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組手

個人的に今回の出来に納得できていなくて後に改良してしまうかもしれません。お目汚し申し訳ございません。

 魔法陣の習得を目標に掲げてから数日、オルルが今何をしているかというとエリシアに訓練で扱かれていた。三歳になってからというものの、待っていましたとばかりにエリシアが剣の特訓を持ち掛けてきた。自身が剣を使う事柄を生業としているせいか、息子にも剣の使い方を伝授しておきたかったらしい。魔法にばかり魅せられていたオルルはこの提案を快諾した。冒険者になりたいと考えていたオルルには願ってもない事だった。それからの二年間、木刀を持つところから始め、身体つくりなどに励んでいた。

 だが、いざ剣の訓練を始めてみるとどうも様子がおかしい。エリシアは両手剣を愛用しているようで訓練でもそれを使用してオルルに教示しているのだが、それは剣の素振りをしているときに起きた。


 「オルル、剣を振るときはこうやってズバーッとやんだよ!」


 そういってエリシアは剣を上段に構え、振り下ろす。

 しかし、その刀身が見えることはない。辛うじてエリシアの肘から肩にかけての動きが見える程度だ。素振りの見本を実践してくれているというのに軌道どころか動き自体が見えていないのだから仕方がない。更に当の本人は「訓練の時から本気を出さなくては実戦の練習にならない」と言って剣速を下げてることはない。言っていることはまともなのだが、観て真似ることができないため訓練には向かない。

 そして、オルルが頭を悩ませていることがもう一つある。それはエリシアが感覚派ということだ。自分の動きも当人の本能的な直感により最適化されたものであり、言語化できておらず、教授の際は基本的に擬音が主となっている。そのため、オルルは肝心な感覚やコツが掴めず苦労していた。

 そんな訓練も二年間も続ければ進展を見せる。エリシアの剣閃が次第に見えるようになり、素振りのコツも掴み始めたのだ。多彩な型をものにし、残す実戦を想定とした打ち合いなどの訓練だろうとオルルは考えれいた。エリシアも頃合いと見たのか素振りをしているオルルに声をかける。


 「よし!オルル、木刀を置いて組手を始めるよ。」

 「え?なんで組手なの母さん?」


 漸く次の剣の訓練に進めると思っていたばかりにオルルは面を食らう。二年間素振りと身体つくりのみという些か時間をかけすぎているとも言える内容を続けていたオルルとしてはもう次の段階と進みたい気持ちでいっぱいだったのだ。


 「物事には順序というものがあんよ。」


 そういうと自らも両手剣を家の壁に立てかけて組手の準備をする。決定事項のようで練習内容を変える気は二ようだ。

 エリシアなりの考えがあるような発言をしていたのでオルルも不安に思いながらも準備を始める。

 ではなぜここにきて組手なのかというと、エリシアはオルルに原始的な、そして本質的な剣の強さをその身で実感してほしかったからだ。剣の間合いは広く、その攻撃力は拳の比ではない。組手を提案したのもまずは素手の戦いを覚えさせてから剣の有意性や剣士を相手にした際の立ち回り方などを学ばせたかったのだ。素手で戦うからこそ解る剣で戦う際の弱点を経験しておけば、自らが剣を手にしたときのアドバンテージは大きい。

 そのため、先ずは素手同士の組手から入りいずれは剣と剣、剣と素手の模擬戦を行おうとエリシアは考えていたのだ。


 「よし、自由にかかって来なさい。」


 エリシアはそういうとなんの構えも無しにオルルと相対する。

 予測していなかった展開にオルルは困惑するが、言われた通りにエリシアに挑むため気持ちを切り替える。

 素手の戦いの予習をして来なかったオルルはうろ覚えながら前世の記憶にあるボクサーを意識して構える。右利きであるオルルは左手を目線の少し下に持って行き、右手は顎を守るように顔の近くに留める。握りは浅く力が入りすぎないよう保つ。脇を締め、拳を放った際に肩に力が入るように肩峰を上げる。左足を前に、右足を後ろに置き、膝を曲げて身体を半身に傾ける。

 こんなものか、とやや手探りでオルルは構え直すと相対しているエリシアに目を向ける。

 

 「・・・見たことの ない構えだけど、なかなかどうして堂に入っているわね。」

 

 エリシアは少し訝しげな顔をしつつ、オルルが迫ってくるのを待つ。

 エリシアの素振りを見てきたオルルが慢心することはない。左右のステップを交えつつ、一歩一歩エリシアに近づいていき、間合いに入った瞬間、大きく踏み込み一気に彼我の距離を詰める。オルルの身長ではエリシアの頭部に拳を繰り出すことはできない。よって、狙うはエリシアの側腹部。右から詰めていった身体の遠心力を生かし、右足を軸に股を大きく開き最大限の力を乗せて腕を振りぬく。

 「入った!」オルルはそう確信した。だが次に瞬きした時、オルルは地に伏していた。

 


 組手を始めてから数時間、オルルはただの一度もエリシアに一撃を食らわせれられずにいた。しかし、オルルに悔しむ気持ちはなかった。元々、エリシアに敵うとも思っておらず、戦闘を学ぶつもりでいたからだ。

 当たり前のことであった。オルルは戦いにおいては、ずぶの素人。立ち回り方すら知らない素人が現役の冒険者に攻撃出来ようはずもなかった。だからこそ、知識にある戦闘の型を片っ端から試し、記憶にある動きや立ち回りの意味合いを知ることで成長することに決めたのだ。

 だが、唯一オルルに誤算があったとすれば、オルルはこの世界においても素人だったということだ。

 オルルはボクサーの真似事から組手を始めたのだが、その行動が既に甘かったのだ。いくらボクシングが長年の歳月を経て進化を遂げていようと、それはルール上の戦いであって、今相手取っているのはルール無用の戦闘を行う冒険者だ。相手を再起不能にしてしまわないように設けられたルールの中で行う格闘技とはわけが違ったのだ。そして、ボクシングとは下半身に寄る攻撃を縛り、腕力のみで戦う競技である。この選択がオルルが素人である所以だろう。元の世界では世界的に繁栄していた格闘技であり、その有用性を信じていただけに、この事実はオルルの精神にもダメージを与えた。

 更に、オルルの攻撃が通用しなかった要因はもう一つある。エリシアの身体能力が凡そ人間の体で出来るそれではなかったのだ。元々、オルルは武道の経験がないため、一朝一夕ですらない自分の手が通用しないのも頷けた。しかし、オルルは数時間も何もできないことに苛立ちを感じ始め、一矢報いるために魔法を使うことにした。エリシアに攻撃すると同時に隙を見て詠唱しながら水魔法の《水球》を放ったのだが、エリシアはオルルの目の前から消えて避けたのだ。オルルがなぎ倒されたわけでもなく、見逃したわけでもないのに人の体が目の前から消えたのだ。次の瞬間にはオルルの型に手が乗せられ、振り返ってみると、人差し指で頬を突かれた。


「身体が温まって来ちまったから今日はもう終わりにしよう。」


 エリシアは笑顔でそういうが、このときオルルは過去の常識が役に立たないのだと再確認した。エリシアの剣裁きを見たときに気づいておくべきだったのだ。

 

「それにしてもオルル!魔法使えるようになったのか!」

「少し前に父さんが見せてくれたんだ。」


 正しい回答ではないが、事実、オルルの父親であるウィリアムは《水球》をオルルに見せて教えていた。実際は習う前から使えたのだが、それを知らないエリシアが疑うことはない。

 今回の組手で考えなければいけないまた課題が増えてしまったのだが、オルルはこのことを喜ばしく思っていた。過去の常識が通用しない世界、正しく異世界である。魔法や魔力、闘気だけでなく、身体能力まで前世の人種を超越している。この事実に興奮を覚えないはずがなかった。



 組手を終え、オルルが木刀などをかたずけていると、エリシアが話しかけてきた。


「そういえばオルル、目の調子はどうだ?」 


 そう、考えなければいけない課題とはオルルの特殊な眼のことだった。

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