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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と文化祭
119/302

テロリスト達の謎

 人生とは、理解者を探す旅である。

ーーーー《深淵に眠る漆黒の経典》より一部抜粋

「はああ!」


 チャルカの会心の一撃が走る。


 あれから数十合の打ち合いの後、先に疲れたのは敵だった。

そこを、チャルカは狙っただけだ。


「・・・!」


 x-08が声にならない驚きの声を上げ、チャルカの攻撃を受け止める。だが疲れによる物だろう、その体がグラリと揺らぐ。


 その隙を逃すチャルカではない。


「今!」


 チャルカの鉄塊のフルスイングが走り、x-08のこめかみに炸裂した。バランス感覚を失ったx-08が、床に倒れ伏す。


「もらった!」


 そこに、鉄塊を振り下ろす。鉄塊はx-08の後頭部に当たり、その頭を床にめり込ませる。標的を倒しきり、チャルカは満足そうな声を上げる。


「これで、よし」


 だが、これで意識があったら格好がつかない。チャルカは一応脈を図ろうとx-08の首に手を当てた。


 その目が大きく見開かれる。


「嘘。まさか、これってーーー」 









「かかっ」


 一方、綾峰の戦いも、終盤戦に突入していた。


 先程から綾峰がオーラを打ち、黒ずくめがそれを消し飛ばすーーーといった流れだが、それももう終わりだ。


「よくもまあ、ここまで妾と打ち合えたものだのう。じゃがーーー」


 綾峰の身体から、凄まじいオーラが噴き出す。それらは一点に収束すると、4つに分断された。


「それも、ここまでかのう」


 分断されたオーラがそれぞれ集まり、形を形成していく。それはーーー





「玄武、白虎、朱雀、青龍・・・四神の大サービスじゃ」


 


 オーラによって作られた霊獣を見て、綾峰は得意そうに鼻を鳴らす。


「珍しく楽しめたぞ。ではさらばじゃ」


 綾峰の声と共に、4体の霊獣が黒ずくめに襲いかかる。黒ずくめはそれを見ると、腕を伸ばした。


「・・・・無駄だ」


 どうやら、また消し飛ばすつもりのようである。その顔には、一切の感情の振幅は見られない。


「ならば受けて見るがいい、妾の一撃を!」


 白虎と青龍が黒ずくめの腕に牙を突き立て、食いちぎる。黒ずくめは反応しようとしたが、遅い。腕が肩から引きちぎられ、持っていかれる。


「・・・・ッ!」


 ここで初めて、黒ずくめの顔に焦りが生まれた。黒ずくめは足を使って霊獣を消し飛ばそうとするが、もう間に合わない。


 玄武が黒ずくめの膝を噛み砕き、朱雀が心臓めがけて一直線に飛ぶ。心臓を貫かれ、黒ずくめは血を吐く。


「が、は、あ・・・・」


「ここまでやられてまだ倒れんとは、なかなか良い体幹をしておるな。まあ良い。早く散るのが一番楽じゃぞ」


 綾峰は関心したように言うと、指を鳴らした。オーラが収束し、巨大な鎌が出来上がる。オーラの鎌は勢いをつけると、黒ずくめの首を刈った。もう腕もなければ片膝もない、黒ずくめが避けられる手段は、何一つ残っていない。黒ずくめの首が飛び、床に転がる。


「・・・全く、手間取らせおって」


 敵を殲滅した事を確認した綾峰は、オーラの実体化を解く。そして、床に膝を突く。


「・・・さすがに、これだけの数を短時間に顕現させると、きついのう・・・」


八岐大蛇(やまたのおろち)》に、四神に、その他もろもろ。


 オーラを動かすのは、思念である。つまり綾峰のオーラ操作とは、『自分の脳を使って物質を自由自在に操作する』という、超能力に近いようで遠い能力だ。


 これを多用すれば、当然脳にも疲れが出てくる。それも多くの量のオーラを使えば使うほど、脳の疲れは尋常ではなくなる。


 四神を一体顕現させるだけでも、将棋のプロ棋士の対局一局と脳の消費量は相違ない。それを四体も顕現させ、かつ《八岐大蛇(やまたのおろち)》まで作り出したのだ。廃人になってもおかしくないような負荷がかかってくる。


「まあ、妾のIQは220・・・常人ではないからのう。それに3年間の修行のおかげで、オーラの燃費もかなりよくなっておる。じゃが、それでもきついのう」


 まさか妾が膝を突くことになるとは、と綾峰は悔しそうに膝を撫でる。その時、死んだはずの黒ずくめから、カタカタという音が鳴った。


「はて、なんの音かのう」


 不思議そうに首を傾げ、綾峰は立ち上がる。腐っても元・暗殺者次席。体力の回復スピードは早い方だ。首の取れた黒ずくめを見て、綾峰はーーーー絶句した。


「これはーーーー」










「なあ、おかしいとは思わないか」


 敵の遺体を踏みつけるようにしながら、降谷はヘルズに聞く。


「何がだ、ニセ教師」


 もはや敵にも味方にも興味がなくなり、再開したゲームをやりながら、ヘルズが降谷に聞く。


 そんなヘルズを白い目で見ながら、降谷は説明する。


「『細胞強化プロジェクト』によって出来た薬は、あくまでも裏社会の、それも深淵の所で取引されているような物だ。少なくとも、こんな小テロリスト組織が持っていていいはずがない」


 当然だ。こんな物が裏社会で出回れば、大変な事になる。あくまでごく一部の、それも深淵の所まで足を伸ばさなければ手に入らないようにしなければ、あっという間に世界の均衡は崩壊してしまうだろう。


 ーーーもしこの薬が一般人の手に渡れば、それこそ大変だ。下手をすれば、『い○やしき』のような強力な力を持った一般人が生まれてしまう。それは経済の完全暴落を意味する。


「確かにな」


 ゲームをやりながら、ヘルズは首肯する。ヘルズにとっては経済が崩壊しようが、秩序が乱れようがどうでもいい。社会で働かないヘルズにはほとんど関係ない。うん、引きこもり万歳。


「まあでも、いいんじゃねえか。どうせ敵はこの程度だ。ただの動物じゃ、俺に一生勝てねえよ」


 くくっ、とヘルズは笑う。仮にどんなに敵が強くても、自分は決して負けない。何故ならーーー


「俺の持つ力は吸血鬼(ヴァンパイア)。そんじょそこらの動物じゃ歯が立たねえ。おまけに日々進歩していく分析能力。そして何より強いのがこの主人公補正! この三つがあれば、大抵は負けないぜ」


「主人公補正を能力に加えるな」


 降谷の的確なツッコミが入る。


「だがまあ、その身体能力と厨二力は凄いと思うけどな。というかお前の場合は主人公補正というより厨二力が高いだけだろ」


「ふっ、そうとも言う!」


 とりあえず全力で格好つけてみる。うん、なかなか決まってる。俺かっけー。


 だが確かに、厨二力が高いという節はある。現に、今までも厨二病のおかげで勝ち抜けた戦いも多々あった。


「ま、芸は身を助けるって奴だろ」


 敵の遺体を爪先で軽くつつきながら、ヘルズは前向きに言う。ちなみに敵を皆殺しにしたのは降谷だ。何故なら手裏剣の所持者が降谷だから。ヘルズは全く関係ない。うん、傍観者万歳。


「で、この後どうするんだ?」


 テロリストを殲滅(ゲーム内で)しながら、ヘルズは降谷に問う。早く帰って『ネバー・ファンタスティック・ストーリー』をやりたい。


「オレは綾峰、チャルカと合流して様子を見る。敵は経緯は知らないが、『細胞強化プロジェクト』の薬を手に入れている可能性がある。となれば危険はとても高い。ここはまとまって行動した方が得策だろうな」


「分かった。じゃあ俺はそこら辺をブラブラしてる。ボスが出たら呼んでくれ。すぐに駆けつける」


「おいこらテロリスト殲滅しろ」


 降谷が言うが、気にしない。そうだ、気にしたら負けだ俺はいつも正しいんだ。マヨネーズ万歳。


「じゃあな、ニセ教師。3分以内に地雷源に落ちて死ね」


「じゃあな、厨二病怪盗。6分以内にバナナの皮を踏んで滑って転んで頭打って死ね」


「テメエ、藁人形に毒針ぶちこむぞ」


「お前こそ、赤ペンで名前を書いてやろうか?」


 途方もなく不毛な口喧嘩の末、二人はそれぞれの道へと別れた。


「さて、と。どうしたものかね」


 廊下をまるで散歩するかのように歩いていく。テロリストとか面倒極まりないが、仕方ない。勝たなければこの戦いは終わらない。


「とりあえず、保健室でも行くか」


 テロリストが学校にやって来た時、保健室には敵の拠点か避難した生徒がいるのが王道だ。どちらにしろ、この緊迫した状況を打破するのには丁度いい。


「よし、向かうか」


 ヘルズが保健室に向かうことを決意したその時、目の前の教室がガラッと開き、中から人が飛び出してきた。


「な、なんだ⁉」


「ウオオオオオオオ!」


 そいつはヘルズを見ると、雄叫びを上げながら椅子を振り上げる。どうやらヘルズをテロリストと勘違いしているようだ。


「くらえっ! 必殺ーーー」


「そおい!」


 だが、ヘルズは容赦なくそいつの鳩尾に蹴りを叩き込む。別に勘違いだろうと知ったことではない。自分に攻撃してきた時点で『敵』だ。


「うっ!」


 鳩尾を的確に、かつ今まで味わったことがないであろう衝撃がそいつの身体を突き抜ける。そいつは椅子を取り落とすと、床にうずくまった。そして、そのまま気絶する。


「俺に攻撃を仕掛けたんだ、仕方ないと思え」


 しかし勘違いとは言え、コイツはテロリストに奇襲を仕掛けようとしたのだ。その勇気と根性は称賛に値する。


「ま、相手が悪かったな。これがテロリストなら、勝てる可能性もあったろうにーーーー」


「賢一! ねえちょっと賢一、大丈夫⁉」


 見ると、さっき勝負を仕掛けた奴ーーー賢一とか言う男を、おそらくクラスメイトであろう女が抱き起こしていた。その後ろから、心配そうな顔をした女が出てくる。


「なるほど。クラスメイトの女子に格好つけようとして失敗したのか。情けないなコイツ。どうせなら討ち死にしろよ」


 ヘルズが聞こえよがしに言うと、賢一を介抱していた女がキッと目を向けてきた。


「どうしてアンタたちテロリストは皆ーーーってあれ?」


 どうやら今、ヘルズがテロリストではないと気がついたようである。


「まさか、怪盗ヘルズ⁉」


 しかもヘルズだと気づいたようだ。なら遠慮は要らない。ヘルズはいつも通り、全力で格好つける。


「よく知ってるな。そう、俺こそが最近世間を騒がせている天才怪盗、ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングだ」


 するとーーーー


「え?」


 案の定、ポカンとした顔をされた。

 

次回は11月27日更新予定です。

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