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鍛火の兆しと古き災い 第41話

第41話


鍛火の兆しと古き災い


コンコン、と控えめなノックの音。

「入れ」


園長――の声に

クルツとアレンは再び園長室の扉を開けた。


園長は書類から顔を上げ、少し意外そうな顔をした。

「どうした。ヴォルンには話を通したか?」


「はい。ですが……」

クルツが一歩前に出た。


「本格的な武器と工具を打つために、

まずは『鍛冶用の炉』を新設する必要があるとのことです」


園長が眉を動かす。

「炉、か」


「はい。ただの炉ではありません。

耐火土、川砂、藁灰、石材……。

フェルドの力を借りて、厳選した素材を集める必要があります」


アレンが横から付け足す。

「さらに、強度を上げるための『混鉱石』が足りないそうです。

それを採掘するために、鉱山の本格的な整備と

採掘の許可を頂きたいのです」


園長は腕を組み、静かに聞き入った。

そして、深く息を吐く。

「なるほど。ただ剣を打つだけではない、というわけか」


「はい。ヴォルンさんは『炉は生き物だ』と……」

「原種のドワーフらしいな」


園長は口元にわずかな笑みを浮かべた。

「許可する。炉の建設も、鉱山の採掘整備も進めろ」


「ありがとうございます。ですが、人員の調整が……」

アレンが手元のメモに目を落とす。


「柵の補強作業がまだ少し残っています。

それに加えて、炉の素材集めと鉱山の整備を同時に行うとなると、

どうしても手が足りません」


園長は少し考え、決断を下した。

「農園の方は日雇いで何とかする。そちらの人員も

お前たちの作業に回せ」


「柵の方も、ほぼ完成しているのなら

リム村の者で何とか出来るだろう」


「よろしいのですか?」


「ああ。お前たちは炉の素材集めと、鉱山の整備に専念しろ。

これからの園にとって、必要な設備だ」

園長は真っ直ぐにクルツを見た。


「ガルドやクレイグの修行も中断して

動かしてよろしいですか?」


「構わん。必要な者は使え。


アンズーの監視も怠るな。まだ信用できんからな。

鉱山の奥にはまだ何が潜んでいるか分からん。

……十分注意して作業にあたれ」


「はい!」

クルツとアレンは力強く頷いた。


「まずはフェルドと一緒に、炉の素材集めから取り掛かります」


「期待しているぞ」


二人は深く一礼し、

園長室を後にした。


「明日から開始だな……」

クルツが言った。


「はい。忙しくなりますね……」

アレンも頷く。


新たな任務へ――胸の奥が少しだけ引き締まった。


ーーーーー


早朝。


廊下の集合場所に、二人は予定より早く来ていた。

まだ園の空気は冷たく、足音だけが響く。


「先輩、どういう振り分けにしますか?」

アレンがクルツに尋ねた。


「そうだな……

二手に分かれるのがいいだろう」


「鉱山の整備と、炉の素材集めですね」

アレンが答える。


クルツは顎に手を当て、少し考えた。


「鉱山の整備は、フェルドがいないと話にならん」


「そうですね……

となると、素材集めが難しくなりますね……」

アレンが眉を寄せる。


その時だった。


「おい。おはよう」


低い声が背後から落ちた。

二人が振り向く。

「えっ……ヴォルンさん?」


「お、おはようございます」

クルツが慌てて挨拶をする。


「おはようございます。ヴォルンさん、どうされたんですか?」

アレンが尋ねた。


ヴォルンは腕を組んだまま、短く言う。


「わしも行く」


「えっ?」

クルツが素っ頓狂な声を出す。


ヴォルンは表情を変えない。


「わしも鉱山に行くと言ってる」


「……来てくれるんですか?」

アレンが念のため確認する。


「材料が足りんと言ったろ。

混鉱石も、耐火土も、砂も灰も……選び方がある」


ヴォルンは淡々と続ける。


「間違った物を運んでも無駄だ。

最初に見て、決める」


クルツが一拍遅れて頷いた。


「……わかりました。ありがとうございます。

助かります」


ヴォルンは鼻を鳴らしただけだった。


廊下の奥から、ぞろぞろと足音が増えていく。


ニコが眠そうに目を擦りながら現れた。


その後ろから、ゴリムがニコの背中を軽く押しながら

ガルドと並んで歩いてくる。

久しぶりに一緒の作業なのが嬉しいのか

二人ともどこか楽しそうだ。


クレイグは肩を回しながらやって来た。


フェルドは小さく身を揺らしながら

クレイグの後ろをついて来る。


今日もまた――園の朝が動き始める。


「みんな、おはようー」

アレンが明るく声をかけた。


「おはようございます!」

魔獣たちが元気よく挨拶を返す。


アレンは全員の顔を見渡し、手短に告げる。


「今日は、鉱山の整備と

炉の製作のための素材集めが主な作業になる。

クルツ先輩に二手の組み分けをしてもらう。

現地に着いたら指示に従ってくれ」


「はい!」


「先輩、着くまでに考えてくださいね」

アレンが笑い混じりにお願いする。


「おお、わかった……」

クルツが苦笑いして答えた。


そのまま一行は正門前へと移動する。


今日は人数も多い。

鉱山整備用の工具や機材を積み込むだけでも一仕事だ。


ツルハシ、スコップ、大槌、補強用の杭。

ロープ束、滑車、予備のランプ油。

そして刃こぼれした工具類も積み込まれていく。


「それ、奥に寄せろ! 重いのは手前だ!」

アレンが指示を飛ばす。


ガルドが大槌をまとめて担ぎ上げ、

ゴリムがロープ束を抱え、

クレイグが滑車を荷台へ固定していく。


フェルドは小さな工具箱を背に乗せ、

慎重に荷台へ運んでいた。


そこへ――


「待て待て待てー!」


慌ただしい声が背後から飛んでくる。


振り返ると、

サンが大きな木箱を抱え、

その横をルーナがやや早足でついて来ていた。


「弁当、忘れるところだったぞ!」

サンが息を切らしながら言う。


「……間に合ったな」

ルーナが短く付け足す。


「助かります!」

アレンが駆け寄り、木箱を受け取った。


クルツはその様子を見てから、

少し申し訳なさそうにルーナへ向き直る。


「……悪いな、ルーナ。

カイチに、荷車を頼めるか?」


今日も工具や機材が多い。

ヒッポスでは不安が残る。


ルーナは小さく頷き、

白銀の巨体のいる厩舎に迎えに行った。


歩きながらルーナが聞いた。

「……聞いてるな?」


カイチは一瞥し、

鼻を鳴らした。

「グルル……」

明らかに嫌そうな声音だ。


クルツのところに着くと、ルーナが淡々と通訳する。

「……『我は荷馬ではない』だそうだ」


クルツが苦笑する。

「だよな……」


だが――


カイチはそう言いながらも、

足取りは軽い。


白銀の脚が地面を踏み、

ゆっくりと、しかしどこか誇らしげに荷車の前へやって来る。


耳はぴんと立ち、

角は高く掲げられている。


嫌そうな声とは裏腹に、

明らかに“任されること”が嬉しいのだ。


ルーナが肩をすくめる。

「……本心は別らしいな……」


その時、アレンがニコに声をかけた。


「今日はルーナは園に残る。

通訳はニコ、頼むぞ」


「えっ、私ですか?」


ニコは一瞬きょとんとしたが、

すぐに頷いた。


ルーナも短く言う。

「任せる」


ニコはカイチの前まで歩み寄る。


白銀の巨体。

漆黒の角。

薄い黒色の顔が、静かにこちらを見下ろしている。


ニコは背筋を伸ばした。

「……今日はよろしくお願いします」


カイチはじっと見つめたあと、

ふっと鼻を鳴らす。

「……任せよ」


低く、誇らしげな声だった。


そして白銀の巨体がゆっくりと動き出す。


鉱山整備と、炉の素材集め。

新たな任務へ向けて――


園の一日が、本格的に動き始めた。


ーーーー


鉱山へ向かう一団の上空――


影が横切った。


最初に気づいたのは、ガルドだった。


「……何かいる」


空を見上げた瞬間、

巨大な翼が太陽を遮った。


ザバァッ――!!


重い羽ばたきとともに、

空から降りてくる影。


翼の猛獣。


アンズーだった。


「う……」

クレイグが息を呑む。


話には聞いていた。

カイチに従った翼の猛獣。


だが――


“知っている”と“目の前に現れる”は違う。


巨大な翼。

鷹の脚。

獣の胴。

鋭い牙。


恐怖は、本能を直接掴む。


ボルムが思わず土の陰に身を寄せる。

ゴリムも肩を固くする。


空気が張り詰めた。


だが、白銀の影は動じない。


カイチが一歩前へ出る。


アンズーは滑空し、地面すれすれで減速。

土煙を巻き上げて着地した。


翼を畳み、ゆっくりと首を下げる。


「裁定の獣よ」


低い声。


カイチは鼻を鳴らした。

「……来たか」


アンズーは横目で一団を見渡す。

恐怖の視線を感じ取りながらも、

あくまでカイチに向き直る。


「監視は続けている。

森側に異常なし。

東の尾根に小型の魔獣が二体。

問題ない」


クルツは眉をひそめた。

「……何て言ってる?」


そこでようやく、通訳が必要になる。

「ニコ、近くで聞いてくれ」


ニコは一瞬ためらう。

怖い。正直、近づきたくない。


けれど――

ここで言葉が分からなければ判断できない。


「……はい」

小さく返事をして、

クルツのすぐ横まで寄る。


耳を澄ませる。


「監視は問題ないって言ってます。

森側に異常なし、東の尾根に小型魔獣二体……だそうです」


カイチの角がわずかに傾く。

さらに問いを重ねる。


「空からの死角は?」


「潰している。

北の谷も見た」


ニコが続ける。


「死角は潰してる、北の谷も確認済み……」


カイチは一瞬だけ目を細める。


「境界を越えようとする気配は?」


「ない」


短く、確信のある返答。


ニコが訳す。


「境界を越える気配はない、だそうです」


だが次の瞬間、

アンズーの声が低く落ちた。

「だが――」


翼がわずかに開く。


空気が重くなる。


クルツが眉をひそめる。

「……まだ何かあるのか?」


ニコが息を呑み、続ける。

「これ以上、奥へ踏み込むな……って」


場の空気が変わる。


アンズーはカイチだけを見て言う。

「この奥には……俺でもどうにもならん“ヤツ”がいる」


ニコの声がわずかに震える。

「俺でもどうにもならないヤツがいる……

森の主でも、ベアでもない……

気配が違う……古い……って」


風が止まったように感じた。


ボルムが小さく震える。

フェルドの背がわずかに固まる。


クルツの喉が鳴る。


「……命が惜しいなら近づくな、だそうです」


沈黙。


カイチはしばらく動かない。


やがて、鼻を一度鳴らす。


「……わかった」

短い承認。


「監視を続けろ」


ニコが訳す。

「監視を続けろ、って」


アンズーは翼を広げる。

「無論だ」


そして最後に、低く付け加えた。

「俺は空から見る。

だが地の底までは見えん」


ニコが言う。

「空からは見るけど、地の底までは見えない……って」


カイチが淡々と返す。

「行け」


アンズーは跳躍し、

空へ舞い上がる。


再び影が鉱山の上を横切り、

旋回しながら上空へと戻った。


残された一団の空気は、まだ少し重い。


クルツが静かに言う。

「……奥には、何かいるらしいな」


誰も笑わない。


だがカイチが前へ進むと、

自然と足も動き出す。


そして――


鉱山に到着した。


冷たい空気と、岩肌の匂いが鼻を刺す。


「みんな集まってくれ!」

アレンの声が響く。


「クルツ先輩、お願いします」


全員が揃ったのを確認して、クルツが一歩前へ出た。

「素材集めの作業を、ヴォルンさんとゴリム、ガルド

モールモンスにお願いする。

炉の材料になる土や砂、石材の選別だ。こちらは俺が担当する」


ヴォルンは無言で頷く。


「アレンは鉱山の整備と採掘を並行してやってくれ。

崩落箇所の補強も忘れるな」


「はい、わかりました」


役割が決まり、空気が引き締まる。


クルツがふと振り返った。

「ニコ、ちょっとこっちに来てくれ」


「なんですか?」

ニコが小走りで近づく。


クルツは少しだけ言いづらそうに頭をかいた。

「悪いんだが……モールモンスに名前をつけてもらえないか」


「え?」


「モールモンス、名前つけてもいいよな?」


クルツが確認すると、モールモンスは嬉しそうに

身体を揺らし頭を上下に振った。


――ぜひ。


そんな気配が伝わってくる。


クルツは改めてニコを見る。

「そういうわけだ。頼む」


「……」

ニコは呆れたような顔で、しばらく無言だった。


「なんで私なんですか……」


「名付けはニコがやるって、みんな思ってる」

クルツがさらりと言う。


周囲の視線が集まる。


モールモンスはそわそわと前脚を動かしている。


「……わかりました」

ニコは小さく息を吐いた。


少し考え、土と岩を見つめ、そして言う。

「……ボルム」


一度、間を置く。

「ボルムで、どうですか?」


その名が落ちた瞬間。


モールモンスの身体がぴたりと止まり、次の瞬間

嬉しそうに両前脚をぱたぱたと動かした。


クルツが笑う。

「おお、いいな。ありがとうニコ」


「よろしくな、ボルム!」

クルツが声をかける。


ボルムは勢いよく頭を下げ、地面をトン、と叩いた。

――よろしく。

そう答えているようだった。


ヴォルンが鼻を鳴らす。

「名がついたなら、働けるな」


ボルムが勢いよく地面に潜りかける。


「おい、まだだ!」

クルツが慌てて止めると、周囲から小さな笑いが漏れた。


張り詰めていた空気が、ほんの少し柔らぐ。


「よし、みんな作業にかかってくれ!」


掛け声とともに、それぞれが持ち場へ散っていく。


こうして――


モールモンスは、


ボルムとして、素材集めの作業に加わった。


ーーーー


坑道の中は冷えていた。

ランプの橙が岩肌を舐め、影が揺れる。


「整備班、こっちだ!」


アレンが先頭で腕を振る。


クレイグとフェルド、そしてニコが続く。

フェルドは入口から数歩で立ち止まり、岩壁へ近づいた。


コツ……コツ……。


拳で叩く音が、場所ごとに違う。


フェルドが低く唸る。

「……ここ、薄い。上、空洞」


ニコがすぐに通訳する。

「この辺、上が空洞で薄いって」


アレンが即決する。

「掘る前に支える。クレイグ、支柱の準備。角度は斜めだ」


「了解」


クレイグが丸太を立て、楔を打つ。

ドン、ドン……と振動が坑道に響く。


フェルドが耳を動かし、首を振った。

「……強い。割れる」


ニコが訳す。

「打ちすぎると割れるって」


「よし、力を半分。楔を細くして、回数で締める」

アレンが指示を修正する。


振動が落ち着く。

支柱が“持つ角度”で噛み合う。


アレンが手を壁に当てて確認した。

「よし。これで進める」


ツルハシが入る。

ガンッ、と硬い音。

薄い層を避けながら、慎重に削り落としていく。


フェルドは掘るたびに壁を叩き、音を確かめる。

ニコはフェルドの短い言葉を拾って、アレンへ渡す。


「右、硬い」

「下、湿り」

「上、まだ大丈夫」


アレンは止めない。

止めるときだけ止める。


「湿りなら床に砕石を敷く。クレイグ、

そこを広げるな、通路幅は保て」


掘り進む途中、岩の割れ目から光る欠片が落ちた。


クレイグが拾い上げる。

「……鉱石か?」


フェルドが目を細める。

「……混じってる。鉄、少し」


ニコが訳す。

「混鉱石、鉄が混じってるって」


アレンは頷いた。

「回収箱に入れろ。ヴォルンに渡す。補修材になる」


掘る。

支える。

確かめる。

見つけたら回収する。


その繰り返しで、坑道は少しずつ“安全な形”になっていった。


ーーーー


鉱山の外――炉素材集め班。


ヴォルンは腕を組み、地面を見渡していた。


「赤土と岩だ。

炉の命になるものだけを持ってこい」


ゴリムとガルドが左右に散る。

ボルムは地面に鼻を近づけ、静かに土の匂いを探り始めた。


その時――


「これじゃないか?」

クルツが斜面の一角を指さす。


赤茶けた土が露出している。

粘りもある。


「赤土だろ?」


ヴォルンが近づき、しゃがむ。


指でつまみ、擦る。

丸め、軽く叩き、匂いを嗅ぐ。


そして――


「違う」

短い一言。


「色だけだ。焼けば割れる。

粘りはあるが、締まりが弱い。

火を入れたら粉になる」


クルツが苦笑する。

「見た目じゃ分からんな……」


「炉は甘くない」

ヴォルンは立ち上がる。

「“焼いた後”を想像できん土は使えん」


そのやり取りを、少し離れた所で聞いていたボルムが、

地面を掘る手を止めた。


鼻を地に押し当てる。

耳を地面につけるような仕草。


そして――


ガリ、ガリ、と掘り始めた。


最初は乾いた土。

その下から、色の違う層が現れる。


深い、暗い赤。


湿り気があるのに、崩れない。


ボルムが振り返る。

(……こっち)


ヴォルンがゆっくり歩み寄る。


掘り出された塊を手に取る。

重い。


指で押す。

戻りが遅い。


爪で削る。

表面が滑らかに締まる。


ヴォルンの目が細くなる。

「……これだ」

一言。


「焼けば締まる。割れん。

水を抜けば、なお強い」


ボルムが嬉しそうに前脚を動かす。


「よくやった」

ヴォルンが短く言った。


クルツが感心する。

「やっぱり土の中は、ボルムの方が詳しいな」


ボルムは照れたように土をもう一掻きした。



「次は岩だ」

クルツが指示する。


「基礎に使う岩を探せ。

水を吸わず、火で割れにくいものだ」

ヴォルンが補足する。


ゴリムが大きな岩を抱えて戻ってくる。

「これか?」


ヴォルンは軽く叩く。

コン、と鈍い音。


首を振る。

「中が詰まってない。

熱で割れる」


ガルドが次を運んでくる。

少し青みがかった石。


ヴォルンは拳で叩く。

キン、と高い音。


「硬いが、脆い。

熱で弾ける」


ガルドが悔しそうに悔しがる。


「三つ目だ」

ゴリムとガルドが協力し、

重たい岩を転がして持ってくる。


灰色で、粒が細かい。

角が丸く、割れ目が少ない。


ヴォルンはしゃがみ込む。


拳で叩く。

ドン、と低い響き。


耳を近づける。


もう一度叩く。


「……いい」

短く頷いた。


「水を吸いにくい。締まってる。

基礎に使える」


ガルドが胸を張る。

ゴリムが岩を抱え直す。


「三度目でようやくだな」

クルツが笑う。


「炉は妥協せん」

ヴォルンは静かに言った。

「一度でも割れれば、終わりだ」


赤土の塊と、選び抜かれた岩。


炉の“骨”になる材料が、

ようやく揃い始めていた。


「これで、ここで集められる物は揃った。

整備班に合流しよう」


ーーーー


「アレン、素材集め終わったから午後からは

こっちに合流しようと思う。

もうみんなお腹がすいた頃だろう。昼飯にしないか?」

坑道の中へ入ってきたクルツが言った。


「はい。わかりました」


「みんな! 一旦終了だ、昼食にしよう!」

アレンの声が、反響しながら坑内を巡る。


カン、カン、と止まった工具の音の代わりに、

ざわりと安堵の空気が流れた。


ぞろぞろと魔獣たちが坑内から出て来る。


「ああ〜お腹すいた〜」

ゴリムがいつもの調子で声を上げる。


「並べ並べ、慌てるな」

ガルドが笑いながら背を押す。


「みんな並んでくれ!」

アレンが指示する。


クルツとアレンが順番に弁当を渡していく。

一つ、また一つ。


木箱から取り出される弁当は、

朝、サンとルーナが慌てて持ってきたものだ。


受け取った者から、

岩に腰を下ろし、

丸太に座り、

好きな場所を見つけて食べ始める。


鉱山の外は明るい。


ヴォルンの横で食べていたニコが、

ふと口を開いた。

「ヴォルンさん、聞いてもいいですか?」


「なんだ? 言ってみな」

無骨な声。

だが拒絶はない。


「ヴォルンさんって言葉、話せますよね?

なんで最初、私と話した時は話せないふりしたんですか?」


ヴォルンは手を止め、少しだけ目を細めた。

「ああ、あの時か」


短く息を吐く。

「話せるには話せるが……

わしの気持ちがちゃんと伝えられるか、

不安だったから話さなかったんだ」


ニコは瞬きをする。

「そうなんですか。」

素直な納得。


ヴォルンは肩をすくめる。

「言葉は刃物だ。

足りなければ刺さる。

余れば鈍る」


少し間を置いて、続けた。

「……まぁ、お主がおったからな」


ニコが小さく首を傾げる。

「え?」


「通訳がおれば、

余計な誤解は減る」


ぶっきらぼうだが、

それは信頼の言い方だった。


ニコは、ほんの少しだけ嬉しくなり、

小さく笑う。


遠くでゴリムが笑い、ガルドが弁当を頬張る。

フェルドは静かに食べ、ボルムは土を指でいじっていた。


クルツはその光景を一度だけ見渡し、

アレンは工具をまとめ直す。


上では、翼の影が小さく旋回し、

前では、カイチが動かずに立っている。


ニコは弁当を握り直して、ぽつりと呟いた。


「……なんか、落ち着きますね」


ヴォルンが短く鼻で笑った。


「腹が満ちりゃ、まずはそれでいい」


その言葉に、場の空気がふっと緩む。


――昼休みは、まだ少し続いた。

第41話

今回は、園長からの許可を得て本格的な作業がスタート。


頼もしい助っ人としてヴォルンが加わり

さらにモールモンスには「ボルム」という愛らしい名前が付きました!


大空からはアンズーの警告があり、鉱山の奥底には

「古い何か」が眠っているという不穏な伏線も……。


少しずつ緊張感が高まる中、ニコとヴォルンの

不器用ながらも温かい会話や


皆で囲むお弁当のシーンにはホッと癒されますね。

ついに集まり始めた炉の素材。


午後からの作業で鉱山はどこまで進むのか


いつも本作をお読みいただき、本当にありがとうございます!

少しずつ読んでくださる方が増えており

毎日の執筆の大きな励みになっています。

もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら

評価ボタンやブックマーク、一言でもコメントをいただけると

さらに飛び上がるほど嬉しいです。

これからも物語を楽しくお届けできるよう頑張りますので

どうぞよろしくお願いいたします!


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