十五秒の夜
私たち新聞部には、ふだんあまりニュースがない。
厳密に言えば、まったくないわけではない。大学では毎日いろいろなことが起こっている。図書館の空調が壊れた。銀杏が色づいた。体育祭が無事に終わった。大学猫が妊娠した疑いがあり、ただ太っただけの疑いもある。
ただ、それらはあまりニュースらしくない。
部長は部会のたびに言った。
「みんな、ニュース感度を持とう」
私たちはうなずいた。
そして翌週も、こういう記事を書いた。
『秋深まる、銀杏色づく』
『走れ青春! 体育祭、無事閉幕』
『並ぶ心、キャンパスから』
あの夜、新聞部のグループに大学の匿名掲示板のスクリーンショットが流れてくるまでは。
スクリーンショットのタイトルは長かった。
【衝撃】若手女性准教授、深夜の女子寮前で二時間ヒステリックに怒鳴り続ける!
グループは三秒沈黙した。
部長が一言送ってきた。
「諸君、ニュースが来た」
この言葉はかなり不道徳に聞こえた。
でも、誰も反論しなかった。
私たちはみんな知っていた。新聞部は、この瞬間を長く待っていたのだ。
スクリーンショットを開くと、下にはもうたくさんのコメントがついていた。
「現場にいた。めちゃくちゃ怒鳴ってた」
「誰を?」
「女子学生らしい」
「なんで?」
「男の先生」
「なるほど」
ポスト真実時代の美しさは、ここにある。
人は十分に短い説明を一つ手に入れれば、すぐに立場を持てる。
部長はすぐにオンライン会議を開いた。
彼はスクリーンショットを画面共有し、まるで公共危機に向き合うような真剣な声で言った。
「匿名掲示板みたいに無責任なことはできない。新聞部は事実確認をする」
副部長が聞いた。
「タイトルは先に決めますか」
部長は少し考えてから言った。
「『ヒステリー事件調査』」
私は言った。
「そのタイトル、もう立場が入ってませんか」
部長は言った。
「じゃあ、かぎ括弧をつけよう」
仮タイトルはこうなった。
『「ヒステリー」事件調査』
かぎ括弧がついたことで、私たちはずいぶん客観的になった気がした。
翌朝早く、私は女子寮の前へ調査に行かされた。
寮の前はとても静かだった。昨夜、大事件があったとされる場所には、配達員が二人、電動自転車が三台、花壇で寝ている猫が一匹、そしてほうきを持った寮母さんが一人いるだけだった。
まず、三階に住む目撃者に話を聞いた。
彼女は言った。
「昨夜、聞こえました。すごく怖かったです」
「何を怒鳴っていたか、聞き取れましたか」
「いいえ。ノイズキャンセリングのイヤホンをしていたので」
「では、どうして怒鳴っていたと分かったんですか」
「みんなが怒鳴っていたって言っていたので」
「見ましたか」
「カーテンを開けたときには、もう終わっていました」
「では、何を目撃したんですか」
彼女は考えた。
「みんなが目撃しているところを目撃しました」
二人目の目撃者は寮母さんだった。
学生よりずっと信用できる。
「二時間なんて言ってるけど、四十七分よ」
私は身を乗り出した。
「確かですか」
「もちろん。十時十三分に来て、十一時ちょうどに警備員が来たから。四十七分」
「怒鳴っていたんですか」
寮母さんはほうきを置き、少し考えた。
「怒鳴っていたと言えば、そうね。でも怒鳴り方に教養があったわ」
「教養?」
「うん。権力の非対称性とか、感情労働とか、物語の剥奪とか言ってた。けんかというより講義みたいだった」
寮母さんはさらに付け加えた。
「途中で水も買ってたわ。QR決済して、結構冷静だった」
私はノートに書いた。
> 情報修正:
> 二時間 → 四十七分
> ヒステリー → 途中でミネラルウォーター購入
> 大怒鳴り → 学術用語を多数含む
午前十時、十五秒の動画があちこちのグループで回り始めた。
動画はぶれていた。画面には街灯、寮の入口、野次馬らしき学生たち、そして薄い色のトレンチコートを着た女性が映っている。彼女の声は震えていたが、はっきり聞こえた。
「あなた、あの人がどういう人か分かってるでしょう!」
そこで動画は終わった。
撮影者は最後の一秒で、「やば」とつぶやいていた。
この十五秒だけで、大学中が一つの連続ドラマを完成させるには十分だった。
第一版。女性准教授が浮気相手を問い詰めた。
第二版。女性准教授が男性教員に捨てられた。
第三版。女性准教授と女子学生が指導教員の取り合いをした。
第四版。女子学生が妊娠した。
第五版。男性教員は実は既婚者だった。
第六版。女性准教授ではなく講師だった。
第七版。新聞部は完全版音声を入手しているが、怖くて出せない。
その時点で、私たち新聞部はまだ昼食も食べていなかった。
部長は匿名掲示板の第七版を見て、傷ついた顔をした。
「いつ完全版音声を入手したんだ、うちは」
副部長は言った。
「拡散効果を考えると、入手したほうがよさそうですね」
私は調査を続けた。
動画を撮ったのは隣の棟の学生だった。彼は協力的で、とても興奮していた。
「聞いた瞬間、大ごとだと思いました」
「どうして十五秒しか撮らなかったんですか」
「スマホの充電が切れそうで」
「では、どうして二時間怒鳴っていたと分かるんですか」
「コメント欄がそう言ってたので」
「コメント欄はどうして分かったんでしょう」
彼は考えた。
「コメント欄って、人が多いじゃないですか」
その言葉は、非常に時代精神に満ちていた。
昼、私はその女性准教授を探しに行った。
彼女は佐原先生、三十二歳。准教授になったばかりだった。私は以前、彼女の水文学の授業を受けたことがある。穏やかな先生だった。
研究棟の外で長く待ったが、会えなかった。メールを送っても返事はなかった。
そこで、噂の男性教員に話を聞きに行った。
男性教員は鹿島先生。四十歳前後で、学生からの人気が高い。研究室には観葉植物が三鉢置かれていたが、どれも半分ほど死んでいた。壁には書が掛かっていた。
静水深く流る。
彼は私に座るよう言い、紙コップの水を出した。
「学生の皆さんが事実を知りたいという気持ちは理解しています」彼は言った。「ただ、この件は個人のプライバシーに関わります。特に学生が関係していますので、あまり多くは話せません」
その言葉は責任ある態度のように聞こえた。
同時に、折りたたみ傘を広げて、ちょうど自分だけを隠しているようにも見えた。
私は聞いた。
「佐原先生とは、どういう関係ですか」
「同僚です」
「同僚だけですか」
「研究上の協力が多いだけです」
「では、あの学生とは?」
鹿島先生はわずかに眉をひそめた。
「学生を巻き込みたくありません」
「もう巻き込まれています」
「だからこそ守るべきです」
「昨夜、先生はなぜ現場に現れなかったんですか」
鹿島先生は少し間を置いて言った。
「資料を整理していました」
私は彼のパソコン画面を見た。
ドラマのページがまだ閉じられていなかった。
彼は付け加えた。
「映像資料も含めて」
取材の終わりに、彼は何度も言った。
「記事を書く際には、バランスに注意してください」
私は聞いた。
「バランスとは何ですか」
「一方だけの話を聞かないことです」
それはもちろん正しい。
ただ後になって分かった。天秤をもう隠してしまった人ほど、バランスを求めたがることがある。
午後、私はようやく噂の女子学生と連絡が取れた。
彼女は会うことには応じず、短いメッセージだけを送ってきた。
彼女によると、鹿島先生はずっと、自分と佐原先生はただの共同研究者だと言っていた。佐原先生は情緒が不安定で、彼を誤解している。君は特別だ。同年代より大人だ。話を聞くのがうまい。彼が大学でどれだけのプレッシャーを抱えているか分かってくれる、と。
その言葉は画面の上では軽かった。
けれど読み進めるうちに、私は奇妙な既視感を覚えた。
この件を聞いたことがあるのではない。
この文型を聞いたことがあるのだ。
君は特別だ。
君は誰より僕を分かってくれる。
彼女が誤解している。
言葉は古い鍵のようなものだ。違う扉を開けることができる。
だが開けた先にあるのは、たいてい同じ部屋だったりする。
夕方、佐原先生からメールの返信が来た。
キャンパス西側の小さなカフェで会うことになった。
私が着いたとき、彼女はもう席に座っていた。昨夜の動画に映っていた薄い色のトレンチコートを着て、手をつけていないアイスコーヒーを前に置いていた。とても疲れて見えた。
私はICレコーダーをテーブルに置いた。
「録音してもいいですか」
「いいです」
彼女はレコーダーを見て、続けた。
「でも、録音は出さないほうがいいと思います」
「どうしてですか」
「みんな、全部なんて必要としていないからです」彼女は言った。「私が狂っているように聞こえる部分だけあればいいんです」
私は返事ができなかった。
彼女は言った。
「昨夜、私が取り乱したのは事実です。そこは美化しなくていい」
「彼女を待っていたのは、一つ聞きたいことがあったからです」
「何を?」
「鹿島先生が、私とはもう終わっていると彼女に言ったのかどうか」
「結果は?」
「私が一方的につきまとっていると言われました」
佐原先生はコーヒーカップを見下ろした。
「その瞬間、すごく腹が立ったんです。彼女に対してではありません。同じ台詞を聞いた気がしたから」
「同じ台詞?」
彼女はうなずいた。
「彼も昔、私に言いました。君は特別だ、君は誰より僕を分かってくれる、今は公にできないのは君を守るためだって。後になって分かったんです。彼に『特別』と言われた人たちは、みんなほとんど同じテンプレートを渡されていたんだって」
カフェには小さな音で音楽が流れていた。隣のテーブルでは学生二人が期末レポートについて低い声で話していた。
佐原先生は続けた。
「昨夜、動画に映っている言葉は後半だけです」
「どの言葉ですか」
「『あなた、あの人がどういう人か分かってるでしょう』」彼女は私を見た。「その前にも言ったことがあります」
「何ですか」
彼女は言った。
「あなたが彼の責任を背負う必要はない」
私は言葉を失った。
佐原先生は言った。
「彼女はそのとき泣きました。私も泣きました。それから周りに人が増え始めました。冷静になろうとすればするほど、冷静ではいられなくなった。いちばん馬鹿げているのは何だと思いますか」
「何ですか」
「私は彼女に、あの人の言葉に騙されないでと言いに行ったんです。それなのに今日の全バージョンで、私は彼女を怒鳴りつけに行った人になっている」
彼女はカップを少し前に押した。
「もちろん、私も怒鳴りました。取り乱した人間が、正しいことだけを言うのは難しいです」
夜、新聞部は会議を開いた。
私は調査結果を報告した。
部長は長く黙っていた。
副部長が言った。
「つまり要約すると、佐原先生が女子寮前に行って学生と話したのは事実で、四十七分の言い合いがあったのも事実。ただしネットで言われている二時間ではない。佐原先生は取り乱したが、単純な浮気相手への罵倒ではない。鹿島先生には、同じ話法の反復と関係の回避が見られる。学生は情報の非対称性の中で巻き込まれた可能性がある」
部長は彼を見た。
「その要約、拡散力がないな」
副部長はうなずいた。
「僕もそう思います」
私たちはタイトルを考え始めた。
第一案。
『若手女性准教授、女子寮前で取り乱して口論 情愛トラブルか』
私は言った。
「匿名掲示板と変わりません」
第二案。
『十五秒の動画の裏にあった四十七分』
部長は言った。
「ちょっとドキュメンタリーっぽい」
第三案。
『彼女はなぜそこにいたのか』
副部長が言った。
「文芸寄りすぎます」
第四案。
『昨夜の女子寮前口論に関する事実確認』
全員が黙った。
最後に部長が言った。
「教務課のお知らせみたいだ」
私は言った。
「でも、いちばん事実に近いです」
部長は頭を抱えた。
新聞部の最大の困難は、事実が見つからないことではない。
事実には、たいてい良いタイトルがないことだ。
結局、私たちは長い調査記事を出した。タイトルはこうだった。
『「女子寮前口論」についての事実確認』
記事には、いくつかの事実を書いた。
一、事件は実際に発生した。
二、継続時間はおよそ四十七分。
三、ネット上の「二時間にわたり怒鳴った」という情報には根拠が乏しい。
四、十五秒の動画では、事件の前後関係を完全に示すことはできない。
五、事件には師弟関係、研究上の協力関係、私的関係が重なっており、単一の恋愛トラブルとして単純化できない。
六、当事者の学生は、ラベル化されることを望んでいない。
七、佐原先生は自分が取り乱したことを認める一方、ネット上の動機づけを否定している。
公開後、閲覧数は低かった。
コメント欄の一つ目。
「長すぎ。結局、誰が誰を取ったの?」
二つ目。
「ニュースないならないって言えばいいのに、客観ぶるなよ」
三つ目。
「新聞部、公認記事でも書かされた?」
四つ目。
「誰か三行でまとめて」
本当に三行要約の人が現れた。
彼はこうまとめた。
「男教員、疑惑のモテ男。女教員、メンタル崩壊。新聞部、長い」
それが一番多くいいねされた。
部長はコメント欄を長く見つめた。
「俺たち、失敗したのかな」
副部長は言った。
「惨敗ですね」
私は最もいいねされた要約を見て、それが完全に間違っているわけでもないと思ってしまった。ただ、短すぎた。短すぎて、その中では誰もが一つの単語だけになってしまう。
モテ男。
メンタル崩壊。
長い。
もしかすると、これこそが高速な社交の便利さなのかもしれない。
すべての人が短くされる。
すべての出来事が平たくされる。
すべての複雑な関係が、グループチャットで回せる形に折りたたまれる。
翌日、匿名掲示板に新しい投稿が出た。
【続報】新聞部、佐原先生側に忖度か ヒステリー事件をすり替えて擁護
コメントは多かった。
「新聞部ダメだと思ってた」
「この時代、真実なんてないね」
「真実より態度でしょ」
「で、完全版音声はあるの?」
私はスマホを閉じた。
数日後、キャンパスは平静を取り戻した。
少なくとも表面上は。
鹿島先生は授業を続けた。ただし、研究室の観葉植物はすべて造花に替わっていた。造花はとても緑で、水やりもいらず、枯れもしない。今の彼にはよく合っていた。
女子学生は指導教員を変えた。
佐原先生は短い休暇を取った。彼女の授業は別の教員が代講した。後日、私はキャンパスで彼女を一度見かけた。図書館の横を、本を抱えてゆっくり歩いていた。
翌週、私たち新聞部は銀杏の記事を書いた。
タイトルは、
『秋色深まり、銀杏は今年も』
事実確認の記事より閲覧数が多かった。
部長は管理画面の数字を見て、複雑な表情をした。
「見ろ」彼は言った。「木のほうが人間より記事にしやすい」
私は言った。
「木は反論しませんから」
みんな笑った。
学期末の前、部長はまた部会を開いた。
いつものように言った。
「みんな、ニュース感度を持とう」
今回は誰もうなずかなかった。
彼は少し考え、言い直した。
「それと、少しニュース鈍感度も持とう」
私たちは彼を見た。
部長は言った。
「早く書きすぎると、ニュースじゃなくなるものがある」
その言葉は、あまり部長らしくなかった。
けれど言い終わったあと、本人も悪くないと思ったらしく、すぐにノートへ書き留めた。次回も使うつもりだろう。
部会のあと、私は女子寮の前を通った。
下は静かだった。配達の荷物を受け取る人、電話をしている人、スーツケースを引いて通り過ぎる人がいた。街灯が点き、小さな空き地を照らしていた。
私はそこで、少し立ち止まった。
風が吹いて、銀杏の葉が落ちた。




