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切り抜き師は推し上げたい!〜破天荒新人VTuberを王者にするまで〜  作者: まむーろ


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第一話 衝撃のファーストストリームですわ〜

「わたくしはインターネットの王者になりたいのです」

 淡雪のように白く綺麗な、そして自信たっぷりな声がイヤホンを通じて僕の脳内へと響き渡った。

 その言葉にコメントが一瞬止まったような気がした。実際、僕の手も止まってしまった。

 何を言っているのだこの人は? インターネットの王者ってなんだ? 王者って言葉を久しぶりに聞いた気がする。ツッコミどころは満載だった。

 それでも、なんだか胸の奥からむず痒い何かが湧き出てくるような気がした。もしかしてワクワクしているのだろうか? 僕は。

 そんな僕の心情を知ってか知らずか、そのVTuberのアバターは優雅に揺れていた。


 

 僕がこの新人VTuberを知ったのは遡ること数時間前だ。僕はXやYouTubeで検索をかけていた。僕はまだ見ぬ新しい、そして面白い配信者を探し出そうとしていた。初配信や新人配信者、新人VTuberなどのキーワードを打ち込み、引っかかった情報を一つ一つ見繕っていた。

 しばらく検索をしていると、ふと一人のVTuberに目が留まった。

「鏡月翠恋(VTuber準備中)か……月の精霊……ロールプレイするタイプなのか?」

 そのVTuberは数ヶ月前からXに毎日ポストをしているようだった。大量のアバターの画像やイメージPVまである。アバターのクオリティはかなり高い。相当お金がかかってそうだ。

 どんな声をしているのだろう? すごく興味をそそられる。少し調べてみると、ちょうど今夜の21時から初配信をするというポストを見つけた。1ヶ月前からカウントダウンのポストを毎日していて、準備はかなり周到のようだ。これは期待できるかもしれない。僕はワクワクしながら鏡月翠恋のYouTubeのチャンネル登録を済ませた。


 

 21時になる十分前に僕は配信チャンネルを開いた。配信の開始を待機している人が既に三十人も居た。個人の新人VTuberにしては多い方ではないだろうか?

 しばらく待っていると、21時きっかりに画面が切り替わって配信が開始された。

“きた!”

“期待”

“はやくー”

 コメントも動き出したようだ。どうやら視聴者0人の虚空に向かって喋り続ける虚無配信になることはなさそうで、僕は何だかホッとした。ちなみに僕はコメントをしないでじっくり配信を楽しむ派だ。

 少しすると、画面にかわいいアバターが表示された。薄いクリーム色のロングヘアで、少し吊り目の大きな瞳、青色を基調としたドレスを纏っていて、個人的にはかなり好みのビジュアルだ。何かを見ているのだろうか、キョロキョロと首を左右に振っている様子が可愛らしかった。

 しかし、アバターの背景には実写の月のクレーターと漆黒の闇が映し出されていた。もしかして月の精霊だから月から配信してるのか? なんかシュールな配信だな……。

 

「あれ? これ始まってます? 始まってますの?」

 PCに繋いだイヤホンから透き通った美声が響いてきた。

 “聞こえてるよー”

 “声かわいくね?”

「あ! コメント来てますわ! すごい! なんだか変な気分ですわ〜!」

 リスナーのコメントに感動しているのか、アバターがぶるぶると小刻みに震えている。身悶えているのだろうか? なんかちょっとキモい。

「それでは皆様初めまして! わたくしは、えーっと何でしたっけ? あ、鏡月翠恋と申しますわ!」

 自分の名前をまだ覚えていないのか? 僕は固唾を飲んで配信を見守った。

「まずは自己紹介をしますね! 名前は言いましたわね。それでですね、わたくしは今年で21歳になりますの。東京都に住んで……え? 何ですの? そうじゃない?」

 な、なんか急に個人情報を開示し始めたぞ? 大丈夫か?

「あ、そうでした! わたくしは月の精霊なのです! えーっと、そうですわ! 東京都から見える月に住んでますのよ! うふふふふ」

 東京でも北海道でも見える月は一緒じゃないだろうか? でも、声が良いからなんだか誤魔化されてしまう。不思議な力を持った声色だった。

“誰か他にいるの?”

“誰かと喋ってる?”

「え? 誰かいるのかって? はい、いますわ! え? 言っちゃダメ? あら、でももう言ってしまったからどうしようもないですわね! うふふふ!」

 翠恋は悪びれもせずに笑っている。すごくマイペースな月の精霊さんだな。

“やっぱりいるのか”

“だれ〜?”

“男か!?”

「ふんふん、そういう設定ですか、なるほど。えーっと、ここにはわたくしをサポートしてくれる妖精さんが居ますの。男? いいえ、女性ですわ」

 まあ月の精霊なんだから妖精が居てもおかしくはない……のかな? 何だか妖精さんが脂汗を流しながら翠恋に指示を出しているのが想像できた。それにしても妖精って性別あるんだっけ?

「それでは気を取り直して、自己紹介の続きをやっていきますね。えーっと」

 そこからは翠恋の自己紹介が始まった。

「わたくしの特技はピアノとバイオリンを弾くことです。今度配信でも聞かせますわね」

「趣味は株と為替相場の動向を予想することです。結構高い精度で予想できますわよ」

「好きな食べ物はフォアグラです。カロリーが高いのでたまにしか食べられませんが、大好きですわ!」

「わたくしのモットーは倒れるならば前に倒れろですわ! 背中を見せるなど、王者にあってはならないことですわ!」

 こ、濃いな……。最後のとか何だか強者のオーラを感じてしまう。

 ふとコメント欄を見ると、一つのコメントが目に留まった。

“もしかしてお嬢様なの?”

「え? お、お嬢様なのかですって? い、いえいえいえ違いますわ〜。わたくしは普通の家の娘ですわ〜。核家族ですわ〜」

『いや月の精霊は普通ではないでしょ』

 はっ!? ついコメントでツッコミを打ってしまった! 僕にコメントを打たせるとはなかなかやるな……。

「違います! 普通の一般的な月の精霊なんです!」

 もうわけがわからなかった。

“お嬢様だなこれ”

“間違いなくお嬢様だな”

“お嬢様、ご機嫌麗しゅうございます”

「あ、あ、あ、お嬢様じゃ……つ、次! 次にいきますわよ!」

 なんか強引に話を変えてしまった。

「と言っても、大体のことは話してしまいましたわね。そうですね……何か質問はございますか?」

 質問……僕は思ったことをコメントに打ち込んだ。コメントをしない主義とは言ったが、一度コメントしてしまったら何度もコメントを打ってしまうのがプロリスナーの性なのだ。

『何か目標とかはありますか?』

 コメントを打ってから僕はドキドキしながら翠恋の反応を待った。この時間があまり好きじゃないからコメントを打たないんだよな〜。

「目標ですか、そうですね」

 翠恋から反応をもらえて僕はちょっと気分が上がってしまった。なんだか悔しい。

 翠恋は少し考えた後、堂々と言い放った。

「わたくしはインターネットの王者になりたいのです」

 お、王者? 何を言っているのだこの人は? インターネットの王者ってなんだ?

「わたくしは現実世界では既に成功を納めています。なので、現実世界ではないこの虚実の空間であるインターネットでも覇権を握ってみたいのです!」

 翠恋の凜とした声にコメント欄が一気に動き出した。

“草”

“草”

“いいじゃんw”

“既に現実世界で成功収めてて草”

“応援します!”

 コメントの速さに乗じて、僕もとりあえず“草“と打っておいた。

「ふふふ。みなさん、わたくしが覇道を突き進むのを見ていて下さいね。それでは今日はこの辺でお別れ致しましょうか。それではおやすみなさい!」

 そうして、鏡月翠恋の衝撃の初配信が幕を閉じた。しばらくの間、僕は放心状態で配信終了画面を見続けていた。

「ははっ! おもしれー女!」

 僕は念のために録画しておいた翠恋の初配信のデータを確認した。どうやら無事に録画されているようだ。録画状態を確認しながら、僕は翠恋のXのポストにリプライを付けた。

 “翠恋さんの初配信を使って切り抜き動画を作ってもよいですか?”

 すると、数分も待たずに返信が来た。

 “悪意のある切り抜き方をしたものでなければ問題ありません。もし動画をアップしましたら、URLを教えていただけると幸いです”

 やけに早いな……文章も丁寧だし、もしかして妖精さんが打っているのかな?

「よし、それじゃあ一丁がんばりますか!」

 僕はマウスをクリックして動画編集ソフトを起動した。

 切り抜き動画とは、配信者やVTuberの配信の一部を切り抜き、面白おかしく編集した動画のことだ。何を隠そう僕、堂賀桐春はYouTubeで動画の平均再生数が十万再生を超える人気切り抜きチャンネルを運用しているのだ。僕が配信者を探していたのは単に配信が好きなマニアというわけではなく、面白い配信者の切り抜き動画を作りたいからだ。

 僕は配信者のことをリスペクトしている。何時間も世界に向けて配信を行い、リスナーを楽しませる配信者という人たちのことが好きで尊敬している。だから切り抜き動画を作って配信者の面白さをたくさんの人に布教したいのだ。

 今日、翠恋の配信を見ていてずっと思っていた。ここを切り抜いて編集すれば面白くなる、あそことここをくっ付ければきっと楽しい! そう考えながら配信を見ていた。翠恋はそんな魅力あふれる配信をしてくれた。僕はそんな面白い彼女を世界に広めたい、その一心で動画を作り続けた。

 切り抜き動画はどの場面を、どのセリフを抜き出すかにセンスが問われる。僕はそこには自信がある。あとはそれをどういう風に見せるのか、そこは技術だ。

「面白く切り抜いたら、ポンコツお嬢様になっちゃったな。まあいいか」

 朝日が顔を出し、スズメが鳴き始めた頃に動画が完成した。作成した動画をYouTubeにアップして、翠恋のXにそのURLをリプライした。

「終わった……」

 僕は心地よい疲労感を纏いながらベッドへ倒れ込み、布団の中に意識を沈めていった。


 

 その日の夕方、アップした動画を確認すると、既に1万再生以上の数字がついていた。全く無名の新人VTuberの切り抜き動画を作ったのは初めてだったが、割と良い数字じゃないだろうか。

「これが覇道の一歩になるといいなあ」

 そう呟きながら僕は自分のXアカウントを開いた。すると、動画を上げた時の宣伝用ポストに一つのリポストが付いていた。なんと翠恋からだった。

「まじか。意外とマメにエゴサしてるんだなあ」

 エゴサとはエゴサーチの略で有名人などが自分の名前を検索して反応を見たりすることである。

 そのリポストにはこう書かれていた。

「何だかわたくしがポンコツお嬢様みたいじゃないですか!? わたくしは一般的でスマートな月の精霊ですわ〜!」

 お嬢様はご立腹のようだった。

 どう見てもポンコツだったよ! 僕は苦笑しながらXを閉じた。

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