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「あ、ごめんね…。こんなに早いと思わなかったから……」


そう、困ったように篠崎が言う。

久々に聞いた篠崎の声は今まで聞いたこともないような弱々しい声だった。いつも笑っていて自信に溢れていたあの姿からは到底想像もつかない。

それに、こっちの篠崎はあっちと違って何だか野暮ったく見える。制服を気崩していないし、化粧っ気もない。何より表情が暗いのが原因だろう。そこそこ可愛いかった篠崎は、ここでは恐らくそこそこブスくらいの立ち位置についていると思う。この分だとスクールカーストも下の方にいるのは想像に難くない。お調子者キャラを演じれば見た目が悪くてもスクールカーストが高い場合もあるけれど、この顔付きや態度なんかを見たところそんな感じでは無さそうだ。

俺は何と声をかければ良いのか分からず、黙ってしまった。それを篠崎は怒っていると勘違いしたのかもしれない、もう一度ごめんと謝罪をして家に戻って行ってしまった。きっと今日は遅くに学校に行くのだろう。俺と、通学時間が被らないように。



俺と篠崎の関係がぎくしゃくとし始めたのは小学校四年の時だったと思う。それくらいの、段々とませてくるような時期に男女でいるとそれだけでからかわれるようになる。それが単に恥ずかしかったからなのか、不細工な俺に嫌気が差してきたのか篠崎はその頃から俺を避けるようになった。

いつだったか。元々何の話をしていたのかもう忘れてしまったが、クラスの女子に見た目のことを笑われた時があった。確か、半ばおどけたような口調で、佐久間ってほんと変な顔だよね~!キモーい、みたいなことを言われた覚えがある。その中には篠崎もいた。篠崎はその時にはもう俺を避けていて、篠崎は口を開く前に俺をチラッと見て、だよねー、と返した。

きっと俺達の間に明確な壁が出来たのはあの時だった。あの、俺を見た時の罪悪感の混じった目は、あれ以来見たことはない。あれは彼女の最後の俺に対する良心だった。

今では篠崎は俺を見るとキモいとか不細工とか笑っているのをたまに見かけるだけだ。俺は苛められてこそいなかったけれど、女子の間では評判が頗る悪かった。どんなに大人しくて無害でも、不細工ってだけで簡単に人の評価は下がる。俺がいじめを受けなかったのは多分クラスに後藤がいたのが大きい。他に体のいい標的がいたから俺は狙われなかった。

きっとこの世界では俺は篠崎に、あっちの篠崎と同じことをやっていたのだろう。もしかしたらもっと大きなことをやってそうだ。まだ数日しかいないが、耳に入っている俺の噂は最悪だ。女を取っ替え引っ替え随分と宜しくやっていたみたいだし、噂話や悪口もばんばん言っていたようだ。見た目に自信があったからか、特にブスや不細工な奴を扱き下ろすことが多かったらしい。そりゃあ篠崎はビビるし、塩野だって逃げるだろう。


ああ、朝っぱらから気分悪いなぁ。


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