厨二病とは一種の生き様であるが、大半の人から見れば、ただのおかしい奴である
ヘルズは盗みに入る時と同じ、ワイシャツにマント、首にマフラーに腕には包帯、片眼には眼帯といった組み合わせだ。ヘルズを見たことのある人間なら、一瞬で分かる格好。・・・よく見つからなかったな。
「しかし、こんな所で同じ《黒翼》を持った奴に会うとはな。これこそまさに運命なのか」
「くくっ。それはこっちの台詞だ。俺だけが持っていると思っていた能力を、まさかお前も持っていたとはな。驚きだぜ、嵯峨村・スコーピオン・ソードナイト」
黒翼が何かは分からないが、多分彼らの妄想だろう。仕方ない。ここは少し、様子を見よう。
「《黒翼》は選ばれた者だけが使用できる能力。俺もお前も、選ばれた者だと言うことか。フッ、因果関係は恐ろしいぜ」
嵯峨村が格好つけて目を伏せる。ヘルズも「全くだ」と言わんばかりに大きく頷いている。・・・よく分からん。
嵯峨村が、空のコップを掲げる。
「ではお互い、同士に巡り会えた事を祝って乾杯しようではないか。・・・グハッ!」
言葉の途中で、嵯峨村がコップを取り落とす。空のコップが机の上に落ち、軽快な音を鳴らす。だが嵯峨村は意に介さず、自分の右腕を必死の形相で押さえている。
「クソッ、こんな時にまで・・・やめろ、出てくるな!」
突然、店内で叫びだす嵯峨村に、他の客達が何事かと振り向く。心配した顔で嵯峨村達の所へ向かおうとする店員をイーデアリスが止めて、「大丈夫です。彼らの頭は少々おかしいのです。すみませんが、彼らは放っておいてください」と、上手く説明する。
周りの視線を一切気にせず、ヘルズと嵯峨村のごっこ遊びは続いていく。
「ま、まさかお前・・・・」
ヘルズが驚愕の表情で嵯峨村を見る。すると嵯峨村は押さえていた右腕から手を離し、不敵に笑う。
「すまん。ちょっと右腕に飼い慣らしていた『アイツ』が暴れだしてな。今度ちゃんと調教しておくから、許してくれ」
「その歳で『アレ』を飼い慣らすとは・・・お前、どれくらいの修羅場をくぐり抜けて来たんだ・・・グッ!」
言葉の途中で、ヘルズが眼帯を押さえる。そして、いかにも痛いかのように、叫びだす。
「ガアアアアアアア!」
イーデアリスが事前に言っておかなければ、完全に店員が飛んできていただろう。・・・ついに周りの客が動画を撮り始めた。大丈夫か、ヘルズ。
「フウ、フウ・・・・」
そんな周りの視線を一切意に介さず、ヘルズは荒い息を吐く。ヘルズの吐息に、今度は嵯峨村が驚愕の表情を浮かべる。
「お前、まさかーーーー」
「危なかったぜ。今この眼帯を外していたら、辺り一面を石化している所だった」
ヘルズが眼帯を押さえながら言う。それに笑みを消し、真剣な表情で聞く嵯峨村。
「お前こそ、どんな修羅場を生き残って来たんだ?」
「くくっ、お前と同じかそれ以上だと思うぜ」
「かかっ、違いねえ!」
すっかり意気投合して2人が握手を交わそうとしたその瞬間、2人の周りに、バリアのような物が張られた。そして、バリア内に無数のグレネードが出現する。ヘルズと嵯峨村は慌てるが、バリアに囲まれていて逃げ道はない。たちまち、爆発の波に呑まれて見えなくなった。動画を撮っていた客たちが、驚きの声を上げる。
「もっと早くから、こうしておけば良かったわ」
イーデアリスは頭を押さえている。どうやら、あの2人の会話を律儀にも理解しようとして脳の容量を越えたのだろう。馬鹿な事をしたものだ。
「あの2人、ちゃんと生きてるよな」
「知らないわよ。まあヘルズはともかく、嵯峨村は生きてるでしょ。爆発の寸前で能力で防いだみたいだし、大丈夫だと思うけど」
イーデアリスが素っ気なく言いながら、バリアを解除する。公共の場で人を殺してなんとも思わないのか、こいつは。
だが、殺人の心配をする必要はなかった。
「危なかったぜ。何だったんだ、今の」
「全くだ。能力を発動しなけりゃ死んでたぜ」
黒煙が晴れて、体から煙を上げるヘルズと、全身を光の粒子で覆った嵯峨村の姿が現れる。ヘルズの右肩からは煙が上がっており、その足元には焼けただれた腕のような物が転がっていた。
「バリアに囲まれて、爆発物投下か。まさに『奴ら』が考えそうな事だぜ」
全力で格好付けるヘルズを見て、イーデアリスが頭を押さえる。
「もう1発、放った方がいいかしら」
「おい、これ以上公共物を壊すな」
すでにテーブルを1個大破させてる事を忘れるな。
「いや、待てヘルズ。もし『奴ら』の魔の手がここに迫っているというのならば、俺達がここに固まっているのはまずい。俺はここでもう少し様子を見る。お前は早く帰って、『奴ら』の襲撃に備えておけ!」
嵯峨村の台詞に、ヘルズは戦慄した。
「そうだな。お前の言うとおりだ。嵯峨村・スコーピオン・ソードナイト。では俺はすぐに去るとしよう。またの邂逅を楽しみにしているぞ」
そう、言い残すとヘルズはファミレスを後にする。後には、同じくらい格好付けている嵯峨村と、グレネードの爆発をくらって無惨な残骸になっているテーブルが残された。
「さて、俺も『奴ら』の襲撃に備えてーーーーーー」
瞬間、どこからか現れた弾丸が、嵯峨村を襲う。
「何だこりゃ⁉」
突然の事に嵯峨村は驚き、回避が間に合わない。このままでは嵯峨村に弾丸が当たってしまう。だが心配はいらない。何故ならーーー
「クソッ、能力発動!」
嵯峨村が叫ぶと同時、光の粒子が嵯峨村の体を包み込む。瞬間、弾丸が嵯峨村に当たるが、それらは全て、あさっての方向に弾かれる。
「危ねー。『奴ら』の襲撃はまだ続きそうだな」
嵯峨村が額の汗を拭いながら息を吐く。それと同時に、光の粒子も消えていく。
【無敵化】
それが嵯峨村の能力だ。
使えば一定時間の間、どんな攻撃も受けなくなる。『最強の犯罪者』の攻撃ですら、【無敵化】使用中は一切効かなくなる。文字通り『無敵』の壁だ。
ただし、この技には制限時間がある。マリオのスター状態が長く続かないのと同じような物だ。この制限時間を越えれば能力は自動解除され、使った分の時間待たなければ再び使用できない。
能力自体は強いがイーデアリス同様、大きな制約のある能力だった。
・・・・というか俺達『名も無き調査団』のメンバーは一応、部類としては『改造人間』の部類に入る。つまり、体の一部を機械化しているわけだが、ここで疑問が生まれる。
どこの部位をどう改造したら、こんな『世界を歪める』能力や『無敵状態になれる』能力が手に入るのだろう、と。
いつか読んだ小説に『内臓のほとんどを機械化する事により、斥力フィールドを使うことが出来る』能力者が居たが、これはその比ではない。『現実を思い通りに出来る』臓器とか、どこで売ってるんだよ。
『最強の犯罪者』、恐るべし。
「倉根くん、自分の世界に浸っている所悪いのだけれど、さっさとこの頭のおかしい男を尋問するわよ」
いつの間にか、嵯峨村がロープで縛られていた。まあ前述の通り、嵯峨村の能力は一定時間以上使うとしばらく使用できなくなるため、その隙を突けばただの一般人と大差ない。今のように、拘束するのも簡単だ。
「クソッ、どうなってるんだ、このっ!」
嵯峨村は拘束を外そうともがくが、頭上から降ってきた水を浴びて黙る。イーデアリスは頭を押さえながら、嵯峨村に歩み寄る。
「私の顔に見覚えはあるかしら、嵯峨村くん。いえ、嵯峨村・スコーピオン・ソードナイトだったかしら?」
あえて嵯峨村の厨二ネームで呼ぶイーデアリス。覚えてたのかよ。
「お前はイーデアリス。だがその真名を知っているということはーーーー貴様! 奴らの」
嵯峨村はそこまでしか言えなかった。
何故なら、イーデアリスが出現させであろうありとあらゆる物体が、嵯峨村を一斉に襲ったからだ。
ロープが嵯峨村の首を絞め、ダンベルが頭上から降り注ぎ、足元にはマグマ、体の至る所にレイピアが突き刺さっている。
見るも無惨な姿だ。
「それ以上意味不明な事を言ってごらんなさい。今度は太平洋の底に沈めてあげるわ」
イーデアリスの能力では他人を動かす事は出来ないが、太平洋をこちらに出現させる事は出来る。
嵯峨村を人気のない所に連れ込む→嵯峨村の両足首に重りをつけ、太平洋を出現させる→自分だけワープで逃げる→残った嵯峨村は死亡
という面倒くさい組み合わせで、嵯峨村を太平洋の底に沈めることは可能なのだ。・・・たかが厨二病ひとつに大げさすぎるだろ。
とはいえ、イーデアリスは厨二病が苦手なようである。現に、嵯峨村はもう喋れない状態なのに、まだ能力を解除していない。
「ガガガ・・・・・」
「どうしたのかしら。犬でももう少しまともに喋れるわ。ほら、貴方は一応人間でしょう? なら、もっとまともに喋りなさい」
首を絞められている相手に、無茶を言う女王様イーデアリス。
そろそろ止めにはいった方がいいかな、と思った矢先、嵯峨村が能力を解放する。光の粒子が嵯峨村を包み込み、彼を取り囲んでいた武器類を引き剥がす。
「かはぁ!」
嵯峨村が、息を大きく吸う。そして、イーデアリスに詰め寄る。
「イーデアリス、お前何すんだ⁉ あやうく死にかけたぞ!」
「意味不明な事を連呼する頭のおかしい人は、さっさと死ねばいいのよ」
「何だと! 言わせておけば、この女。こうなったら、俺の必殺・・・・」
「嵯峨村」
懲りずに厨二行動をしようとした嵯峨村を、俺は制す。客や店員から奇怪な目で見られている。これ以上の戦闘は勘弁したい。
だが、ここで聞かなければ聞くタイミングを逃してしまうだろう。俺は口を開いた。
「もしお前とヘルズが戦ったとして、勝てそうか?」
ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニング。
彼の情報はリットンから聞いて知っている。第六期怪盗主席にして、人工吸血鬼でもある、かなりの強者だ。
俺は、焼けただれた腕のような物を拾い上げる。すると、やはりそれは『ような物』ではなく、『腕』そのものだった。
「凄いな、人工吸血鬼は」
イーデアリスが放った、あの爆発。
あれを、ヘルズは確かにくらった。右腕が吹き飛び、全身にも大きな怪我を負ったのだろう。
だが再生した。あの大怪我を、ものの数秒で。まさに化け物だ。
「分からないな」
・・・だろうな。
嵯峨村の言葉を聞きながら、俺は静かに考えていた。
次回は10月9日更新予定です。




