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目を覚ましたら、レッサーパンダだった 第1話

名を持たぬ魔獣たちが投獄される場所――魔獣園。


成人式の日、仲間たちと会場に向かう途中、異様な光に包まれ、忽然と姿を消す。

目を覚ますと、そこは魔獣園――そして彼の体はレッサーパンダになっていた。


人としての記憶と言葉を持ったまま、魔獣として檻の中で生きることになったニコ。


人間と魔獣、双方の言葉を理解できる彼は、その希少性から次第に飼育員の手伝いを任されるようになる。

過酷な労働、理不尽な扱い、そして名も与えられず生きる魔獣たち。


だがある日、ニコが何気なく呼んだ「名前」をきっかけに、

魔獣たちの中で静かな異変が起こり始める。


この世界では、進化は長い年月を必要としない。

生き方と、必要とするものが――変化をもたらす。


名を呼ばれた日、進化が始まった。

魔獣園を舞台に描かれる、静かで確かな成長と変化の物語。


光に包まれた。


成人式の会場へ向かう途中だった。

仲間と五人、笑いながら歩いていた、そのはずだった。


次の瞬間、足元が抜ける感覚。


「え――」


誰かの声が聞こえた気がする。

だが、その声は途中で途切れ、意識が遠ざかった。



意識が、ゆっくりと浮上する。


眠っていたのか。

落ちていたのか。

時間の感覚が、曖昧だった。


背中に、冷たい感触。


ニコは、ゆっくりと目を開けた。


まず、天井がやけに高い。

次に、床が冷たい。

そして何より――体が、軽い。


起き上がろうとして、自分の前足が視界に入った。


黒と茶色の毛に覆われた、丸っこい前足。

短い爪。

柔らかな肉球。


「……?」


立ち上がろうとして、ふらつく。

バランス感覚が、明らかにおかしい。


後ろを振り返り、自分の姿を確認して、理解した。


「……レッサーパンダ?」


疑問形なのは、他に言いようがなかった。


赤茶色の体毛。

縞模様の太い尻尾。

どう見ても、動物園で見たことのある、あの動物だ。


混乱しながら、周囲を見る。


石造りの壁。

無骨な柱。

重厚で、古めかしい空間。


(……王城?)


そんな言葉が、自然と浮かんだ。


視線の先に、黒い鉄の格子が並んでいる。


(……装飾?)


豪奢ではないが、威厳はある。

格式を重んじる城なら、ありえなくもない。


そう考えた、そのときだった。


視線が、合った。


 身長二メートル以上はあろうかという、筋骨隆々の魔物。

 灰色の肌に、突き出た牙。


 オーガだ。


 その横には、緑色の小柄な魔物。

 尖った耳に、ずる賢そうな目。


 ゴブリン。


 「……定番すぎないか?」


 思わず口に出た。


 オーガが眉をひそめる。

 ゴブリンが、ぎょっとした顔でこちらを見る。


 「おい、今……喋ったか?」


 ゴブリンが言った。


 「喋ったな意味は分からんが……声だな」


 オーガが頷く。


 「当たり前です。意思疎通できない方が問題です。」


 自分で言っておいて、少し落ち着いた。

 少なくとも、理性も言語能力も残っている。


(オーガの王様、でかいな)


ニコは真顔でそう思った。


(ゴブリンの側近? 従者?)


(この二人が王様と側近……に見えるのは気のせいか?)


二体とも、玉座には座っていない。

だが、“立って迎える王”という解釈もできなくはない。

自然と納得してしまう。


(まずは、礼儀だ)


ニコは背筋を伸ばした。


「先ほどの無礼申し訳ありませんでした。

改めて突然の召喚、感謝いたします。」


静かに、頭を下げる。


巨大な影が、わずかに首を傾げた。

緑色の存在が、目を見開く。


声は返ってこない。


(……声は聞こえている。でも、意味まで分かるのは……俺だけ?)


言葉が違うのか。

それとも、試されているのか。


そう考えた、そのとき。


「おい」


荒い声が響いた。


通路の奥から、足音。


革靴。

金属の鳴る音。


現れたのは、人間だった。


制服姿。

だが、王族の威厳はない。


(……あ)


(この人が、本当の王様か)


ニコは、今度は深々と頭を下げた。


「お目にかかれて光栄です。

 召喚の意図をお聞かせ願えますか」


沈黙。


数秒。


「……は?」


男――アレンは、完全に間の抜けた声を出した。


「何言ってんだ、こいつ」


ニコは顔を上げ、違和感を覚える。


(……あれ?)


声が軽すぎる。

態度が雑すぎる。


「ここ、どこだと思ってる?」


「王城、では?」


その瞬間。


向かいの巨大な影が、低く息を漏らした。

緑色の存在の肩が、小刻みに揺れる。


「……ッ」


笑いを堪えている。


アレンは額に手を当てた。


「……あー。

 お前、新入りだな」


そう言って、鉄格子を叩く。


「ここはフェルナ園。

 魔獣の檻だ」


一瞬、理解が追いつかなかった。


(……檻?)


改めて、周囲を見る。


鉄格子。

石床。

鍵。


(……檻だ)


膝から、力が抜けた。


向かいの二体が、こちらを見る。


巨大な方が、低く唸る。


「……声は聞こえるが、意味は分からん」


緑色の方が、肩をすくめる。


「変な鳴き方する魔獣だな」


ニコは、息を呑んだ。


(……違う)


(今の、普通に聞こえた)


やっぱり通じている。

意味まで、はっきりと。


だが、彼らの反応を見る限り、

こちらの言葉は届いていない。


(……俺だけ?)


そのとき、アレンがゴブリンの檻の札を書き換えながら言った。


「危険度、低……いや、まだ分からんな」


その手元を見て、ニコは思わず声を上げた。


「待ってください」


アレンが顔を上げる。


「ん?」


「そこの檻、鍵のかけ方が甘いです」


一瞬、間があった。


「……は?」


「隣が大型魔獣です。

 衝撃で歪めば、三回で外れます」


巨大な魔獣が、感心したように唸る。


「……細かいな」


ニコは当然のように答えた。


「当然です」


アレンは頭を掻き、ため息をつく。


「……まぁ、言われてみれば」


鍵を掛け直しながら、こちらを見る。


「お前、人の言葉、分かるのか?」


「そのようです」


アレンが吹き出した。


「はは、面白いな。

 お前、名前は?」


「ニコです」


咄嗟に出た言葉に驚くニコ

(かつてTikTikに投稿していた、あのレッサーパンダキャラの名前だ……)。


その名を口にした瞬間、

自分の姿に納得した。

いかがでしたか、ニコの新しい一歩。

たった一日で、世界も体も、すべてが変わってしまう――それでも、彼は前を向こうとしています。


魔獣園という未知の場所で、ニコがどんな出会いをし、どんな冒険を経験するのか。

そして、彼の持つ“小さな力”が、どのように未来を変えていくのか。

小さなレッサーパンダの大きな一歩が、これから始まります。


明日より2話づつ4日間投稿予定です

次回も、ぜひ一緒に見守ってください。


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