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第百十八話

 初映画出演作品『愛するが故に憎い。貴方は私の全て』の撮影が終わり、編集作業も大詰めの段階となり先日公開日も正式に発表された。来週からはテレビCMも放送される予定で今からドキドキしている。ドキドキと言えば撮影は滅茶苦茶大変だったし、精神的に追い詰められた。今思い出しても背筋が寒くなるよ。

 最初は順調だったんだけど中盤以降からどんどん様子が変になっていったんだよな。そう、あれはこんな感じだった。

「それではシーン五十六、カット九十七の撮影を開始します。――スタート」

 監督がカチンコを鳴らした後演技が始まる。

「この前作ったお菓子はお口に合いましたか?」

「はい。とても美味しかったのですが、ちょっと鉄臭い味がしてどんな材料を使っているのか気になっていたんのですが教えて貰ってもいいですか?」

「ふふっ。それは秘密です。でもヒントなら言えますよ」

「是非教えて下さい」

「私と貴方が混じり合って一つになる為に必要な物です」

「えーと……かなり難しいですね。ちょっと考えてみましたが何もヒットしませんでした」

 お菓子作りに二人が一つになるような要素は皆無だし、そもそもの話チョコレートなんて市販品を溶かして型に入れて固めるだけなので特殊なスパイスや材料を使う必要は全くない。それを踏まえて考えるとその人しか持っていない物、若しくは普通であれば食品に入れない物になるのか?チラリと女性の方に視線をやると手首にうっすら傷跡があるのに気が付いた。場所的に意図的に傷つけない限り怪我をすることはほぼ無い場所に傷がある。もしかして……いやいや、それはないな。血液を混入するなんて衛生的にも倫理的にもNGだし、そもそも仲の良い友人がそんなヤンデレみたいな真似をするわけがない。きっと俺の気のせいだろう。

「前回はチョコレートだったので今度はお料理を作りたいのですが何かリクエストはありますか?」

「特に好き嫌いはありませんし何でもいい――は駄目ですね。それじゃあハンバーグでお願いします」

「ソースはデミグラス派ですか?それともケチャップ派ですか?」

「どちらも好きですがどちらかと言えばケチャップですね」

「分かりました。新鮮で真っ赤な手作りケチャップを用意しておきますね。きっとお気に召すはずです」

「あはは……。お手柔らかにお願いします」

 手作りという発言に先ほどの考えが浮かんできてしまう。多少の血液なら色も同じだし調味料で調整すれば香りや味を誤魔化せるしな。うぅ、今更ながらデミグラスソースにすればよかったと後悔してしまう。

 それが顔に出ていたのか女性が少し心配そうな表情を浮かべながら声を掛けてきた。

「顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」

「はい、問題ありません」

「そうですか。もし体調が悪かったりした場合はすぐに連絡して下さいね。お家まで行って看病しますので」

「あ、有難うございます」

「――カット。それでは確認に入ります」

 ふぅ。たった十分の演技だったのに疲れた。相手の女優さんの目がどんよりと濁っていて、言葉の端々に狂った愛を感じてしまったのが原因だろう。役に入るというレベルではなく本物のヤンデレと会話していると錯覚するほど真に迫っていたしな。ヒロインは三人いるので似たような事をあと二回は最低でもしなくてはいけないとか俺の精神は果たして持つのだろうか?平和な日常回だった序盤がこれほど恋しいと思うなんて撮影初日には考えもしなかったぜ。

 だかここで心が折れるわけにはいかない。俺がやりたくて受けた仕事なんだから何があろうと最後まで演じ切って見せる!

 ――月日が流れいよいよ終盤の撮影が始まった。この頃にはヒロイン役の女優三人はヤンデレも裸足で逃げ出すスーパーヤンデレに進化しており最早演技では無く素でやっていると俺は思う。理由としては撮影中以外の休憩時間や打ち合わせの時にも凄まじいまでのヤンデレっぷりを披露しているからだ。因みに何度も手料理を作ってきてくれたが中盤以降は口にしていない。冗談抜きで自分の血や髪の毛、皮膚片を入れていそうだからだ。そういう分かりやすい物でなく愛液や汗などの料理やお菓子に混入しても分からない液体を入れられている可能性も非常に高いしね。大量なら違和感を覚えるだろうが少量なら何も気が付かずに食べてしまうだろう。

 演技派俳優や女優は役に入り込むとか憑依するとか例えられることがあるが、今回の場合は本人が自分の役を演じているというかんじになるのかな。濁った目にどす黒いハートマークを浮かべて微笑みながら俺に話しかけられた時なんてヒエッ!って変な声が出てしまったくらいだ。そんな状態の彼女達と撮影する終盤はゴリゴリと精神を削られて頻繁に休憩を挟まないと持たないくらいだった。そして迎えた最後のシーン。これはまさに地獄の一言だ。

「それではシーン二百四、カット五百七の撮影を開始します。――スタート」

 監督がカチンコを鳴らした後演技が始まる。

「私は貴方がいれば他には何もいらないの。それなのに他の女性と仲良くお喋りしたり、遊びに出かけたり……。なんで私の事だけを見てくれないの?ねぇ、なんで?なんで?お金、地位、名誉なんて貴方が欲しければ幾らでも与えてあげれるし、生活に必要なすべての事を私がしてあげると言っているのに何故断るの?そんなに私の事が嫌いなの?」

「君の気持ちはとても嬉しいし、有難いと思っている。だけど与えられるだけの人生は嫌なんだ。そんな生活をしていたらきっと俺は駄目になってしまうし、一人では何もできないクズ野郎になってしまう」

「それでも私は構わない!あなたと一緒に居られるだけで幸せだし、全てを与えたい。それの何がいけないの?お願いだから私と甘く蕩けるような生活を送りましょう。その為なら何だってしてみせるから」

「何度でも言うけどそれじゃあお互いの為にならないんだ。どちらか片方に依存してしまう関係なんて何れ破綻するし、お互いに不幸になるだけだ。お互いに支えあって、楽しい時も辛い時も分かち合いながら共に歩んでいくのが俺が求める幸せの形だから君の考えとは決して相容れないんだよ」

「………………なんでそんな酷い事を言うの?そんなに私の事が嫌いなんですか?」

「好き嫌いの問題ではなく価値観や生き方、考え方の相違だよ。俺と君ではそこが決定的に食い違っているんだ。どちらかが無理をして合わせたとしても長くは続かないし、早晩決定的な亀裂が入って関係が終わると思うんだ。友達としてならまだやっていけたけど、恋人、その先にある結婚して家族になるのは正直無理だ」

「………………そう、そうなのね。優しかった貴方がそんな事を言い出すなんておかしいと思っていたの。悪い女に唆されて私との関係を切るように言われたのね。私の大事な人に近寄るだけでも今すぐに殺したいのに、引き離すような真似をするなんて……地獄すら生ぬるいと感じる程の絶望と苦痛を味わわせて殺してやる」

「違う。そうじゃないよ。俺は誰にも唆されてなんていないし、この話を持ち出す決心をしたのは俺自身だ。それに君のそういう思い込みが激しく、感情で突っ走ってしまう所は嫌いだ」

「えっ⁇嫌い……って言ったの?」

「ああ。改めてはっきりと伝えよう。もう君とはやっていけない。今後は俺の前に姿を見せないでくれ。勿論連絡するのも無しだ。――違う形で出会っていれば幸せな未来が待っていたかもしれないが、過去をやり直すことは不可能だ。残念だがこれでお別れだ。今までありがとう。君の幸せを祈っているよ」

「どうしたって私と一緒になる未来は無いという事ね?」

「ああ」

「分かったわ。今世で貴方と幸せになれないならこんな世界に居る意味は無いわ」

 そう言った後バッグから包丁を取り出し俺に向けて構えた。その目には狂気と悲哀、そして僅かな希望が灯っているような気がした。

「馬鹿な真似はよせ。今ならまだ警察のお世話にならずに済むしすぐに包丁を仕舞うんだ」

「来世で幸せに暮らしましょうね。おじいちゃん、おばあちゃんになっても愛し合い、笑いあいながら日々を過ごして一緒のお墓に入りましょう。それじゃあ、肉の身体を捨てましょうか」

「や、やめ……ごふっ……」

「安心して頂戴。私もすぐに後を追うから。また会いましょう」

 薄れゆく意識の中で俺が最後に見たのは彼女が自分の心臓に包丁を何度も突き刺している光景だった。

「――カット。スタッフはすぐに彼女を医療班の所に連れて行って下さい。他にも体調が悪かったり、精神的に辛い人はすぐに診察を受けるように」

 監督の言葉を聞いたスタッフの人達が慌ただしく動き出すのを見たら一気に力が抜けて床にへたり込んでしまった。肉体的にも精神的にももう限界だし立つ気力も無い。このまま暫く座っていようと思っていたらすぐに監督とマネージャーをしてる透香のお母さん――明美さんに見つかり俺の元まで駆けつけてきた後心配そうに声を掛けられた。

「佐藤さん、大丈夫ですか?」

「拓真さんの顔色が悪いですし、見た所身体にも力が入っていないわ。すぐに病院に運ばないと。救急車の手配をお願いします」

「明美さん。そこまでしなくても大丈夫ですよ。少し休めば動けるようになりますので」

「駄目よ。自分では問題無いと思っているかもしれないけど本当に酷い状態なんだから病院で検査を受けましょう」

「分かりました。お手数をおかけしてすみませんがお願いします」

「愛する息子の為ですもの、これくらいなんてことないわ。――監督。このまま拓真さんを病院まで連れて行きますので後の事はお願いしますね」

「はい、分かりました。何かありましたら私の端末に連絡を下さい」

 その後は救急車で雪音が勤務する病院に運ばれ精密検査を受けた。結果としては異常は見つからず精神に過剰な負担が掛ったせいで肉体にも変調をきたしたのだろうという診断だった。当然日帰りなんて出来るはずも無く一週間ほど入院を余儀なくされた。過保護が過ぎると思うけど妻や子供達、お義母さんや病院関係者に強くお願いされてしまい受け入れました。幸いにもラストシーンだったのと、監督からOKを貰えたのでそのまま撮影終了と相成ったのだが、何とも締まらない終わりだなと今でも思うよ。

 ふぅ、大分端折って回想したが大体こんな感じだ。他にもスタッフの人が俺がヤンデレ好きと勘違いしてかなり危険な行動に出たり、ヒロインと少しだけイチャつくシーンで殺気を滲ませながら殺人鬼も裸足で逃げ出すような目で相手の女優さんを睨んでいたり、何故か手作り料理を毎日大量に渡されたりと濃すぎる話もあるのだが長くなるので割愛させてもらった。

「この手のジャンルは当分演じたくはないな。はぁ~~」

「凄い溜息でしたが何か心配事でもありましたか?」

「あっ、雪音。映画撮影の時を思い出してしまって思わず溜息が出てしまいました」

「成程。毎日とても辛そうでしたし、それも仕方ないですね」

「覚悟はしていたつもりだったけどまさかあそこまで豹変するとは思っていませんでした。この世界の人にとっては劇薬だったんですね」

「夢にまで見た男性と演技とは言え恋人関係になれるのですから誰でも変わると思いますよ。それに最後は殺してしまうという衝撃的な展開ですが、それも愛するが故の行動ですから理解は出来ます。納得は出来ませんが」

「世の中の女性が男性を欲しているのは分かっていたつもりでしたが、考えが甘いというのを痛感しました。それと最初に出会ったのが雪音と菫じゃなかったら有り得た死に方ですしね」

「程度の差は有れど一般女性であれば軟禁に近い状態での生活になるでしょうし、酷い場合は監禁して一歩も外の世界を知ることなく過ごす事になりますね。裕福な人やそれなりの社会的地位を確立している女性の場合は愛玩動物として毎日愛でられながら夜は搾り取られる生活をするでしょう」

「ぞっとしない話ですね。――雪音、菫、桜、小百合、千歳、透香は俺を一人の男として対等に見てくれますし、普通の女性とは違って健全な思考を持っていて感謝しかないです。本当に素晴らしい妻で誇らしいですよ」

「も、もう。拓真さんったら。そんな事を言われたら嬉しすぎて沢山甘えたくなってしまいます」

「構いませんよ。リビングには他の人はいませんし、目一杯雪音のしたいように甘えて下さい」

「それではお言葉に甘えさせてもらいますね」

 そう言うと俺の隣に添わり腕を絡ませてきた。胸の谷間に挟まっている俺の腕には柔らかさと少し高い体温が伝わってくる。はぁ~、至福だ。おっぱいってなんでこんなに気持ちいいんだろうか?触って良し、挟んで良し、見て良しと三拍子揃っている至高の膨らみだよな。あぁ~、気持ちいいと脳まで蕩けそうになっていると雪音がこちらを見ながらそっと顔を近づけてきたので優しくキスをする。

「んっ、ふぅ……」

 唇はプルプルだし、柔らかいし時折漏れる吐息がエロすぎる!というかキスとおっぱいでの腕挟みのダブル攻撃は破壊力が高すぎて俺の理性が蒸発しそうだ。だが耐えるんだ。ここは家族が過ごす憩いの場なんだ。これ以上の行為は絶対にしてはいけないと心の天使が必死に訴えてくるので鋼の意思で猛攻に耐えて見せるぜ。

「はふぅ……。拓真さん、私もう我慢できません。ベッドで気持ち良い事をしましょう」

「それじゃあ俺の部屋に行きましょうか」

「はい」

 頬を染めながら雪音が頷いたのを確認して立ち上がる。先程鋼の意思で猛攻に耐えて見せると言ったが雪音の蕩けた表情を見た瞬間陥落したよ。所詮男の理性なんて紙くず同然よ。それよりも早く気持ち良い事をしたくてムスコがそそり立っているぜ。戦闘態勢も整っているようだし、すぐに色々な液体が飛び散る戦場へと立たせてやるからな。もう少しだけ辛抱してくれと語りかけつつ雪音と二人でリビングを出ようとしたタイミングで莉奈とばったり出くわしてしまった。

「「あっ……」」

「お父さまと雪音お母さま。顔が赤いですがもしかして風邪ですか?」

「えっ?えっと……今日は気温が高いせいかな。ねっ、雪音」

「は、はい。部屋が少し熱いですしエアコンを入れましょうか」

「ですね。ちょっと飲み物を取ってきます」

「私はエアコンを付けに行きますね」

 最悪のタイミングで娘に会う事になるなんて。これから大人のプロレスを楽しもうとやる気満々だったのにこの行き場のない感情をどう処理すればいいのか……。はぁ。夜になるまで悶々として気持ちで過ごさなくちゃいけないとか新手の拷問かよとつい毒づいてしまう。一度オナニーをしてスッキリすれば多少は落ち着くのだろうが、なんだかもったいない気がする。

 チラリと雪音に視線を向けると太ももを擦り合せてモジモジしながらゆっくりと歩いている。恐らく下着はべっとりと濡れているだろうし、着替えないといけないだろうな。こういう時女性は大変だよなと思っていると莉奈がキッチンまで来たので声を掛ける。

「どうした?莉奈も喉が渇いたのかな?」

「お父さまからエッチな匂いがしたので、付いてきちゃいました」

「え゛⁉」

 頭の中が真っ白になり完全に志向が停止する。少しして莉奈の言葉の意味がようやく理解し始めると同時にまだ小学一年生七歳なのに女として目覚めている様子に戦慄を覚える。ここで取れる手は二つ。誤魔化すか正直に伝えるかだ。後者の場合はお母さんとエッチな事をしようとしていたんだけど、莉奈が来たから途中で止めたんだと言わなければいけない。そんな事出来る訳ないだろう!馬鹿か俺は。せめて中学生か高校生くらいだったらそれとなく伝える事も出来たが七歳には無理だ。という訳で誤魔化す一択だな。

「そんな変な匂いはしないはずなんだけどなぁ?莉奈の勘違いじゃないか?」

「いいえ、そんなはずはありません。お父さまからも雪音お母さまからも確かにしました」

「そ、そうか。話は変わるが冷蔵庫の前で話すのもなんだしソファへ行かないか?」

「はい、そうしましょう」

 二人でソファへ行くと丁度クーラーをつけた雪音がいたので一緒に座る事にする。位置は右隣に雪音が座り、俺の膝の上に莉奈が座っている形だ。

「あ~涼しい。実に快適だ」

「少し高めの温度に設定していますが、丁度良い感じですね。もし寒くなったら言って下さい。すぐに消すので」

「分かりました。その時は言いますね」

 なんて雪音と話していると膝の上に居る莉奈が笑顔でお願いをしてきた。

「お父さま。頭を撫でて貰ってもいいですか?」

「それくらいならお安い御用だよ」

「ふわぁぁ~……。このままずっとこうしていたいくらい気持ち良いです」

「お母さん達も頭を撫でられるのが好きだし、もしかしたら遺伝なのかな?」

 人によって好き嫌いは勿論あるだろうし、お互いの関係性によっても大分変るだろう。顔見知りや友人程度であれば嫌悪する人が多いだろう。逆に好きな人や恋人、夫婦の場合は好感を持つのではないだろうかと俺は思っている。でもここ迄気持ち良さそうにするのは相当珍しいので先ほど言った遺伝ではないかという仮説に至ったわけだが、それについて雪音が回答をくれた。

「遺伝云々と言うより男性に身体を触られて嫌がる女性はいないと思いますよ。少なくとも私が知る限りそういう女性に出会った事はありませんし」

「それじゃあ仮にですが初対面の男性に胸やお尻を触られても激怒しないという事ですか?」

「怒るどころか喜びますね。ただ……男性が極度の肥満だったり、ベトベトした手で触られた場合は少し嫌だなと思いますが……」

「あぁ、それは当然だと思いますよ。俺が女性の立場だったら恋人や夫でもない人に触られた時点でセクハラで絶対に訴えますし。というか気軽に体に触るなよと言う話なんですけどね」

「拓真さん、すみません。セクハラってなんですか?」

「職場において相手の意に反する性的な言動や行為を行い不快感を与えたり、労働条件で不利益を被らせたりする行為ですね。身体への不必要な接触、性的な噂の流布、恋愛・結婚に関する過度な質問を異性にするのも含まれます。俺が居た世界では常にセクハラには注意を払わなくてはいけなくて大変でした」

「ちょっと信じられない内容です。女性から男性にそういった行動をすればすぐに逮捕、刑務所送りになりますし、逆に男性から女性にそういった行動をすればご褒美になってしまうので全然違いますね」

「確かにそうですね。ですが例え女性が喜ぶとしても俺はそういう行動はしないように細心の注意を払うようにしています。些細な事で人間関係が崩れてしまいますし、相手に勘違いさせて問題が起きたらお互いに不幸になるだけですから」

 男を一度も見ることなく生涯を終える人もいる世界なんだ。善意で行った行動でも相手にとっては一緒に歩かないかの奇跡だし、自分に好意を持っているのでは?と勘違いされても仕方ない。なので節度を持った態度と行動を心掛けなければあっという間にヤンデレを量産してしまうからな。ある程度親しい関係であればその辺は緩くなるんだけど、その匙加減が結構難しいんだ。ついつい家族にしているような態度を取ってしまう事もあるしなと考えに耽っていると莉奈がくるりと向きを変えて俺に抱き着いてきた。

「お父さまが他の女にとられるなんて絶対に嫌です!」

「大丈夫だよ。俺には愛する妻と子供が居るしこれ以上は望んではいないから。だから安心していいよ」

「本当ですか?じゃあ私が大人になったら結婚して下さい」

「あははっ。良いよ。莉奈が大人になっても気持ちが変わらなかったら結婚しよう」

「約束ですよ」

「ああ、約束だ」

 小さい子特有の大きくなったらお父さんと結婚する~というやつだろう。莉奈は美少女だし頭も良い上に器量も良いんだから引く手数多だろうに俺と結婚するとか嬉しい事を言ってくれるぜ。でもなぁ……思春期に差し掛かる頃には泡沫の夢のように綺麗さっぱりそんな考えは消えているんだろうな。寂しいぜ。将来に訪れるだろう悲劇に今からげんなりしてしまうが、ポジティブに考えれば今この時を心に刻み付けばいいんだよ。そうすればその時を迎えた時に昔はこうだったんだよなと懐かしめるしな。

 よし、そうと決まれば目一杯甘やかしてやるぜ!気合と共に娘の頭を撫でるのだった。

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