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北の残党と炎の魔術師 第49話

ラビリオスの外壁が迫る。


厚い石の防壁。

塔がいくつも並び、上には警備兵の影。


アンズーは速度を落とさない。


防壁に接近した瞬間、上から怒号が飛ぶ。

「止まれ!」


間髪入れず、弓が引かれる。

弦の音、矢が放たれる。

数本が一直線に飛ぶ。


アンズーは翼をわずかに傾けるだけでかわす。

一本は羽をかすめるが、弾かれるように逸れる。


防壁を越える。警備兵がさらに騒ぐ。


アンズーは何事もなかったように高度を落とし

ギルドの訓練所へ降下する。


砂が舞い、訓練用の木人が倒れかける。


地面が震える。着地。


すぐに囲まれる。


ギルド防衛隊。

居合わせた冒険者たちも武器を抜く。


剣が抜かれる音、槍の穂先が揃う。

緊張が張り詰める。


「待て」

低く、よく通る声が響く。


訓練所の奥から男が歩いてくる。

人垣を押し分けるように前へ出る。


ギルド長だ。

目を細め、巨大な影を見上げる。


そして、口角を上げる。

「ヴァルド! ド派手な登場だな」


園長は地面に降り、砂を払いながら言う。

「……すまん……驚かせたか?」


ギルド長は鼻で笑う。

「ああ、驚いたぞ。驚くなと言う方が無理だろう」


視線がアンズーへ向く。

「それで、そのデカい乗り物はなんだ」


園長は淡々と答える。

「コイツはわしの従魔だ。心配するな」


アンズーが低く唸る。

従魔と言う言葉に敏感に反応する。


ヴォルンが横から言う。

「俺はお前の従魔ではない、と言ってるぞ」


園長は小さく舌打ちする。

「わかっている。後で説明する。黙らせろ」


アンズーの翼がわずかに動く。


周囲の冒険者が一歩引く。


ギルド長は腕を組む。

「相変わらずだな、お前は」


空気はまだ張り詰めたままだ。

ラビリオスの中心で、事態は動き始めた。


ギルド長は、もう一人の姿に目を向けた。

目を細める。

「誰かと思えば……アル中のドワーフじゃないか。

不思議な組み合わせだな」


ヴァルドが横を見る。

「お前、ヴォルンを知っているのか?」


ギルド長は鼻で笑う。

「コイツは酒屋に忍び込んで、魔法の罠にかかったドワーフだ。

確か聖統師のお偉いさんが連れて行ったはずだが

……なんでのこのこ戻って来た?」


ヴァルドがヴォルンを見る。

「ヴォルン。そうなのか?」


「そうだ。わしのことだ」

ヴォルンは少しだけ目を逸らす。


沈黙。


ギルド長が肩を揺らして笑う。

「相変わらずだな」


ヴァルドの顔が変わる。

「……グレイヴ、すまん。二人だけで話がしたい」


その声音で察したのか、ギルド長はすぐに手を上げる。

「わかった。みんな持ち場に戻れ」


周囲の防衛隊と冒険者が散る。

「ヴァルド。行くぞ。ついて来い」


ヴォルンが続こうとする。

「ヴォルン。ここで待機してくれ。すぐに戻る」


ヴォルンは無言で頷いた。


ーーーー


部屋に入る。扉が閉まる。


椅子に腰掛ける二人。


グレイヴが腕を組む。

「ヴァルド。話はなんだ」


ヴァルドは少し間を置く。

「驚かないで聞いてくれ。白極の巨神の神話

知っているか?」


「ああ、知っている」

グレイヴは即答する。

「確か王が殺され、王国の騎士団の半数が

亡くなった話じゃなかったか?」


「そうだ」

ヴァルドは視線を上げる。

「そいつが目覚める兆候が確認された」


部屋の空気が変わる。

「……それは本当の話か」


「ああ。残念ながら本当だ」


グレイヴの目が細くなる。

「王都に知らせは?」


「お願いしてある。わかると思うが、距離的に援軍は間に合わん」


グレイヴは無言で頷く。

「それでどうするつもりだ」


「さっきのドワーフの武器が、ここのダンジョンにあるらしい。

それを取りに来た。ダンジョンに潜るのを許可してくれ」


グレイヴは椅子にもたれ直す。

「許可はしてやるが……」


一拍。


「ここのダンジョンは、魔獣王が倒された後、その残党がここに移住している」

視線が鋭くなる。

「今はA級冒険者のみに探索を許可している。あまりにも危険過ぎる」


ヴァルドが問う。

「それは確かか?」


「確かな情報だ。ドワーフとの取引で得た情報だ」

グレイヴは言い切る。

「間違いない」


(……どうしたものか……)

園長が項垂れる。


机の上に視線を落としたまま、しばらく動かない。


「方法がないわけではないぞ」

見かねてグレイヴが言った。


園長が顔を上げる。

「本当か?」


目に覇気が戻る。


グレイヴは腕を組む。

「ドワーフだ。確信はないが

奴らはいつもどこからともなく現れる」


少しだけ口元が緩む。

「きっと隠し扉か何かあるはずだ」


園長の思考が動く。

「ヴォルンに聞いてみる。グレイヴ、恩に着る」


「礼はまだ早い」


一拍。


園長が続ける。

「もう一つお願いがある。冒険者のアカネに会わせて欲しい」


グレイヴが頷く。

「アカネは確かダンジョンの探索中だと思う。

予定だと今日帰って来るはずだ」


園長は懐から封書を取り出す。


サンの手紙。

「帰って来たらこれを渡してくれ」


グレイヴが受け取る。

「わかった。帰って来たら渡しておく」


園長は立ち上がる。

「世話になる。連れが待っているから戻って

どうするか決めようと思う」


グレイヴは椅子に座ったまま言う。

「おお、力になれなくて申し訳ない」


軽く頭を下げる。


園長は首を振る。

「仕方ない。もう自分たちでどうにかしないといけないのは

……覚悟している」


扉が開く。足音が遠ざかる。


グレイヴはその背中をずっと見ていた。


やがて、誰にも聞こえない声で呟く。

「……死ぬなよ……」


ーーーー


園長が訓練所へ戻る。


ヴォルンが腕を組んだまま待っている。


「ヴォルン。待たせたな」


「話はついたか?」


「ああ、大丈夫だ。ヴォルン、聞きたいことがある」


「ダンジョンの入り口のことか?」

即答だった。


園長が目を細める。

「なぜわかった?」


「あの男なら勘付いていると思ったからだ」

ヴォルンは確信があったように言う。


園長は小さく頷く。

「そうか……」


ヴォルンが続ける。

「隠し扉はある。そこからドワーフのいる階層にいける」


一拍。


「だが、お前たちを連れて行くわけにはいかん」


「なぜだ」


「考えてもみろ。もし逆の立場だったらどうする。

お前たちの仲間が魔獣を引き連れて来たらどうなる。

信用して武器を渡すか?」


園長は答えない。


「そういうことだ。だから俺だけで行く。

もし、わしに何かあって戻らなかったら

武器は諦めてくれ」

覚悟の声音だった。


園長は短く言う。

「わかった。北の魔獣の残党がこのダンジョンに

移住しているらしい。十分注意してくれ」


ヴォルンは頷く。


その時――


「園長ー。待ってください!」


振り向く。


一人の女性冒険者が駆けてくる。


防具の上からでも分かる、均整の取れた動き。

魔術師とは思えない出で立ちの女性だ。


「アカネか?」


「そうです。ご無沙汰してます」

園長の表情がわずかに緩む。


「大きくなったな。どこから見ても立派な冒険者だ」


アカネは真っ直ぐ言う。

「私も連れて行ってください」


園長は一瞬だけ目を細め、頷く。

「来てくれるのか。ありがとう」

軽く頭を下げる。


アカネが空を見上げる。

「三人乗っても大丈夫なんですか?」


「大丈夫だ。三人までは問題ないと、言っていた」


アンズーが翼を広げる。


ヴォルンが低く笑う。

「三人くらい何でもないと、言ってるぞ」


アカネは躊躇なく背に乗る。


園長、ヴォルン、アカネ。


三人を乗せ、アンズーが跳ね上がる。


訓練所の砂が舞う。


高度を上げる。街の上を越え、ダンジョンの影へ。


入り口から離れた石壁の裏側へ。

外からは分からない位置を、ヴォルンが指差す。

「そこだ」


壁面の一部。何の変哲もない石積み。


アンズーが着地する。


風が止む。静寂。


ヴォルンが歩み寄る。


石の継ぎ目に手を当てる。


低い音が鳴る。


壁が、わずかにずれる。


闇が口を開ける。


冷たい空気が流れ出る。


ヴォルンが振り返る。


「ここから先は俺だけだ。ここで待っていてくれ」


園長が頷く。


アカネは無言でその奥を不思議そうに見つめる。

「こんな入り口があるのか……」


ヴォルンは

光の届かない階層へ足を踏み入れた。


第49話


最後までお読みいただき、ありがとうございます!

いかがだったでしょうか。


今回はラビリオスの冒険者ギルドへの到着と

旧知の仲であるギルド長・グレイヴとの再会を描きました。

園長の本名で呼び合う二人の関係性や

過去に酒屋の罠にかかっていたヴォルンの意外な(?)前科など

彼らのバックボーンが少し見えた回になったかと思います。


そして、サンの手紙の届け先である

「炎の魔術師」アカネがついに合流しました。

魔術師らしからぬ身のこなしを持つ彼女が

今後どのように関わっていくのかも注目です。


隠し扉から単身ダンジョンへ潜っていくヴォルン。

北の魔獣の残党が巣食う危険なダンジョンから

無事に「最高の剣」を手にして戻ってこられるのでしょうか。

外で待つ園長たちやアンズーの動向も含め

次回も目が離せない展開をお届けします。


引き続き、応援よろしくお願いいたします!

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