表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

孤得集 ――届かなかった人たち

十五秒の夜

作者: FU
掲載日:2026/05/10

私たち新聞部には、ふだんあまりニュースがない。


厳密に言えば、まったくないわけではない。大学では毎日いろいろなことが起こっている。図書館の空調が壊れた。銀杏が色づいた。体育祭が無事に終わった。大学猫が妊娠した疑いがあり、ただ太っただけの疑いもある。


ただ、それらはあまりニュースらしくない。


部長は部会のたびに言った。


「みんな、ニュース感度を持とう」


私たちはうなずいた。


そして翌週も、こういう記事を書いた。


『秋深まる、銀杏色づく』


『走れ青春! 体育祭、無事閉幕』


『並ぶ心、キャンパスから』


あの夜、新聞部のグループに大学の匿名掲示板のスクリーンショットが流れてくるまでは。


スクリーンショットのタイトルは長かった。


【衝撃】若手女性准教授、深夜の女子寮前で二時間ヒステリックに怒鳴り続ける!


グループは三秒沈黙した。


部長が一言送ってきた。


「諸君、ニュースが来た」


この言葉はかなり不道徳に聞こえた。


でも、誰も反論しなかった。


私たちはみんな知っていた。新聞部は、この瞬間を長く待っていたのだ。


スクリーンショットを開くと、下にはもうたくさんのコメントがついていた。


「現場にいた。めちゃくちゃ怒鳴ってた」


「誰を?」


「女子学生らしい」


「なんで?」


「男の先生」


「なるほど」


ポスト真実時代の美しさは、ここにある。


人は十分に短い説明を一つ手に入れれば、すぐに立場を持てる。


部長はすぐにオンライン会議を開いた。


彼はスクリーンショットを画面共有し、まるで公共危機に向き合うような真剣な声で言った。


「匿名掲示板みたいに無責任なことはできない。新聞部は事実確認をする」


副部長が聞いた。


「タイトルは先に決めますか」


部長は少し考えてから言った。


「『ヒステリー事件調査』」


私は言った。


「そのタイトル、もう立場が入ってませんか」


部長は言った。


「じゃあ、かぎ括弧をつけよう」


仮タイトルはこうなった。


『「ヒステリー」事件調査』


かぎ括弧がついたことで、私たちはずいぶん客観的になった気がした。


翌朝早く、私は女子寮の前へ調査に行かされた。


寮の前はとても静かだった。昨夜、大事件があったとされる場所には、配達員が二人、電動自転車が三台、花壇で寝ている猫が一匹、そしてほうきを持った寮母さんが一人いるだけだった。


まず、三階に住む目撃者に話を聞いた。


彼女は言った。


「昨夜、聞こえました。すごく怖かったです」


「何を怒鳴っていたか、聞き取れましたか」


「いいえ。ノイズキャンセリングのイヤホンをしていたので」


「では、どうして怒鳴っていたと分かったんですか」


「みんなが怒鳴っていたって言っていたので」


「見ましたか」


「カーテンを開けたときには、もう終わっていました」


「では、何を目撃したんですか」


彼女は考えた。


「みんなが目撃しているところを目撃しました」


二人目の目撃者は寮母さんだった。


学生よりずっと信用できる。


「二時間なんて言ってるけど、四十七分よ」


私は身を乗り出した。


「確かですか」


「もちろん。十時十三分に来て、十一時ちょうどに警備員が来たから。四十七分」


「怒鳴っていたんですか」


寮母さんはほうきを置き、少し考えた。


「怒鳴っていたと言えば、そうね。でも怒鳴り方に教養があったわ」


「教養?」


「うん。権力の非対称性とか、感情労働とか、物語の剥奪とか言ってた。けんかというより講義みたいだった」


寮母さんはさらに付け加えた。


「途中で水も買ってたわ。QR決済して、結構冷静だった」


私はノートに書いた。


> 情報修正:

> 二時間 → 四十七分

> ヒステリー → 途中でミネラルウォーター購入

> 大怒鳴り → 学術用語を多数含む


午前十時、十五秒の動画があちこちのグループで回り始めた。


動画はぶれていた。画面には街灯、寮の入口、野次馬らしき学生たち、そして薄い色のトレンチコートを着た女性が映っている。彼女の声は震えていたが、はっきり聞こえた。


「あなた、あの人がどういう人か分かってるでしょう!」


そこで動画は終わった。


撮影者は最後の一秒で、「やば」とつぶやいていた。


この十五秒だけで、大学中が一つの連続ドラマを完成させるには十分だった。


第一版。女性准教授が浮気相手を問い詰めた。

第二版。女性准教授が男性教員に捨てられた。

第三版。女性准教授と女子学生が指導教員の取り合いをした。

第四版。女子学生が妊娠した。

第五版。男性教員は実は既婚者だった。

第六版。女性准教授ではなく講師だった。

第七版。新聞部は完全版音声を入手しているが、怖くて出せない。


その時点で、私たち新聞部はまだ昼食も食べていなかった。


部長は匿名掲示板の第七版を見て、傷ついた顔をした。


「いつ完全版音声を入手したんだ、うちは」


副部長は言った。


「拡散効果を考えると、入手したほうがよさそうですね」


私は調査を続けた。


動画を撮ったのは隣の棟の学生だった。彼は協力的で、とても興奮していた。


「聞いた瞬間、大ごとだと思いました」


「どうして十五秒しか撮らなかったんですか」


「スマホの充電が切れそうで」


「では、どうして二時間怒鳴っていたと分かるんですか」


「コメント欄がそう言ってたので」


「コメント欄はどうして分かったんでしょう」


彼は考えた。


「コメント欄って、人が多いじゃないですか」


その言葉は、非常に時代精神に満ちていた。


昼、私はその女性准教授を探しに行った。


彼女は佐原先生、三十二歳。准教授になったばかりだった。私は以前、彼女の水文学の授業を受けたことがある。穏やかな先生だった。


研究棟の外で長く待ったが、会えなかった。メールを送っても返事はなかった。


そこで、噂の男性教員に話を聞きに行った。


男性教員は鹿島先生。四十歳前後で、学生からの人気が高い。研究室には観葉植物が三鉢置かれていたが、どれも半分ほど死んでいた。壁には書が掛かっていた。


静水深く流る。


彼は私に座るよう言い、紙コップの水を出した。


「学生の皆さんが事実を知りたいという気持ちは理解しています」彼は言った。「ただ、この件は個人のプライバシーに関わります。特に学生が関係していますので、あまり多くは話せません」


その言葉は責任ある態度のように聞こえた。


同時に、折りたたみ傘を広げて、ちょうど自分だけを隠しているようにも見えた。


私は聞いた。


「佐原先生とは、どういう関係ですか」


「同僚です」


「同僚だけですか」


「研究上の協力が多いだけです」


「では、あの学生とは?」


鹿島先生はわずかに眉をひそめた。


「学生を巻き込みたくありません」


「もう巻き込まれています」


「だからこそ守るべきです」


「昨夜、先生はなぜ現場に現れなかったんですか」


鹿島先生は少し間を置いて言った。


「資料を整理していました」


私は彼のパソコン画面を見た。


ドラマのページがまだ閉じられていなかった。


彼は付け加えた。


「映像資料も含めて」


取材の終わりに、彼は何度も言った。


「記事を書く際には、バランスに注意してください」


私は聞いた。


「バランスとは何ですか」


「一方だけの話を聞かないことです」


それはもちろん正しい。


ただ後になって分かった。天秤をもう隠してしまった人ほど、バランスを求めたがることがある。


午後、私はようやく噂の女子学生と連絡が取れた。


彼女は会うことには応じず、短いメッセージだけを送ってきた。


彼女によると、鹿島先生はずっと、自分と佐原先生はただの共同研究者だと言っていた。佐原先生は情緒が不安定で、彼を誤解している。君は特別だ。同年代より大人だ。話を聞くのがうまい。彼が大学でどれだけのプレッシャーを抱えているか分かってくれる、と。


その言葉は画面の上では軽かった。


けれど読み進めるうちに、私は奇妙な既視感を覚えた。


この件を聞いたことがあるのではない。


この文型を聞いたことがあるのだ。


君は特別だ。

君は誰より僕を分かってくれる。

彼女が誤解している。


言葉は古い鍵のようなものだ。違う扉を開けることができる。


だが開けた先にあるのは、たいてい同じ部屋だったりする。


夕方、佐原先生からメールの返信が来た。


キャンパス西側の小さなカフェで会うことになった。


私が着いたとき、彼女はもう席に座っていた。昨夜の動画に映っていた薄い色のトレンチコートを着て、手をつけていないアイスコーヒーを前に置いていた。とても疲れて見えた。


私はICレコーダーをテーブルに置いた。


「録音してもいいですか」


「いいです」


彼女はレコーダーを見て、続けた。


「でも、録音は出さないほうがいいと思います」


「どうしてですか」


「みんな、全部なんて必要としていないからです」彼女は言った。「私が狂っているように聞こえる部分だけあればいいんです」


私は返事ができなかった。


彼女は言った。


「昨夜、私が取り乱したのは事実です。そこは美化しなくていい」


「彼女を待っていたのは、一つ聞きたいことがあったからです」


「何を?」


「鹿島先生が、私とはもう終わっていると彼女に言ったのかどうか」


「結果は?」


「私が一方的につきまとっていると言われました」


佐原先生はコーヒーカップを見下ろした。


「その瞬間、すごく腹が立ったんです。彼女に対してではありません。同じ台詞を聞いた気がしたから」


「同じ台詞?」


彼女はうなずいた。


「彼も昔、私に言いました。君は特別だ、君は誰より僕を分かってくれる、今は公にできないのは君を守るためだって。後になって分かったんです。彼に『特別』と言われた人たちは、みんなほとんど同じテンプレートを渡されていたんだって」


カフェには小さな音で音楽が流れていた。隣のテーブルでは学生二人が期末レポートについて低い声で話していた。


佐原先生は続けた。


「昨夜、動画に映っている言葉は後半だけです」


「どの言葉ですか」


「『あなた、あの人がどういう人か分かってるでしょう』」彼女は私を見た。「その前にも言ったことがあります」


「何ですか」


彼女は言った。


「あなたが彼の責任を背負う必要はない」


私は言葉を失った。


佐原先生は言った。


「彼女はそのとき泣きました。私も泣きました。それから周りに人が増え始めました。冷静になろうとすればするほど、冷静ではいられなくなった。いちばん馬鹿げているのは何だと思いますか」


「何ですか」


「私は彼女に、あの人の言葉に騙されないでと言いに行ったんです。それなのに今日の全バージョンで、私は彼女を怒鳴りつけに行った人になっている」


彼女はカップを少し前に押した。


「もちろん、私も怒鳴りました。取り乱した人間が、正しいことだけを言うのは難しいです」


夜、新聞部は会議を開いた。


私は調査結果を報告した。


部長は長く黙っていた。


副部長が言った。


「つまり要約すると、佐原先生が女子寮前に行って学生と話したのは事実で、四十七分の言い合いがあったのも事実。ただしネットで言われている二時間ではない。佐原先生は取り乱したが、単純な浮気相手への罵倒ではない。鹿島先生には、同じ話法の反復と関係の回避が見られる。学生は情報の非対称性の中で巻き込まれた可能性がある」


部長は彼を見た。


「その要約、拡散力がないな」


副部長はうなずいた。


「僕もそう思います」


私たちはタイトルを考え始めた。


第一案。


『若手女性准教授、女子寮前で取り乱して口論 情愛トラブルか』


私は言った。


「匿名掲示板と変わりません」


第二案。


『十五秒の動画の裏にあった四十七分』


部長は言った。


「ちょっとドキュメンタリーっぽい」


第三案。


『彼女はなぜそこにいたのか』


副部長が言った。


「文芸寄りすぎます」


第四案。


『昨夜の女子寮前口論に関する事実確認』


全員が黙った。


最後に部長が言った。


「教務課のお知らせみたいだ」


私は言った。


「でも、いちばん事実に近いです」


部長は頭を抱えた。


新聞部の最大の困難は、事実が見つからないことではない。


事実には、たいてい良いタイトルがないことだ。


結局、私たちは長い調査記事を出した。タイトルはこうだった。


『「女子寮前口論」についての事実確認』


記事には、いくつかの事実を書いた。


一、事件は実際に発生した。

二、継続時間はおよそ四十七分。

三、ネット上の「二時間にわたり怒鳴った」という情報には根拠が乏しい。

四、十五秒の動画では、事件の前後関係を完全に示すことはできない。

五、事件には師弟関係、研究上の協力関係、私的関係が重なっており、単一の恋愛トラブルとして単純化できない。

六、当事者の学生は、ラベル化されることを望んでいない。

七、佐原先生は自分が取り乱したことを認める一方、ネット上の動機づけを否定している。


公開後、閲覧数は低かった。


コメント欄の一つ目。


「長すぎ。結局、誰が誰を取ったの?」


二つ目。


「ニュースないならないって言えばいいのに、客観ぶるなよ」


三つ目。


「新聞部、公認記事でも書かされた?」


四つ目。


「誰か三行でまとめて」


本当に三行要約の人が現れた。


彼はこうまとめた。


「男教員、疑惑のモテ男。女教員、メンタル崩壊。新聞部、長い」


それが一番多くいいねされた。


部長はコメント欄を長く見つめた。


「俺たち、失敗したのかな」


副部長は言った。


「惨敗ですね」


私は最もいいねされた要約を見て、それが完全に間違っているわけでもないと思ってしまった。ただ、短すぎた。短すぎて、その中では誰もが一つの単語だけになってしまう。


モテ男。

メンタル崩壊。

長い。


もしかすると、これこそが高速な社交の便利さなのかもしれない。


すべての人が短くされる。

すべての出来事が平たくされる。

すべての複雑な関係が、グループチャットで回せる形に折りたたまれる。


翌日、匿名掲示板に新しい投稿が出た。


【続報】新聞部、佐原先生側に忖度か ヒステリー事件をすり替えて擁護


コメントは多かった。


「新聞部ダメだと思ってた」


「この時代、真実なんてないね」


「真実より態度でしょ」


「で、完全版音声はあるの?」


私はスマホを閉じた。


数日後、キャンパスは平静を取り戻した。


少なくとも表面上は。


鹿島先生は授業を続けた。ただし、研究室の観葉植物はすべて造花に替わっていた。造花はとても緑で、水やりもいらず、枯れもしない。今の彼にはよく合っていた。


女子学生は指導教員を変えた。


佐原先生は短い休暇を取った。彼女の授業は別の教員が代講した。後日、私はキャンパスで彼女を一度見かけた。図書館の横を、本を抱えてゆっくり歩いていた。


翌週、私たち新聞部は銀杏の記事を書いた。


タイトルは、


『秋色深まり、銀杏は今年も』


事実確認の記事より閲覧数が多かった。


部長は管理画面の数字を見て、複雑な表情をした。


「見ろ」彼は言った。「木のほうが人間より記事にしやすい」


私は言った。


「木は反論しませんから」


みんな笑った。


学期末の前、部長はまた部会を開いた。


いつものように言った。


「みんな、ニュース感度を持とう」


今回は誰もうなずかなかった。


彼は少し考え、言い直した。


「それと、少しニュース鈍感度も持とう」


私たちは彼を見た。


部長は言った。


「早く書きすぎると、ニュースじゃなくなるものがある」


その言葉は、あまり部長らしくなかった。


けれど言い終わったあと、本人も悪くないと思ったらしく、すぐにノートへ書き留めた。次回も使うつもりだろう。


部会のあと、私は女子寮の前を通った。


下は静かだった。配達の荷物を受け取る人、電話をしている人、スーツケースを引いて通り過ぎる人がいた。街灯が点き、小さな空き地を照らしていた。


私はそこで、少し立ち止まった。


風が吹いて、銀杏の葉が落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ