第15話 そんなママの昼に見る夢。
「えっ」
俺が驚いて声をあげると、舞雪さんは続けた。
「その代わり、今夜、たくさん愛して欲しい……。そして、こういうのは今日だけで終わりにしよう」
「……なんで?」
俺は、胸にポッカリと穴が空いたようだった。
寒くて痛くて切ない。
せっかくできた家族に、捨てられたような気分がした。
「だって、わたしたちに関わったら、隼人くんの人生がめちゃくちゃになっちゃう。隼人くん、すっごく良い大学に通ってるでしょ? だから、ご両親も期待してるだろうし。きっと、良い会社に入って、立派な人生を送るの。そういうの、わたしがダメにしちゃうのはイヤだ」
俺の腕の辺りが濡れている。
きっと、舞雪さんは泣いている。
「おれ、舞雪さんのこと、頑張り屋さんで、すごくカッコいいって思ってるよ。だから、そういうのも……。一緒に分かち合いたい。舞雪さんが辛い時には肩代わり……、いや、違うな。肩を貸せるような関係になりたいんだ」
俺は、舞雪さんの手をギュッと握った。
「おれね。舞雪さんのこと好きだよ。だから、ちゃんと学校も卒業して、色々ちゃんとするから。そしたら、2人に告白してもいいかな? 一年半とか先になっちゃうかもだけど」
「……2人?」
「うん、舞雪さんと秋桜ちゃん。俺の家族になってくださいって、伝えたいんだ」
すると、舞雪さんは身体を起こして、俺の上にきた。暗くて顔はよく見えないが、舞雪さんの髪の毛がサラッと落ちてきて、くすぐったい。
舞雪さんは俺に顔を近づける。
そして、音もなく唇を重ねた。
今度のはアクシデントじゃない。
ちゃんとしたキスだ。
静かな部屋の中に、お互いの唇を求める音だけがしている。
たくさんキスをして顔を離すと、ポタポタと涙が落ちてきて俺の目に入った。俺の目尻は荒れているみたいで、舞雪さんの涙で少しヒリヒリした。
舞雪さんは、囁いた。
「わたしも、隼人くんのこと、好き。すっごい好き。世界一好き。きっと、わたしの人生で一番好き。だから、だからね……、やっぱり諦められないよ……。君を待ちたい。……待たせてもらってもいいですか?」
俺は舞雪さんの頭を撫でた。
「もちろん。待っていて欲しい。でも、好きな気持ちは「きっと」なの?」
舞雪さんは手を口にあてた。
「あっ、絶対。絶対にわたしの人生で一番好きだから!!」
「うん。ほんとは分かってる。色々ちゃんとしたい。だから、エッチは、その後……かな?」
舞雪さんは頷いた。
……ふぅ。
一番大切なことは、秋桜ちゃんのヘルプなしで自分の口で伝えられたよ。
すると、いつの間にか秋桜ちゃんが起きていてニマニマしていた。
「パパ、ママ♡ わたしの妹はそろそろ生まれますか?」
俺は舞雪と秋桜の頭を撫でた。
「ごめん。妹ちゃんは、もう少し先かな。秋桜が小学生のおねーさんになったらね?」
「うん。楽しみ♡」
「んじゃあ、そろそろ寝ようか。おやすみ」
2人の手を握って目を閉じた。
すると、秋桜がまた口を開いた。
「ね、ママ。好きになった理由をパパに伝えた? そういうのは、ちゃんと自分のお口で伝えないとダメだからね?」
「……あっ!! 伝えてないかも……」
暗くて見えないけれど、舞雪は、きっとあたふたしてるんだろうなぁ。
でも、……俺も知りたい。
ただの隣人だった俺を好きになってくれた理由。
少し間があって、舞雪さんは小声で話し始めた。その声は、恥ずかしそうだけど、嬉しそうだった。
「えっと、それはね……♡」
舞雪と秋桜は楽しそうに話している。
目が合うと、2人は笑顔になった。
こんな光景。
数日前には、夢にも思わなかったことだ。
全ては偶然から始まった。
頑張り屋さんで優しくて美しいお隣さん。
そんな彼女とずっと一緒に居たいと思う。
(おわり)
お読みくださり、ありがとうございました。
隼人が経験した数日間の小さな恋の話でした。如何でしたでしょうか。
身近で普通にありそうな題材を、短めのストーリーにしたくて書きました。お楽しみいただけましたら幸いです。
あっ、★★★★★もどしどしお待ちしています( ˊ̱˂˃ˋ̱ )
では、また違う作品で!!