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ポコぽこポン!  作者: いぐあな
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十月前半之事_____二十九話目_神宮二於ケルぽこ神使修行之条

お読みいただきありがとうございます。


今回と次回はすずが沢山喋ります。

「お腹減ったなー………。」

生成りの作務衣を着たぽこが襖の陰に隠れてしゃがんで居る。



稚日女尊わかひるめのみことに神宮に置いてけぼりにされて既に数日が経過している。

何時もの調子で何か楽しげな物が有ると思い、何も考えずに稚日わかひに着いて来たのが今月頭の事だった。



神宮に着いて稚日わかひからいきなり言われたのが、『ぽこちゃん、わたくしは今から出雲と言う所で会議があります。しばらく会えませんが我慢して下さい。』という言葉である。


そんな言葉にぽこが戸惑っていると稚日わかひは更に言葉を続けた。

『ここで神使になる為のお勉強をして下さい。でないと慎太郎様と会えなくなってしまうかも知れません。』

「ええっ! ぽこ、とーちゃんと会えんくなるん!?」

『今のままではそうです。』


これはまるっきりの出任でまかせでも無く、先日ぽこの祖父 孝蔵から稚日わかひへ連絡があったのだ。

『今月一杯で現住所を引き払い お社の宿舎に住まう様に 言われましたんや。どうもそちらへの意趣返しの向きも有る様で…。』

この状況を打開するには ぽこが神使となって 稚日女尊わかひるめのみことに仕えるのが 一番無難な選択肢であり、それ以外だとどうしても角が立ってしまう。


『ですが、ぽこちゃんが頑張って神使になれば あのままあのお家に住めます。もし今のままで神使になれなければ、その時はお母さん、おじいちゃんと一緒に森の中の神社で生活する事になります。そして二度と慎太郎様にはお会い出来ぬでしょう。』

過日、稚日女尊わかひるめのみことがあの社を抜けることが出来たのは世話役:呉暁が社を離れた上でなずなとすずしろの手引きが有ったからだ。

行者上がりの呉暁が結界を強化した今では、恐らく ぽこの能力での脱出など不可能だろう。


その様な流れでぽこは今、神宮の正宮にて神使修行の真っ最中なのだ。

指導する神使から雑巾の絞り方を教えられたのだが力が弱く上手く絞れない。が、そのまま雑巾掛けをする様に言われる。

幽現の境の宮での事だ。現界の正宮とはまるっきり違う広さである。

毎日六時間程の間、屈んだ状態でひたすら板間を駆け回る。

随分と丁寧に教えられ、どうにか様になったのは四日ほど経った頃、やっと広間一つが終わった。

ホッとしたは良いがお腹が減って仕方ない。

食事は朝一汁二菜、夕が一汁三菜、足りない栄養を補う為に赤食酒あかはみざけが一合夕餉に付く。昼は餅や饅頭が二個と白湯。

それほど量が多い訳でも無く、朝夕の膳についてはそれ程腹持ちの良い食材という訳でも無い。

身体の成長著しい今の時期のぽこには拷問である。



襖の陰で空腹を誤魔化すぽこの元にすずが現れた。

修行が始まってすぐの頃から隙を見つけては現れるのだ。

「……………ぽこちゃん。」

「あー、すずちゃんや〜。」


しゃがんで押さえたお腹からは『ぐ〜』という音が漏れ出ている。

「………………これ、食べて。」

紙袋に包んだいなり寿司を差し出してくる。

「え? 良いのん?」

「食べて。」

ぽこは申し訳無さそうに半分を齧ってすずに返す。

「美味しかったー。これすずちゃんの分なー。」

差し出されたいなり寿司をそっと押し戻しぽこに告げる。

「大丈夫。さっき食べた。」


「ありがとうなー。すずちゃん、ありがとうなー。」

残りを食べるのも ぽこは随分と申し訳無さそうに。


食べ物を貰う事を決して当たり前とは思わない。

毎回同じような繰り返し。


すずはそんなぽこを抱き締め

「大丈夫。頑張って。」

そう言ってから姿を消した。



雑巾掛けも随分慣れて来た。

最初の間と同じ日数で二間の拭き掃除をこなし、指導係の神使から褒められる。

日課の如く現れたすずに嬉しそうに報告する。

「すずちゃん、あんなー、『ぽこは拭き掃除上手い』って褒められたん。」

「良かったね。」

そう言って頭を撫でる すず。

「これで神使っていうのんになれるかなー?」



そろそろ半月が経とうとしている。

今日の掃除で入った部屋は比較的小さい畳敷きの間であった。

奥の方に文机があり、その向こうに人影がある。


「おや? えろう可愛らしい童女わらしめやな。 もそっと近う寄りや。」

いきなり声を掛けられ動きが止まってしまった。

「あれあれ、固まってしもうたな。驚かせたかや? これはすまぬなあ。」


奥から出てきたのはとても美しく飾った……

「あ、おおひるめのおねーちゃんやー。こんにちは〜。」

「ほお、大日孁貴神おおひるめを知ったるかや?そうかそうか。愛いのう。飴を舐めるかや?」


手のひらにちょこんと載るような小振りの壺に入った水飴を出してくる。

「あー、ありがとうー!」

「わしの名はあまてらすという。よろしうなあ。」

「ぽこは ぽこ って言うねん。仲良くしてね。」

二人共が笑顔で挨拶を交わす。

「この飴美味しかったー、ありがとう。」

そう言って壺を返すぽこに天照あまてらすは問いかける。

「おや?もう良いのかや?まだたんとあろう?」

「でも、あまてらすおねーちゃんの分なくなってまう……。」

「あら、ぽこよ そなた優しいのう。良いよい。わしのはまだたんと置いてあるで こちらはねぶってしもうて構わぬよ。さあ遠慮のうお食べ。」


天照坐あまてらします皇大神すめおおかみ、彼女に神階は無く神階を授ける側の存在である。

出雲の神無月の縁談合(えにしだんごうは大国主が主宰神の為、彼女は神宮に座したままである。

そんな存在がぽこに問う。

「さて、ぽこや。 そなたはなんで神使になりたいんや?」

「あんなー、稚日わかひおねーちゃんがなー、神使にならんととーちゃん家に居られへん言うねん。」

天照あまてらすの表情が曇る。

稚日女尊わかひるめか、ぽこ、そなたは稚日女尊わかひるめの縁者かや?」

「ぽこなー、稚日わかひおねーちゃんとすずちゃんととーちゃんとお家一緒やねん。」


「そうか……稚日女尊わかひるめは息災か?……ん?そちは何者か?」

天照あまてらすは会話の途中で入り口に目をやって問い掛けた。

「あ、すずちゃんや!」

入り口傍に平伏して畏るすずしろ。

「ほう、そなたがすずちゃん とやらか? 善い、近う来やれ。無礼講や。」


屈んだまま小走りに天照あまてらすの前へ出るとまたもそのまま平伏し口上を述べる。

「お初に御目文字致します。此度 播磨国井川羽瀬の郷 加東方に遷座したる稚日女尊わかひるめのみことに仕えし神使すずしろでございます。田舎者ゆえ無作法は平にご容赦を。」

「うむ。苦しうない。申し状解った故もう面をあげよ。先も申したが無礼講である。そなたの普段で良い。」


「すずちゃんが沢山喋った……。」



飴を舐める二人を前に天照あまてらすは頗る《すこぶ》笑顔で話す。

「そうか。 稚日女尊わかひるめは息災か。あの者は縁結びの神として祀られて居るに どうにも男運が宜しからず、わしも憂いて居ったが……。」


ぼんやり虚空を見つめながら想いに耽るかのような天照あまてらすスッと視線をすずに戻し、

「して、すずや。その加東慎太郎とは如何なるおのこか?そなたの見立てで構わぬ。」

「神を己れと対等に扱いますが決して粗略という訳でも……強いて言えば家族と同様に扱います。」

「で、稚日女尊わかひるめいも扱いか。相当舞い上がって居ろう。」


天照あまてらすはくすくす笑いながら話を聞く。ぽこは話は半分も分かっていないが よく喋るすずを見るのが初めてなので 誰かの変装ではないかと疑っており さっきからずっとすずを観察している。

「はい。 恐らくは正妻に納まる算段かと。」

「正妻とな? では側女の当たりも在るのか?」

「わたくしでございます。 あと本人次第ではありますが、そこなぽこが。」

「あははははははは!これは好い! それではすずは今回神階を得に出仕という訳か?」

「は。」

「そうかそうか。それでは修行の邪魔はならぬな。ちと名残惜しいが……。二人とも精進せよ。さすれば二人ともに神使位 神階を授ける。」

そう言って天照あまてらすは消えてしまった。


「………ぽこちゃん、良かったね。」

すずはそう言ってふらふらと去って行った。


ぽこは思った。 この飴……全部貰って良いのかな?


お読みいただきありがとうございます。


気に入って頂けると幸いです。

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