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田原とは上手いこと後腐れなく別れた。
だがそうは問屋はおろさなかったのである。
次の日には俺と田原の別れ話は噂として回ることとなった。俺は誰にもそのことを言っていない。田原だってせいぜいが別れたと言うくらいで、多くはそのことを語らなかっただろう。だが噂は噂を呼び、再び俺の耳に入ってくる頃には尾ひれが付いて回っていた。こういう時、普段の行いはものを言う。悪い噂は山程ある俺と性格も顔も良い田原。気が付いたら俺は田原に貢がせて他校の女と遊んでいた二股ビッチ野郎になっていた。最悪だ…。
因みに率先して吹聴しているのは後藤である。
おい後藤、お前が影でこそこそその噂広めてるの俺知ってるからな?
後藤はよほど俺が目障りらしい。今まであれほど俺に関する悪い噂があったものの俺の立場はまるで揺らがなかった。だが今や俺はグループから少し距離を取っており、加えてこの噂。田原はやはりと言わざるを得ないが人望がそこそこあったようで、どことなく周囲は田原に同情的な雰囲気である。これは少しマズイかもしれない。
良くも悪くも目立つ存在というのは人を引き寄せる。クラスのトップの立ち位置にいる俺がそこから転落した時、ひっそりとした平穏な生活はまず送れないだろう。きっと今の篠崎への態度よりも酷い扱いが待っている。
今、後藤達は篠崎を仮想敵と見立てることによりグループとして纏まっているものの、やはり俺の影がちらつくのだと思う。後藤がそれを邪魔に思っていないはずがない。もし俺を蹴落とせたなら篠崎にやるような温いことをせず、後藤は俺を二度と元の場所に戻ってこれないように徹底的にやることだろう。
けれどそれだけは絶対に回避してやる。どんな手を使ってでも。
帰りのホームルームで一枚のプリントが配られた。
両親宛の授業参観についての便りだ。この学校では春と秋の年に二回、授業参観を実施する。
「必ずご両親に見せて下さいねぇ~!」
今日も安原先生は絶好調だ。妙に高い声で言うのを聞きながら俺はそう思った。どうやら彼女との仲が良好らしい。それは結構なことだが、授業中のノロケ話は控えた方がいいと思う。
あっちの時は母は俺の方には少ししか顔を出さず、一つ下の妹の方ばかり見に行っていた。だから、つまりこっちでは俺の方に多く時間を費やす。向こうでは妹ばかりで贔屓だと思っていたが、来ると思うとそれはそれで鬱陶しいと思ってしまう。
何にせよ、俺が動くのはこれが終わってからだ。その方が動きやすいだろう。
余談だが、家に帰って父にプリントを見せると、絶対に見に行くからね!と元気よく言われてしまった。
まあ予想通りだな。
後半にかけて主人公のクズ度がマッハになります。
主人公は基本的に自分>>>他人なので、自分が危なくなったら卑怯なことでもします。