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第4話 腹の虫

 仲間たちと《大阪の街》で別れてから少しして、平原エリアを疾走しているとモンスターが複数出現した。


「タイガーウルフ……雑魚か」


「47レベから50レベ言うたら初心者じゃ勝てへんで?」


「でも、俺らからしたら余裕やろ」


「まぁ、そりゃそうやけどさ」


 というか、彼らを基準にするととてもではないが、一般プレイヤーが不幸な事態に陥ってしまう。

 周りを見てみると、一般プレイヤーはいないようではあるが……。


「他の人らって戦ったことあんのかな」


「そらあるやろ?」


「ちゃうって。こっち来てから」


「あ、そういうことね。まぁないかもしれんけど、どうでもいい」


「どうでもいいって……」


 鈴花は呆れたように横目で仁志を見てから、背中に装備していた弓を手に取った。矢筒から4本の矢を取り出し、狙いを定めて放つ。

 同時に放たれた4本の矢は、疾走しているにも関わらず寸分(たが)わずタイガーウルフの眉間を命中した。

 タイガーウルフは基本的に4体から7体で行動していることが多く、1vs1で戦うのであれば、推奨レベルは52レベル以上だ。今回は4体の群れで、4本の通常攻撃の矢に撃ち抜かれ、その体をポリゴン片に変える。

 鈴花が入手したセルは僅か3200セル。一体につき800セルとなる。しかも、矢の値段は一本13000セルである。それを4本使ったので、約49000セルの赤字……。

 矢がなくなった時のことなど考えていないのか、距離450mで命中した新たな記録に笑顔を咲かせ、仁志に向かってピースをした。もちろん、疾走しながらである。


「450mで4体の新記録! 凄ない?」


「すげぇ~」


 やる気なさげに相槌を打つ今回の相方の様子を気にも留めず、ガッツポーズまで取る鈴花。

 これまでの450mの記録は3体だったことから、喜んでもいいことではあるのだが……そもそも一般ピーポーは450mも離れていては当てるどころか届きさえしない。

 それもこれも、全ては課金アイテムである弓武器【絶命の弓】があってこそだ。絶対に命中する弓、という意味なのだが、全てはプレイヤースキルに依存しているため全てが外れることだってある。

 ただ、番えられる矢は最大10本に設定されているため、10本までであれば、1本を番えるときと同じように射かけることが出来ていた。

 鈴花と仁志の間に温度差があったがそっちのけにし、平原エリアを抜けて山岳エリアへと突入した。現実世界で言えば、大阪と奈良の県境にある山々。

 山岳エリアを素早く駆け抜けるためには、アスレチック系スキルを使うと格段に違うのだが、龍樹がいないところであっても縛りプレイを律儀に続行する2人。


「は~、スキル使うとかマジでMPの無駄やんな」


「うん。まぁ、他の人らはうちらとちゃうからしゃーないけど」


 以前ゲームだった頃、他の山岳エリアではあるが、他プレイヤーがアスレチック系スキルを使用しながら山を駆けあがっているところに遭遇したことのある2人は、スキルを使わずともスキルを使っている彼らより速いことを知った。

 それから2人は、縛りプレイも悪くない、と思っている。

 だから、龍樹のいないところであっても縛りプレイをしているのだ。とはいえ、他のメンバーもそのことには気付いている。いくらアホだと言っても、その程度は気付いているはずだ。


「ちゃっちゃと登りますかね」


 鈴花は滑りやすい砂の道を行き、仁志はアサシンの名に恥じないよう木々の枝葉を跳躍していく。

 その道中にも、敵は絶えない。けれども、本当に可哀想なのはどちらか……言うまでもない。


「お、あれって確かレアモンスターの……」


 仁志が何かを見つけたのか、腰に帯びているクナイを一本手に取って投降した。凄まじい速度で飛来するクナイを回避――というより認識する暇もなく、レアモンスターと呼ばれる73レベルの【マウンテンハムスター】は絶命した。

 体が小さいために見つけるのが難しいと言われ、攻撃が命中しにくい素早さを誇る【マウンテンハムスター】と言えど、110レベルである公式チートプレイヤー相手ではひとたまりもない。


「レアモンスターっていうか、見つけにくいだけなんちゃうかった?」


「あー……そういやそんな気がせんこともない」


 好戦的なモンスターではないし、滅多に姿を現さない草食動物である【マウンテンハムスター】は、別にレアモンスターでもなんでもない。そこら中にいるのだ。

 それから山岳エリアを抜け、丘陵エリアへと突入した。ペースは最速ではなく、《東京の街》到着がほぼ同時刻になればいいと思っていることから、そこそこの速度で駆けている。

 そんな折、ぐぅ〜、と間抜けな音が2人の耳に入った。

 鈴花は原っぱの上に立ち、仁志は太い枝の上に立ち止まり見つめ合うと、次第に鈴花は頬を赤くしていき、仁志はにやにやと笑みを浮かべる。


「腹減ったんか? そーかそーか、腹減ったんか。いやまぁ別にぃ? そこまで急いでるわけちゃうからええんやけど……」


「ちゃうねん! いまのはうちじゃなくてな、この、芝生がそういう音を出してん!」


 見苦しい言い訳をして、さらに赤みが顔全体に広まっていった。


「そんなわけないやろ……。まぁ俺も腹減ってたからちょうどいいわ」


「あぁぁ! もぉっ!!」


 あまりの恥ずかしさに膝を抱え、顔を鎮める。仁志はそんな鈴花を見て、着々と飯の支度を整えていく。

 今朝、アップデート完了時刻である午前10時からログインし、ゲームの中に閉じ込められてから11時間が経過していた。一食もせずに腹の虫が鳴かなかったのは、彼らでさえも混乱し、状況に対処していくのでいっぱいいっぱいだったということなのだろう。

 リアルの恋人と2人きりになり、少しの戦闘を経てようやく心を落ち着けられたことで、2人に芽生えたのだ。


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