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翼の猛獣と裁きの角 第39話

鉱山の出口、白い光が差し込む境目で――

ガルドとクレイグが飛び込んできた。


「クルツさん! 外に……いる!」


ガルドの声は低いのに、いつもより明らかに急いていた。

クレイグも頷き、短く付け足す。


「……翼の、生えた猛獣だ」


「翼……?」


クルツが眉をひそめる。


「鳥でもない。ヒッポスでもない。

でかい。吠える。……空に上がる」


ガルドが言葉を探しながら、拳を握りしめた。


「獣の体に、背中からでかい羽だ。

爪も……刃みたいだ」


クルツは一瞬だけ息を止めた。

この地で“飛ぶ猛獣”は珍しい。

しかもその規模――ただ事じゃない。


クレイグが、視線を出口の方へ向けたまま言った。

まるで、見えない影が迫ってくるのを感じているかのように。


「クレイグ、ガルド…落ち着け…ここには入ってはこれん…

――しかしこのままって訳にもいかんな

入り口を破壊されたら、生き埋めだ……」

クルツが落ち着かせようと声をかける。


「……生き埋め……」

ガルドが呟いた。


「俺が出口を見て来る、お前らはここで待機だ!」


クルツがゆっくりと鉱山の出口に向かう。


外が見える所まで近づいた。

クルツの目が化け物の姿を捉えた!

その瞬間アンズーと目が合う…


「……来る」


風が変わった。


次の瞬間――


影が落ちた。


巨大な翼が、曇天を裂く。

羽ばたき一つで、地面の小石が跳ねる。


翼の生えた猛獣――

獣の体に、猛禽の翼。

前脚は鷹の鉤爪のように鋭く。


その喉が膨らみ――


「グォォォォォ……!」


空気が震えた。

耳の奥が痺れる咆哮。


ガルドが怯える声で言った。

「……あいつです……」


クレイグは震えながら呟く。

「……翼の猛獣……」


「……」

クルツは固まっていた。


その時、ルーナが一歩前へ出る。


「クルツさん。私が囮になります」


「何言って――」


クルツが即座に遮る。

だがルーナは、静かに首を振った。


「ここで全員が固まっていたら、いずれ追い込まれます。

出口は一つ。塞がれたらおしまいです」


「それでもだ。お前を前に出せるか」


ルーナの目が、刃のように細くなる。


「……私は剣闘士です」


短い言葉だった。

誇りではない。過去の確認だ。


「囮になるくらい、慣れてます。

だから――剣を貸してください」


クルツは歯を噛む。

反射で拒みたい。だが、状況がそれを許さない。


「お前に、俺の剣を……」


「大丈夫です」


ルーナの声は揺れない。


「カイチを呼んでください。

あれは“翼の猛獣”です。

力で抑えるなら、カイチが必要です」


フェルドが一歩、クルツの前に出た。

言葉は出せない。だが目が訴えている。


――大丈夫だ。

――彼女は、落ちない。

――支えがある。


クルツは息を吐き、ようやく頷いた。


「……分かった。

だが無茶はするな。時間を稼ぐだけだ。絶対に勝とうとするな」


ルーナが、短く笑った。

それは初めて見る、刃の笑みだった。


「勝とうとしません。

“守る”ために戦います」


クルツは剣を抜き、柄をルーナへ差し出した。


「……おまえの手で……返せよ」


「はい…必ず…」


受け取った瞬間、ルーナの体の重心が変わった。

厨房で見せた静かな手つきとは別の、戦うための姿勢。


「クレイグ、ガルド。ルーナを見失うな。

俺は――カイチを連れてくる!」


ルーナは出口へ走った。


右へ。


岩場の陰から、外へと飛び出す。


「こっちだ!」


声は短い。だが、狙いは明確だった。


次の瞬間――

空が暗くなる。


巨大な影が、地面を舐めるように滑った。


翼の猛獣――アンズーが、ルーナへ向きを変えた。


(よし、釣れた)


ルーナがさらに右へ走る。

アンズーは翼を一度、強く打ち、空気を裂く。


狙い通りだ。


「今だ!」


クルツが叫び、鉱山の出口から――左へ飛び出した。


ほんの僅か、タイミングが早かった。


その“早さ”が、致命になりかける。


アンズーの頭が、反射のように戻った。

狙いが、ルーナから、左へずれる。


鉱山の出口の中から、それが見えた。


(――戻る! こっちに来る!)


クルツが息を飲んだ、その瞬間。


ドンッ!


鈍い衝撃音。


フェルドが、アンズーへ体当たりした。


小さな体ではない。

鉄鉱の塊みたいな背を持つ魔獣だ。

突進の重みが違う。


アンズーの巨体が、わずかに揺れる。


獲物の視線が変わった。


――ターゲット変更。


アンズーはルーナでもクルツでもなく、

“今、ぶつかってきた壁”を敵として見た。


「フェルド……!」


ルーナが叫ぶ。

だがフェルドは逃げない。


アンズーが咆哮し、鉤爪を振り下ろす。


ザンッ!


空気が裂ける音。


フェルドは――くるっと回転した。


ただ避けたのではない。

“背中”を向けた。


背で受けるためだ。


アンズーの爪が、フェルドの背中に叩きつけられる。


ギィィン!!


金属を叩いたような音が響いた。


フェルドの背中は、守りのために生き残ってきた

――盾の甲羅。


アンズーの爪は、弾き返された。


爪が滑り、火花が散る。


アンズーが一瞬だけ、目を見開く。


――刺さらない。


――壊れない。


それが理解できない獣は、怒りで翼を広げた。


フェルドは一歩も引かない。

ただ、背を向けたまま低く唸る。


「……守る……」


小さな声。

けれど、その背中が“答え”だった。


フェルドの背に弾かれた爪の余韻が、まだ空気に残っていた。


アンズーが翼を大きく広げ、砂埃を巻き上げる。

次の一撃のために、体勢を立て直す。


クルツは、咄嗟に足を止めた。


短剣に手が掛かる。

腰が落ちる。

――戦いに入る、あの素振り。


翼の相手に二人では無理だ……。

(今、俺が入れば……いけるか……)


その迷いを、フェルドは見逃さなかった。


フェルドが、背を向けたまま首だけを捻る。

クルツを一度見て――


小さく、手を振った。


行け。


来るな、じゃない。

「お前は、そこに居る意味が違う」と言っている。


そしてもう一度、強く振った。


行け。

役目を果たせ。


クルツの喉が詰まる。

言葉では通じなくても、意志は真っ直ぐ刺さってくる。


「……っ、分かった」


クルツは歯を噛み、足を引いた。

フェルドを信じる決断だ。


その瞬間――


右から、風を切る音。


ルーナが動いていた。


アンズーの視線はフェルドに固定されている。

なら、横腹は空く。

翼の付け根――重い獣が飛ぶための“要”が。


ルーナは一気に距離を詰める。


走るのではない。滑るように。

剣闘士の足運びで、地面を噛む。


アンズーがフェルドへ爪を振り下ろす――

その瞬間を待っていた。


(今だ)


ルーナはアンズーの右翼側、外へ回り込む。


一度、剣を引く。

体を捻り、刃を寝かせ――


切り返し。


ただ振るのではない。

羽の流れに逆らう角度で、根元へ叩き込む。


ザシュッ――!


硬い羽毛の層を裂き、付け根に赤い線が走った。


アンズーが吠えた。


「グォォォォォ……!!」


怒りの咆哮。

だが、それは“効いた”証だ。


翼が一瞬、落ちる。

体が傾き、地面を踏み直す音が響く。


ルーナは追わない。

追えば、翼の返しで潰される。


切り返した剣をすぐ戻し、半歩だけ引く。

次の動きに備えて、呼吸を沈める。


(欲張るな。

一太刀で十分。)


フェルドは背中を向けたまま

くるりと回転してもう一度構え直した。

鉄鉱の塊のような背が、まだ揺るがない。


アンズーの視線が揺れる。


盾のような背中。

刃のような女。

そして走り去った剣士。


――どの獲物を狙うべきか。


その迷いこそが、次の一手のための“隙”になっていく。


「……こっち」


声は小さい。

だが、意志が硬い。


翼の猛獣――アンズーは、ルーナを見た。

そして、獅子の面相を歪め、牙を剥き出して笑う。


「おまえが獲物だ!」


アンズーが急降下する。

風が刃になって頬を叩いた。


ルーナは逃げない。


足を踏み込み、剣先をほんの少し下げた。


(――飛ぶ相手に、上を追うな)


剣闘場で学んだ理屈じゃない。

生き残ってきた本能だ。


アンズーの爪が地面を抉る直前――

ルーナは半歩だけ横へ滑り、剣を水平に振った。


「――ッ!」


ガキィン!


硬い音。

羽根ではない。爪の甲に当たった。

火花が散り、アンズーの巨体がわずかに軌道をずらす。


(通る。……この剣は通る)


ルーナは追わない。

追えば、翼で叩き潰される。


代わりに、距離を“作る”。


一歩、二歩、三歩。

アンズーが羽ばたいて跳ね上がる。


その瞬間を狙って、ルーナは剣を下から差し込む。


だがアンズーは空中で身を捻り、翼で叩き落とす。


ドンッ!


空気の塊がぶつかったような衝撃。

ルーナの身体が飛び、地面を転がる。


痛み。

けれど、呼吸は乱れない。

(慣れてる……こういうのは)


立ち上がるまでが速い。

転ぶことを前提に動いている。


ルーナは剣を地面につき、膝を軽く曲げた。


アンズーが吠え、今度は真正面から突っ込んでくる。


ルーナは“迎える”のではなく、“誘う”。


視線で、肩で、足の角度で――

敵に「ここを掴め」と教える。


そして最後の瞬間に、外へ逃がす。


すれ違いざま、剣が一閃。


ザシュッ。


再び翼の付け根――硬い羽毛の間に、赤い線が走る。

アンズーが怒り、空へ跳ねた。


だが、その怒りが、狙いだ。


「……もっと来い」


ルーナが低く言う。


アンズーは再び降りる。

今度は、爪だけでなく牙も使う気だ。


ルーナは剣を構え、心を沈めた。


(私は――囮。囮は死なない。

囮は“時間”を作る。)


ーーーー


クルツは草地を蹴り、息を切らして走り続けた。

鉱山から柵の強化現場までは距離がある。

だが止まれない。……止まった瞬間……


遠くに黒々とした新しい柵が見えた。

木杭の列、その影の中で、職員たちが動いている。


アレンの声が飛ぶ。


「そこ! 結束、締めろ! 緩んだら意味ねぇぞ!」


その横に――


白銀の体。薄黒い羊の顔。

一本の漆黒の角。


カイチが、柵の外側に立っていた。

見張りではない。

“そこに居るだけで”周囲の空気が変わっている。


クルツは柵の手前で、声を張り上げた。


「アレン!!」


「えっ、先輩!? どうしたんですか、鉱山は――」


「鉱山の外に出た! 翼の生えた猛獣がいる!」


作業の手が止まる。

木槌の音が消える。


アレンが目を見開いた。


「翼の……猛獣?」


「鳥じゃない。獣の体に、でかい羽だ。

ガルドとクレイグが見た。俺も見た。

今、ルーナとフェルドが時間を稼いでる」


アレンの顔色が変わる。


「ルーナが……?」


クルツは短く頷き、言葉を続けた。


「――カイチの助けが必要だ」


言い終えるより早く、空気がさらに冷えた。


カイチが、ゆっくりと顔を上げたのだ。


角がわずかに傾く。

視線が、遠い方角――鉱山の方向を捉える。


何も言わない。

けれど、判定が下りたのが分かった。


アレンが唾を飲み、カイチを見た。


「……カイチ。頼む」


カイチは一度だけ鼻を鳴らした。

短く、低く。

それは了承の音だった。


「アレン! 現場は頼む!俺はカイチを案内する!」


白銀の影が草を裂き、鉱山へ向かって一直線に走る。

クルツも並走しようとしたが――差が出た。


速い。

脚の回転も、地面を掴む力も桁が違う。

このままでは、カイチだけ先に着いてしまう。


「くっ……!」

クルツが息を噛んだ、その時。


カイチが速度を落とし、首だけをこちらへ向けた。


そして――低く短く鳴いた。

「……背に、乗れ」


はっきりと理解できた。


クルツは目を見開く。

「乗れって……俺が? お前の背に?」


カイチは答えない。

ただ、視線を前へ戻し、背を少しだけ低くした。


“乗れ”の形。


クルツは一瞬迷う。

騎乗なんて、訓練もしていない。

それに、相手は霊獣だ。


「……乗っていいのか?」


問いかけると、カイチは一度だけ頷いた。

迷いのない動き。


――許可。


クルツは歯を食いしばり、走りながら飛びついた。

肩口の毛を掴み、背に跨る。


想像よりも安定していた。

背中が広い。揺れが少ない。

まるで最初から“人を乗せること”を想定した体躯だ。


カイチが、さらに速度を上げる。


風が顔を叩き、景色が流れる。


クルツは低く身を伏せ、カイチの動きに合わせた。

「……頼むぞ」


カイチは返事の代わりに、鼻を鳴らした。

短く、低く。

――任せろ。


白銀の疾走が、鉱山へ向かって加速していった。


――間に合え。

ただそれだけを、胸の中で繰り返しながら。


ーーーー


白銀の疾走が草地を裂き、鉱山前の開けた場所へ滑り込んだ。


カイチが到着した瞬間――

空気が、変わった。


ルーナは剣先をわずかに下げる。

(……間に合った)


声には出さない。出す必要がない。

けれど胸の奥で、張り詰めていた糸が一本だけほどけた。


フェルドは背を固めたまま、短く息を吐いた。

「……来た……」

それは喜びではなく、“盾の時間が終わる”という安堵の呟きだった。


フェルドが背で受け、ルーナが右から牽制していた戦場に、

“裁定”の気配が落ちたのだ。


ルーナの耳がぴくりと動く。

(これで、私は“囮”じゃなくなる)


フェルドの足が、土を一度だけ踏み固める。

(……守れる)


アンズーが、ぴたりと動きを止めた。


そして――目を見開く。


獲物を見る目ではない。

“知っている相手”を見た目だ。


次の瞬間、翼を大きく広げ、喉の奥から声を絞り出す。


「グルァァァァァァァァッ!!」


獣の咆哮ではない。

怒りと警戒が混じった、威嚇の叫びだ。

空が震え、草が伏せる。


カイチは一歩前へ出た。

漆黒の一本角が、わずかに傾く。


その目が、瞬時に“それ”を見抜く。

「……アンズーか」


低い声。

だが、確信があった。


そして、吐き捨てるように言った。

「お前……今度は何を狙ってるんだ!」


アンズーが、翼を打つ。

羽ばたきの風が砂を巻き上げ、声が返る。

「貴様には関係ない。黙っていろ!」


カイチの足が止まらない。

静かに距離を詰め、言葉を重ねる。

「そういう訳にはいかん。

お前が相手をしているのは――我の仲間だ」


角先が、わずかに持ち上がる。

「傷つければ……容赦はせんぞ」


アンズーの目が吊り上がる。

「黙れェェェェ!!」


叫びと同時に、巨体が跳ねた。


翼が空気を殴り、土が抉れる。

アンズーは一気に飛び上がり、上空へ逃げるのではなく――


“落とす角度”を作るために、空へ上がった。


アンズーは上空で大きく旋回した。


一周。

二周。


羽ばたきが速くなるたび、風が鋭くなる。

空気が削られ、草地が波打つ。


――速度を上げている。


狙いは一つ。


カイチ。


アンズーは翼を畳み、重い体を“槍”のように細くして、一直線に落ちてきた。


「グォォォォォォッ!!」


叫び声が、落下の勢いそのものみたいに地面へ叩きつけられる。


ルーナが息を呑む。

フェルドが背を固める。

クルツが歯を噛んだ。


(――正面から受けたら、潰れる)


だが。


カイチは、何でもなかったように目を細めただけだった。


踏み替えもない。

構えもない。

ただ、落ちてくる影を“見る”。


そして、最後の一瞬。


ひるがえした。


まるで布が翻るみたいに、白銀の体が滑る。

重心がずれ、角の向きだけが正確に残る。


次の瞬間――


漆黒の一本角が、アンズーの翼へ突き抜けた。

ズン、と鈍い手応え。


羽毛が舞う。

だがカイチの顔色は変わらない。


角が刺さったまま、カイチは体勢を崩さない。

“受けた”のではなく、“捕まえた”。


アンズーの巨体が、空中で引っかかったように止まる。

勢いの行き先を失い、重量だけが落ちてくる。


カイチはそのまま、一歩、踏み込んだ。

地面が鳴る。


そして――


アンズーを角に縫い止めたまま、地へ叩きつけた。

ドンッ!!


土が跳ね、草が伏せる。


衝撃が収まったあとも、角は抜けていない。

カイチは首を少しだけ傾け、逃げ道を奪う角度で押さえ込む。


「……落ち着け」

低い声。命令に近い。


アンズーは暴れようと翼を打つが、動けない。

角が“楔”になっている。


カイチは告げた。

「次に動けば、今度は“裁く”」


その言葉に、場の温度がさらに下がった。


――倒したのではない。

――力で黙らせたのでもない。


「逃げるな」と、地面に“判”を押しただけだった。


勝敗は、決していた。


地面に叩きつけられたまま、

角に縫い止められたアンズーは、もはや翼を打たない。


荒い呼吸だけが、土を震わせる。


やがて――


その抵抗が、止んだ。


アンズーは目を伏せる。

「……」


諦めた。


カイチは角を抜かない。

だが、押し付ける力も増やさない。


ただ告げる。

「殺しはせん」


低く、揺るがぬ声。

「だが、条件がある」


アンズーが目だけを動かす。

「……どういうことだ」


「お前は、この地での“悪”を裁け」


空気が、ぴんと張る。


「何だと……?」

アンズーの声に、困惑と怒りが混ざる。


カイチの瞳は動かない。

「我の配下になれ、ということだ」


「……」

沈黙。


屈辱と、計算と、誇りが、アンズーの中でせめぎ合う。


カイチはわずかに首を傾けた。


その瞬間、翼に刺さった角を――


ギリ、と捻る。


「痛っ……!」

アンズーが思わず声を上げる。


「痛い! 痛い! 分かった、分かったからやめろ!」

さらにほんの僅か、圧がかかる。


「我は二度は言わぬ」


「わかった! 従う! 従うから……抜け!」


カイチは静かに力を抜いた。


角を引き抜く。


羽毛が舞い、アンズーは地面に伏したまま動かない。


しばらくして、ゆっくりと体を起こす。


もはや威嚇はない。


カイチが一歩前に出る。

「わかればいい」


そして、淡々と命じた。

「行け、下僕」


その一言で、主従が決まった。


アンズーは一瞬だけ空を見上げ、

それから翼を広げる。


今度の羽ばたきは、荒々しくない。

「……命に従おう、裁定の獣よ」


低く呟き、空へ舞い上がる。


だが逃げるのではない。

旋回し、この地を見下ろす位置へと移動する。


“監視”の位置だ。


ルーナが剣を納める。


フェルドはゆっくりと背を下ろす。


クルツは、カイチの横に立った。

「……従わせたのか」


カイチは鼻を鳴らす。

「違う。使うだけだ」


空には、翼の影。


地には、白銀の角。


そしてこの地に、新たな“裁きの目”が加わった。


第39話「翼の猛獣と裁きの角」

お読みいただき、ありがとうございます!


今回は強敵・アンズーとの対決と

カイチの圧倒的な「裁定」の回でした。


囮として見事な立ち回りを見せる元剣闘士のルーナ


絶対的な盾として一歩も引かないフェルド


そしてまさかのカイチへの騎乗を

果たして駆けつけるクルツなど


それぞれのキャラクターの活躍を

楽しんでいただけていたら嬉しいです。


最後はアンズーを力(と角)でねじ伏せ

空の監視役として配下にしてしまったカイチ。

さすが霊獣、格が違いますね。


新たな「空の目」を得て、この地はどうなっていくのか。

次回もどうぞよろしくお願いいたします!


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