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カムイコタン  作者: 大神みや


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9/9

仙台

朝、俊が目を覚ますと、舞子が隣にいた。


昨日とは違う宿。


昨日とは違う部屋。


でも、舞子がいることには少し慣れた。


舞子も目を開けた。


「おはよ」


「おはよう」


「何時?」


俊はバンドを見る。


「7時12分」


「まだいいね」


舞子は目を閉じた。


俊もそのまま横になっていた。


しばらくして、舞子が言った。


「俊」


「なに?」


「昨日の」


俊は少し考えた。


「下着?」


舞子が目を開けた。


「違う!」


「痛っ」


腕を叩かれた。


「そっちじゃない」


「じゃあ何?」


舞子は布団の中から俊を見た。


「ぎゅってするやつ」


「ああ」


俊は舞子の方を向いた。


「する?」


「うん」


舞子が近づいてきた。


俊は抱いた。


舞子も腕を回す。


昨日より自然だった。


顔が近い。


俊は舞子の髪の匂いを感じた。


舞子も何も言わない。


しばらくそのままでいた。


ピー。


俊のバンドが鳴った。


続いて舞子のバンドも鳴った。


「おはようございますって言ってる」


舞子が言った。


「違うと思う」


「毎回うるさいね」


「外したら鳴らないよ」


俊が言った。


舞子の腕が少し止まった。


二人とも、仙台で何をするのか知っていた。


「……そうだね」


舞子が俊から離れた。


「お腹すいた」


「俺も」


それ以上、その話はしなかった。


*


朝食を食べて宿を出た。


車に乗る。


俊が行き先を確認した。


「仙台まで――」


「あ!」


「早いよ」


「まだ何も言ってないじゃん」


舞子が窓の外を指した。


「なんかいる」


道の向こうに、小さな動物が何頭もいた。


「ヤギ?」


「ヤギってあれ?」


「たぶん」


「見たい」


「もう始まった」


俊は笑った。


入口を探して車を曲げた。


小さな牧場だった。


観光施設なのか、農場なのか、よく分からない。


柵の向こうにヤギがいた。


舞子が近づく。


一頭が寄ってきた。


「俊、来た」


「来たね」


「どうしよう」


「知らないよ」


ヤギが舞子を見ている。


舞子もヤギを見る。


「こんにちは」


俊が笑った。


「通じる?」


「挨拶だからいいの」


ヤギが鳴いた。


「メェー」


舞子が目を丸くした。


「返事した!」


「たまたまでしょ」


「俊もやって」


「嫌だよ」


「ほら」


俊はヤギを見る。


「……こんにちは」


ヤギは何も言わなかった。


舞子が笑った。


「嫌われてる」


「なんでだよ」


別のヤギが俊の服を引っ張った。


「ちょっと」


「好かれてるじゃん」


「食われてるよ」


舞子は腹を抱えて笑った。


俊も笑った。


*


車に戻ってしばらくすると、舞子が言った。


「動物って面白いね」


「バーチャルにもいるよ」


「いるけど」


「何が違う?」


舞子は考えた。


「言うこと聞かない」


「そこ?」


「だって、俊の服食べてたよ」


「食べてない。引っ張っただけ」


「そういうの」


舞子は窓の外を見る。


「何するか分かんないじゃん」


「それが面白い」


俊は少し考えた。


「舞子も最近、何するか分かんないよ」


「私?」


「すぐ、あれ何って言う」


「だって気になるんだもん」


「前はそんなこと言わなかった」


「前は、こんなのなかったもん」


「東京にも何かあるでしょ」


「あるのかな」


「帰ったら探す?」


舞子は少し黙った。


「帰ったらね」


俊もそれ以上言わなかった。


*


昼。


道路沿いに小さな食堂を見つけた。


今度は舞子が何も言わないうちに、俊が速度を落とした。


「寄る?」


舞子が驚いた。


「俊から言った」


「腹減ったから」


「ほんとに?」


「ほんと」


「看板見たからじゃない?」


俊は答えなかった。


舞子が笑う。


「俊もじゃん」


店に入った。


メニューは壁に貼ってあった。


写真がない。


俊は困った。


「何にする?」


「これ」


舞子が指した。


「何?」


「分かんない」


「分かんないの頼むの?」


「なんで?」


「来てからのお楽しみ」


俊も壁を見る。


「じゃあ俺、これ」


「何?」


「知らない」


二人で注文した。


出てきた料理を見て、舞子が笑った。


「俊の方がおいしそう」


「交換する?」


「する」


当たり前のように皿を寄せた。


舞子が俊の料理を食べる。


俊も舞子の料理を食べた。


「こっちの方がうまい」


「返して」


「交換したじゃん」


「一口だけ」


「言ってないよ」


「俊、ずるくなった」


「舞子に言われたくない」


また笑った。


*


午後。


舞子は助手席で歌っていた。


知らない歌だった。


「何それ」


「昔の曲」


「誰の?」


「知らない」


「知らない曲歌ってるの?」


「お母さんが歌ってた」


途中から歌詞が分からなくなった。


舞子は適当に歌った。


「そこ違うでしょ」


「俊、知らないじゃん」


「知らないけど、今の絶対違う」


「いいの」


また適当に歌う。


俊も途中から真似した。


二人とも歌詞を知らない。


それでも楽しかった。


*


夕方が近づいた。


道路は少しずつ広くなった。


建物も増えた。


舞子がバンドを見た。


「あ」


「今度は何?」


「仙台」


俊も表示を見る。


もう近い。


今日こそ着く。


舞子はしばらく画面を見ていた。


「俊」


「うん」


「着いちゃうね」


「うん」


昨日までは仙台へ行こうとしていた。


なのに、着くとなると少し寂しかった。


俊にも理由は分かった。


仙台までは、普通の旅行だった。


バンドが道を教えてくれた。


食べる場所も、泊まる場所も探してくれた。


困れば聞けばよかった。


決済もできた。


家族とも話せる。


舞子が言った。


「ここからなんだよね」


「外すの」


俊は自分の腕を見た。


ずっと着けてきたバンドがある。


「怖い?」


舞子が聞いた。


「ちょっと」


「私も」


俊は少し考えた。


「やめてもいいよ」


舞子が俊を見る。


「俊は?」


「行きたい」


「じゃあ行く」


「舞子は、やめてもいいんだよ」


「それ、前にも言った」


「言ったっけ」


「言った」


舞子は窓の外を見た。


「私、北海道に行きたいんじゃないよ」


俊は黙って聞いた。


「俊と行きたいの」


少しして、


ピー。


俊のバンドが鳴った。


舞子が笑った。


「最後までうるさいね」


俊も笑った。


仙台の街が見えてきた。


舞子が言った。


「あれ何?」


俊は前を見た。


「どれ?」


「向こう。光ってるやつ」


「知らない」


「寄ってみる?」


俊は笑った。


「いいよ」


まだ、外さなかった。


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