十一月三日之事_____三十三話目
お読みいただきありがとうございます。
昨夜、神功さんと酒盛りした後ビジネスホテルに戻ったのですが、今朝引き払う段になって、お団子の入った竹包がいくつかある事に気が付きました。
中身は…団子? 吉備団子かな?
この辺りは桃太郎伝説がある土地柄で旧国名は備前。更に古くは備中、備後、と合わせ 吉備の国と言ったらしい。
その吉備と黍を掛けた駄洒落グッズが吉備団子として土地の銘菓になっているのだ。
実は、桃太郎の話に黍団子(吉備団子)が出てくる様になるのは割と後年の事で 土地の銘菓の宣伝がそのままお話に織り込まれたのでは無いか?と言われている。
コーラの宣伝の所為で赤くなったサンタの衣装とか、土用の丑の日は鰻を食べる迷信とか、そんな感じだ。
あの新しい物好きっぽい神功のおっかさんなら喜んで食いつきそうなネタだから、わざわざお土産に持たしてくれたんじゃなかろうか?
『銘菓に美味いもの無し』とはよく言うが、この吉備団子は伊勢の赤福と並ぶ例外の絶品だと思う。
で、お土産のお礼参りに伺いたいが、実の処 あの神社が何処だったのかが よく分からないのだ。
ホテルのフロントのカウンター脇に積んであった観光マップで見ても、あの辺りと思しき場所は神社が濫立した密集地で 余りの数にどれだったのか見当も着けられない。
お礼参りは諦めて心の中で「ありがとう神功のおっかさん」とー言感謝しておく。
◆
「うはー。遠かった〜。」
うちは播磨と呼ばれる内でも東端に近く、現場のあった東備前からだと片道二時間。宿泊していた備前中央部南端からだと更に30分
が、万年渋滞気味の格安自動車専用幹線道路を使う為、状況によっては五時間以上掛かる事も普通にある。
因みに今日は四時間弱。まあこんなもん。
会社で車を降りのんびり歩く訳だが これが40分。
いい加減、自転車買おうかなと悩み中。
「ああ!先輩おつかれっす!」
串カツが今日も元気だ。
「あのー、いm「却下だ!」…まだ言ってないっすよ?」
「いもうとちゃんに会わせて下さいっす〜なら却下だ!」
なんでもそうだが、害あるモノはさっさと切り捨てるに限るのである。
串カツが糸を引きそうなじと目でこちらを見てるんだが………。
「なんだよその恨めしそうな目は?」
「…………おつかれでしょうからお宅までお送りしますよ!ね!」
こいつ、魅力的な提案しやがる…。
「………うちには上げねえからな!」
「さー先輩、送ります」行きましょー!」
早急に自転車を買う事を心に誓う。
◆
「この先でいいぞ。」
うちから200mくらい前の交差点で降ろしてもらおうと声をかけるが華麗にスルーの串カツ。
まあ、仕方ない。長い付き合いだ、お茶くらい出すか。
そう思っていたのだが近づく我が家にすごい違和感を感じる。
「なあ…カツ。あれなんだろうな?」
「さあ…。 ってか、こんな所に神社ありましたっけ?」
どう見ても鳥居……高さ一間半(2.7m )くらいだろう 朱塗りの赤鳥居。
「とりあえず前をゆっくり通り過ぎてくれっか?」
「ういっす…。」
ゆっくり進む車内から確認すると、くれ縁の前に浄財と書かれた木箱が置かれ。その真上には神社でお馴染みの大きな鈴と注連縄がぶら下がっている。
「先輩のお宅って神社でしたっけ?」
「いや…。生まれてこの方、まだ神社には住んだ事ねえな。とりあえずコンビニに行くか。」
「そうっすね。」
「さっき、巫女さん居ましたよ? 見た感じ17とか18とかそのくらいの娘。」
「17、18ぃ? 」
「妹ちゃんってコスプレイヤーなんすか?」
稚日じゃないな…………。新しい居候…か?
「それ、多分 妹じゃねえわ。 うちの妹はパッと見で中1に見えるからな…………。」
「! お兄さん!」
「『お兄さん! 』じゃねえ! 手ェ握るな! 妹が穢れる!」
ともかくコンビニから電話だ!
『もしもし加東です。』
「あ、稚日? 俺だけど…………。」
『お兄ちゃんですか?』
「うん。あの…ちょっと聞きたいんだけど………………今、うちが神社になってたりする?」
『そうです! やっと昨日から稚日女尊神社になりました!』
「あー…………、今から帰るわ。」
「どうでした?」
「なんか昨日神社になったらしい。」
「…………妹ちゃん、なかなかのバイタリティっすねー。」
「ああ、全くだな。」
ひょっとして一か月雲隠れしてたのって これの為か?
「なあカツ。まあ寄ってけよ。茶と茶菓子くらい出すわ。」
「え?いや、俺用事思い出したんで……。」
「まぁまぁ。良いから良いから…。」
◆
「お茶をどうぞ。」
帰宅時に玄関先で掃き掃除していた巫女さんがお茶を淹れてくれた。
「えーと、くずちゃんだっけ?」
「いえ、樟葉です、主人様。」
なんかこだわりあるのかな?ちょっとムッとした感じで訂正されてしまった。
「お茶いただくっす。」
カツと二人で茶を啜る。ずずー。
…………美味しくない。 いつもと同じお茶か?
「えーと、稚陽?」
「なんです?お兄ちゃん。」
他人のまえでは加東稚陽16歳。 女神 稚日女尊では無い。
とりあえず聞きたい事が多い。 …………ただ何から聞いたもんか。
「あ、妹ちゃん、はじめまして。自分 後輩の櫛名田っていうっす。 よろしくお願いします。」
「初めまして。わたくし、妹の稚陽って言います。こちらこそよろしくお願いします。」
「あ、稚陽。穢れるから宜しくしなくて良いぞ。」
「先輩 何気に酷え!」
「うふふふふふ。」
悪気無さげに稚日は笑ってるが、実際の所 かなり笑い事じゃ無い話なんだよなあ。
「それにしても、その衣装本格的っすねー。本物の巫女さんみたいっす。」
「あら、櫛名田様は お上手ですねえ。うふふふふ。」
「なあ、稚陽? 鳥居とか神社とか…。一体これはどうなってるんだ?」
「それは…………。」
ようやく質問にたどり着いた所にぽことすずが買い物から帰って来た。
すかさず何時もの左右からの段違いタックルの餌食になる。
「とーちゃーん!」「うごっ!」
「ちちうえ〜!」「ぐばっ!」
「いつのまにこんな可愛らしい娘さん出来てたんすか? お義父さん。 娘さんを一人僕に下さい。」
「何がお義父さんじゃあ!お前みたいな身内は要らねえから娘はやらねえ! よって、例え天地がひっくり返っても お前のお義父さん何ぞにはならん!」
「そこを何とか…………先っちょだけで良いっすから〜……………。」
そんな戯けた事をほざきながらズイズイ食い込んでくる串カツ。
「先っぽもしっぽもねえわ!コラ!寄るんじゃねえ!」
「ぽこしっぽあるよ、ほら。」ぴょこっ。
「……………すずもある。」フンス!
いきなり何すんの?ぽこもすずも! 何で今しっぽ出すかなあ もう! これじゃ収集着かねえ!
「あ、私にもありますよ!ほら。」
新しい神使はお頭弱えのか!?
「むう!わたくしにはありません!」
稚日も対抗してしてどうするつもりだ!?
そんな万感の想いを込めてドヤしつけようか…とした時だった。
「いい加減にせぬか!貴様らーーーーーーーーーーー!!!」
全く唐突に、武神なずなが仁王立ちで光臨した。
ただ今部屋の隅で稚日以下、すず 樟葉 ぽこ の四人がギャンギャンガミガミ怒られている。
怒れる武神の何と恐ろしいことか。 ぽこは余りの恐怖に固まってしまい タヌキ寝入り状態になっている。
「あの、俺帰った方が良く無いっすか?」
「お前、この状況で俺を見捨てるつもりか!?」
「ダーリンも もう少し父親としての威厳をじゃな……聞いておられるのか!?」
こっちに矛先が向きやがった。
隙を突いて、いつのまにか串カツの野郎逃げてやがる。明日 覚えてろ。
結局、この日は良き父親 良き夫 の心構えを懇々切々と 日付けが変わるまで叩き込まれる羽目になり、神社化の説明とかまでにはたどり着けませんでした。
お腹減った。
書いてたら酷い間違いに気付いちゃった…。
脳汁垂れ流してるだけなので、もし誤字脱字や内容の間違いなどに気がついたら
そっと教えてください。
羞恥に悶えながらこっそり修正します。




