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ポコぽこポン!  作者: いぐあな
35/45

十月中旬以降之事_____三十話目_神宮二於ケルすず神階取得之条

お読みいただきありがとうございます。


気に入って頂けると幸いです。


話が細やかに交錯する感じをやって見たかったのです。疲れた。

此処ここ隔離世かくりょ現世うつつよの狭間……


ーーー 幽顕境ゆうげんきょう


幽顕の地の神宮に無数に存在する摂社の一つ、稲荷社とうかしゃ

この社へは現世の神宮の正宮や摂社にいくつかある通用口を通じてしか来られない。


その社殿内の広間に並んだ文机ふづくえの一つに畏まって書を書いて居るのはすずしろ。

他にも多くの神使が同じ作業に没頭している。

「あ………。」

筆を失敗しくじり慌てて巻子かんすにかわぎ、乾くまでふうっふうっと息を吹き掛ける。

そうしていると昼を告げる刻太鼓ときだいこが叩かれた。

配給された 心持ち大き目ないなり寿司二つと白湯を受け取ると 文机に戻って昼餉ひるげである。



先月晦日、出雲へ出仕すると言う稚日女尊わかひるめのみことから言われた言葉を思い出す。

『すずしろ様、あなたは慎太郎様をちちうえとお呼びになっておられますがそのままでよろしいのですか?』

次に続く言葉を聞くまで意味が分からなかった。

『慎太郎様をつまとしたくはありませんか?』

「!」

漠然と『ちちうえにしたい』などとは想ってもみたが傍に神格尊しんかくたっとい稚日女尊がいもとして居るのだ。神使の分ではどうにもならぬ事はハナから解っていた。

『あなたが神階を得れば、当の神が納得した上でならば 慎太郎様を夫として神が一夫多妻の妻となる事に何の問題が有りましょうか?』

「……なるほど!」

何が[なるほど]なのか 今一不明瞭ではあるが すずしろは納得してしまった。

このひとは私に好機を与えてくれているのだ、と。

『しかし、これが神と神使では流石に釣り合いが取れません。そこで提案ですが。 どうでしょう?この際、神宮の秋季講習を受け神階の取得に挑んでは?』



昼餉のいなり寿司を一つ食べた所で、袋に仕舞おうと思っていた二つ目を隣の神使に攫われてしまった。

巻子を断って作った紙袋に何時もこっそり仕舞っているのを前々から狙われていたらしい。

頭一つ小さいすずを侮ったのだろう。

「食わんなら俺が食ってやる。」

と口に入れようとする。

すずはその小手を取り 腕を捻りながら極め、たいを入れ替えて 一本背負いの要領で極め投げをさあ打とう!と、したところで指導係の神使が止めに入った。

指導係を合気の捌きで片手打ちに転がすと、極めたままの神使の脇に足刀蹴りを入れた。

「ぎゃあ!!」

気絶した神使を放り出し、奪われたいなり寿司を探すが どうやら指導係の転がった身体で潰してしまった様だ。

すずは いまだ転がっている指導係に 新たないなり寿司を要求する。

「いなり寿司を奪われたのでもう一つ下さい。」

「…そなたの不始末です、出来ません。」


その言がすずに火を着けたのか、淡々とではあるが言い返す。

「では明日からこの者の昼餉は私が全て奪う事で この不始末に蹴りを着けますが 宜しいか?」

「何という事を!それが神使の言う事ですか!?」


「神階を得べく修練する場で 不埒にも他の者の膳を荒らす 不躾な野干を成敗した事を 不始末と言われたので。」

「ぐ!それが目上の者に対すr「仮に我が母、稲荷神なずなが此処にれば!」………。」


指導係の言葉に 気を込めた言を被せ その目を見据え、その物言いを封じた上で息を継ぎ それから先の言葉を続ける。

「きっとこう言うでしょう。『神の名を穢す駄狐を打ち据えたか、善うした。神使の誉れじゃ。これに物を言う愚物ぐぶつは神であろうが遠慮無う叩き潰せ、いざとなればわらわ自ら汝が後詰めをしてくれよう!』…と。」

周囲の神使達も成り行きを固唾を飲んで見守っている。


「さて、いなり寿司を奪われたので新たなものを頂けますか?」



頃合いを読んで正宮に向かうと 案の定 襖の陰で空腹でヘタっているぽこを見つけた。

「うえ〜、お腹減ったよ〜。」


今日はどさくさ紛れにいなり寿司二つを改めて貰ったので二人で一個づつ食べられる。

たまには一緒に食べねば ぽこが恐縮仕切りですずとしても居心地が悪いのだ。

「……………はい、どうぞ。」

「あ、すずちゃん。 」

「今日は一個づつ。」

「あ、ほんま。 すずちゃんありがとー。」


「一緒に食べると美味しーなー。なー、すずちゃん。」

「………………うん。」



先日の騒ぎからこちら、隣の席は空いたままで例の指導係も見なくなった。

噂では同じ社から来ていたらしい。

騒動の内容が上に伝わり当分は其のお社自体が一切の出仕差し止めになったそうだ。


そんな噂などどうでも良いのだが、それでもすずは少し焦っていた。

後悔はしていないが この手の騒ぎでまるっきりの無罪放免も中々無いのだ。

パワーバランスを取る為に処分が下る可能性は少なくない。


それでもやるしかない、と腹は決まっている。

流石にぽこにはそんな悩み事は見せられないので面に出さないように気をつけている。


今日もぽこにいなり寿司を差し入れようと正宮まで来てみたが見当たらない。

結構な広さでは在るが、今 正宮で神使修行は実は ぽこ一人なのだ。

神無月の今、神は勿論、神使も指導係一人しか居らず、見渡せば簡単に見つかる………はずなのだが。


……………奥の方から話し声が聞こえてくる。

最奥の間を覗くとぽこが誰かと話し込んでいた。


天照坐あまてらします皇大神すめおおかみ

日の本の最上の位無き神。

階位の上に在る神は幾柱か在るが『神階とは授ける物』という立場はこの女神唯一で在る。


「ぽこちゃん…なんで?」

嫌な汗が流れる。何か不敬があれば全て終わる。


「………そちは何者か?」

気付かれた! 大急ぎで平伏する。

「あー、すずちゃんやー。」

ぽこの呑気な声がした。どうやらまだ遣らかしては無いようだ。


「近う来やれ。無礼講や。」

其の声に応えて側に上がり改めて平伏する。

こうなったら一か八か、やれるだけやってみよう。


「お初に御目文字致します。此度 播磨国井川羽瀬の郷 加東方に遷座したる稚日女尊わかひるめのみことに仕えし神使すずしろでございます。田舎者ゆえ無作法は平にご容赦を。」

これを受けて貰えれば………。

「うむ。苦しうない。申し状解った故もう面をあげよ。先も申したが無礼講である。そなたの普段で良い。」

良し!稚日わかひ様の遷座、稚日わかひ様の神使、言質が取れた!


「そなたも見目が愛いの。ささ、もそっとこちらに来てぽことともに飴を食せよ。」

「ありがとうございます。」


「すず、聞けばそちもぽこと住まいを同じうするとか……稚日女尊わかひるめは息災か?」

「はい。この度の我ら両名の出仕は彼の御方のお言葉にて。」

「ほう!何ぞ意図があっての事かや?」


「先に勧請されておりました羽瀬北の杜の社にて勧請主と諍いまして今の地に遷座されました。」

「………………おのこか?」

「憚りながら…………。」


ふと気がつくとぽこがじっとこちらを見ている。

「……………………ぽこちゃん?」

「すずちゃん………やんなー?」

「……………………うん。」


「それにしても人のおのこいもとは、また思い切ったものやな。」

「はい。 恐らくは正妻に納まる算段かと。」

「ほう! 正妻とな? では側女の当たりも在るのか?」

「わたくしでございます。 あと本人次第ではありますが、そこなぽこが。」

「あははははははは!そちもか!余程に好いおのこなのやな。それ程か。一度(まみ)えてみたいものよ。」

ここまでは問題無い。人の夫に神の妻での一夫多妻も物言いは付けられずに済んだ。言質を取ったも同様。上々だ。


「それにしても、これは好い! それでは すずは今回神階を得に出仕という訳か?」

「は。」

「そうかそうか。それでは修行の邪魔はならぬな。ちと名残惜しいが……。二人とも精進せよ。さすれば二人ともに神使位 神階を授ける。」

これだ!…………この言葉が今一番欲しかった!!

これで余程の失態がない限り二人とも今回の目的は達せられる。

先日の騒動などこれで帳消しだ!

落ち着け!落ち着けすず!


気がつくと天照あまてらすは姿を消していた。


それにしても、これ程疲れた座談の講など初めてだ……。

極度の緊張の所為か、頭がクラクラして気分が悪い。



「ぽこちゃん、良かったね。」

まだこちらをじっと見ているぽこに声を掛けて稲荷社に帰る。


「ああ、早くちちうえに逢いたいなー。」



巻子かんし三巻分の書の書き上げがやっと終わった……。

周囲では皆が黙々と書いている。

巻子を提出すると一部からザワザワと囁きが聴こえてきた。

こんな時の囁きが好意的だった試しが無い。


ここに居る神使達は神になりたいのでは無いのか?

己が仕える相手の仕事振りを見てないのか?

口には出さないが そう思う。


「ちょっとアンタすごく早かったわね。」

後ろの神使が声を掛けて来た。

「…………普通。」

「またまた〜。アタシなんてまだ二巻の真ん中くらいよ?」


それは幾ら何でも遅いだろう。

今日は十八日である。

順当に行っていればそろそろ三巻に掛かってなければ間に合わない。

そう思いながら其の神使の手元を見ると誤字を見つけた。


「誤字。…………ここと ここ。 こっちも。」

「え! うそ!あわわわ〜。」

慌てるばかりでどうして良いのか分かってないようだ。

「…………鋏と膠。 早く。」

見ていられなくなってつい指示を出してしまった。

しかし、なんて手際が悪いのか…………。

正直言って神階取得を考えるには早いとしか思えない。

課題は『書を書いて三巻仕上げる事』なので 助言や誤字処理の継ぎ接ぎの手伝いに制限などは無いのだが………うっかり手伝ってしまうとこの神使の為にならない様な気がする。


「…………このままじゃ終わらない。 どうするの?」

声を交わした以上、流石に放って置いて間に合わず落第というのも寝覚めが悪い。

「どうしようー?ワタシ神さまになれないのかな……。」

「…………このままじゃ無理。」


溜め息を吐きつつ言い放つ。

「終業後一刻、夕餉の後一刻、残業。」

「そんな!?一人で!?」

この娘は何を言ってるんだ?とは思ったが言った所で十中十ムダだ。

恐らくはこの調子では四日は続かないだろうが、そこまでなら付き合ってやろう、そんな風に考えた。

見るだけ見ていてやる、と伝えるといきなり自己紹介を始めた。


「あ、アタシ スズナって言うの!よろしくね。」

「……………………すずしろ。」

「名前そっくり!これって運命的!」


こんな運命あってたまるか。稚日わかひ様に言って即刻ぶった切ってもらおう。

「…………………そう?」

この『そう」にはすずのそんな気持ちが籠っている。


『ドーーーーーーン! ドーーーーーーン! ドーーーーーーン! 』

終業を告げる刻太鼓が鳴った。

「あー、終わったー!」

早速仕舞おうとするスズナ、その首根っこを抑えて声を掛けるすず。

「…………一刻の残業。」

「え!? 今日から!?」


駄目だこいつ。



見た目はすずよりも随分と歳上に見えるが実際には分からないのが神や神使である。

すずも実際には生まれて既に十八年ほどは経つ。


このスズナは 人ならば見てくれは十七〜十八と言った所か。

神使だけあって顔の作りはテレビに出て居そうなくらいには整っている。

「でさ〜、うちのお社様ってお小言ばっかりでね〜。」

夕餉の後の残業は始まってからずっとこんな感じ。

ぽこも直ぐに目移りする質でふらふらするがあの娘は集中力が足りないだけで根が素直で真面目だ。

同じ状況でも作業は黙ってやろうとするだろう。

「……………………静かに作業して。」

そろそろ すずの忍耐も限界である。

実はそれほど我慢が効く方では無いのだ。


母の様に泰然とした女傑になりたいから口数少なく思慮深く在ろうとしているだけなのだ。

すずはなずなの本質をしっかりと捉えている。

なずなはその本質の上でのあの軽口だから切り口が鋭いのである。


そんなすずの努力を無にし兼ねない、無思慮、無分別。

懐から母から貰った扇子を取り出す。

骨がチタン製の逸品。

「え〜、少しくらい良いじゃん。」

と言ったスズナの額を軽くはたく。

「ギャン!」

すかさず胸ぐらを吊り上げ、額同士を擦り付ける様にして目を覗き込む。

読む必要は無い、引っ掻き回す。

「黙って・大人しく・作業して。」


涙目で震えながらスズナが返事を返す。

「はい……。」


次の日からは随分とペースが上がった。これなら十分間に合うだろう。

合否までは責任を持てないが、『間に合わず落第』と言う状況は回避されそうだ。



「間に合って良かったよ〜。『お社様からは不合格ならもう帰ってくるなー!』って言われてるしさ〜。」

合否発表を待つ間、唐突にスズナが嫌な台詞を吐いた。

心底 嫌な流れだ。 バッサリ斬り落としておこう。

「……………落ちてもウチでは面倒見ない。」

「やだなあ〜!大丈夫だって!」



合否発表が始まった。

合格者は 国名と社、名前が読み上げられる。


『ーーーー山城之国!』

『伏見稲荷〜……』


「スズナ……………何処?」

「あ、アタシ? アタシはギリ摂津の国の〜須万の浦。」


『次!ーーー播磨之国!』

『井川羽瀬の郷 稚日女尊社〜すずしろ〜。』



残酷だが伝えるべきだろう。

すずはスズナに告げる。

「………………畿内はもう終わった。」

「あ…れ? …………おかしいな、聞きそびれたかな?」


真っ青な顔色が全てを物語る。

「あ…あのさ…。」

「…………無理。」


『なおーー!首席圧巻は 播磨之国! 井川羽瀬の郷! すずしろー!』

『『『おおォ〜〜〜〜!』』』


「ちょっと!すずしろさん!首席でしょ! 来年まで面倒見て教えてよ! アタシ達親友じゃない!」

「…………向き不向きがある。 無理。」

こんなの連れて帰ったら皆が迷惑する筈だ。

情けは一切不要。斬って捨てるべき存在。すずはスズナをそう認識している。


泣いて縋るスズナを容赦無く振り切り、背を向けるすず。

とっとと荷物を纏めて、ぽこを連れて帰ろう。


「すずちゃーん!神様になれたー!?」

と、其処にぽこが現れた。これは拙い。

ぽこはこう言った時に優しすぎるのだ。下手をすると同情して連れ帰りかねない。


「お嬢ちゃん!かわいいねえ〜!」

言うが早いか、スズナがぽこに食らいついて離れない…………。

いっそ、打ちのめしてしまおうか?

そう悩んでいるとなんとなずなが現れた。


「すずしろ、此度の結果はどうであった?」

「お社様のご指導の賜物にて首席でありました。」

「そうか!圧巻とは誉れよな!良うした!さすが我が娘じゃ。帰ったら祝いじゃの!」

娘の合否が気になったのだろう。大急ぎでやって来たようだ。

出雲から伊勢までは実際、結構な距離であるが縮地の法でも使ったのだろう。


「あー、なずなおねーちゃん、こんにちはー!」

稚日わかひからなずな様はおねーちゃんと呼びなさい、と教えられているので素直に従うぽこ。

「おや、ぽこじょ、お主はどうじゃった?」

「『もっと頑張りましょう』だったけどオマケで合格ー!」

良く見ると、おでこに【もっとがんばりましょう】のスタンプが押されている。


「そうか!そなたも良うしたの。母御ははごも自慢じゃろう。帰ったら存分に褒めてもらうが良い!」

「うん。」

「これ、ぽこじょ。神使の返事はハイ!じゃ。これからは気をつけねばな。」

「あ、 ハイ!」


「あのー、お願いがあるのですが……。」

スズナが一番の決定権を持つであろうなずなにすり寄り始めた。

まさかの禁じ手に出たスズナにすずは同情する。

もしなずな自らとなると きっとスズナは壊されるだろう。

すずに振られたとしても手心を加える様な事をすれば、今度はすずの身が危ない。

「実は首席のすずしろさんに御指導をお願いしているのですが、あなた様からもお口添え頂けませんでしょうか?」

「ふむ…………。」


なずなはスズナの目をちらりと見てすずに言う。

「すず、此奴の性根叩き直せ。 此奴はこのままでは物にならん。潰して構わんから存分にやれい!」


「……………はい。」



こうして神階を授かったすずしろには早速 神使が着いた。


なまくら過ぎていつまで持つかはわからないのだが………。



お読みいただきありがとうございました。


誤字報告ありましたらお願いします。


すずが受けた講習はきっと神眷ゼミ…。

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