51.二体の魔物 IV
用事があって更新が随分と遅れました。すみません……。
僕達が戻ってきた現実。しかし、そこは洞穴では無かった。目の前には鉄格子。そして、その奥には二体の魔物。三回目となる、逆転者と大貘だ。
「全てが嘘だったか……。」
「正解かもねー?僕達は誰なんだろうねー?」
相変わらず、人を苛立たせるような話し方。意識してそうしているのだろう。仮の姿という訳だ。
「まあ、考えなくても王家だと言うことは分かるけど。」
「そうかもねー?どうだろうねー?」
別に幻を見ていたのは良いのだが……いや、正確には良くないが、どこで魔法を浴びたか、という事である。ルカとレーナの二人は僕とは離れた位置にいた。別の場所で魔法を浴びたのだ。
二人が魔法を浴びる……さらに僕も浴びる。じゃあ……命令によってルカとレーナを追い掛けた、騎士団と国家魔術師団の小隊に紛れていたのか?
「騎士団か国家魔術師団か……?」
僕は尋ねた。確証はないが、答えてくれるような気がしたのだ。そして実際に返事はあった。
「バカなのー?」
「……」
「……バカなのー?」
「今、イラッとしたのは僕だけかな?」
真っ向から否定されるとは思っていなかった。自尊心がある訳ではないが、もう少し穏やかに言えないかな。まあ、魔物だから仕方が無いか。
『……破壊していい?』
ルカからの怖いお誘いだ。確かにその気持ちは分かる。頷ける。だけど、まだ情報が足りない。せめて、翠竜の行方だけでも知りたいのだ。我慢してもらおう。
「じゃあ、どうなんだ?」
「君達は洞窟に行ったよー?そして見張りをしていた一人が瞬きをした瞬間に魔法を発動させたんだよー?小隊に紛れていたら、君の魔道具に反応しないかなー?」
図星だった。そう言われればそうなのだ。幻か否かの区別はずっと僕の〈魔物探査〉が反応したかどうだったかであった。今回に限って、それが違うなどと言ったことは無いはずだ。浅はかな考えであったのは否定出来ない。
それよりもここで取り上げるべきなのは他の二点。一点が瞬きをした瞬間に僕達に魔法を発動させるその技能だ。それこそ国家魔術師団でも舌を巻くような高等技術であろう。僕も出来ないと思う。ルカであれば出来るかもしれないが。
そしてもう一点。────どこで僕の魔道具を知ったんだ?
「お前達の裏には誰かがいる?」
「君達が既に指摘した通りだよー?」
「結局は王家なのか……。」
「王家を嘗めない方が良いよー?」
一瞬だけ、逆転者は真面目な表情を作る。そこで気付いた。幻内の逆転者に比べて、現実の逆転者はさらに人間くさい。こちらの方が人間に近いようだ。幻では性格を作っていたのだろう。すんなりと幻を事実だと受け入れさせるために。やはり知能が高い。
これからどうしようかと考える。この時点で僕が翠竜に対して発動した魔法はしっかりと発動したと分かったが、それも解除されているかもしれない。……どうしたものか。一か八かでここでそれを実際に発動しても良いのだが、僕達に対する警戒が高まり、脱出を困難にする可能性がある。
だが、恐らく現在の僕達は騎士団の人が言っていたように大罪者であろう。当て字違いで滞在者であれば嬉しいが、そんな筈はないだろう。まずはここから出なくてはならない。
「どうしたら僕達はここから出られる?」
「……焦っているねー?」
的確に的を射ている。どこまで感情を読むのに長けているのだろうか。僕はこの魔物に勝てない気がした。この相手は無敵なのではないか、と錯覚を覚え始めた。これも逆転者の作戦なのかもしれない。そうであれば、絶対に僕は逆転者の本意を読み取ることは出来ないだろう。
やられっぱなしは悔しいが、逆転の一手が思いつかないのだ。何かキッカケがあれば出来るのかもしれないが、そのキッカケが訪れないのだ。
「いいから答えろ。」
出来るだけ冷静に。声を落ち着かせて。焦っていないと相手に思わせるように。表情を柔らかくする。身体の力を抜く。呼吸を整える。頭を冷やす。あらゆる手を使って。逆転者は確実に気付いているだろうが、その考えに疑問を持たせられれば良いのだ。それで相手が信じかどうかを疑い始めれば、完全に流れはこちらのものとなる。但し、その状況に持っていくのがとても難しい。
「簡単に出られるよ?」
「え────?」
逆転者は予想外の回答が来る。今の今までこの牢屋が偽物だと言う可能性は考えていなかったのだが、その可能性もあったのだ。盲点であった。試さなかった自分の負けだ。競い合っている訳では無いが、敗北感を味わっていた。
「僕達は逃げるよー?王家は協力関係だっただけだからねー?別に王家がどうなろうと、僕達は知らないからねー?」
逆転者にしては包み隠していない主張だ。これは王家を破壊しろと言っているのだろう。何らか、都合が悪い事があるのかもしれない。であれば残しておきたい所ではあるが、そこまでの余裕が僕達には無い。
「……分かった。」
逆転者は一層微笑みを深める。余裕の笑み……。いつになれば、この笑顔を悔しい表情にさせられるのだろうか。その為には……第二極限が必須となる。おいおい考えた方が良さそうだ。
「また会えるかなー?会えるといいねー?」
「僕達は願い下げだね。また会おう。」
そして、逆転者は転移の魔法で立ち去る。僕は一度、ルカとレーナの方に振り向いた。二人は途中から話に参加していなかった。僕に任せてくれたのだろう。簡単に次の目的を伝える。
「……国家転覆なんて本当に考えているの?」
レーナは耳を疑うような言葉に驚きを隠せないようだ。
「だけど、今しかないんだ。翠竜を倒せる絶好の機会なんだ。」
「そんなことして大丈夫?」
確かに国にとって王家は絶対だ。だが、それは何にとって大事なのか、という事が最も注目すべき点である。王家が必須なのは国に住む者である。政治、経済、交通、治安……。それらは王家が取り纏める事が必要となるだろう。
確かに共和制を築くことも可能ではある。しかし、それでは必ず失敗するのだ。共和制でも結局は誰かが独裁を始める。人は一度、失敗するまでは気付かない。目を背けてはならない事実なのだ。
『直接的な被害は確かに無いと思う。私はその案にのるよ。レーナは?』
「ちょっと待って!私に考える時間をちょうだい!?」
ルカに置いてきぼりにされて少しばかり焦るレーナ。では、僕はこうするとしよう。
『……ミシェル、見ているんだよね?』
『分かっていたなら、もっと早く言ってくれても良かったんですよ?』
『暇が無かったからね。実際にこれからも忙しくなる。手短に要件を伝える。』
僕はミシェルに起こった出来事について話した。ミシェル曰く、映像は見れるが、音声は聞き取れないようだ。そこで僕はそこを中心に話すことにした。そして、国家転覆だ。ミシェルは途中で話を止めることなく、最後まで聞き通してくれた。
『────で、どう思う?』
『良いんじゃないですか?アデルさんの考える事はいつも突拍子もない事ですが、私も楽しんでいますし。』
完全に他人事だ。いやまあ、他人事ではあるが、あまりにも呆気なかった。僕はそんな風に思われていたのか。少し残念な気もする。
『────それと、レーナ。別に私の機嫌をとる必要はありませんよ?自分の好きなように行動して下さい。私はあなたの行動を規制しているわけではありませんよ?』
最後にレーナへ言葉を残して、念話を切った。自分は第三者として続きを見るという事なのだろう。僕はレーナを見る。
「レーナはどうする?」
再度、僕はレーナに尋ねた。レーナが嫌であれば、別の案を考えるが出来ることなら同意してほしい。
「アデル……私も協力する。」
暫くしてレーナは答えた。こうして僕達の国家転覆計画は火蓋を切って落とされることとなる。国家転覆と言っても大それた事ではない。翠竜を使った王都破壊だけだ。国の中心を陥落される事で国の混乱を招くのである。
────そして、僕達は進む。
さて、四章も終盤へと差し掛かりました。
次回は国家転覆です。




