45葉 濃霧の前の少女
20/2/5 矛盾を見つけたので修正。
「うう。どうしてこんなことに・・・」
少女は囲まれてた。
真っ白な綿毛を纏う獣たちにぐるりと囲まれている。
ぐめぇ、ぐめぇと奇怪な鳴き声が其処ら中から聞こえてくる。
少女は辺りを見渡しながら必死に脱出策を考える。
配下のアンデッドも、頼れる相棒も今はいない。
拳を握りしめながら、今し方思い出した内容を反芻する。
魔境探索の果てに自分の身なにが起きたかを理解するために・・・
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「ふぅ、やっと着きました」
獣人の少女・シカモアは真っ白な霧を目の前にそう呟いた。
「この霧がアメミットたちの活性化の原因であることはほぼ間違いないでしょう。前例がない異常事態であることは確かです。さぁミイラさん達、十分に休憩をしたら霧の調査を始めます。今は周囲を警戒しつつ体を休めてください」
彼女の後ろにはずらりと数多くのアンデッドが並んでいる。
ゴブリンミイラ4匹に、グールとガストが3体ずつ、ボーンアスプが2匹、そしてボーンアメミット1匹。
全てこの遠征中に支配したアンデッドたちだ。
「単純な戦力なら申し分ないですが、無策に視界の利かない濃霧の中に入れば、一気に壊滅する可能性が高いです。かといって、明かりを使えば霧の中では目立ってモンスターたちの格好の的になりかねません。どのようにここを攻略しましょうか?」
顎に手を当て考え込むシカモア。
砂に突き立てられたスカラベの杖に止るホルス鳥のネフティー。
心なしか心配そうに主人の顔を覗き込んでいる。
「遠くから見た分には感じませんでしたが、かなり高く広いですね。やはり侵入は無謀です。危険すぎます。霧の外側から読み取れる情報を調べてみるしかありません」
霧を見上げてていた少女は前に向かって手をかざし瞳を閉じる。
「【マジックセンサー】、【バーセンサー】、【シュトスキャン】。・・・予想外。測定不能ですか。全くの反応が確認できません。魔法へ干渉されたのでしょうか? しかしそれならノイズくらいは拾えそうなものですが。発動した魔法は妨害されたわけでもないのに掻き消えた。そんなことがあるのでしょうか? いえ、断定するにはまだ早いです。ここは魔境。里とは魔素の分布が違うのかもしれません。落ち着いて、まずは現環境をベースに魔法を校正してみましょう。調整して再挑戦です」
ネフティーや護衛アンデッドに見守られながらあれこれと魔法を試すシカモア。
黙々と作業をこなすシカモア。傍から見るとただブツブツと独り言を呟いているようにしか見えない。
彼女が試している魔法が情報や索敵を目的としたものだからということもあるが、それにしても魔法発動時に起こる発光なども弱弱しい。
それでもめげずに淡々と魔法を試すシカモアだったが、ふと糸が切れたようにその場に座り込み、一拍おいた後じたばたし出し始めた。
「にゃーーー、なんで、どうして何の反応もないの! おかしい、絶対におかしいわ。」
族長の経験で染みついていた丁寧口調が剥がれ、年相応の振る舞いで悔しがるシカモア。
そのままの転んだ目線の先、それが目に留まった瞬間、砂ぼこりが巻き起こる。
猛スピードでそれに近づき這うような姿勢で観察を始める。
「こ、これは。この足跡は! 確か、手帳のあのページ・・・あった、やっぱりそう。アアルアの探検家たちが追い求めた幻のアンデッド、メジェドの足跡です」
興奮気味な様子で早口で呟くシカモア。
その瞳は獲物を狙う肉食獣の様に爛々と輝いている。
「様々な文献を読み漁りましたが、発見例はわずか3件。その珍妙な姿から作り物だと言われながらも唯一の証拠として残っていた足跡が今、私の目の前に。ああ、ああ! ・・・はっ、もしや、この霧はメジェドの巣なのでは? なるほど、魔法をはじく謎の霧の中に住んでいるなら発見されなかったのは納得です。ああ、見たい。この目でメジェドを見てみたい。でも、ダメよシカモア。私には里の未来を守る重大な使命が・・・。ああっ」
じたばたと悶絶し始めるシカモア。しかし、その表情は先ほどと違って苛立ちは見えない。
衝撃が伝わり、霧の境界が水面の様に波打つ。砂と共に霧が舞う。
鎮まった後、しばらくすると絞り出すようにネフティーに向かって言い放つ。
「毒性! 霧の毒性を確認しましょう。魔法をはじく不気味な性質ですが、毒性がなければ侵入できるはずです。問題なければ探索してみませんか? ね、ネフティー」
シカモアをじっと見つめるネフティー。微動だにしない。
「ダメなの? そうだよね。里の危機だもんね。わかりました。侵入前にこの霧についてレポートをまとめます。ネフティーは先に里に戻ってそれを届けてください。それでいいかな」
首を傾げると、キーと1回鳴く。その鳴き声には呆れのような感情は読み取れる。
「あぁ、ネフティーがいないと護衛が心配だよね。もっとたくさんアンデッドを集めてからやりますから。聖布も瞳も惜しまず使用して安全第一で行きますから。ねっ、お願い。こんな貴重な機会は次になあるかわからないんですよ。歴史的な大発見が目の前に待っているのですよ」
ため息を吐く様にキーと1回鳴く。何を言っても無駄だろうという感情がその瞳からは読み取れた。
「やった。ありがとね。では、先ほどの実験結果をレポートにまとめますね! ネフティーはいい感じの死体を探してきてね。できれば骨だけより肉付きがいいけど、あんまり遠出したり無茶しちゃダメだよ。じゃあ、よろしくにゃ」
言い終える前と同時に羽ペンを猛スピードで走らせるシカモア。
すでにレポート作成に入っているようだ。
ネフティーその様子を少し観察した後、黒く燃える羽根と熱波を残し獲物を探しに飛び立った。
4章スタートです。
本章はシカモア視点で進んでいきます。




