハッと顔を上げた。まさか、まさか、まさか――――。


「どうした?別に死ぬかと思っただけで本当に死んだわけじゃないぞ」


 窓枠に、男が腰かけている。逆光で姿は分からないが、この憎まれ口は間違いなく――――


「ヘルズ、さん?」


「正確にはヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングだけどな」


 間違いない、ヘルズだ。姫香は首を傾げて、出来るだけ早口にならないように気を付けながらヘルズに聞いた。


「この部屋にはヘルズさんが狙っている〝喜劇を演じた美少女〟はありませんよ。あ、私を人質に取るつもりなんですか。すいません、まさかヘルズさんがそんな強盗みたいな事するとは思って無くて」


「いや、俺の狙いは確かにこの部屋だぜ」


 ヘルズが窓枠に腰かけたまま飄々とした態度で言った。姫香は笑いながらポケットから予告状を取り出した。


「今日ヘルズさんが狙う物は〝喜劇を演じた美少女〟ですよ。それがあるのは下の階の宝石室ですよ」


 だがヘルズの口から出てきた言葉は衝撃的な物だった。


「ああ、俺、あんな彫刻に興味ないから」


 姫香の身体が固まる。じゃあこの怪盗は何をしに来たというのか。


「あ、後もう一つ言っておくと」


 そんな姫香の心情も知らずに、ヘルズは指を一本立てた。


「俺は、白馬に乗った王子様じゃねえ」


 その言葉で、ようやく我に返る。


「ちょ、ちょっと待ってください。〝喜劇を演じた美少女〟を盗みに来たんじゃないなら、一体何を盗みに来たんですか?」


「はあ?何言ってんだお前」


 姫香の言葉に、ヘルズが不機嫌そうな声を出した。


「俺はちゃんと〝喜劇を演じた美少女〟を盗みに来たぞ。お前の目は節穴か?」


「はい?」


 意味が分からない。この部屋にそんな物は――――――――――


「お前の事だよ。〝喜劇を演じた美少女〟、花桐姫香」


 ヘルズは、断定した口調で言いきった。


「どうしたんですかヘルズさん。私が〝喜劇を演じた美少女〟なわけないじゃないですか。だってほら、毎日が楽しいですよ、演技なんかしなくても」


「両親による虐待、辛かっただろうな。でもその〝喜劇〟の仮面、俺の前では取っていいんだぜ」


 ――――この人は何もかもお見通しなんだ。


 そう思った瞬間、膝から力が抜ける。辛かった日々が蘇る。


 ある日突然両親から暴行を受け、部屋の鍵を外からしか開けられなくされた。学校から帰ってくると部屋に閉じ込められ、夕飯の時まで部屋から出してもらえない。かといって学校からそのまま遊びに行けば、「門限は三時だ」と無茶苦茶を言われ殴られる。かろうじて弁当は作ってもらえるが、夕飯は満足にもらえず、常時空腹状態だった。報復が怖くて友達や学校の先生にも相談できず、それを悟らせまいと必死に笑顔の演技を続けた。


「いつから、見抜いてたんですか」


「ああ、最初にお前と握手した時から」


 ヘルズがあっけらかんと言ってのける。姫香は驚いて顔を上げた。


「えっ?」


「お前、握手するときに手のひらの一部を触れさせようとしないだろ。あれって昔痣があっ

たからじゃないか?」


 姫香は絶句した。まさか無意識の内にそうなっていたとは。


「しっかしお前の両親も手の込んだ事するよなー。わざわざパンを焦がして置いとくなんてさ。普通に焼いてないの渡せばいいじゃん」


 そう。バスケットの上にあり、姫香の朝食となっている焦げたパン。あれは姫香の朝食として義務付けられた物だ。「朝はお前の顔を見たくない」と言われ、両親が毎朝の朝食代わりとして部屋に置かいた物が焦げたパンなのだ。姫香も一度、「どうして焦げたパンなの?」と聞いてみたが、「うるさい!」と怒鳴られ殴られた。流石に朝食を食べなければ元気が出ないため食べているが、あまりの不味さに毎日吐きそうになる。


「花桐紫苑。大手企業の副社長で、いつも社長の説教を受けてストレスが溜まっている。好きな事は自分よりも下の者の無様な様を見る事。妻、花桐文香。不動産屋で仕事をしており、家が売れないのを娘のせいにする駄目人間。ったく、どっちも最低だな」


 ヘルズが懐からレポート用紙を取り出し、文章を読み上げ始める。姫香は「どこでそれを・・・」と思ったが、降谷の本職はスパイだという事を思い出した。スパイにとって、情報収集はお手の物だろう。


「お前は虐待を受けながらも、外ではそれを一切見せずに笑顔で過ごした、まさに喜劇を演じた美少女だよ」


 ヘルズが姫香の頭を撫でながら微笑んだ。姫香はヘルズの顔を見上げて、ヘルズに聞く。


「一つ、聞いてもいいですか」


「ああ、構わないぜ」


「どうして、私なんですか?私なんてしょせん両親のサンドバッグ。他に何の意味も無いのに・・・」


 両親から何度も言われた。お前はただのサンドバッグなのだと。他に何の意味もないのだと。暴行がエスカレートするたびに、姫香もだんだん自分はただのサンドバッグなのだと思い始めた。サンドバッグを助ける人間がどこに居るのだろうか。


「私は両親のサンドバッグ。ただそれだけです。私自身には何の価値も無いんです。私には何もないんです。空虚なんです。ヘルズさんも、こんな私、嫌でしょう?」


 自嘲するように笑いながらヘルズを見る。ヘルズが頭に乗せていた手を払い、立ち上がる。


「もう、私に構わないでください。私なんか、居ても居なくても変わらないのだから!」


 卑屈に歪んだ姫香の言葉を、ヘルズは黙って聞いていた。


 両親の虐待によって歪んでしまった姫香。ヘルズ、どうするか!?必見です。

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