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69 契約

 「行くぞ!」


 俺の言葉にサトルが身構えたのを確認した俺は、魔法を放つ。地面へと向けて。

 案の定というべきか、炸裂した魔法の爆発によってモクモクと土煙があがる。


隠形隠蔽(ステルスハイド)


 俺はエイミーが良く使っていた隠形魔法を見様見真似で発動させ、土煙に乗じて姿を隠す。


「くっ、どこだ!」


 サトルが見失った俺の姿を賢明に探しているのを眺めつつ、奴から大きく距離を取る。


「南宮流古武術、五の型、光輝弓(シェキナー)


 俺は手の内に眩い光を放つ弓を生み出す。

 そして、同じく魔力で生み出した矢をつがえ、放つ。


「ギィィ!」


 放たれた矢がサイレントビーの身体を貫く。

 まずは1体。

 姿を隠したまま俺はすぐさま移動し、再び矢を放つ。


「くっ、姿を現せ! ミナミヤコウヤ!」


 サトルにしては珍しく声を荒げているが、知ったことではない。

 俺を補足出来ないそちらが悪いのだ。

 俺はルーチンワークの如く、無心に次々と矢を放ち、ドラゴンを含め、サトルの従えていた魔物を全て仕留めた。


「どこだぁぁ!」


 俺を必死になってサトルが探しているが、無駄だ。俺は常に移動し、位置を変え続けている。

 そして次はお前自身の番だ。


 俺は姿を隠したまま、射撃位置を変えながら矢を次々と放っていく。

 それらが、サトルの腕を足を貫き、彼の体力を奪う。


「ぐぅぅっ」


 致命傷を避けつつ、何度も矢で射貫かれたサトルは、もはやロクに動きことも出来ない有様でそこに転がっていた。


「もう、お止めください、コウヤ様!」


 見かねたのか、リーゼが手を広げてサトルの前に立ち塞がるが、ここは遮蔽物もロクにない大部屋内だ。

 射線はいくらでも通る。


「ぐあっ!」


 また矢がサトルの腕を貫く。


「やめなさい! アブソリュート――」


「無駄だ。光糸封縛(シャイニングバインド)!」


 ツバキが立ち塞がり結界を張ろうとするが、先手を打ち俺はツバキを拘束する。

 そう何度も、同じ手で邪魔出来ると思うなよ。


「さて、トドメだ」


 別にサトルに対して、恨みは無い。

 それどころかむしろ、俺の目を覚まさせてくれた事に感謝しているくらいだ。


 だが俺はもう決めたのだ。

 俺や俺の周囲の人間の命を脅かす危険のある存在は、確実に排除することを。


「おやめください、コウヤ様!」


「どけ、リーゼ」


 リーゼが手を広げサトルを庇うようにして立っている。


「もう十分でしょう? どうしてサトル様の命まで奪おうとするのです?」


「コイツを放置していれば、かつてのナギサと同じ様に、俺の周囲に害をばら撒くかもしれないからだ」


 俺は余裕と油断を履き違えないようにと、今決意したばかりなのだ。

 サトルが高い能力を持つ以上、野放しには出来ない。

 

「サトル様は、あんなゴミみたいな男とは違います!」


 それは俺も理解している。

 あんな人間失格な男とサトルが同類だとは、俺も思ってはいない。

 だが――


「いつ心変わりするか、保証が出来ない以上は、始末するしかないだろう?」


「ですが……」


「どけ。これ以上邪魔立てするなら、お前も纏めて殺す」


 別に俺自身はサトルの事を嫌ってはいない。

 むしろ、人柄としては好んでいる部類だ。

 だからこそ、これ以上の邪魔は決意が鈍るからやめて欲しい。


「サトル様がコウヤ様に敵対しない事を確約出来ればいいのですか?」


「そうだな。だがそれを保証する手段など無いだろう?」


 ナギサのように人間を操るようなギフトを持っていれば別かもしれないが、生憎とそんな便利な代物は持ち合わせてはいない。


「あります。皇族のみに伝わる契約魔法が……。これを使って、サトル様がコウヤ様に対し、決して敵対出来ないよう契約を結べばいいのです」


 リーゼがその魔法の詳細を語る。

 成程、話を聞く限り、これが確かなら俺にも十分譲歩の余地はある。


「それが本当なら、試してみる価値はあるな。早速やってみろ」


「は、はい……。ですが、その前に……」


 リーゼがボロボロの姿で横たわったサトルへと視線を向ける。

 治療しろと言う事か。


「やれやれ」


 俺はギフト〈癒しの御手〉を使いサトルを治療する。勿論、その前にサトルを魔法で拘束した上でだ。


「では行きます。契約(コントラクト)


 俺とサトルの2人が光の糸が絡みつく。


「では、コウヤ様。契約内容をどうぞ」


「サトル! 俺の仲間になれ! そして俺と敵対しない事を誓え!」


「勝者に従うのは、敗者の定めだ。受け入れよう」


 そう言うサトルの表情はどこかスッキリした様子が窺えた。

 まあコイツとしては、全力でやり切ったみたいだから多分、それで満足なんだろうな。迷惑な奴だ。


締結(エクセキューション)


 リーゼのその言葉を合図に、絡まった光が俺とサトルの身体へとゆっくりと溶け込んでいく。


「これで契約は完了で、す……」


 そう言い残し、リーゼがパタリと倒れる。

 どうも先程の契約魔法は、かなり集中力を要したらしく、やり切った表情でリーゼは、スース―と寝息を立て始めた。


 まったく、やれやれだな。

 まあ、サトルを殺さずに済んだので、こっそりと感謝だけはしておく事にする。

 

 目が覚めたとは言っても、結局、俺の本質は甘ちゃんなのだ。

 漫画の主人公のように、割り切った行動など出来はしない。

 トラブルが起こる度に悩み、その度にきっと俺の心は揺れるだろう。

 

 だが今は、それでいいのだと思えた。

 そうやって悩み続ける事こそ、成長に繋がるのだと信じて。


「……良く分からないけど、話は纏まったようね。区切りもいいし、一度地上に戻りましょう?」


 エイミーが若干疲れた顔で、そう提案してくる。

 蚊帳の外で、ずっと俺達のやり取りを見守っていたのだ。無理もない。


「そうだな。帰るか」


 俺はギフト〈転移門〉の力を発動し、地上へのゲートを開く。


「サトル、リーゼを抱えてやってくれ」


「ああ、任せろ」


 眠ったリーゼはサトルに任せ、俺はツバキの拘束を解く。

 こいつはこいつで、ギフトの発動をあっさり潰されて、ショックを受けて落ち込んでいるようだが、そこまで面倒を見る気はない。

 まあ、ほっとけばそのうち立ち直るだろうさ。


 今回の迷宮探索は、サトルの急襲によって俺が一度死ぬなどトラブル満載だったが、どうにか落ち着く所に落ち着いたようだ。

 サトルのパーティ加入という成果もあったし、結果良ければすべて良しと考える事にしよう。

 まあ、こんな騒動は2度と御免だけどな。


 そんな事を考えながら俺はゲートを潜り、地上へと帰ったのだった。


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