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守るべき者 第16話

今日のニコは、いつもと違っていた。

まだ薄暗い時間に目が覚め

廊下を歩いて集合場所へ向かう。


「おはよ〜」

「おはよ〜」


声の主はガルドとゴリムだった。

二人も廊下に出てきたところらしい。


「おはようございます。」


ニコがぺこりと頭を下げると

その様子を見たゴリムが目を丸くする。


「ニコ、今日は早起きだなぁ〜」


「清々しい朝ですね〜」


いつもなら寝ぼけた顔で現れるニコが

妙にしゃきっとしている。

ガルドとゴリムは顔を見合わせ

不思議そうな表情になった。


ガルドが、ゴリムに小声で言う。

「今日は朝の仕事が一つ減ったな。」

二人はまた顔を見合わせて、くすっと笑った。


(なぜかただ早く目が覚めただけなんだけど……)


理由はそれだけなのに、なぜか気分は良い。

ニコは機嫌よく、集合場所までの足取りを軽くする。


集合場所に着くと、ちょうどアレンが近づいてきた。

その顔は、見慣れた軽い笑み。


「ニコ、おはよ〜。今日は早起きだなぁ〜」


またそれですか、と思いながらも、ニコはきちんと返す。


「アレンさん、おはようございます。」


アレンが、ふと思い出したように言った。


「カイさんがよく『早起きは三文の徳』って言ってたなぁ〜」


懐かしい言葉を聞いて、ニコが尋ねる。


「サンさんの旦那さんですか?」


「そうだよ。」


それだけ言って、アレンは一拍置いた。

そして、少し声のトーンを落として続ける。


「ニコ、ちょっといいか」


「はい、何ですか?」


「今日の事なんだが……園長がニコに用事があるらしいんだ

仕事に行く前に、顔出してくれないか。」


「……。」


返事がない。

ニコは固まったまま、口を開こうともしない。


しびれを切らしたアレンが言う。


「ニコ、聞いてるか?」


慌てて返事をするニコ。


「はっ、はい。聞いてます。」


アレンが、小さな声で言った。


「お前、何したんだ?」


「なっ、何もしてないはずですよ……」


「はずってお前……」


アレンの呟きが背中に刺さったまま

ニコは歩き出した。


重い足取りで、廊下を一歩ずつ。

集合場所とは逆の方向の

中央の階段を上がり園長室に向かう。


二階の廊下は、いつも静かだ。

足音がやけに響く。

(何もしてない……はず。いや、してない。してないよね?)

自分に言い聞かせるほど、胸の奥がざわついた。


園長室の前に着いたニコは、ぴたりと止まった。


ドアの前。

手を上げるだけなのに、指先が少し震える。


一度、息を吸う。

喉が乾いて、空気がひっかかる。


意を決して、弱く叩いた。


「コツ、コツ」


沈黙が一拍。

部屋の奥から、太い声が返ってくる。


「おぉ〜ニコ来たか!入っていいぞ。」


恐る恐る、ドアノブに触れた。

冷たい金属の感触。

ぎい、と小さく鳴って、隙間から室内の空気が流れ出す。


――その瞬間だった。


目の前を“影”が塞ぐ

大きな体。大きな腕。

そして、光を反射する“刃”。


(剣――!?)


理解する間もなく、剣が振り下ろされた!


風が唸った。

空気が裂ける音がする。

刃先が視界を斜めに切り込み、銀色の線が迫ってくる。


(避けなきゃ――死ぬ!)


そう思った瞬間、ニコの体が動いた。

だが今回は違っていた、ニコはハッキリと意識して

避けたのである。


腰が捻れ、肩が沈み、足が滑るように床を蹴る。

ぎり、と爪が床を掴んで、体が横に逃げた。

刃は、ニコのいた場所を一閃して

空振りのまま床すれすれで止まる。


空気の匂いが変わった。

鉄の気配。木の匂い。汗。


遅れて、鼓動が耳まで響いた。

(……今の、なに……?)


ニコは息を呑み、固まったまま目を上げる。


そこにいたのは――園長だった。


巨大な体躯。腕の筋。

そして、剣を片手に、まるで遊びみたいな顔。


園長はニコの動きを全く追い切れてはいなかった。

次の瞬間。


「がはははぁ〜!!」


園長の笑い声が、部屋を揺らした。


「やはりな!面白いヤツだ!」


ニコは、言葉が出ない。

喉が、きゅっと縮む。


(……面白い、って……いまの、私、死にかけ……)


園長は剣を軽く肩に担ぎ、愉快そうに続けた。


「普通のやつなら腰が抜けて倒れる。

叫ぶ。泣く。逃げる。……だが、お前は違った。」


園長の目が笑っていない。

けれど、怒ってもいない。

“観察”している目だった。


「お前は私の一閃をかわして見せた。」


園長は、嬉しそうに口角を上げる。

そして続けて言う。


「この事が何を意味するか分かるか。」

「………」

「つまり――お前には、戦士になる資格がある」


園長は剣先を床に当て、カン、と鳴らしながら言った。

ニコは震える息のまま、ようやく一言絞り出した。


『……ころ、す気ですか……』


とニコが言うと、園長はまた笑った。


「殺す気ってお前これはなまくらだ。」

自分の腕を剣で叩きながら言いた。


園長には狙いがあった。

それはニコ自身に自覚させる事だ。


力が抜けて床に崩れ込むニコ

腰が抜けたようだ。


園長がニコの肩を叩き言う。

「脅かして悪かったな。」


ニコが落ち着くのを待って園長が

椅子を指差し言う。

「ここに座ってくれ」


ゆっくりと立ち上がり

椅子に腰掛ける


座ったニコを見て園長が切り出す

「お前は戦士にならなければならない。」


ニコはあまりにの唐突な言葉に

戸惑い言葉を失っていた。


「この世界の人々の為にお前は

戦士になるべきだ。」


恐る恐る尋ねる

「僕が戦士ですか?」


「そうだ。」


「僕は人も魔獣も傷付けるつもりは

ありませんよ。」


園長の顔から、笑みが少し消えた。

叱るというより、正すような目。


「相手を傷つけるだけが戦士では

ないぞ守るのも戦士の役目だ!」


「守る……」


ニコが小さく呟くと、園長は大きく頷いた。


「そうだ。守る戦士だ!」


勢いよく言い切ったあと、園長の声が少しだけ落ちた。

笑みが消えたわけではないのに、空気が重くなる。


「まぁ……私は守れなかったがな……」


その一言に、ニコの喉がきゅっと鳴った。

ニコは知りたい気持ちを押し殺し園長を見た


園長の目は、遠いところを見ている。


園長は剣を床に立て、手を添えたまま続ける。


「だからお前に、力なき者を守る盾になって欲しい。」


「盾。」

その言葉が、ニコの胸の奥に引っかかった。


ニコは黙り込み、考え込む。

拒否したい気持ちと、逃げたい気持ちと、

――さっき剣を避けた自分の能力の謎が

頭の中でぶつかり合う。


園長は、急かさなかった。

少しだけ間を置いてから言う。


「今すぐ決めろとは言わん。」


そして、口元をわずかに緩める。


「お前が抜けると、アレンが困るだろうからな。」


園長は言い方を軽くしたが、言っている内容は重い。


「魔獣園の魔獣を増やさないといけないな。」


ニコは目を伏せたまま、息を吐く。


「……わかりました」


小さく――けれど、確かに。

ニコは頷いた。


しばらくして、園長から指示が出た。


「ニコ、忙しい中悪かったな。作業に戻っていいぞ。

今日は確か、りんごの収穫だったな。

――果樹区画にいるはずだ。」


ニコは「はい」とだけ答え、ゆっくり立ち上がる。

頭の中はまだ整理できていない。


守る戦士。

盾。


それらが胸の奥で重なって、うまく言葉にならない。


ニコは考え込むような顔のまま、園長室を出ていった……。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


今回は「守るべき者」という題名の通り

ニコが“守る”という言葉を突きつけられる回になりました。

園長の剣は脅かしではありましたが

あれはニコ自身に「自分は避けられる」と

自覚させるための試しでもあります。

恐怖の中で身体が動くのではなく、意識して避けた

その変化が、これからのニコにとって大きな意味を持っていきます。


そして園長の「私は守れなかった」という一言。

まだ語られない過去が、ほんの少しだけ影を落としました。

守る戦士とは、誰かを傷つけるための力ではなく

力なき者の盾になるための力。ニコがその言葉をどう受け止め

どこまで背負うのか。ここから物語の匂いが

少しずつ変わっていきます。


次回は果樹区画、りんごの収穫です。日常の作業の中にも

守るべきものは増えていく。そんな感覚を描けたらと思います。


また次話でお会いできたら幸いです。


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