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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と文化祭
120/302

テロリスト掃討戦①

「聞こえなかったのか? 俺こそが最近世間を騒がせている天才怪盗、ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングだ」


「え、えっと・・・」


 女は困惑している。まあ無理もない。今までヘルズの真名を聞いても平然としていた者はいない。大抵今のように困惑するか、「え、何だって?」と聞き返してくるのがオチだ。


「まあ長いからヘルズでいいさ。すまないな、初対面の相手には何となくフルネームで名乗りたくなるんだ」


「そ、そうなんですか」


 そこでようやく女は落ち着きを取り戻したようだ。


 ーーーというかこの女、どこかで見たことあるな。


(どこだっけ)


 ヘルズは記憶力がいいようで悪い。少なくとも、自分の作った必殺技(その数は200を越える)を全て覚えている。ただし、昨日食べたカップラーメンの種類を覚えていない。


(誰だっけ・・・三丁目の向井沢さん? いや違うな、あの人は今夫婦喧嘩でやらかして少年院に居るし・・・隣町の峰岸さん? いや違う、あの人はかの有名な『峰岸事件』で日本を離れたって噂だし・・・)


 ヘルズの頭に、今までに関わった一般人(?)が駆け巡る。


「あの、ヘルズさん?」


 考え込んでしまったヘルズに、女が声を掛けてくる。


「ん? ああ、どうした?」


「えっと、ここであったのも何かの縁なので、一応名前だけでも知っておいてもらおうかなとーーー」


「そうだな。いい考えだ」


 ナイスタイミング!


 ヘルズは心の中で拳を握りしめた。誰だか忘れていた所だ。


「わ、私は伊藤真理亜と言います。名字に結構多いあの伊藤に、真実の真、理科の理に亜熱帯の亜で、真理亜です」


「なるほどな」


 ーーーコイツ、姫香と一緒に自己紹介をしに来た、あの女だ。


 名前を言われてようやくヘルズは思い出す。そうだ、降谷と報酬について揉めていた時に挨拶に来た、あの3人の中の一人だ。


 ヘルズが思い出していると、真理亜が「ほら沙織も!」と後ろの女に声を掛ける。後ろの女が、前に出てくる。


「え、えっと、私はーーー」


「片道沙織だろ。知ってるよ」


 確かそんな名前だったはずだ。『片道』という名字など珍しいので、すぐに思い出せた。


 すると、沙織は驚いた顔で聞いてきた。


「はい、片道沙織といいます。よろしくお願いします。・・・ところで、どうして私の名前知ってるんですか?」


(あ、ヤベ)


 ついうっかりしていた。沙織の名前を知ったのはあくまで『黒明弐夜』という一介の学生であり、ヘルズではない。そもそも、『怪盗』としてのヘルズと沙織の面識はないのに名前を知っているなど、不自然すぎる。


「確かにそうだね。ヘルズさん、どうして分かったんですか?」


 真理亜も不自然に気づき、ヘルズに聞いてくる。ヘルズは超高速で脳を回転させる。いい言い訳、何かないのか。


「そ、その、あれだよ。ほら、俺レベルになると死神の目みたいな能力が時々発動するんだよ。な、知ってるだろ? 死神の目。あれのおかげだよ」


 真理亜と沙織はポカン、としている。だが無理もない。本当に無理もない。今の嘘は本当に見苦しい。


「ま、まあそんな訳でだなーーー」


 ヘルズが無理矢理言いくるめようとしたその時ーーー


「おい、そこで何をしている⁉」


 テロリストが現れた。


 某RPGのようになってしまったが、至って真面目だ。手にはMP5を構えており、その顔には覆面。今回の事件におけるテロリストの正装だ。


「きゃあ!」


 真理亜が叫び、床に伏せる。沙織も目に恐怖を浮かべて、真理亜に続く。だが、


 ーーーナイステロリスト!


 ヘルズは内心で大喜びしていた。話が中断された。これでもう名前を知った件について追求される事はない。


 ヘルズが沙織の名前を知っていた事に関する言い訳と、目の前にいるテロリストを倒すこと。どちらが簡単かと言えばーーーー


(断然、テロリストを倒す方だろ!)


 敵がヘルズを視界に捉え、引き金を引くーーーよりも速く、ヘルズは動く。弾かれたように直線上に走り、スピードを緩めずタックルをくらわせる。


「ぐおっ!」


 相変わらず無様なうめき声を上げながら、敵が吹き飛んでいく。ーーーテロリストは無様なうめき声を上げなければならないルールでもあるのだろうか。


「またワンパンか。大丈夫かコイツら。テロリストつったら強いイメージがあるんだけどな。桂小太郎とかナイトレイドとか」


 いや、ナイトレイドはテロリストじゃなくて革命軍か、などとヘルズは呟きながら、吹っ飛んだ敵の身体に指を突き入れた。グチュリ、というグロテスクな音が響き、ヘルズの指が敵の身体の中に入る。


「コイツはきっと大丈夫そうだが、年のためーーーー」


 躊躇いもなく指を抜く。そして指先についた血をなめながら、敵の傷口を確認する。その傷はーーー治らない。


「コイツは違うのか」


 どうやらこの敵は『細胞強化プロジェクト』の被験者ではないようだ。


『細胞強化プロジェクト』によって能力を手に入れた者は、大きく分けて2つの能力に分類される。


 回復系と攻撃系だ。


 回復系は名前通り、自分の身体を修復、再生する能力の事だ。《人工(コード)ナミウズムシ》や《人工不死鳥(コード・フェニックス)》などがこれに当たる。


 攻撃系も名前通り、自信の肉体を強化するものだ。これはほぼ全般である。ゴリラやカンガルー、ゾウにクジラ・・・なんでもござれだ。


 ちなみにヘルズの持つ《人工吸血鬼(コード・ヴァンパイア)》はその両方を兼ね備えている、稀有な能力だ。この事からも、いかに吸血鬼が強いかが分かる。


「人外解放状態ではない俺の指が通るほどの肉体の脆さ、そして怪我をしても回復しない・・・間違いない、ただの人間だな」

 

 診断を終えると、ヘルズは立ち上がる。雑魚に興味はない。さっさとボスを潰して、家に帰りゲームをやる。今はそれだけだ。


「そう言えば、あの二人はーーー」


 後ろを振り返ると、真理亜と沙織は抱き合った状態で座り込んでいた。ーーー二次元ではありがちな光景だが、実際に見ると少し異様な感じだ。


「おい、大丈夫か。敵はもう倒したぞ」


 ヘルズは声を掛けながら、二人の元へ戻る。二人は最初警戒していたが、ヘルズの姿を見ると肩の力を抜いた。


「ああ、ヘルズさんか・・・」


「私達、助かったのね・・・」


 やはり一般人から見ればテロリストは怖いのだろう。二人は安堵の息を吐くと、やや躊躇いがちに立ち上がった。


「ん?」


 その時、ヘルズは真理亜が腰に服らしき物を巻いているのを見つけた。しかも服は血にまみれている。


「どうしたんだ、それ?」


 ヘルズが真理亜の腰を指差しながら聞くと、真理亜は「ああ、これですか」と腰の服をほどき、ヘルズに見せる。


 それは、真っ赤なレインコートだった。


 服の至るところに血が付着し、到底着られる代物ではない。どこをどうしたらこれだけの血が着くのか、今まで数々の修羅場を潜ってきたヘルズですら想像もつかない。


「さっき廊下に落ちてたのを拾ったんです。警察が来たときとかに使えるかな、って思って一応拾っておいたんです」


 よくもまあそんな危なそうな物を拾えるな。


 ヘルズはそう思ったが、あえて言わないでおいた。代わりに、レインコートについて、もう少し掘り下げて聞くことにした。


「どこら辺の廊下に落ちてたんだ?」


「えっと、確か上の階だったような・・・どうしてそんな事聞くんです?」


「いや、ただの興味本意だ。深い意味はない」


 真理亜にキョトンと顔を向けられたので、とりあえず不安がらせないようにしておく。だが頭では、別の事を考えていた。


(これだけの血の量、尋常じゃない。おそらく20~30人、最悪1クラス全員死んだ可能性が高いな・・・チッ、面倒な奴らが来たもんだな)


 いくら裏社会の住人であろうと、ヘルズも人間だ。これだけの人数が死亡すると少しは心が痛む。


「あ、あの、ヘルズさん」


 思考中のヘルズに、沙織が話しかけてくる。


「どうした?」


「そ、その・・・」


 沙織は一瞬目を伏せると、すぐに真剣な目になってヘルズを見た。


「私達にも、なにか手伝えることはありませんか?」


「何?」


「このまま何も出来ないのは嫌なんです。お願いします、私達にも協力させてください」


 そう言うと、沙織は頭を下げてきた。遅れて、真理亜も頭を下げる。


「わ、私も、手伝いたいです。そ、その、ヘルズさんと協力して何かをやりたいっていうか、その、何というか協力したいです。お願いします!」


 ヘルズはそれを聞いて、静かに考えていた。


(確かに戦力にはなるかもしれない。武器の調達、生徒の避難誘導、色々使える。だが、果たしてこんなか弱い一般人を、巻き込んでもいいんだろうか?)

 

 ヘルズは駄目人間だが、無関係な人間は極力巻き込まないようにはしている。それは彼にとってのルールであり、それを破ることはほとんどない。


 つい先日、『血まみれの指』のリーダー、北見方との最終決戦の際、人の少ないグラウンドで戦うことを承認したのも、そういう理由がある。


(だが、事は一刻を争う。ここでコイツらを使わなかった事で、さらに一般人の犠牲が増えたら本末転倒だ。ならば仕方ねえ、使うしかないか)


「仕方ねえ、いいぞ。協力してくれ」


 すると、真理亜はパッと顔を輝かせた。


「いいんですか⁉」


「ああ、ただし危なくなったらすぐに安全な場所に逃げ込め。お前らの安全は99%俺が守る。だから残りの1%は自分で守ってくれ」


 それが彼女たちを使うヘルズの義務だ。


「「はい!」」


 ヘルズの言葉に、真理亜と沙織は大きく頷いた。


次回は11月29日更新予定です。

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